α-リノレン酸(アルファ-リノレンさん、: Alpha-linolenic acidALA、数値表現 18:3 (n−3) または 18:3 (Δ9,12,15))は、多価不飽和脂肪酸の一種で多くの植物油で見られる。IUPAC名 all-cis-9,12,15-オクタデカトリエン酸となる[2]。また、生理学では 18:3 (n−3) と表記される。

α-リノレン酸
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識別情報
略称 18:3 (n−3)
ALA
CAS登録番号 463-40-1
KEGG C06427
特性
化学式 C18H30O2
モル質量 278.43 g mol−1
示性式 CH3CH2(CH=CHCH2)3(CH2)6COOH
密度 0.914 g/cm3
融点

-11℃

薬理学
消失半減期 1時間[1]
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

概要

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α-リノレン酸は直鎖18炭素で3つのcis二重結合を持つカルボン酸である。最初の二重結合はω末端から数えて3番目の炭素に位置する。したがって、α-リノレン酸は多価不飽和脂肪酸であり、ω-3脂肪酸である。二重結合の場所が違う異性体ω-6脂肪酸γ-リノレン酸がある。

栄養学では、摂取することが必須の栄養素である必須脂肪酸である。ヒトを含めた多くの動物は体内でα-リノレン酸を原料としてEPAやDHAを生産することができるが、α-リノレン酸からEPAやDHAに変換される割合は 10–15 % 程度である[3]

植物及び微生物中で、ω-3 位に二重結合を作るΔ15-脂肪酸デサチュラーゼ によりリノール酸の二重結合が一個増えてα-リノレン酸が生成される[4]。ヒトを含めた動物はΔ15-脂肪酸デサチュラーゼを有さないので、α-リノレン酸を自ら合成することができない。

生理

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ヒトを含めた動物の体内ではΔ6-脂肪酸デサチュラーゼにより 18:3 (n−3) のα-リノレン酸(ALA)のΔ6の位置に不飽和結合を作りエロンガーゼにより炭素2個伸張して 20:4 (n−3) のエイコサテトラエン酸を生成し、Δ5-脂肪酸デサチュラーゼにより不飽和結合を増やして 20:5 (n−3) のエイコサペンタエン酸(EPA)を生成し、このエイコサペンタエン酸から 22:5 (n−3) のドコサペンタエン酸(DPA)を経るかSprecher's shuntと呼ばれる経路いずれかを経て 22:6 (n−3) のドコサヘキサエン酸 (DHA) が生成される(詳細はデサチュラーゼを参照のこと。)[4]。 このようにヒトを含めた多くの動物は体内でα-リノレン酸を原料として EPA や DHA を生産することができるが、α-リノレン酸から EPA や DHA に変換される割合は 10–15 % 程度である[3]

不飽和化するデサチュラーゼも炭素2個伸張するエロンガーゼもω-3 脂肪酸もω-6 脂肪酸も共通しているので、ω-3 脂肪酸の最初の出発物質であるα-リノレン酸を摂取することで、ω-6 脂肪酸の最初の出発物質であるリノール酸がより多不飽和化されたω-6 脂肪酸であるアラキドン酸に代謝させるのを抑制する。α-リノレン酸の摂取が少なく、アラキドン酸が過剰に存在するようになるとアラキドン酸カスケードを経て多数の作用の強い生理活性物質が産生されて炎症が起こることがある。α-リノレン酸から生成される DHA は網膜のリン脂質に含まれる脂肪酸の主要な成分である。妊娠・出産期には母親には無視できないω-3 脂肪酸の枯渇の危険性が高まり、その結果として産後のうつ病の危険性に関与する可能性がある。健常者と比較してうつ病患者はω-3 脂肪酸の蓄積量が有意に低くω-6 とω-3 の比率は有意に高かったことが指摘されている[3]

2011年にハーバード大学で発表された10年以上にわたる50,000人以上の女性を対象とした調査で、α-リノレン酸を豊富に摂取し、同時にリノール酸をあまり摂取しないことは、有意にうつ病の発生を減少させることが認められた。また、この結果と対照的にこの調査では、魚油に含まれる EPADHA の摂取は、うつ病の発生を減少させないことが認められた[5]

α-リノレン酸を摂取すると心血管疾患のリスクが軽減されるとの報告がある[6][7]

 
必須脂肪酸の代謝経路とエイコサノイドの形成

必要摂取量

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1 日約 2 g のα-リノレン酸の摂取が必要である。詳しくは必須脂肪酸#必要摂取量を参照のこと。

