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| 学名 = Odontoceti {{AUY|Flower|1867}}<ref name="mead_brownell_jr">James G. Mead and Robert L. Brownell, Jr., “[http://www.departments.bucknell.edu/biology/resources/msw3/browse.asp?id=14300034 Order Cetacea],” In: Don E. Wilson & DeeAnn M. Reeder (eds.), ''[[Mammal Species of the World]]'' (3rd ed.), Volume 1, Johns Hopkins University Press, 2005, Pages 723-743.</ref> |
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⚫ | '''ハクジラ類'''(歯鯨類、Odontoceti)は、[[鯨偶蹄目]]に属する[[分類群]]で、現生の[[鯨類]]を2分する大グループの一つ。[[カール・フォン・リンネ|リンネ]]式の分類では'''ハクジラ[[目 (分類学)|亜目]]'''または'''ハクジラ小目'''の階級が与えられているが<ref name="yokohata">日本哺乳類学会 種名・標本検討委員会 目名問題検討作業部会「[https://doi.org/10.11238/mammalianscience.43.127 哺乳類の高次分類群および分類階級の日本語名称の提案について]」『哺乳類科学』第43巻 2号、日本哺乳類学会、2003年、127-134頁。</ref>、クジラ類が[[偶蹄目]]から分岐した系統であるためハクジラ類、ヒゲクジラ類の位置づけは変動する可能性が高い<ref>『鯨類学』 2頁</ref>。 |
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==形態== |
==形態== |
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現生のクジラ類は、ハクジラ |
現生のクジラ類は、ハクジラ類と[[ヒゲクジラ類]]に大きく分けられる。現生のハクジラ類はその名の通り、顎に歯を持つクジラである。しかし、最初期のヒゲクジラ類は歯を持っており、歯の存在によってこの分類群が定義されている訳ではない<ref name="絶滅哺乳類図鑑">『絶滅哺乳類図鑑』 126頁</ref>。通常の[[哺乳類]]の歯は[[異歯性]]{{efn|異形歯性とも。生える場所により歯の形態が異なること。}}を示すが、ハクジラ類の歯は化石種を含めて大半が二次的に同形歯となっている。また歯の本数が[[真獣下綱|真獣類]]の基本数である44本より多いものや大半が失われているものなど変異が多い。またアカボウクジラ科の一部の様に雄のみ下顎に一対の歯を持つものや、[[角]]の様に伸びた歯を持つ[[イッカク]]など特異な形態を示すものも少なくない。<ref>『鯨類学』 14 - 15頁</ref>陸生の[[捕食者]]たちの歯は捕殺の道具として使用されるが、ハクジラ類の大半は魚体を捕捉するための罠として機能する。しかし[[シャチ]]など、丸呑みが出来ない大型の[[クジラ]]や[[サメ]]を狙うものは、捕らえた獲物を引き裂き、飲み込みやすい大きさにまで切り刻むために歯を使う。また、[[アカボウクジラ科]]の一部の種の雄は特異な歯をディスプレイとして使用していると推定される。<ref>『哺乳類の進化』 218頁</ref> |
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歯以外のヒゲクジラ類との差異としては、比較的頭部の比率が小さいこと([[ |
