「多剤大量処方」の版間の差分
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Homura magica (会話 | 投稿記録) 可能性削除 精神科の平均入院日数減少傾向 |
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原因は薬を多く投与したほうが効果が高くなるであろうという思い込みである<ref>{{Cite book|和書|author=鈴木厚|title=日本の医療を問いなおす|publisher=筑摩書房|date=1998-10|isbn=978-4480057754|pages=117}}</ref>。そのため、[[薬理学]]的な考慮のない、危険性を無視した投薬となる。 |
原因は薬を多く投与したほうが効果が高くなるであろうという思い込みである<ref>{{Cite book|和書|author=鈴木厚|title=日本の医療を問いなおす|publisher=筑摩書房|date=1998-10|isbn=978-4480057754|pages=117}}</ref>。そのため、[[薬理学]]的な考慮のない、危険性を無視した投薬となる。 |
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精神科医療において指摘されるその原因は、精神科医による薬理学の知識不足である{{sfn|姫井昭男|2008|pp=106-110}}{{sfn|笠陽一郎|2008|pp=4,202}}<ref name="978-4791108374">{{Cite book|和書|author=加藤隆一監修、鈴木映二|title=向精神薬の薬物動態学 -基礎から臨床まで|publisher=星和書店|date=2013|isbn=978-4791108374|pages=表紙帯}} [http://www.seiwa-pb.co.jp/search/bo05/bn787.html 出版社による書籍の概要ページ]に薬物動態学を苦手とする精神科医が多いという旨が書かれている。</ref>。そのため、完治させる薬ではないのに同じような薬を何種類も処方することになる{{sfn|風祭元|2008|pp=121-132}}。それぞれが限度用量まで出されれば[[過量服薬]]になっていることが理解されていないということである{{sfn|姫井昭男|2008|pp=106-110}}。[[精神科の薬]]の種類は、主に[[抗精神病薬]]、[[抗うつ薬]]、[[気分安定薬]]、[[覚醒剤]]、[[抗不安薬]]/[[睡眠薬]](この二種類は、共にGABA受容体に作用するものが多い)であるが、こうした[[向精神薬]]の種類ごとに複数処方すれば多剤かつ大量となる。厚生労働省によれば、日本では諸外国より多剤投与が多く、これが過量服薬の背景になっていることが指摘されている{{sfn|厚生労働省自殺・うつ病等対策プロジェクトチーム|2010|p=2}}。個別の記事や論文では、時に致死的なほど大量に処方される薬の毒性についての言及がなされる。危険性のある薬でも、用量順守や血液検査のような適切な安全管理がなされていないため注意喚起がなされている<ref name="pmda2012no6">{{Cite report |date=2012-01 |title=ラミクタール錠(ラモトリギン)の重篤皮膚障害と用法・用量 遵守、早期発見について (PMDAからの医薬品適正使用のお願いNo6)|url=http://www.info.pmda.go.jp/iyaku_info/file/tekisei_pmda_06.pdf |publisher=[[医薬品医療機器総合機構]] |format=pdf |accessdate=2013-01-01 }}</ref><ref name="pmda2012no7">{{Cite report |date=2012-09 |title=炭酸リチウム投与中の血中濃度測定遵守について (PMDAからの医薬品適正使用のお願いNo7)|url=http://www.info.pmda.go.jp/iyaku_info/file/tekisei_pmda_07.pdf |publisher=[[医薬品医療機器総合機構]] |format=pdf |accessdate=2013-01-01 }}</ref>。[[過量服薬]]を自殺企図の手段とすることへの注意喚起もなされている{{sfn|厚生労働省自殺・うつ病等対策プロジェクトチーム|2010}}。 |
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日本では、入院日数が長くなるほど、薬を使うほどに収入が増える社会保険のシステムにより([[過剰診療]]、[[社会的入院]])、多剤化、大量化、高価格化が促され、効果が不十分な患者に多量に薬を使うことが常態化していき、減量が簡単ではなく減薬の方略もないので半永久的な投薬の実態があった{{sfn|風祭元|2008|pp=121-132}}。 |