食物中のα-リノレン酸

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食用油必須脂肪酸[8]
 
亜麻には多くのα-リノレン酸が含まれる

種油にはα-リノレン酸が含まれているものがあり、エゴマアブラナ(キャノーラ)、ダイズアマに含まれている。特にエゴマに多く含まれている。その他の食用油には含まれていないか、わずかしか含まれていない。

また、α-リノレン酸は広葉植物のチラコイドの膜組織(光合成に関わる)からも得られる[9]。実際、ホウレンソウチンゲンサイなどの青物野菜からα-リノレン酸が検出されている。ゆえに、葉は草食動物の格好のα-リノレン酸の供給源である。ヒトのα-リノレン酸の1日あたりの必要量は 2 g 程度であり、仮にホウレンソウに換算すると 1 日 1.4 kg に相当し、草食動物なら可能な量かもしれないがヒトにはホウレンソウ等の野菜から摂取するには非現実的な量に相当する。α-リノレン酸 1 日あたり 2 g はキャノーラ油なら 1 日 20 g に相当する。

動物性脂肪にもわずかながらα-リノレン酸が含まれているが、ヘット(牛脂)の場合では 1 日 300 g 摂取しないと上記のα-リノレン酸の必要量が満たせず、心臓病予防の観点からも現実的ではない。前述のように牧草等の葉には微量ではあるもののリノール酸に比べてα-リノレン酸が比較的多く存在している。このため牧草を飼料として与えられている羊の肉(マトン、ラム)では他の肉に比べてα-リノレン酸とリノール酸との比率が高くなり、α-リノレン酸をほとんど含まない穀物の飼料を多く与えられている鶏や豚の肉では他の肉に比べてα-リノレン酸とリノール酸との比率が低くなっている。

植物油として 別名 リンネ名 % ALA ref.
シソエゴマ)(エゴマ油) shiso(perilla) Perilla frutescens 58% [10]
アマ(亜麻仁油) linseed Linum usitatissimum 55% [10]
アブラナ canola Brassica napus 10% [2]
ダイズ soya Glycine max 8% [2]
  平均値

乾性油

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α-リノレン酸 (ALA) は乾性油の中でも最も豊富な不飽和化合物である(例:シソ油アマニ油)。

出典

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  1. ^ Drug Bank
  2. ^ a b c Beare-Rogers (2001年). “IUPAC Lexicon of Lipid Nutrition” (pdf). 2008年5月12日閲覧。
  3. ^ a b c 岡田斉、萩谷久美子、石原俊一ほか「Omega-3多価不飽和脂肪酸の摂取とうつを中心とした精神的健康との関連性について探索的検討-最近の研究動向のレビューを中心に」『人間科学研究』(30), 2008, pp. 87–96. NAID 120001859287
  4. ^ a b I章 最新の脂質栄養を理解するための基礎 ― ω(オメガ)バランスとは?脂質栄養学の新方向とトピックス
  5. ^ M. Lucas, F. Mirzaei, E. J. O'Reilly, A. Pan, W. C. Willett, I. Kawachi, K. Koenen, and A. Ascherio (2011). “Dietary intake of n-3 and n-6 fatty acids and the risk of clinical depression in women: a 10-y prospective follow-up study”. Am J Clin Nutr 93 (6): 1337–43. doi:10.3945/ajcn.111.011817. PMC 3095504. PMID 21471279. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3095504/. 
  6. ^ Brouwer IA, Katan MB, Zock PL (April 2004). “Dietary alpha-linolenic acid is associated with reduced risk of fatal coronary heart disease, but increased prostate cancer risk: a meta-analysis”. J. Nutr. 134 (4): 919–22. PMID 15051847. 
  7. ^ 健康食品データベース 第一出版 Pharmacist's Letter/Prescriber's Letterエディターズ編(独)国立健康・栄養研究所 監訳
  8. ^ USDA National Nutrient Database
  9. ^ Chapman, David J.; De-Felice, John and Barber, James (May 1983). “Growth Temperature Effects on Thylakoid Membrane Lipid and Protein Content of Pea Chloroplasts 1”. Plant Physiol 72(1): 225–228. http://www.pubmedcentral.nih.gov/articlerender.fcgi?artid=1066200 2007年1月15日閲覧。. 
  10. ^ a b Seed Oil Fatty Acids - SOFA Database Retrieval

外部リンク

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