歯以外のヒゲクジラ類との差異としては、比較的頭部の比率が小さいこと([[古鯨類]]よりは大型化している)、噴気孔は一つであること、また[[マッコウクジラ]]やアカボウクジラ科の一部、シャチなどを除き、ヒゲクジラよりも小型であること、などである。皮下の形態では、鼻腔内に[[発声唇]]と呼ばれる音を発するための器官と音を収束する[[メロン (動物学)|メロン]]があり、これらを使用した高周波[[反響定位|エコロケーション]]能力を持つ。<ref>『鯨類学』 138 - 148頁</ref> |
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[[上顎骨]]は[[鼻孔]]が頭頂部へ移動した事にともない[[テレスコーピング]]と呼ばれる形態を示すが、伸長した上顎骨は[[眼窩]]の上を通って(ヒゲクジラ類は下)眼窩後方に達し、「上眼窩突起」と呼ばれる筋肉の付着部を形成する。ここに付着する顔の筋肉及び発声唇を使用し高周波音が発せられると推定されている。<ref name="絶滅哺乳類図鑑" /> |
[[上顎骨]]は[[鼻孔]]が[[頭頂部]]へ移動した事にともない[[テレスコーピング]]と呼ばれる形態を示すが、伸長した上顎骨は[[眼窩]]の上を通って(ヒゲクジラ類は下)眼窩後方に達し、「上眼窩突起」と呼ばれる筋肉の付着部を形成する。ここに付着する顔の筋肉及び発声唇を使用し高周波音が発せられると推定されている。<ref name="絶滅哺乳類図鑑" /> |
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尚、鼻孔はヒゲクジラ類が二つ有するのに対して、ハクジラ類は一つである。 |
尚、[[鼻孔]]はヒゲクジラ類が二つ有するのに対して、ハクジラ類は一つである。 |
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また現生群では頭骨の骨要素及び軟組織が左右非対称となっているが、これは高周波エコロケーションに特化した機能を持つためとされる。初期の化石種では頭骨が左右対称のものも存在するが、軟組織がいかなる状態であったかは不明である。<ref>『鯨類学』 44頁</ref> |
また現生群では頭骨の骨要素及び軟組織が左右非対称となっているが、これは高周波エコロケーションに特化した機能を持つためとされる。初期の化石種では頭骨が左右対称のものも存在するが、軟組織がいかなる状態であったかは不明である。<ref name="#1">『鯨類学』 44頁</ref> |
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現生のクジラ類では[[耳骨]]が頭骨から遊離しているが、ハクジラの耳骨は一部の種を除いて軟組織のみで頭骨に接しており、完全に骨による接続は断たれている。また、耳骨の構成要素、[[耳周骨]]([[蝸牛]]などを収めた骨)と[[鼓室胞]]([[耳小骨]]を収めた骨)も分離した状態にあるのも特徴的である(ヒゲクジラでは癒合)。<ref>『鯨類学』 11 - 13頁</ref> |
現生のクジラ類では[[耳骨]]が頭骨から遊離しているが、ハクジラの耳骨は一部の種を除いて軟組織のみで頭骨に接しており、完全に骨による接続は断たれている。また、耳骨の構成要素、[[耳周骨]]([[蝸牛]]などを収めた骨)と[[鼓室胞]]([[耳小骨]]を収めた骨)も分離した状態にあるのも特徴的である(ヒゲクジラでは癒合)。<ref>『鯨類学』 11 - 13頁</ref> |
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これと関連して、ハクジラの下顎骨は縦方向に幅があり、後部に大きな開口部を持つ。この部分には脂肪組織が収まっており、下顎骨で受けたエコロケーションの反響などの音波を内耳に伝導する役割を果たしているとされる。こうした形態は高周波エコロケーションこそ行っていないものの |
これと関連して、ハクジラの下顎骨は縦方向に幅があり、後部に大きな開口部を持つ。この部分には脂肪組織が収まっており、下顎骨で受けたエコロケーションの反響などの音波を内耳に伝導する役割を果たしているとされる。こうした形態は高周波エコロケーションこそ行っていないものの古鯨類にも存在しており、祖先から受け継いだものであると推定される。一方ヒゲクジラはこうした特徴は失っている。<ref>『鯨類学』 14頁</ref> |
