温度 T 、体積 V 、物質量 N の平衡状態 にある流体の圧力 p を適当な関数 f によって
p
=
f
(
T
,
V
,
N
)
{\displaystyle p=f(T,V,N)}
のように表した物が(狭義の)状態方程式である。ただし、物理学では変数の記号と関数の記号を混用して
p
=
p
(
T
,
V
,
N
)
{\displaystyle p=p(T,V,N)}
のように書かれることが多い。
状態量の圧力、温度の示強性 と体積、物質量の示量性 から、スケール変換 (V ,N ) → (λV ,λN ) に対して
p
=
p
(
T
,
λ
V
,
λ
N
)
{\displaystyle p=p(T,\lambda V,\lambda N)}
となる。
特に体積の次元を持つ適当な定数 V * を固定して、スケール変換のパラメータを λ =V * /V と選ぶと
p
=
p
(
T
,
V
∗
,
N
/
V
×
V
∗
)
=
p
(
T
,
ρ
)
{\displaystyle p=p(T,V^{*},N/V\times V^{*})=p(T,\rho )}
となる[ 注 1] 。ここで ρ = N /V は単位体積あたりの物質量、つまり密度 である。このように示量性を考慮することで、状態方程式から変数を一つ減らすことができる。
また、物質量の次元を持つ適当な定数 N * を固定して、変換パラメータを λ = N * /N と選ぶと
p
=
p
(
T
,
V
/
N
×
N
∗
,
N
∗
)
=
p
(
T
,
v
)
{\displaystyle p=p(T,V/N\times N^{*},N^{*})=p(T,v)}
となる[ 注 1] 。ここで v = V /N は単位物質量あたりの体積、つまり比容 である。
化学の分野では、体積を温度と圧力、物質量で表した
V
=
V
(
T
,
p
,
N
)
{\displaystyle V=V(T,p,N)}
の形を状態方程式と呼ぶ場合が多い。
示量性を考慮すれば
V
/
N
=
V
(
T
,
p
)
{\displaystyle V/N=V(T,p)}
として変数を一つ減らすことができる。
体積 V (T ,p ) の温度 T による偏微分は
(
∂
V
∂
T
)
p
=
V
α
{\displaystyle \left({\frac {\partial V}{\partial T}}\right)_{p}=V\alpha }
と表される。ここで α は熱膨張係数 である。
体積 V (T ,p ) の圧力 p による偏微分は
(
∂
V
∂
p
)
T
=
−
V
κ
T
{\displaystyle \left({\frac {\partial V}{\partial p}}\right)_{T}=-V\kappa _{T}}
と表される。ここで κT は等温圧縮率 である。
従って、体積の全微分は
d
V
=
V
(
α
d
T
−
κ
T
d
p
)
{\displaystyle dV=V(\alpha \,dT-\kappa _{T}\,dp)}
となる。
これを変形すれば、圧力の全微分が
d
p
=
1
κ
T
(
α
d
T
+
1
V
d
V
)
{\displaystyle dp={\frac {1}{\kappa _{T}}}\left(\alpha \,dT+{\frac {1}{V}}\,dV\right)}
となる。全微分の形から、圧力 p (T ,V ) の偏微分として
(
∂
p
∂
T
)
V
=
α
κ
T
{\displaystyle \left({\frac {\partial p}{\partial T}}\right)_{V}={\frac {\alpha }{\kappa _{T}}}}
(
∂
p
∂
V
)
T
=
1
V
κ
T
{\displaystyle \left({\frac {\partial p}{\partial V}}\right)_{T}={\frac {1}{V\kappa _{T}}}}
が得られる。
弾性体 の状態を表す変数は、歪み ε と応力 σ である。体積や圧力と異なり、一般には2階のテンソル で表される。
状態方程式は
σ
i
j
=
σ
i
j
(
ϵ
,
T
)
{\displaystyle \sigma _{ij}=\sigma _{ij}(\epsilon ,T)}
あるいは
ϵ
k
l
=
ϵ
k
l
(
σ
,
T
)
{\displaystyle \epsilon _{kl}=\epsilon _{kl}(\sigma ,T)}
の形で書かれる。
応力の歪みによる微分は
(
∂
σ
i
j
∂
ϵ
k
l
)
T
=
E
i
j
k
l
(
ϵ
,
T
)
{\displaystyle \left({\frac {\partial \sigma _{ij}}{\partial \epsilon _{kl}}}\right)_{T}=E_{ijkl}(\epsilon ,T)}
として、弾性率 で表される。
歪みの応力による微分は
(
∂
ϵ
k
l
∂
σ
i
j
)
T
=
K
k
l
i
j
(
σ
,
T
)
{\displaystyle \left({\frac {\partial \epsilon _{kl}}{\partial \sigma _{ij}}}\right)_{T}=K_{klij}(\sigma ,T)}
として、弾性コンプライアンス で表される。
歪みの温度による微分は
(
∂
ϵ
k
l
∂
T
)
σ
=
α
k
l
(
σ
,
T
)
