岩波訳聖書(いわなみやくせいしょ)は、岩波書店から発行されている聖書の通称であり、

  • 関根正雄および塚本虎二により翻訳され、岩波文庫に収録されている聖書(いわゆる岩波文庫版聖書)
  • 旧約聖書翻訳委員会及び新約聖書翻訳委員会により翻訳され、岩波書店から刊行されている聖書(いわゆる岩波「委員会訳」聖書)

のいずれかを指す。両者は全く異なる訳文を持っており、同じ出版社から発行されているという以上の関係はない。

岩波版聖書(いわなみばんせいしょ)と呼ぶこともある。

岩波文庫版聖書

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旧約聖書関根正雄により、新約聖書塚本虎二により翻訳され、岩波文庫で発売されたものである。特に下記の「旧約聖書翻訳委員会訳聖書・新約聖書翻訳員会訳聖書」と区別するときは「岩波文庫版」ないし「文庫版」と呼ぶか、翻訳者の名前をとって、旧約については「関根訳」、新約については「塚本訳」と呼ぶ。旧約聖書翻訳委員会訳聖書・新約聖書翻訳委員会訳聖書が出版されるまでは、「岩波版聖書」または「岩波訳聖書」といえばすべてこれのことであった。

旧約も新約も全巻揃っているわけではない。旧約は創世記出エジプト記ヨブ記サムエル記詩篇イザヤ書エレミヤ書エゼキエル書、十二小預言書が1956年から1971年にかけて刊行された。新約は福音書(1963年1月刊行)、使徒行伝が出ている。現在では品切状態になっているものも多い。旧約と新約は同じ岩波文庫から出版されているため、ひとまとめにして岩波文庫版と呼ばれることがあるが、旧約は関根による個人訳、新約は塚本による個人訳であり、この両者の間で何らかの一貫した方針があるわけではない。

なお、関根訳については1993年以降に岩波文庫で出版されていない分も含めた旧約聖書全巻が教文館から出版された[1][2][3][4][5]。そのため、現在個人訳として「関根正雄訳」という場合にはこの教文館版を指す場合が多い。また、塚本訳についても2011年に岩波文庫で出版されていない分も含めた新約聖書全巻が新教出版社から出版された[6]

なお、岩波文庫では、2014年より上記とは別に日本聖書協会から出版されていた文語訳聖書を出版している。

旧約聖書翻訳委員会訳聖書・新約聖書翻訳委員会訳聖書

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岩波書店からは文庫版と別に、佐藤研荒井献らの新約聖書学者、関根清三月本昭男らの旧約聖書学者が各文書を分担翻訳した新旧約聖書が出版されている。各文書は個人訳であり、訳者は明記されているが、全体としての名義はそれぞれ新約聖書翻訳委員会、旧約聖書翻訳委員会となっている(岩波委員会訳聖書あるいは単に岩波訳聖書と呼ばれている)。新約聖書は5分冊(1995年 - 1996年)、旧約聖書は15分冊(1997年 - 2004年)で、新約の合冊版は2004年に、旧約の合冊版(全4巻)は2004年から2005年に刊行された。岩波委員会訳が自ら標榜している特色は、歴史的・批判的観点を取り入れた原典への忠実さや、特定の教派に偏らない不偏性などにある[7]。自らも参加した大貫隆は、岩波委員会訳を学術的に重要なものとして挙げ、聖書の自主研究をする者や初めての読者に適した翻訳として薦めている[8]。また、外部でも学術的な註の多さなどを評価する声がある[9]。しかし、この翻訳についても批判は見られ、例えば土岐健治は『使徒言行録』の訳を取り上げ、その誤訳箇所を指摘している[10]。田川も、訳者による力量差が大きいこと[11]や、分冊版と合冊版で10年と経たずに訳文が違ってしまっている箇所が多いこと[12]などを批判している。なお、川村輝典小林稔が担当した「ヘブライ人への手紙」の訳を優れた訳と評価しつつも一点疑問を呈していたが[13]、これについては後に小林自身が勇み足であったことを認めている[14]。小林はまた、担当した『ヨハネによる福音書』で、従来「……あった」等と訳されることが多かった第1章第1節、第2節を「……いた」と訳した点[15]に批判が集まったことを挙げ、自身の翻訳意図を説明している[16]。なお、新約聖書翻訳委員会に名を連ねていた荒井や大貫は、外典に含まれる『ナグ・ハマディ文書』52文書中34文書の翻訳も岩波書店から刊行している(全4巻、1997年 - 1998年)[17]。後に、新約聖書の合冊版については『改訂新版』が刊行された(2023年11月)。