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まとめると一部の精神科医にとっては、これらの医薬品は各々を最大用量まで処方でき、薬理学的な薬剤間相互作用や副作用を考慮する必要のない医薬品であり、患者の具合が優れなければ効果を高めるために投薬種類と投薬量を増やしていけばよい、ということである。そして最悪の場合、薬物が有毒域に達するような1日13種類40錠<ref>{{cite web |author= |title=軽い不眠症で薬漬けの妻が死亡 夫は薬物中毒死を訴え続ける |url=http://www.news-postseven.com/archives/20111020_33300.html |date=2011-10-20 |publisher=SAPIO |accessdate=2013-06-21}}</ref>、一度に同じ種類の薬を7種類<ref>{{cite web |author= |title=頻発する患者の死(2)「わがままな子」の治療|url=http://web.archive.org/web/20120628200704/http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=53356 |date=2012-01-23 |publisher=yomidr. |accessdate=2013-06-21}}</ref>といった投薬になり死亡する。 |
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1971年の[[向精神薬に関する条約]]において、濫用されてはならない薬物が指定されており、覚醒剤については付表(スケジュール)II、抗不安薬や睡眠薬に多い[[バルビツール酸系]]や[[ベンゾジアゼピン系]]は付表IIIおよびIVに指定されている<ref>[[向精神薬に関する条約]]</ref>。国際条約に[[批准]]する日本でこれに該当する法律は、[[麻薬及び向精神薬取締法]]であり、条約の付表Iは法律上の[[麻薬]]、付表IIが第一種向精神薬、付表IIIは第二種向精神薬、付表IVは第三種向精神薬に該当する。2010年に[[国際麻薬統制委員会]] (INCB) は、日本でのベンゾジアゼピン系の消費量の多さの原因に、医師による不適切な処方があると指摘している<ref name="incb2010"/>。 |
1971年の[[向精神薬に関する条約]]において、濫用されてはならない薬物が指定されており、覚醒剤については付表(スケジュール)II、抗不安薬や睡眠薬に多い[[バルビツール酸系]]や[[ベンゾジアゼピン系]]は付表IIIおよびIVに指定されている<ref>[[向精神薬に関する条約]]</ref>。国際条約に[[批准]]する日本でこれに該当する法律は、[[麻薬及び向精神薬取締法]]であり、条約の付表Iは法律上の[[麻薬]]、付表IIが第一種向精神薬、付表IIIは第二種向精神薬、付表IVは第三種向精神薬に該当する。2010年に[[国際麻薬統制委員会]] (INCB) は、日本でのベンゾジアゼピン系の消費量の多さの原因に、医師による不適切な処方があると指摘している<ref name="incb2010"/>。 |
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2010年1月に、{{Harvtxt|厚生労働省自殺・うつ病等対策プロジェクトチーム|2010|p=1}}が発足した。6月24日には、厚生労働省から、各都道府県の精神保健福祉主管部局長および、[[日本医師会]]、日本精神科病院協会、日本精神神経科診療所協会、日本自治体病院協議会、日本総合病院精神医学会、精神医学講座担当者会議、国立精神医療施設長協議会、日本精神神経学会の会長あてに、「向精神薬等の過量服薬を背景とする自殺について」という題で、自殺傾向のある患者に対して、向精神薬等の適切な処方に配慮する旨を通達している<ref>{{cite press release|author=|title=向精神薬等の過量服薬を背景とする自殺について 障精発0624第1号/2号|publisher=厚生労働省 |date=2010-06-24|url=http://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/jisatsu/jisatsu_medicine.html|accessdate=2013-03-15}}</ref>。 |
2010年1月に、{{Harvtxt|厚生労働省自殺・うつ病等対策プロジェクトチーム|2010|p=1}}が発足した。6月24日には、厚生労働省から、各都道府県の精神保健福祉主管部局長および、[[日本医師会]]、日本精神科病院協会、日本精神神経科診療所協会、日本自治体病院協議会、日本総合病院精神医学会、精神医学講座担当者会議、国立精神医療施設長協議会、日本精神神経学会の会長あてに、「向精神薬等の過量服薬を背景とする自殺について」という題で、自殺傾向のある患者に対して、向精神薬等の適切な処方に配慮する旨を通達している<ref>{{cite press release|author=|title=向精神薬等の過量服薬を背景とする自殺について 障精発0624第1号/2号|publisher=厚生労働省 |date=2010-06-24|url=http://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/jisatsu/jisatsu_medicine.html|accessdate=2013-03-15}}</ref>。 |
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この問題は国会でも取り上げられている。 |
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{{Quotation| 現在、厚生労働省で、自殺・うつ病対策プロジェクトチームの会合が開かれております。(中略)ここで議論のテーマになったのが、精神科や心療内科で処方される向精神薬の多剤大量服用が自殺を引き起こす要因になっているのではないか、こういう状況をどうするかということに関してだったというふうに聞いております。<br/> |