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嗅覚に関しては、一部の種の発生段階を除いて嗅球、嗅神経も消失しており、嗅覚は完全に退化している。対してヒゲクジラは僅かながら嗅覚を残している<ref>『鯨類学』 55, 176頁</ref>。 |
嗅覚に関しては、一部の種の発生段階を除いて嗅球、嗅神経も消失しており、嗅覚は完全に退化している。対してヒゲクジラは僅かながら嗅覚を残している<ref>『鯨類学』 55, 176頁</ref>。 |
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ハクジラ類はヒゲクジラ類とともに[[正鯨類]]を構成するが、その起源は[[漸新世]]後期に求められる。その祖先は所謂「[[古鯨類|ムカシクジラ類]]」の[[ドルドン]]などに近縁なグループであった。 |
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現生群こそ「ハ」クジラと呼ばれているが、先述の様に最初期のヒゲクジラも歯を持っており、歯があるからといってハクジラと同定される訳ではない。このグループを特徴付けるのは高周波エコロケーション能力であり<ref name="絶滅哺乳類図鑑" />、これを行う事の出来る、上顎骨の伸長(テレスコーピング)やメロンを収める窪みなどの頭骨の形態が分類の決め手である。<ref |
現生群こそ「ハ」クジラと呼ばれているが、先述の様に最初期のヒゲクジラ類も歯を持っており、歯があるからといってハクジラと同定される訳ではない。このグループを特徴付けるのは高周波エコロケーション能力であり<ref name="絶滅哺乳類図鑑" />、これを行う事の出来る、上顎骨の伸長(テレスコーピング)やメロンを収める窪みなどの頭骨の形態が分類の決め手である。<ref name="#1"/>最初期のハクジラとしては、アゴロフィウス上科および科分類無しでハクジラ類直下に置かれる幾つかの属が知られる<ref>『鯨類学』 44 - 45頁</ref>。次いで分岐したのが、現生種[[マッコウクジラ]]などを含む[[マッコウクジラ上科]]である。この群には[[マッコウクジラ科]]及び[[コマッコウ科]]が含まれる。研究者によってはアカボウクジラ科を含める場合があるが、最近の遺伝子研究によるデータでは、アカボウクジラ科は含まれないとする結果が出ている<ref name="46頁">『鯨類学』 46頁</ref>。また、他のハクジラよりもヒゲクジラに近縁とする説も存在したが、これも否定的な結果となった<ref>『鯨類学』 61 - 65頁</ref>。マッコウクジラ科最古の化石は[[漸新世]]後期から出土しており、極めて古い系統である事が裏付けられている。一方のコマッコウ科は化石記録が乏しく、いつ頃出現したかは定かではない。<ref>『鯨類学』 45 - 46頁</ref>次いで分岐したのはアカボウクジラ科であるが、[[中新世]]中期以降多数の化石が発見されている<ref name="46頁" />。これ以降[[カワイルカ]]など幾つかのグループが現れているが、これらの分類は未だ流動的である<ref>『鯨類学』 47 - 49頁</ref>。 |
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現生3科、絶滅3科を含む最大のグループであるマイルカ上科は漸新世末期に現れたとされる。初期に栄えたケンドリオン科は現生マイルカ科の祖先を含むとされる。またアルビレオ科は独特の形態を具えた絶滅群である。<ref>『鯨類学』 49頁</ref>最大のグループであるマイルカ科は中新世に現れている。<ref>『鯨類学』 52頁</ref>また、ネズミイルカ科は分子研究によれば約1,600万 - 1,300万年前にマイルカ科から分岐したとされるが、この時期は化石記録とも一致している。現生群の、丸みを帯び、相対的に[[吻]]が短く[[脳函]]が大きい、また小柄であるなどの特徴は[[ネオテニー|幼形成熟]]によるものとの説もある。<ref>『鯨類学』 50 - 51頁</ref>イッカク科は中新世後期に現れたグループで、イッカクは雄が長い角(伸びた左上顎[[切歯]])を持つ事で知られている。これと近縁な(イッカク科に含められる事もある)絶滅群にオドベノケトプス科が存在するが、雄の右上顎切歯が著しく下方へ伸長する事が知られている。<ref>『鯨類学』 49 - 51頁</ref> |
