「ハニヤス」の版間の差分
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| 三備 = 巻一[[陰陽本紀]]
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'''ハニヤス'''は、[[日本神話]]に登場する神。『[[古事記]]』では'''ハニヤスビコ'''・'''ハニヤスヒメ'''という一対の神として登場し、『[[日本書紀]]』では'''ハニヤマヒメ'''や'''ハニヤスノカミ'''の異称で登場する。[[祝詞]]ではハニヤマヒメ。土の神、土壌の神、肥料の神、農業神として祀られるほか、陶芸の神、鎮火の神、土木工事や造園工事の守護神、便所の神としても祭祀される。
==概要==
記紀には[[イザナミ]]の大便からハニヤスが化生したという挿話がある。[[イザナギ]]とイザナミによる[[神産み]]により様々な自然物の神々を誕生させる過程で、イザナミは[[カグツチ|火の神]]を生む<!--ここは「産む」と変換すると記紀解釈上の問題が起きるため「生む」としておく-->際に大火傷をしてしまい、死に至る。その死の間際の苦しみのなか、イザナミは嘔吐や脱糞・失禁をする。その吐
古代語の「ハニ」は、土器や陶器のもとになる粘土を示す語であり、ハニヤスは粘土を神格化したものと考えられている。記紀の語るハニヤス誕生譚では、火の神、(金属)鉱石の神、粘土の神、水の神、食物の神が連続して誕生しており、一連のエピソードは火によって人類が金属加工技術や土器・陶器の焼成技術を獲得したことや、焼畑農業のような原始的な農耕文化の誕生を象徴していると考えられている。このためハニヤスは陶芸上達・陶工の守護神として祭祀されることもある。
133行目:
|次に、<ruby>[[金山毘売神]]<rt>かなやまびめのかみ</rt></ruby>。
|- style="font-family: serif;line-height:2.0em;"
|次於<sub>レ</sub><ruby>屎<rt>クソ</rt></ruby>成神名<sub>二</sub><
|次に、<ruby>屎<rt>くそ</rt></ruby>に成りし神の名は、<
|- style="font-family: serif;line-height:2.0em;"
|次<
|次に、<
|- style="font-family: serif;line-height:2.0em;"
|次於<sub>レ</sub><ruby>尿<rt>ユマリ</rt></ruby>成神名<sub>二</sub><ruby>彌都波能賣<rt>ミツハノメ</rt></ruby><ruby>神<rt>ノカミ</rt></ruby><sub>一</sub>。
178行目:
|colspan="2"|次に(吐瀉物から)<ruby>[[金山毘売神]]<rt>かなやまびめのかみ</rt></ruby>が生まれた。
|- style="line-height:2.0em;"
|colspan="2"|次に、(苦しんで)大便を漏らすと、それが<
|- style="line-height:2.0em;"
|colspan="2"|次に(大便から)<
|- style="line-height:2.0em;"
|colspan="2"|次に、(苦しんで)小便を漏らすと、それが<ruby>[[弥都波能売神]]<rt>みつはのめのかみ</rt></ruby>という名の神になった。
194行目:
|colspan="2"|とうとう神去って(死んで)しまった。
|- style="line-height:2.0em;"
|colspan="2"|(原注)[[天鳥船]]から豊宇気毘売神までを数えると、全文で8神となる。
|-
|}
220行目:
| style="border-bottom: 1px #404040 solid;" colspan=2 |([[国史大系]]第1巻)『日本書紀』巻一(神代紀・上)第五段・第二の一書
|-
|原文<ref name="名前なし-20230316103043">国立国会図書館デジタルコレクション 国史大系第1巻.日本書紀.{{NDLJP|991091}} コマ番号13</ref>
|訓み下し文<ref name="岩波日本書紀-38"/>
|- style="font-family: serif;line-height:2.0em;"
232行目:
| <ruby>其<rt>そ</rt></ruby>の<ruby>終<rt>かむさ</rt></ruby>りまさむとする間に、
|- style="font-family: serif;line-height:2.0em;"
| 臥生土神<
| 臥しながら<ruby>土神<rt>つちのかみ</rt></ruby><
|- style="font-family: serif;line-height:2.0em;"
| 即軻遇突智娶<em>埴山姬</em>、