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これは不審死の行政解剖を行っている東京都監察医務院の監察医、水上創医師の論文でありますけれども、表を見ていただきたいと思います。衝撃的な数字です。自殺という事例の中、三百十七例ありますけれども、実はこの自殺という事例の中をたどっていただくと、中毒物質という一覧の中で、[[バルビツール酸系|バルビツレート類]]というところからその他及び詳細不明の[[向精神薬]]、ずらずらっと並んでいる、これは全部、禁止薬物とかではなくて、[[精神科の薬|精神科で処方されている向精神薬]]を服用してのケースであります。実に三百十七例中二百八十九例までがこうした向精神薬を服用した上で自殺を図られた、こういうケースだとこの水上医師の論文の表は示しているわけであります。また、この論文中では、この向精神薬を多剤併用して、相互作用等の要因が自殺を引き起こした可能性が高いということが指摘をされています。<br/> |
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ことし六月、厚生労働省で、向精神薬の処方に関する注意喚起をしておられますけれども、精神科医療の現場では、こうした形で複数の向精神薬を医師向け添付文書の適量を超えて大量に処方する、いわゆる多剤大量処方がまかり通ってしまっている現状がある。諸外国では、今や単剤処方が主流で、日本のように、多剤大量処方が精神科において広く行われることは異常とも言われております。|[[柿沢未途]] - {{Cite conference|title=衆議院厚生労働委員会 |conference=第175回国会|volume=1|date=2010-08-03|url=http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/175/0097/main.html }} |
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2010年9月9日には、厚生労働省自殺・うつ病等対策プロジェクトチームが「過量服薬への取組」を公表し、以下の取り組み指針が提言された{{sfn|厚生労働省自殺・うつ病等対策プロジェクトチーム|2010|pp=10-12}}。 |
2010年9月9日には、厚生労働省自殺・うつ病等対策プロジェクトチームが「過量服薬への取組」を公表し、以下の取り組み指針が提言された{{sfn|厚生労働省自殺・うつ病等対策プロジェクトチーム|2010|pp=10-12}}。 |
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日本精神神経学会の第107回学術総会シンポジウムでは、「向精神薬の過量服薬、自殺企図を巡る諸課題」という議題で現状について語られた{{sfn|齊尾武郎|2012}}。 |
日本精神神経学会の第107回学術総会シンポジウムでは、「向精神薬の過量服薬、自殺企図を巡る諸課題」という議題で現状について語られた{{sfn|齊尾武郎|2012}}。 |
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2014年には厚労省より「かかりつけ医のための |
2014年には厚労省より「かかりつけ医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン」が公表され、認知症への向精神薬投与は最小限とするよう勧告された<ref name="mhlw-bpsd" />。 |
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=== 政府による規制 === |
=== 政府による規制 === |
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2011年、厚生労働省は「自殺・うつ病等対策プロジェクトチーム:過量服薬対策ワーキングチーム」の調査を受け{{Sfn|厚生労働省自殺・うつ病等対策プロジェクトチーム|2010}}、3剤以上の処方についての必要性を適正化する取り組みを始めた<ref name="対応20111101"/>。 |
2011年、厚生労働省は「自殺・うつ病等対策プロジェクトチーム:過量服薬対策ワーキングチーム」の調査を受け{{Sfn|厚生労働省自殺・うつ病等対策プロジェクトチーム|2010}}、3剤以上の処方についての必要性を適正化する取り組みを始めた<ref name="対応20111101"/>。 |
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2012年3月、厚生労働省は[[自立支援医療(精神通院医療)|自立支援医療費]]支給認定実施要綱の第4項を改正し、地方自治体は[[自立支援医療(精神通院医療)|自立支援医療]]行政に関し、以下の管理が求められるようになった<ref>厚生労働省 社会援護局障害保健福祉部長「[http://www.pref.yamaguchi.lg.jp/cms/a14100/syougaisyasesaku/iryou/apd1_1_2012020413111942.pdf 自立支援医療費の支給認定について」の一部改正について(障発0322第1号)]」 2012年3月22日</ref>。 |