{\displaystyle \left({\frac {\partial \epsilon _{kl}}{\partial T}}\right)_{\sigma }=\alpha _{kl}(\sigma ,T)}
として熱歪み で表される。
従って、歪みの全微分は
d
ϵ
k
l
=
K
k
l
i
j
d
σ
i
j
+
α
k
l
d
T
{\displaystyle d\epsilon _{kl}=K_{klij}\,d\sigma _{ij}+\alpha _{kl}\,dT}
となる。
応力の全微分は
d
σ
i
j
=
E
i
j
k
l
d
ϵ
k
l
−
E
i
j
k
l
α
k
l
d
T
{\displaystyle d\sigma _{ij}=E_{ijkl}\,d\epsilon _{kl}-E_{ijkl}\,\alpha _{kl}\,dT}
となる。
誘電体 の状態を表す変数は、誘電分極 P と外部電場 E である。状態方程式は
P
a
=
P
a
(
E
,
σ
,
T
)
{\displaystyle P_{a}=P_{a}(E,\sigma ,T)}
の形で書かれる。
電場による微分は
(
∂
P
a
∂
E
b
)
σ
,
T
=
χ
a
b
(
E
,
σ
,
T
)
{\displaystyle \left({\frac {\partial P_{a}}{\partial E_{b}}}\right)_{\sigma ,T}=\chi _{ab}(E,\sigma ,T)}
として、電気感受率 で表される。
応力による微分は
(
∂
P
a
∂
σ
i
j
)
E
,
T
=
d
a
i
j
(
E
,
σ
,
T
)
{\displaystyle \left({\frac {\partial P_{a}}{\partial \sigma _{ij}}}\right)_{E,T}=d_{aij}(E,\sigma ,T)}
として、圧電係数 で表される。
温度による微分は
(
∂
P
a
∂
T
)
E
,
σ
=
p
a
(
E
,
σ
,
T
)
{\displaystyle \left({\frac {\partial P_{a}}{\partial T}}\right)_{E,\sigma }=p_{a}(E,\sigma ,T)}
として、焦電係数 で表される。
誘電率の全微分は
d
P
a
=
χ
a
b
d
E
b
+
d
a
i
j
d
σ
i
j
+
p
a
d
T
{\displaystyle dP_{a}=\chi _{ab}\,dE_{b}+d_{aij}\,d\sigma _{ij}+p_{a}\,dT}
となる。
磁性体 の状態を表す変数は、磁化 M と外部磁場 H である。状態方程式は
M
=
M
(
H
,
T
)
{\displaystyle M=M(H,T)}
の形で書かれ、その微分は
(
∂
M
∂
H
)
T
=
χ
(
H
,
T
)
{\displaystyle \left({\frac {\partial M}{\partial H}}\right)_{T}=\chi (H,T)}
として、磁化率 で表される。磁化や磁化率の温度依存性はキュリーの法則 などで記述される。
理想気体の状態方程式 は、
P
=
n
R
T
V
{\displaystyle P={\frac {nRT}{V}}}
である。R は気体定数 である。この式はボイル=シャルルの法則 とアボガドロの法則 から導かれる。なお、この式で用いられている温度 T は絶対温度 或いは熱力学温度 と呼ばれる。
分母を払った
P
V
=
n
R
T
{\displaystyle PV=nRT}
という形で出てくることも多い。
また、この式は統計力学 的には相互作用をしない系として導くことができる。
実在気体 の場合は、以下のいくつかの近似式が提案されている。
固体における状態方程式としては、バンド計算 などで利用されるマーナハン (Murnaghan) の状態方程式
E
tot
(
V
)
=
B
V
B
′
(
B
′
−
1
)
[
B
′
(
1
−
V
0
V
)
+
(
V
0
V
)
B
′
−
1
]
+
E
tot
(
V
0
)
{\displaystyle E_{\text{tot}}(V)={\frac {BV}{B'(B'-1)}}\left[B'\left(1-{\frac {V_{0}}{V}}\right)+\left({\frac {V_{0}}{V}}\right)^{B'}-1\right]+E_{\text{tot}}(V_{0})}
が有名である。E tot は系の全エネルギー 、B は体積弾性率 、B' は体積弾性率の圧力の微分
B
′
=
∂
B
/
∂
P
{\displaystyle B'=\partial B/\partial P}
、V 0 は平衡格子定数での系の体積、E tot (V 0 )は平衡格子定数での全エネルギーである。この式で、V = V 0 において、右辺括弧内がゼロになり、E tot (V 0 )となる。
上式は、全エネルギーと体積との関係式であるが、マーナハンの式には圧力と体積との関係式、
P
(
V
)
=
B
B
′
[
(
V
0
V
)
B
′
−
1
]
{\displaystyle P(V)={\frac {B}{B'}}\left[\left({\frac {V_{0}}{V}}\right)^{B'}-1\right]}
がある。このような固体における圧力‐体積などの関係式(状態方程式)にはいくつか派生型が存在する。マーナハンの式は指数関数を含むため、取り扱いが難しい。そのため応用上問題の無い範囲に近似を行い、多項式で展開し直したバーチ・マーナハン(Birch-Murnaghan)の式がよく使われる。