閻浮提
閻浮提(えんぶだい、サンスクリット語: जम्बुद्वीप、Jambudvīpa)とは、古代インドの世界観における人間が住む大陸。
インドの伝統的な世界はメール山を中心とするが、その四方に大陸(島)があってその一つとする説と、メール山の周りに同心円状に大陸が並び、その中心にあたる大陸とする説がある。仏教では須弥山の周囲にある4つの大陸(四大洲)の1つ。
サンスクリットではジャンブドヴィーパといい、文字通りには「ジャンブ(ムラサキフトモモ)の島」を意味する[1]。「ジャンブ」は「ジャンブー」と伸ばされることもある[1]。閻浮提はその音訳である。
叙事詩とプラーナ
編集『マハーバーラタ』巻6によると、メール山の周辺には4つの島があり、そのひとつがジャンブドヴィーパである(他の3つはバドラーシュヴァ、ケートゥマーラ、ウッタラクル[注 1])[4]。ジャンブドヴィーパはウサギに似た形をしている[4]。東西方向に6つの山脈が走り、その一番南のものがヒマヴァット(ヒマラヤ山脈)である。山脈によって世界は南北7つのヴァルシャに別れ、その一番南のものがバーラタヴァルシャ(インド亜大陸)である[4]。
プラーナ文献ではメール山の東西南北に4つの島があり、南の島をジャンブドヴィーパとするものと、メール山を中心として同心円状に7つの島があって、その一番内側がジャンブドヴィーパとするもの(たとえば『マールカンデーヤ・プラーナ』54[5])がある。
ジャンブドヴィーパのうちヒマラヤから南の部分、すなわちインド亜大陸をバーラタヴァルシャと呼ぶが、インドの文献では時にジャンブドヴィーパとバーラタヴァルシャを区別せずに使用することがある[2]。
ジャイナ教
編集ジャイナ教では世界は下界・中界・上界の三界からなり、うち中界は円筒形をしている。中心にメール山があって、その周りを同心円状に15の島が取り巻いている。中央の島がジャンブドヴィーパである。ジャンブドヴィーパは東西に走る6つの山脈によって南北7つの黄帯(クシェートラ)に分けられ、その南端のものがバーラタ・クシェートラである[6]。
仏教における閻浮提
編集四大洲のうち、南に位置する三角形の大陸をジャンブドヴィーパ(閻浮提)と呼ぶ。玄奘以降の新訳では贍部洲(せんぶしゅう)と訳される。また、南方にあることから、南閻浮提(なんえんぶだい)、南贍部洲(なんせんぶしゅう)ともされる。
大きな森があり、そこに閻浮(Jambu)樹と呼ばれる常緑の大きな木があることから閻浮提とよばれる。インドの地をモデルにしたもので、雪山(Himavat、せつせん)という山の頂にアナヴァタプタ(Anavatapta)という名前の池(阿耨達池: あのくだっち)があり、四方に大きな川が流れる。その後、現在人間が住む世界を指すようになった。
東にはヴィデーハという名前の大陸(Pūrvavidehadvīpa、弗婆提: ほつばだい、東勝身洲: とうしょうしんしゅう)、西にはゴーダーニーヤという名前の大陸(Aparagodānīyadvīpa、瞿陀尼: くだに、西牛貨洲: さいごけしゅう)、北方にはクルという名前の大陸(Uttarakurudvīpa、鬱単越: うったんおつ、北倶盧洲: ほっくるしゅう)がある。
脚注
編集注釈
編集出典
編集- ^ a b Monier-Williams, Monier (1899) [1872]. “jambu-dvīpa”. A Sanskrit-English Dictionary (2nd ed.). Oxford: Clarendon Press. p. 412
- ^ a b Sircar, D.C. (1960). Geography of Ancient and Medieval India. Motilal Banarsidass. p. 6
- ^ Rigveda Brahmanas: The Aitareya and Kauṣītaki Brāhmaṇas of the Rigveda. Harvard Oriental Series. 25. translated by Arthur Berriedale Keith. Harvard University Press. (1920). p. 331
- ^ a b c The Mahabharata: Book 6: Bhishma Parva, Section VI
- ^ The Markandeya Purana: Canto LIV - The description of Jambudvīpa
- ^ 渡辺研二『ジャイナ教:非所有・非暴力・非殺生―その教義と実生活』論創社、2005年、156-158頁。ISBN 4846003132。