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* 支給認定時に診断書を確認し、同一種類の向精神薬が3種類以上処方されているか確認する。 |
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* その際に、3種類以上処方されている場合は、指定自立支援医療機関から理由を求める。 |
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* 支給認定時の確認にて該当した者は、その後の支給期間中も診療録等で治療状況を把握する。 |
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2014年度の[[中央社会保険医療協議会]][[診療報酬]]改定では、多剤処方を行った場合には「精神科継続外来支援・指導料」をゼロ算定、および処方料・処方箋料・薬剤料をマイナス算定する方針が答申された<ref name="chuui140212">{{Cite report|date=2014-02-12 |publisher=[[中央社会保険医療協議会]] |title=第272回総会 - 答申 総-1 |url=http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/0000037024.html |pages=113-114 |quote=適切な向精神薬使用の推進「抗不安薬・睡眠薬、抗うつ薬、抗精神病薬の適切な投薬を推進する観点から、精神科継続外来支援・指導料、処方料、処方せん料及び薬剤料について、多剤処方した場合の減算規定を新設する。 」}}</ref>。しかしこれに[[日本精神神経学会]]は反対声明を出すという経緯があり<ref>{{Cite press|date=2014-01-18 |title=向精神薬の多剤併用処方による「通院・在宅精神療法等」の減算(案)に あらためて反対し、撤回を要求する |publisher=[[日本精神神経学会]] |url=https://www.jspn.or.jp/activity/opinion/2014/20140118_medical_fee_revision_statement.pdf }}</ref>、いくつかの条件を満たす場合では減額されない例外が設けられた<ref name="mhlw-tazai">{{Cite web|title=向精神薬多剤投与に関する届出及び状況報告について|date=2014-07-24 |accessdate=2014-07-24 |publisher=厚生労働省 近畿厚生局 |url=http://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kinki/iryo_shido/26kaitei-kouseishinyaku.html }}</ref>。また1回の処方において、抗不安薬・睡眠薬を3種類以上、抗うつ薬・抗精神病薬を4種類以上投与している医療機関は、厚労省への状況報告が必要となった<ref name="mhlw-tazai" />。 |
2014年度の[[中央社会保険医療協議会]][[診療報酬]]改定では、多剤処方を行った場合には「精神科継続外来支援・指導料」をゼロ算定、および処方料・処方箋料・薬剤料をマイナス算定する方針が答申された<ref name="chuui140212">{{Cite report|date=2014-02-12 |publisher=[[中央社会保険医療協議会]] |title=第272回総会 - 答申 総-1 |url=http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/0000037024.html |pages=113-114 |quote=適切な向精神薬使用の推進「抗不安薬・睡眠薬、抗うつ薬、抗精神病薬の適切な投薬を推進する観点から、精神科継続外来支援・指導料、処方料、処方せん料及び薬剤料について、多剤処方した場合の減算規定を新設する。 」}}</ref>。しかしこれに[[日本精神神経学会]]は反対声明を出すという経緯があり<ref>{{Cite press|date=2014-01-18 |title=向精神薬の多剤併用処方による「通院・在宅精神療法等」の減算(案)に あらためて反対し、撤回を要求する |publisher=[[日本精神神経学会]] |url=https://www.jspn.or.jp/activity/opinion/2014/20140118_medical_fee_revision_statement.pdf }}</ref>、いくつかの条件を満たす場合では減額されない例外が設けられた<ref name="mhlw-tazai">{{Cite web|title=向精神薬多剤投与に関する届出及び状況報告について|date=2014-07-24 |accessdate=2014-07-24 |publisher=厚生労働省 近畿厚生局 |url=http://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kinki/iryo_shido/26kaitei-kouseishinyaku.html }}</ref>。また1回の処方において、抗不安薬・睡眠薬を3種類以上、抗うつ薬・抗精神病薬を4種類以上投与している医療機関は、厚労省への状況報告が必要となった<ref name="mhlw-tazai" />。 |