翻訳の分担状況

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旧約聖書

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新約聖書

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収録内容

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まず、別の訳文の可能性についての言及を含む詳細な注釈、用語解説や豊富な図版を持つ分冊版が発行された。そのあと合本版が発行された。ただし分冊版では各書ごとに数ページから20ページ以上あった巻末の解説が、合本版では各書ごとにほとんどが1ページに簡約されている。田川建三は、分冊版と合冊版で10年と経たずに訳文が違ってしまっている箇所が多いこと[12]を批判している。

分冊版

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旧約聖書 書名 訳者 出版日 ISBN
I 創世記 月本昭男 1997年3月5日 4-00-026151-7
II 出エジプト記 レビ記 木幡藤子・山我哲雄 2000年4月17日 4-00-026152-5
III 民数記 申命記 山我哲雄・鈴木佳秀 2001年10月26日 4-00-026153-3
IV ヨシュア記 士師記 鈴木佳秀 1998年3月24日 4-00-026154-1
V サムエル記 池田裕 1998年1月29日 4-00-026155-X
VI 列王記 池田裕 1999年3月26日 4-00-026156-8
VII イザヤ書 関根清三 1997年5月8日 4-00-026157-6
VIII エレミヤ書 関根清三 2002年10月29日 4-00-026158-4
IX エゼキエル書 月本昭男 1999年12月20日 4-00-026159-2
X 十二小預言書 鈴木佳秀 1999年10月15日 4-00-026160-6
XI 詩篇 松田伊作 1998年6月15日 4-00-026161-4
XII ヨブ記 箴言 並木浩一・勝村弘也 2004年3月26日 4-00-026162-2
XIII ルツ記 雅歌 コーヘレト書 哀歌 エステル記 月本昭男・勝村弘也 1998年8月27日 4-00-026163-0
XIV ダニエル書・エズラ記・ネヘミヤ記 村岡崇光 1997年11月18日 4-00-026164-9
XV 歴代誌 池田裕 2001年6月15日 4-00-026165-7
新約聖書 書名 訳者 出版日 ISBN
I マルコによる福音書 マタイによる福音書 佐藤研 1995年6月9日 4-00-003926-1
II ルカ文書 ルカによる福音書 使徒行伝 佐藤研・荒井献 1995年10月27日 4-00-003927-X
III ヨハネ文書 ヨハネによる福音書 ヨハネによる福音書 ヨハネの第一の手紙 ヨハネの第二の手紙 ヨハネの第三の手紙 小林稔・大貫隆 1995年8月21日 4-00-003928-8
IV パウロ書簡 青野太潮 1996年8月27日 4-00-003929-6
V パウロの名による書簡 公同書簡 ヨハネの黙示録 保坂高殿・小林稔・小河陽 1996年2月20日 4-00-003930-X

合本版

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縦19 cmの版[18]および「机上版」と称する縦22 cmの版[19]が刊行された。

旧約聖書 書名 出版日 ISBN 「机上版」ISBN
旧約聖書I 律法 創世記 出エジプト記 レビ記 民数記 申命記 2004年12月10日 4-00-026181-9[18] 4-00-026307-2[19]
旧約聖書II 歴史書 ヨシュア記 士師記 サムエル記 列王記 2005年2月24日 4-00-026182-7 4-00-026308-0
旧約聖書III 預言書 イザヤ書 エレミヤ書 エゼキエル書 十二小預言書 2005年4月26日 4-00-026183-5 4-00-026309-9
旧約聖書IV 諸書 詩篇 ヨブ記 箴言 ルツ記 雅歌 コーヘレト書 哀歌 エステル記 ダニエル書 エズラ記 ネヘミヤ記 歴代誌 2005年8月30日 4-00-026184-3 4-00-026310-2
新約聖書 書名 出版日 ISBN 机上版ISBN
新約聖書 2004年1月28日 4-00-023384-X 4-00-023386-6