現生3科、絶滅3科を含む最大のグループであるマイルカ上科は漸新世末期に現れたとされる。初期に栄えたケンドリオン科は現生マイルカ科の祖先を含むとされる。またアルビレオ科は独特の形態を具えた絶滅群である。<ref>『鯨類学』 49頁</ref>最大のグループであるマイルカ科は中新世に現れている。<ref>『鯨類学』 52頁</ref>また、ネズミイルカ科は分子研究によれば約1,600万 - 1,300万年前にマイルカ科から分岐したとされるが、この時期は化石記録とも一致している。現生群の、丸みを帯び、相対的に[[吻]]が短く[[脳函]]が大きい、また小柄であるなどの特徴は[[ネオテニー|幼形成熟]]によるものとの説もある。<ref>『鯨類学』 50 - 51頁</ref>イッカク科は中新世後期に現れたグループで、イッカクは雄が長い角(伸びた左上顎[[切歯]])を持つ事で知られている。これと近縁な(イッカク科に含められる事もある)絶滅群にオドベノケトプス科が存在するが、雄の右上顎切歯が著しく下方へ伸長する事が知られている。<ref>『鯨類学』 49 - 51頁</ref> |
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* May-Collado, L., Agnarsson, I. (2006). Cytochrome b and Bayesian inference of whale phylogeny. Molecular Phylogenetics and Evolution 38, 344-354. [https://web.archive.org/web/20070927044038/http://theridiidae.com/pdf/MayColladoandAgnarsson2006.pdf |
* May-Collado, L., Agnarsson, I. (2006). Cytochrome b and Bayesian inference of whale phylogeny. Molecular Phylogenetics and Evolution 38, 344-354. [https://web.archive.org/web/20070927044038/http://theridiidae.com/pdf/MayColladoandAgnarsson2006.pdf] |
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2023年3月11日 (土) 10:52時点における最新版
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ハクジラ類 | |||||||||||||||||||||||||||
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地質時代 | |||||||||||||||||||||||||||
漸新世前期 - 完新世(現代) | |||||||||||||||||||||||||||
分類 | |||||||||||||||||||||||||||
| |||||||||||||||||||||||||||
学名 | |||||||||||||||||||||||||||
Odontoceti Flower, 1867[1] | |||||||||||||||||||||||||||
和名 | |||||||||||||||||||||||||||
ハクジラ小目[2] | |||||||||||||||||||||||||||
科 | |||||||||||||||||||||||||||
他 絶滅群多数