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欧米では精神病院の病床数が減少し患者の「[[脱施設化]]」が進んでいったのは{{Sfn|OECD|2014|pp=15-16}}、議論はあるが、一般的に向精神薬の登場によってであると言われている<ref name="pde5th">{{Cite book |和書|author=デイヴィッド・ヒーリー|translator=田島治、江口重幸監訳、冬樹純子訳|date=2009-07|title=ヒーリー精神科治療薬ガイド|edition=第5版|publisher=みすず書房|pages=437-438|isbn=978-4-622-07474-8}}、Psychiatric drugs explained: 5th Edition</ref><ref>{{Cite book |和書|author=エリオット・S・ヴァレンスタイン|translator=功刀浩監訳、中塚公子訳|date=2008-02|title=精神疾患は脳の病気か?|publisher=みすず書房|pages=222-225|isbn=978-4-622-07361-1|ref=harv}}、Blaming the Brain, 1998</ref>。 |
欧米では精神病院の病床数が減少し患者の「[[脱施設化]]」が進んでいったのは{{Sfn|OECD|2014|pp=15-16}}、議論はあるが、一般的に向精神薬の登場によってであると言われている<ref name="pde5th">{{Cite book |和書|author=デイヴィッド・ヒーリー|translator=田島治、江口重幸監訳、冬樹純子訳|date=2009-07|title=ヒーリー精神科治療薬ガイド|edition=第5版|publisher=みすず書房|pages=437-438|isbn=978-4-622-07474-8}}、Psychiatric drugs explained: 5th Edition</ref><ref>{{Cite book |和書|author=エリオット・S・ヴァレンスタイン|translator=功刀浩監訳、中塚公子訳|date=2008-02|title=精神疾患は脳の病気か?|publisher=みすず書房|pages=222-225|isbn=978-4-622-07361-1|ref=harv}}、Blaming the Brain, 1998</ref>。 |
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⚫ | 精神科の薬は一般的に完治させる薬ではない。[[アメリカ国立精神衛生研究所]] (NIMH) の[[トーマス・インセル]]は「不運なことに、現在の薬は快方に向かう人があまりに少なく、治る人はほとんどいない<ref name="pmid19339761">{{cite journal |author=Insel TR |authorlink=トーマス・インセル |title=Disruptive insights in psychiatry: transforming a clinical discipline |journal=J. Clin. Invest. |volume=119 |issue=4 |pages=700–5 |year=2009 |month=April |pmid=19339761 |pmc=2662575 |doi=10.1172/JCI38832 |url=http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2662575/}}</ref>」と述べている。このように、薬が症状改善に寄与する利益が少ない。 |
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対照的に、日本では1955年に44,250床、1960年には95,667床、1970年には170,000床、2000年には358,153床と増大していった{{sfn|風祭元|2008|pp=20,27}}。さらに精神病院にて、入院日数が長く、薬を使うほど、収入が増える社会保険のシステムにより、多剤化、大量化、高力価化が促されていった{{sfn|風祭元|2008|pp=121-132}}。効果が不十分な患者に多量に薬を使うことが常態化していき、減量が簡単ではなく減薬の方略もないので半永久的な投薬が行われるようになった{{sfn|風祭元|2008|pp=121-132}}。最たるものは、急速大量抗精神病薬飽和療法 (Rapid Neuroleptization) という抗精神病薬を大量に投与する治療法であるが、1980年頃には有効性が否定されており{{sfn|風祭元|2008|pp=121-132}}、NICEでは禁止勧告を出している{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2009b|loc=1.2.4.7}}。 |
