官能小説

交流と性交を主題とした小説の一ジャンル

官能小説(かんのうしょうせつ)とは、官能に訴える、つまり男女間もしくは同性間での交流と性交を主題とした小説の一ジャンル[1]ポルノ小説とも。

サド侯爵美徳の不幸』(1787年

広義にはジュブナイルポルノボーイズラブ小説・ティーンズラブ小説なども含まれるが、この項では、日本における、これらを除いた成人男性向けに書かれた官能小説(狭義の官能小説)について主に述べる。

概説

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近代的な小説のジャンルとして、読者の性欲を刺激することを目的に据え、性愛を描いた作品は明治時代から存在した。しかし、これらの作品が当時「官能小説」の名前で呼ばれていたわけではなかった。官能小説評論家の永田守弘によれば、第二次世界大戦後には「エロ小説」の名で、1960年代に入ると「ポルノ小説」と呼称されるのが一般的であった。そのうえで、永田によれば、このジャンルが「官能小説」として定着したのは、20世紀後半になってからのことであるとしている[2]

専門のレーベルから出版されることが多いが、これは出版社が世間体を気にしているためである。わざわざ別会社を設立して販売している例もある。

大半が書き下ろしとして文庫新書の形で出版されるが、人気作家になるとスポーツ新聞や男性向け週刊誌小説誌などに連載する場合も多い。もちろん一般の小説と同様に、ウェブサイトに掲載したり携帯電話で配信したりすることもある。

店頭では人目を気にして内容を吟味しにくいためか、タイトルは「美少女」「女教師」「熟女」「未亡人」「おさま」など「**もの」をストレートに表現していることが多い。これは多数の作家が、出版社やジャンルによって筆名を使い分けている(あるいは使い分けさせられている)事にも現れている。

独特な用語

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官能小説では卑猥さを演出するため(また、かつては取り締まりを回避するため)、独特な用語が使われている。

  • 陰茎:肉樹
  • 膣:蜜壷
  • 小陰唇:花弁
  • 肛門:菊座 等
  • 生殖器・排泄器官に関する医療用語(いわゆる横文字

2006年にはちくま文庫から官能小説の用語や表現を集めた辞典が刊行されている[3]

また、近年の作品ではオノマトペが多用される傾向にある[いつ?]

規制

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性的な主題を扱った他のジャンルと同様に、官能小説にも検閲・規制の問題があり、表現の自由等をめぐって様々な論争があった。中でも

などは有名である(これらが官能小説にあたるかどうかも異論がある)。しかし、その是非とは別に、摘発や規制がかえって官能小説独特の比喩などの表現方法を発展させたという事実もある。近年[いつ?]ではアダルトビデオ成人向け漫画など、より刺激の強いメディアが登場したこともあり、小説の性描写が問題になる事はごく稀である。

ただし、スポーツ新聞週刊誌などでの掲載においては、性描写が表現の自主規制で厳格に管理されている[どうやって?]

歴史

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1950年代から60年代にかけて、雑誌『奇譚クラブ』に連載された、団鬼六の『花と蛇』が連載される[6]

1970年代に入ると、館淳一が『凶獣は闇を撃つ』でデビュー。官能小説の側でも、SMものを中心に、下着や女装といった多彩な分野が描かれるようになる[7]。最終的にこの流れは出版社側にも変化を及ぼし、1985年にフランス書院文庫やマドンナメイト文庫、グリーンドア文庫(関連項目参照)が発刊されるなど、官能小説とマニア向け小説の融合が続くこととなる。

また、70年代の終わりには官能小説を手掛ける女流作家が登場した。1978年にデビューした丸茂ジュンを初めとして、岡江多紀中村嘉子が活躍を始めた[8]。この流れは80年代以降にも続き、1989年にデビューした、ハードな描写で人気を博した藍川京[9]、1992年には、癒やし系ともいわれる作品を発表している内藤みかが登場した[10]

ジャンル

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一般の小説は読者の趣味・嗜好に合わせた様々なジャンルに分化しているが、官能小説はさらに読者のセクシュアリティにも合わせた膨大なジャンルのバリエーションがある。ただし、実際には下記のジャンルのいくつかが複合して作品が成り立っているのが普通である。

ジャンル一覧

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また、傍流のものとして、

がある。これらは、タイトルのなかにそのまま含まれることが多い。

また、最近ではライトノベル同人誌の隆盛に伴って、女性向けの官能小説(ティーンズラブ小説)、少年向けの官能小説(ジュブナイルポルノ)が出版されることも増えている。

告白本・実話物

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「告白本」「実話物」と呼ばれる独特のジャンルが存在する。これは、読者より寄せられた告白体験をまとめたと称する書籍である。告白と言われているが実際はほぼすべてがフィクションであり、事実上作家の名前を出さない短編集である。

ほぼすべてがフィクションであるということは、読者側もある程度暗黙の了解として承知している。なぜならば、中には読者からの投稿により作られていると書かれているのに、読者が実際に投稿する宛先がかかれていなかったり、募集していてもあからさまに「フィクションであってもよい」「年齢性別等は自称でよい」といった但し書きがあったりするからである。

ジュブナイルポルノ

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ジュブナイルポルノとは、1980年代後半に勃興した、ライトノベルに近似した様式で制作された若年層向けの官能小説を分類して指したもの。

ジュブナイルポルノでは、大半のレーベルでライトノベルと同様に巻頭カラーイラストがあり、本文中にも挿絵がページ単位で挿入されているなど、従来の官能小説とはだいぶ異なる体裁を持っているが、最大の特徴は狭義の官能小説ではタブーとされるSFやファンタジーの要素が小説の世界観としてにふんだんに利用されていることにある。これは対象としている読者層がライトノベルの読者中の成人層やアダルトゲームのプレイヤーであり、そのような世界観についての予備知識をある程度持っていることを前提としているためである。また、ジャンルの歴史という面から見ても、最初期のレーベルである富士見書房の富士見文庫(富士見美少女文庫)では、アダルトアニメくりいむレモン』シリーズのノベライズ作品を主力ラインナップとしていたことなど、1980年代の時点で既に他のメディアとの連動が意識されており、SFやファンタジーの要素がふんだんに含まれた作品が多数出版されていたことが挙げられる。この巻頭カラーイラストや本文中に挿入した挿絵の多くの割合を性描写に割く富士見美少女文庫のスタイルは1990年代に入って次々と勃興した後続レーベルの方向性にも大きな影響を与え、アダルトゲームの普及と共に、多くのアダルトゲームが利用するファンタジー調の世界観や設定をジュブナイルポルノの読者層へ受容させるための礎となっていった。

業界が本格的な発展を遂げた1990年代以降、ジュブナイルポルノ、アダルトゲーム、アダルトアニメの三業界は本文・イラストの人材面も含めて相互に高い関連性を持つようになり、この三者のいずれかが原作となってのアニメ化・ゲーム化・ノベライズは相互に多数制作されている。

脚注

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参考文献

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  • 永田守弘『官能小説用語表現辞典』マガジンハウス、2002年1月1日。ISBN 978-4838713592 
  • 永田守弘『官能小説の奥義』(1版)集英社、2007年12月18日。ISBN 978-4-08-720410-0 

関連項目

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