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ハクジラ類(歯鯨類、Odontoceti)は、鯨偶蹄目に属する分類群で、現生の鯨類を2分する大グループの一つ。リンネ式の分類ではハクジラ亜目またはハクジラ小目の階級が与えられているが[2]、クジラ類が偶蹄目から分岐した系統であるためハクジラ類、ヒゲクジラ類の位置づけは変動する可能性が高い[3]。
形態
[編集]現生のクジラ類は、ハクジラ類とヒゲクジラ類に大きく分けられる。現生のハクジラ類はその名の通り、顎に歯を持つクジラである。しかし、最初期のヒゲクジラ類は歯を持っており、歯の存在によってこの分類群が定義されている訳ではない[4]。通常の哺乳類の歯は異歯性[注釈 1]を示すが、ハクジラ類の歯は化石種を含めて大半が二次的に同形歯となっている。また歯の本数が真獣類の基本数である44本より多いものや大半が失われているものなど変異が多い。またアカボウクジラ科の一部の様に雄のみ下顎に一対の歯を持つものや、角の様に伸びた歯を持つイッカクなど特異な形態を示すものも少なくない。[5]陸生の捕食者たちの歯は捕殺の道具として使用されるが、ハクジラ類の大半は魚体を捕捉するための罠として機能する。しかしシャチなど、丸呑みが出来ない大型のクジラやサメを狙うものは、捕らえた獲物を引き裂き、飲み込みやすい大きさにまで切り刻むために歯を使う。また、アカボウクジラ科の一部の種の雄は特異な歯をディスプレイとして使用していると推定される。[6]
歯以外のヒゲクジラ類との差異としては、比較的頭部の比率が小さいこと(古鯨類よりは大型化している)、噴気孔は一つであること、またマッコウクジラやアカボウクジラ科の一部、シャチなどを除き、ヒゲクジラよりも小型であること、などである。皮下の形態では、鼻腔内に発声唇と呼ばれる音を発するための器官と音を収束するメロンがあり、これらを使用した高周波エコロケーション能力を持つ。[7]
上顎骨は鼻孔が頭頂部へ移動した事にともないテレスコーピングと呼ばれる形態を示すが、伸長した上顎骨は眼窩の上を通って(ヒゲクジラ類は下)眼窩後方に達し、「上眼窩突起」と呼ばれる筋肉の付着部を形成する。ここに付着する顔の筋肉及び発声唇を使用し高周波音が発せられると推定されている。[4] 尚、鼻孔はヒゲクジラ類が二つ有するのに対して、ハクジラ類は一つである。
また現生群では頭骨の骨要素及び軟組織が左右非対称となっているが、これは高周波エコロケーションに特化した機能を持つためとされる。初期の化石種では頭骨が左右対称のものも存在するが、軟組織がいかなる状態であったかは不明である。[8]
現生のクジラ類では耳骨が頭骨から遊離しているが、ハクジラの耳骨は一部の種を除いて軟組織のみで頭骨に接しており、完全に骨による接続は断たれている。また、耳骨の構成要素、耳周骨(蝸牛などを収めた骨)と鼓室胞(耳小骨を収めた骨)も分離した状態にあるのも特徴的である(ヒゲクジラでは癒合)。[9]
これと関連して、ハクジラの下顎骨は縦方向に幅があり、後部に大きな開口部を持つ。この部分には脂肪組織が収まっており、下顎骨で受けたエコロケーションの反響などの音波を内耳に伝導する役割を果たしているとされる。こうした形態は高周波エコロケーションこそ行っていないものの古鯨類にも存在しており、祖先から受け継いだものであると推定される。一方ヒゲクジラはこうした特徴は失っている。[10]
嗅覚に関しては、一部の種の発生段階を除いて嗅球、嗅神経も消失しており、嗅覚は完全に退化している。対してヒゲクジラは僅かながら嗅覚を残している[11]。
-
マッコウクジラの全身骨格図
-
エウリノデルフィス骨格
-
イルカの骨格及び主要器官
生態
[編集]食性は主に魚類を捕食するが、アカボウクジラ科やマイルカ科のクジラやイルカのように、深海凄のイカ類に依存するものも多く、トックリクジラやマッコウクジラ、ハナゴンドウのようにほぼイカ類を捕食する種類もいる。また、シャチはイルカや自分より大型のクジラ、アザラシ、ペンギン、サメなどを襲う事もある。
進化
[編集]ハクジラ類はヒゲクジラ類とともに正鯨類を構成するが、その起源は漸新世後期に求められる。その祖先は所謂「ムカシクジラ類」のドルドンなどに近縁なグループであった。