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危険性を考慮する必要がある薬である。英国精神薬理学会 (British Association for Psychopharmacology) の指導者は、危険性と利益についての理解に基づき、安全かつ有効に向精神薬を使用するために、過剰投与と多剤投与、不十分なモニタなどに改善の余地があり、これは課題であるという趣旨を述べている<ref name="pmid22187725">{{cite journal|last1=Nutt|first1=D. J.|authorlink1=デビッド・ナット|last2=Harrison|first2=P. J.|last3=Baldwin|first3=D. S.|last4=Barnes|first4=T. R. E.|last5=Burns|first5=T.|last6=Ebmeier|first6=K. P.|last7=Ferrier|first7=I. N.|title=No psychiatry without psychopharmacology|journal=The British Journal of Psychiatry|volume=199|issue=4|pages=263–265|year=2011|month=October|pmid=22187725|doi=10.1192/bjp.bp.111.094334|url=http://bjp.rcpsych.org/content/199/4/263.full}}</ref>。 |
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おおよそ薬剤の各種類において、自殺の危険性を高めるかどうかについての議論がある。抗不安薬や睡眠薬に用いられるベンゾジアゼピン系の薬剤が自殺の危険性を高めることが報告されており{{sfn|WHO Programme on Substance Abuse|1996|p=17}}<ref name="pmid19269892">{{cite journal|last1=Mallon|first1=Lena|last2=Broman|first2=Jan-Erik|last3=Hetta|first3=Jerker|title=Is usage of hypnotics associated with mortality?|journal=Sleep Medicine|volume=10|issue=3|pages=279–286|year=2009|month=March|pmid=19269892|doi=10.1016/j.sleep.2008.12.004}}</ref>、自殺の危険性のある抗うつ薬の[[賦活症候群]]や抗精神病薬による自殺関連行動が生じる懸念については、日本の添付文書に記載されている。気分安定薬として用いられる抗てんかん薬のアメリカでの承認試験からは自殺および自殺企図の危険性を増加させることが見出され添付文書に記載されている<ref>{{Cite web |url=http://www.fda.gov/Drugs/DrugSafety/PostmarketDrugSafetyInformationforPatientsandProviders/ucm100192.htm |title=Information for Healthcare Professionals: Suicidal Behavior and Ideation and Antiepileptic Drugs |publisher=U.S. Food and Drug Administration (FDA) |date=2008-01-31 |accessdate=2013-01-15}}</ref><ref>{{Cite web |url=http://www.fda.gov/Drugs/DrugSafety/PostmarketDrugSafetyInformationforPatientsandProviders/ucm100190.htm |title=Suicidal Behavior and Ideation and Antiepileptic Drugs |publisher=U.S. Food and Drug Administration (FDA) |date=2009-05-05 |accessdate=2013-01-15}}</ref>。 |
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多剤大量で用いられた後に減量が簡単ではないというのは、各薬剤に離脱症状があり、[[抗精神病薬#離脱症状|抗精神病薬の離脱症状]]、[[抗うつ薬#離脱症状|抗うつ薬の離脱症状]]、覚醒剤の離脱症状、気分安定薬の離脱症状、[[抗不安薬#離脱症状|抗不安薬の離脱症状]]、[[睡眠薬#離脱症状|睡眠薬の離脱症状]]、副作用や離脱症状と疾患との区別が困難な症状もある。また各薬剤間で作用を増減させる相互関係があり、増減した薬剤以外の薬剤による副作用の増強、あるいは離脱症状、もしくは元の疾患の再発が生じる可能性がある{{sfn|Neil B. Sandson|2010}}。副作用や離脱症状が疾患と誤診される可能性もあり{{sfn|Neil B. Sandson|2010}}{{sfn|笠陽一郎|pp=4,202}}、そうしてさらに薬が追加されることになる{{sfn|笠陽一郎|2008|p=4}}。 |
多剤大量で用いられた後に減量が簡単ではないというのは、各薬剤に離脱症状があり、[[抗精神病薬#離脱症状|抗精神病薬の離脱症状]]、[[抗うつ薬#離脱症状|抗うつ薬の離脱症状]]、覚醒剤の離脱症状、気分安定薬の離脱症状、[[抗不安薬#離脱症状|抗不安薬の離脱症状]]、[[睡眠薬#離脱症状|睡眠薬の離脱症状]]、副作用や離脱症状と疾患との区別が困難な症状もある。また各薬剤間で作用を増減させる相互関係があり、増減した薬剤以外の薬剤による副作用の増強、あるいは離脱症状、もしくは元の疾患の再発が生じる可能性がある{{sfn|Neil B. Sandson|2010}}。副作用や離脱症状が疾患と誤診される可能性もあり{{sfn|Neil B. Sandson|2010}}{{sfn|笠陽一郎|pp=4,202}}、そうしてさらに薬が追加されることになる{{sfn|笠陽一郎|2008|p=4}}。 |