| 即ち軻遇突智、<em>埴山姫</em>を<ruby>娶<rt>ま</rt></ruby>きて、{{refnest|group="※"|イザナギとイザナミによる神生み以降で、男女として交接するのはカグツチとハニヤマヒメが最初となる<ref name="通釈-178"/>。平田篤胤はカグツチとハニヤマヒメが同母兄妹であることを指摘し、こうした近親相姦は人間世界では禁忌であるが、神の世界については「人智を以て料知へき事にはあらず」とした<ref name="通釈-178"/>。}}
|- style="font-family: serif;line-height:2.0em;"
| 生稚産靈、
258行目:
|colspan="2"|その死のうという時に
|- style="line-height:2.0em;"
|colspan="2"|横たわったまま、土の神<
|- style="line-height:2.0em;"
|colspan="2"|<ruby>[[軻遇突智]]<rt>かぐつち</rt></ruby>は<em><ruby>
|- style="line-height:2.0em;"
|colspan="2"| <ruby>[[稚産霊]]<rt>わくむすひ</rt></ruby>を生んだ。
281行目:
| style="border-bottom: 1px #404040 solid;" colspan=2 |([[国史大系]]第1巻)『日本書紀』巻一(神代紀・上)第五段・第三の一書
|-
|原文<ref name="名前なし-20230316103043"/>
|訓み下し文<ref name="岩波日本書紀-38"/>
|- style="font-family: serif;line-height:2.0em;"
296行目:
| 其の<ruby>神<rt>かむ</rt></ruby><ruby>退<rt>さ</rt></ruby>りまさむとする時に、
|- style="font-family: serif;line-height:2.0em;"
| 則生水神罔象女及土神<
| 則ち<ruby><rt></rt></ruby><ruby>水神<rt>みづのかみ</rt></ruby><ruby>[[ミヅハノメ|罔象女]]<rt>みつはのめ</rt></ruby>、及び<ruby>土神<rt>つちのかみ</rt></ruby><
|- style="font-family: serif;line-height:2.0em;"
| 又生天吉葛。
321行目:
|colspan="2"| その<ruby>神退<rt>かむさ</rt></ruby>ろう(死なれよう)とするときに、
|- style="line-height:2.0em;"
|colspan="2"| 水の神<ruby>[[ミヅハノメ|罔象女]]<rt>みつはのめ</rt></ruby>と土の神<
|- style="line-height:2.0em;"
|colspan="2"| また、<ruby>天吉葛<rt>あまのよさつら</rt></ruby>{{refnest|group="※"|天吉葛(=アマノヨサヅラ=ヨソヅラ)とは、古語で「天」=[[高天原]]に存在する、「よい(=便利な)[[つる植物]]」を意味し、神格化された植物と考えられている<ref>[[小学館]]『[[日本国語大辞典]]』「あまの吉葛」([[JapanKnowledge]]版)</ref><ref name="小学日本書紀-40上8"/>。「天」「吉」いずれも美称辞とし、葛類の祖神とみる説もある<ref name="新釈全訳日本書紀-103-1"/>。具体的には様々な解釈があり、[[クズ]]のように食材としての[[デンプン]]を採るための植物(農耕が定着する以前には重要な植物だった)とする説<ref name="岩波日本書紀-39-14"/><ref name="小学日本書紀-40上8"/><ref name="新釈全訳日本書紀-103-1"/>のほか、祝詞(後述)との関連で(水を汲む道具としての)[[ヒョウタン]]と解釈する説([[忌部正通]]『[[神代巻口訣]]』)もある<ref name="新釈全訳日本書紀-103-1"/>。}}をお生みになった。
339行目:
| style="border-bottom: 1px #404040 solid;" colspan=2 |([[国史大系]]第1巻)『日本書紀』巻一(神代紀・上)第五段・第四の一書
|-
|原文<ref name="名前なし-20230316103043"/>
|訓み下し文<ref name="岩波日本書紀-38"/>
|- style="font-family: serif;line-height:2.0em;"
357行目:
| 次に<ruby>小便<rt>ゆまり</rt></ruby>まる{{refnest|group="※"|「-まる」は「排泄する」の意<ref name="口語訳古事記-24"/>。『[[今昔物語集]]』「此の殿に候ふ女童の大路に屎(くそ)まり居て候」<ref name="糞尿学-33"/>。この語は現代語の「[[おまる]]」などに残っている<ref name="口語訳古事記-24"/>。}}。神と<ruby>化為<rt>な</rt></ruby>る。名を<ruby>[[罔象女神|罔象女]]<rt>みつはのめ</rt></ruby>と<ruby>曰<rt>まう</rt></ruby>す。