現生群こそ「ハ」クジラと呼ばれているが、先述の様に最初期のヒゲクジラ類も歯を持っており、歯があるからといってハクジラと同定される訳ではない。このグループを特徴付けるのは高周波エコロケーション能力であり[4]、これを行う事の出来る、上顎骨の伸長(テレスコーピング)やメロンを収める窪みなどの頭骨の形態が分類の決め手である。[8]最初期のハクジラとしては、アゴロフィウス上科および科分類無しでハクジラ類直下に置かれる幾つかの属が知られる[12]。次いで分岐したのが、現生種マッコウクジラなどを含むマッコウクジラ上科である。この群にはマッコウクジラ科及びコマッコウ科が含まれる。研究者によってはアカボウクジラ科を含める場合があるが、最近の遺伝子研究によるデータでは、アカボウクジラ科は含まれないとする結果が出ている[13]。また、他のハクジラよりもヒゲクジラに近縁とする説も存在したが、これも否定的な結果となった[14]。マッコウクジラ科最古の化石は漸新世後期から出土しており、極めて古い系統である事が裏付けられている。一方のコマッコウ科は化石記録が乏しく、いつ頃出現したかは定かではない。[15]次いで分岐したのはアカボウクジラ科であるが、中新世中期以降多数の化石が発見されている[13]。これ以降カワイルカなど幾つかのグループが現れているが、これらの分類は未だ流動的である[16]。
現生3科、絶滅3科を含む最大のグループであるマイルカ上科は漸新世末期に現れたとされる。初期に栄えたケンドリオン科は現生マイルカ科の祖先を含むとされる。またアルビレオ科は独特の形態を具えた絶滅群である。[17]最大のグループであるマイルカ科は中新世に現れている。[18]また、ネズミイルカ科は分子研究によれば約1,600万 - 1,300万年前にマイルカ科から分岐したとされるが、この時期は化石記録とも一致している。現生群の、丸みを帯び、相対的に吻が短く脳函が大きい、また小柄であるなどの特徴は幼形成熟によるものとの説もある。[19]イッカク科は中新世後期に現れたグループで、イッカクは雄が長い角(伸びた左上顎切歯)を持つ事で知られている。これと近縁な(イッカク科に含められる事もある)絶滅群にオドベノケトプス科が存在するが、雄の右上顎切歯が著しく下方へ伸長する事が知られている。[20]
分類
[編集]系統
[編集]ヒゲクジラ類の14種に対し、60種以上とハクジラ類は種類が多い。マッコウクジラなどを除けば、イルカなど小型種が大半を占める。
かつてはカワイルカを総括するカワイルカ上科 Physeteridae を置くことがあったが、側系統であることがわかり分割された。
鯨類 |
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下位分類
[編集]†は絶滅。絶滅群は主要な科、上科及び主要な属のみ掲載。
- †アゴロフィウス上科 Agorophiidea
- マッコウクジラ上科 Physeteroidea
- アカボウクジラ上科 Ziphioidea
- アカボウクジラ科 Ziphiidae
- †Archaeoziphins
- アカボウクジラ亜科 Ziphiinae
- ツチクジラ亜科 Berardinae
- トックリクジラ亜科 Hyperoodontinae
- アカボウクジラ科 Ziphiidae
- インドカワイルカ上科 Platanistoidea
- †アクロディルフィス科 Acrodelphidae
- †スクアロドン科 Squalodontidae
- †スクアロデルフィス科
- †ワイパティア科
- †ダルピアジナ科
- インドカワイルカ科 Platanistidae (カワイルカ科、ガンジスカワイルカ科とも)
- カワイルカ属 Platanista : インドカワイルカ(スースー), ガンジスカワイルカ, インダスカワイルカ
- †エウリノデルフィス上科
- エウリノデルフィス科 Eurhinodelphinidae
- エオプラタニスタ科
- ヨウスコウカワイルカ上科 Lipotoidea
- ヨウスコウカワイルカ科 Lipotidae(絶滅?)
- ヨウスコウカワイルカ属 Lipotes : ヨウスコウカワイルカ
- ヨウスコウカワイルカ科 Lipotidae(絶滅?)