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乱用薬物に分類される薬物の中でも、離脱に入院を要し致命的となる可能性があるものは、ベンゾジアゼピン系やバルビツール酸系の鎮静催眠薬およびアルコールのみである<ref name="apa1-58562-276-4">{{cite book |last1=Galanter |first1=Marc |last2=Kleber |first2=Herbert D |title=The American Psychiatric Publishing Textbook of Substance Abuse Treatment |url= http://books.google.com/?id=6wdJgejlQzYC&pg=PA58 |edition=4th |date=1 July 2008 |publisher=American Psychiatric Publishing Inc |location=United States of America |isbn=978-1-58562-276-4 |page=58}}</ref>。これらの薬物からの離脱の際には、入院デトックスを要するような危険な発作や[[振戦せん妄]](DT)の兆候である頻脈、発汗、手の震えや不安の増加、精神運動性激越、吐き気や嘔吐、一過性の知覚障害の評価が必要である。一度症状が出てしまうと、薬物療法が効かなくなることも多く、発症機序も不明なため、はじめから離脱症状の管理が必要である<ref>{{Cite book|和書|author=中根潤|chapter=アルコール離脱症候群|title=アルコール医療入門|publisher=新興医学出版社|date=2000-12|isbn=978-4880022833|pages=22-25}}</ref>。 |
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医薬品を認可する臨床試験は多剤で行っているわけではなく、また短期間である。 |
医薬品を認可する臨床試験は多剤で行っているわけではなく、また短期間である。 |
2014年12月31日 (水) 01:39時点における版
この記事は中立的な観点に基づく疑問が提出されているか、議論中です。 (2014年12月) |
多剤大量処方(たざいたいりょうしょほう)とは、同じような薬効の薬が複数処方され、かつ、その量も多い処方のことである。多剤併用大量処方(たざいへいようたいりょうしょほう)とも言う。つまるところ、薬漬けである。複数の薬剤の使用を英語でPolypharmacyと言う。
原因は薬を多く投与したほうが効果が高くなるであろうという思い込みである[6]。そのため、薬理学的な考慮のない、危険性を無視した投薬となる。
精神科医療において指摘されるその原因は、精神科医による薬理学の知識不足である[7][8][4]。そのため、完治させる薬ではないのに同じような薬を何種類も処方することになる[9]。それぞれが限度用量まで出されれば過量服薬になっていることが理解されていないということである[7]。精神科の薬の種類は、主に抗精神病薬、抗うつ薬、気分安定薬、覚醒剤、抗不安薬/睡眠薬(この二種類は、共にGABA受容体に作用するものが多い)であるが、こうした向精神薬の種類ごとに複数処方すれば多剤かつ大量となる。厚生労働省によれば、日本では諸外国より多剤投与が多く、これが過量服薬の背景になっていることが指摘されている[10]。個別の記事や論文では、時に致死的なほど大量に処方される薬の毒性についての言及がなされる。危険性のある薬でも、用量順守や血液検査のような適切な安全管理がなされていないため注意喚起がなされている[11][12]。過量服薬を自殺企図の手段とすることへの注意喚起もなされている[13]。
日本では、入院日数が長くなるほど、薬を使うほどに収入が増える社会保険のシステムにより(過剰診療、社会的入院)、多剤化、大量化、高価格化が促され、効果が不十分な患者に多量に薬を使うことが常態化していき、減量が簡単ではなく減薬の方略もないので半永久的な投薬の実態があった[9]。
1971年の向精神薬に関する条約において、濫用されてはならない薬物が指定されており、覚醒剤については付表(スケジュール)II、抗不安薬や睡眠薬に多いバルビツール酸系やベンゾジアゼピン系は付表IIIおよびIVに指定されている[14]。国際条約に批准する日本でこれに該当する法律は、麻薬及び向精神薬取締法であり、条約の付表Iは法律上の麻薬、付表IIが第一種向精神薬、付表IIIは第二種向精神薬、付表IVは第三種向精神薬に該当する。2010年に国際麻薬統制委員会 (INCB) は、日本でのベンゾジアゼピン系の消費量の多さの原因に、医師による不適切な処方があると指摘している[15]。
日本における動向
たび重なる注意喚起
2004年の日本精神神経学会では、抗精神病薬の単剤が望ましいにもかかわらず、多剤大量処方が改善されない現状について、言及がなされた[16]。2008年には、過量服薬の危険性に特に配慮が必要である境界性人格障害に対するガイドラインが公開され、多剤の有効性を支持する強い証拠がないため、単剤が推奨され、長期漫然とした処方の有効性も示されていないという内容である[17]。2009年10月30日には、日本うつ病学会が「SSRI/SNRIを中心とした抗うつ薬適正使用に関する提言」において、大量処方を避けるという一般的な注意点を喚起している[18]。