|- style="font-family: serif;line-height:2.0em;"
| 次大便、化爲神、名曰<
| 次に<ruby>大便<rt>くそ</rt></ruby>まる。神と<ruby>化為<rt>な</rt></ruby>る。名を<em><ruby>
|-
| style="line-height:2.0em;" colspan=2 |(現代語訳)
372行目:
|colspan="2"| 次に小便した。これが神となった。名付けて<ruby>[[ミヅハノメ|罔象女]]<rt>みつはのめ</rt></ruby>という。
|- style="line-height:2.0em;"
|colspan="2"| 次に大便した。これが神となった。名付けて<
|-
| colspan=2 | <references group="※"/>
384行目:
| style="border-bottom: 1px #404040 solid;" colspan=2 |([[国史大系]]第1巻)『日本書紀』巻一(神代紀・上)第五段・第六の一書
|-
|原文<ref name="名前なし-20230316103043"/>
|訓み下し文<ref name="岩波日本書紀-38"/>
|- style="font-family: serif;line-height:2.0em;"
426行目:
| <ruby>木神<rt>きのかみ</rt></ruby><ruby>等<rt>たち</rt></ruby>を<ruby>[[句句廼馳]]<rt>くくのち</rt></ruby>と<ruby>号<rt>まう</rt></ruby>し、
|- style="font-family: serif;line-height:2.0em;"
| 土神號<
| <ruby>土神<rt>つちのかみ</rt></ruby>を<
|- style="font-family: serif;line-height:2.0em;"
| 然後、悉生萬物焉。
466行目:
|colspan="2"| 木の神たちを名付けて<ruby>[[句句廼馳]]<rt>くくのち</rt></ruby>という。
|- style="line-height:2.0em;"
|colspan="2"| 土の神名付けて<
|- style="line-height:2.0em;"
|colspan="2"| その後にことごとく万物を生んだ。
515行目:
| <ruby>川菜<rt>かはな</rt></ruby>、
|- style="font-family: serif;line-height:2.0em;"
| <
| <
|- style="font-family: serif;line-height:2.0em;"
| 四種物<sub>乎</sub>生給<sub>氐</sub>、
524行目:
| 「此の心悪しき子の心<ruby>荒<rt>あら</rt></ruby>びなば、
|- style="font-family: serif;line-height:2.0em;"
| 水神、瓠{{refnest|group="※"|ここは「乎持氐」(を持ちて)が省略されている。<ref name="祝詞新講-372ヒサゴ"/>}}、 <
| style="padding-left:1.0em;"| 水<sub>ノ</sub>神、<ruby>瓠<rt>ひさご</rt></ruby>、<ruby>川菜<rt>かはな</rt></ruby>、 <
|- style="font-family: serif;line-height:2.0em;"
| 鎭奉<sub>禮止</sub>、事教悟給<sub>支</sub>、
542行目:
|colspan="2"| 水を汲むためのヒサゴ([[ひょうたん]])、{{refnest|group="※"|飯田武郷は、ヒョウタンが水に浮き、水に漬けても腐らず、水を汲むのに適しているのはイザナミの神力によるものだと考えられた、と指摘した<ref name="通釈-181"/>。}}
|- style="line-height:2.0em;"
|colspan="2"| それから<
|- style="line-height:2.0em;"
|colspan="2"| 火消しに用いる川菜([[ミズゴケ]])であった。
550行目:
|colspan="2"| 「この心の悪い子が暴れ(て現世に害を及ぼす<ref name="祝詞新講-注心悪"/>)ならば、
|- style="line-height:2.0em;"
|colspan="2" style="padding-left:1.0em;"|水の神はひょうたんで水をかけ、 <
|- style="line-height:2.0em;"
|colspan="2" style="padding-left:1.0em;"|これを鎮めよ」と教え悟し置かれたことである。
630行目:
| style="border-bottom: 1px #404040 solid;" colspan=2 |([[国史大系]]第1巻)『日本書紀』巻三(神武天皇即位前紀)戊午年九月
|-
|原文<ref name="名前なし-20230316103043-2">国立国会図書館デジタルコレクション 国史大系第3巻.日本書紀.{{NDLJP|991091}} コマ番号13</ref>
|訓み下し文<ref name="岩波日本書紀-218"/>
|- style="font-family: serif;line-height:2.0em;"
676行目:
| style="border-bottom: 1px #404040 solid;" colspan=2 |([[国史大系]]第1巻)『日本書紀』巻三(神武天皇即位前紀)己未年二月
|-
|原文<ref name="名前なし-20230316103043-2"/>
|訓み下し文<ref name="岩波日本書紀-218"/>
|- style="font-family: serif;line-height:2.0em;"
694行目:
|<ruby>遂<rt>つひ</rt></ruby>に<ruby>区宇<rt>あめのした</rt></ruby>を<ruby>安定<rt>しづ</rt></ruby>むること得たまふ。
|- style="font-family: serif;line-height:2.0em;"
|故號取土之處、曰<
|<ruby>故<rt>かれ</rt></ruby>、<ruby>土<rt>はにつち</rt></ruby>取りし<ruby>処<rt>ところ</rt></ruby>を<ruby>号<rt>なづ</rt></ruby>けて、<
|-
| style="line-height:2.0em;" colspan=2 |(現代語訳)
709行目:
|colspan="2"| そして今、遂に天下を平定した。
|-
|colspan="2"| そこで、その土を採った場所を<
|-
| colspan=2 | <references group="※"/>
818行目:
*[[大井神社 (島田市)|大井神社]]([[静岡県]][[島田市]]))<ref name="日本の神仏-ハニヤスノカミ"/><ref name="ビジュアル-064"/><ref name="わかる-176"/>
*迩弊姫神社([[石見国]][[安濃郡 (島根県)|安濃郡]]/[[島根県]][[
;ハニヤスビメノカミ
843行目:
*[[埴安媛|'''ハニヤスヒメ''']] - 記紀には、8代[[孝元天皇]]の妃の一人として、同じ名を持つ「[[埴安媛|ハニヤスヒメ]]」が登場する<ref name="日本古代神祇事典-ハニヤスヒメ"/>。『古事記』孝元記では「波邇夜須毘売」で、『日本書紀』孝元紀では「埴安媛」<ref name="日本古代神祇事典-ハニヤスヒメ"/>。父親は[[河内国|河内]]の豪族で、「[[河内青玉繋|青玉]]」(『古事記』)ないし「[[河内青玉繋|青玉繋]]」(『日本書紀』)である<ref name="日本古代神祇事典-ハニヤスヒメ"/>。、[[武埴安彦命|タケハニヤスヒコノミコト]](建波邇夜須毘古命または武埴安彦)の母<ref name="日本古代神祇事典-ハニヤスヒメ"/>。
*[[武埴安彦命|タケ'''ハニヤスヒコ'''ノミコト]] - 孝元天皇の皇子で、母は上記のハニヤスヒメ<ref name="日本古代神祇事典-ハニヤスヒメ"/>。記紀によると、叔父の[[崇神天皇]]に対する反乱を起こして鎮圧される{{refnest|group="注"|彼らは反乱を起こすに先立ち、密かに天香具山の土を採取して占いを行う。天香具山はヤマトの国(倭国)の象徴であり、その土を盗むのは国を盗むことを意味する。彼らが土を盗んだという事実を知った天皇は、反乱の企てを察知する。この逸話は、神武天皇がヤマトの国を攻め奪る前に天香具山の土を盗んで土器を焼き、神事を行った故事に呼応している。<ref name="クソマル-94"/>}}。負け戦となったときに反乱軍はクソを漏らして逃走する<ref name="うん古典-王"/>{{refnest|group="注"|亦其卒怖走、屎漏于褌」(『日本書紀』崇神
==関連項目==
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*「世界の神話と主な宗教に見られる土壌と大地」、著:[[陽捷行]]([[農業環境健康研究所]])([[日本土壌肥料学会]]、『日本土壌肥料学雑誌』87(4)、pp.267-277、2016年。
*『神話のなかのヒメたち もうひとつの古事記』、著:産経新聞取材班、[[産経新聞出版]]、2018年。ISBN 978-4-8191-1336-6
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[[Category:日本の神]]
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