- アマゾンカワイルカ上科 Inoidea
- アマゾンカワイルカ科 Iniidae
- ラプラタカワイルカ科 Pontoporiidae
- ラプラタカワイルカ属 Pontoporia : ラプラタカワイルカ
- マイルカ上科 Delphinoidea
- †ケントリオドン科 Kentriodontidae
- †アルビレオ科 Albireonidae
- マイルカ科 Delphinidae
- マイルカ亜科 Delphinae
- マイルカ属 Delphinus : マイルカ, ハセイルカ, (ネッタイマイルカ), シワハイルカ属, シワハイルカ
- ハンドウイルカ属 Tursiops : ハンドウイルカ(バンドウイルカ), ミナミハンドウイルカ, ブルナンイルカ
- スジイルカ属 Stenella : マダライルカ, タイセイヨウマダライルカ, ハシナガイルカ, クライメンイルカ, スジイルカ
- サラワクイルカ属 Lagenodelphis : サラワクイルカ
- カマイルカ属 Lagenorhynchus : ハナジロカマイルカ, タイセイヨウカマイルカ, カマイルカ, ハラジロカマイルカ, ミナミカマイルカ, ダンダラカマイルカ
- セミイルカ属 Lissodelphis : セミイルカ, シロハラセミイルカ
- セッパリイルカ亜科 Cephalorhynchinae
- ゴンドウクジラ亜科 Globicephalinae
- シャチ亜科 Orcininae
- マイルカ亜科 Delphinae
- ネズミイルカ科 Phocoenidae
- イッカク科 Monodontidae
- †オドベノケトプス科 Odobenocetopsidae
-
アカボウクジラ
-
インドカワイルカ(ガンジスカワイルカ)
-
マイルカ
-
ハンドウイルカ
-
シャチ
-
シロイルカ
脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ 異形歯性とも。生える場所により歯の形態が異なること。
出典
[編集]- ^ James G. Mead and Robert L. Brownell, Jr., “Order Cetacea,” In: Don E. Wilson & DeeAnn M. Reeder (eds.), Mammal Species of the World (3rd ed.), Volume 1, Johns Hopkins University Press, 2005, Pages 723-743.
- ^ a b 日本哺乳類学会 種名・標本検討委員会 目名問題検討作業部会「哺乳類の高次分類群および分類階級の日本語名称の提案について」『哺乳類科学』第43巻 2号、日本哺乳類学会、2003年、127-134頁。
- ^ 『鯨類学』 2頁
- ^ a b c 『絶滅哺乳類図鑑』 126頁
- ^ 『鯨類学』 14 - 15頁
- ^ 『哺乳類の進化』 218頁
- ^ 『鯨類学』 138 - 148頁
- ^ a b 『鯨類学』 44頁
- ^ 『鯨類学』 11 - 13頁
- ^ 『鯨類学』 14頁
- ^ 『鯨類学』 55, 176頁
- ^ 『鯨類学』 44 - 45頁
- ^ a b 『鯨類学』 46頁
- ^ 『鯨類学』 61 - 65頁
- ^ 『鯨類学』 45 - 46頁
- ^ 『鯨類学』 47 - 49頁
- ^ 『鯨類学』 49頁
- ^ 『鯨類学』 52頁
- ^ 『鯨類学』 50 - 51頁
- ^ 『鯨類学』 49 - 51頁
- ^ 『鯨類学』 4頁
- ^ 哺乳類の系統分類[リンク切れ][要文献特定詳細情報]
参考文献
[編集]- May-Collado, L., Agnarsson, I. (2006). Cytochrome b and Bayesian inference of whale phylogeny. Molecular Phylogenetics and Evolution 38, 344-354. [1]
- 村山司『鯨類学』東海大学出版会〈東海大学自然科学叢書〉、2008年、2,11-15,34-53,55,61-65,138-148,176頁。ISBN 978-4-486-01733-2。
- 富田幸光『絶滅哺乳類図鑑』伊藤丙雄、岡本泰子、丸善、2002年、126頁。ISBN 4-621-04943-7。
- 遠藤秀紀『哺乳類の進化』東京大学出版会、2002年、218頁。ISBN 978-4-13-060182-5。