合本版の改訂版

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縦21 cmの版[20]のみが刊行された。

新約聖書 書名 出版日 ISBN
新約聖書 改訂新版 2023年11月14日 9784000616003

その他

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新約聖書の福音書のみを1冊にまとめたものと、ヨハネの黙示録だけで1冊になったものが出版されている。

  • 佐藤研、小林稔訳 『新約聖書 福音書』 岩波書店、1996年11月22日 ISBN 4-00-023310-6
  • 小河陽訳 『ヨハネの黙示録』 岩波書店、1996年11月22日 ISBN 4-00-002387-X

関連出版物

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翻訳にあたって問題となった事柄を翻訳を行った者自身が解説した本が出版されている。

  • 旧約聖書翻訳委員会編 『聖書を読む 旧約篇』 岩波書店、2005年11月29日 ISBN 4-00-023658-X
  • 旧約聖書翻訳委員会編 『聖書を読む 新約篇』 岩波書店、2005年12月16日 ISBN 4-00-023660-1

この翻訳を元にした福音書共観表が出版されている。

  • 佐藤研編訳 『福音書共観表』 岩波書店、2005年11月29日 ISBN 4-00-024628-3

脚注

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  1. ^ 関根正雄訳『新訳 旧約聖書 第1巻(律法)』教文館、1993年10月。 ISBN 4-7642-2701-0
  2. ^ 関根正雄訳『新訳 旧約聖書 第2巻(歴史書)』教文館、1994年4月。 ISBN 4-7642-2702-9
  3. ^ 関根正雄訳『新訳 旧約聖書 第3巻(預言書)』教文館、1994年7月。 ISBN 4-7642-2703-7
  4. ^ 関根正雄訳『新訳 旧約聖書 第4巻(諸書)』教文館、1995年1月。 ISBN 4-7642-2704-5
  5. ^ 関根正雄訳『新訳 旧約聖書』教文館、1997年。 ISBN 4-7642-7170-2
  6. ^ 塚本虎二訳新約聖書刊行会編『塚本虎二訳 新約聖書』新教出版社、2011年8月25日。 ISBN 978-4-400-11119-1
  7. ^ 旧約聖書翻訳委員会 『旧約聖書I 創世記』1997年、pp.vii-viii および新約聖書翻訳委員会『新約聖書I マルコによる福音書 マタイによる福音書』1995年、pp.vi-vii ほか。
  8. ^ 大貫 2010, pp. 156, 158, 186
  9. ^ 前川 2016, p. 32
  10. ^ 土岐健治「荒井 献訳『使徒行伝』について」『言語文化』第45巻、一橋大学語学研究室、2008年12月、79-83頁、CRID 1390290699842496896doi:10.15057/16821hdl:10086/16821ISSN 0435-2947 
  11. ^ 田川 2007, p. 568
  12. ^ a b 田川建三『新約聖書 訳と註・第一巻』作品社、2008年、p. 872.
  13. ^ 川村輝典「キリストは神か : ヘブライ1章8〜9節の解釈をめぐって」『東京女子大学紀要論集』第47巻第2号、東京 : 東京女子大学、1997年3月、31-41頁、CRID 1050282812636241280ISSN 04934350 
  14. ^ 新約聖書翻訳委員会 2005, pp. 180–181
  15. ^ 小林稔「ヨハネによる福音書」『ヨハネ文書』岩波書店、1995年。「はじめに、ことばがいた。……」 
  16. ^ 新約聖書翻訳委員会 2005, pp. 175–176
  17. ^ ここに収録されなかった一部文書とユダの福音書を訳した『グノーシスの変容』(岩波書店、2010年)が、荒井・大貫の編訳で刊行されている。
  18. ^ a b 「大きさ、容量等:798, 27p ; 19cm」旧約聖書 1国立国会図書館サーチ。2020年7月18日閲覧。
  19. ^ a b 「大きさ、容量等:798, 27p ; 22cm」旧約聖書 1(律法)、国立国会図書館サーチ。2020年7月18日閲覧。
  20. ^ 「大きさ、容量等:1070p ; 210mm」新約聖書 改訂新版、国立国会図書館サーチ。2023年11月27日閲覧。

参考文献

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外部リンク

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