2010年1月に、厚生労働省自殺・うつ病等対策プロジェクトチーム (2010, p. 1)が発足した。6月24日には、厚生労働省から、各都道府県の精神保健福祉主管部局長および、日本医師会、日本精神科病院協会、日本精神神経科診療所協会、日本自治体病院協議会、日本総合病院精神医学会、精神医学講座担当者会議、国立精神医療施設長協議会、日本精神神経学会の会長あてに、「向精神薬等の過量服薬を背景とする自殺について」という題で、自殺傾向のある患者に対して、向精神薬等の適切な処方に配慮する旨を通達している[19]。
2010年9月9日には、厚生労働省自殺・うつ病等対策プロジェクトチームが「過量服薬への取組」を公表し、以下の取り組み指針が提言された[20]。
- ゲートキーパー役として薬剤師の活用 [20][21]
- 診療ガイドラインの作成・普及啓発の推進(厚生労働科学研究事業を活用) [20]
- 厚労省内の研修事業に過量服薬関連を追加 [20]
- 一般診療科医療と精神科医療との連携の強化 [20]
- チーム医療で患者と良好な関係を築く [20]
12月1日には、日本うつ病学会、日本臨床精神神経薬理学会、日本生物学的精神医学会、日本総合病院精神医学会の4学会が合同で、「向精神薬の適正使用と過量服用防止のお願い」を公表し、向精神薬を処方する医師に対して、過量服薬の背景にある不適切な多剤大量処方に注意喚起を促している[22]。
2011年3月には、処方実態に関する調査書が作成され[23]、11月に厚生労働省から公表された[24]。この取り組みはゲートキーパー役が期待される日本薬剤師会、日本病院薬剤師会にも共有された[25][21][26]。
『臨床精神薬理』誌において、2011年12月号では、精神科治療薬と自殺関連事象に関する特集「薬物と自殺関連事象、そしてその予防」を、『精神科治療学』誌の2012年1月号と2月号では「精神科医の多剤併用・大量処方を考える」という特集を組んだ。(#参考文献に抄録へのリンクあり)
日本精神神経学会の第107回学術総会シンポジウムでは、「向精神薬の過量服薬、自殺企図を巡る諸課題」という議題で現状について語られた[27]。
2014年には厚労省より「かかりつけ医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン」が公表され、認知症への向精神薬投与は最小限とするよう勧告された[28]。
政府による規制
2011年、厚生労働省は「自殺・うつ病等対策プロジェクトチーム:過量服薬対策ワーキングチーム」の調査を受け[13]、3剤以上の処方についての必要性を適正化する取り組みを始めた[24]。
2014年度の中央社会保険医療協議会診療報酬改定では、多剤処方を行った場合には「精神科継続外来支援・指導料」をゼロ算定、および処方料・処方箋料・薬剤料をマイナス算定する方針が答申された[29]。しかしこれに日本精神神経学会は反対声明を出すという経緯があり[30]、いくつかの条件を満たす場合では減額されない例外が設けられた[31]。また1回の処方において、抗不安薬・睡眠薬を3種類以上、抗うつ薬・抗精神病薬を4種類以上投与している医療機関は、厚労省への状況報告が必要となった[31]。
向精神薬多剤投与により減額されない例外(厚労省通達)
- (イ) 他の医療機関で既に向精神薬多剤投与されていた場合、初診から6か月間まで
- (ロ) 現在投与されている向精神薬を切り替える場合、最大3か月の移行期間(年に2回まで)
- (ハ) 臨時に投与した場合。連続投与期間は2週間以内または14回以内。1回投与量については1日量の上限を超えないこと。投与中止期間が1週間以内の場合は連続する投与とみなす。
- (ニ) 抗うつ薬又は抗精神病薬に限り、精神科の診療に係る経験を十分に有する医師として別紙様式39を用いて地方厚生(支)局長に届け出たものが、患者の病状等によりやむを得ず投与を行う必要があると認めた場合
- 臨床経験を5年以上有する医師であること。
- 適切な保険医療機関において3年以上の精神科の診療経験を有する医師であること。
- 精神疾患に関する専門的な知識と、ICD-10の「3」の「(1) 疾病,傷害及び死因の統計分類基本分類表」に規定する分類をいう)において F0 から F9 の全てについて主治医として治療した経験を有すること。
- 精神科薬物療法に関する適切な研修を修了していること。
— "平成26年3月5日付け保医発0305第3号「診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について" (PDF) (Press release). 厚生労働省 近畿厚生局. 5 March 2014.
処方率
外来 | 入院 | |
---|---|---|
1種類 | 38.70% | 43.50% |
2種類 | 18.90% | 23.00% |
3種類 | 21.90% | 11.70% |
4種類 | 5.70% | 5.90% |
5種類以上 | 8.20% | 6.10% |
無回答 | 15.60% | 9.80% |
3剤以上割合は外来26.8%、入院23.7% |
1979年と1989年の調査では、統合失調症の患者に対して、抗精神病薬1剤が約22%、2~3剤が60%前後、4剤以上というのは10%を下回っている[32]。しかしながら、90年代には1剤が11.1%、2~3剤が63.5%、4剤以上は12.8%と増加傾向にあった[32]。
2010年のPCP研究会会員を対象とした調査では、統合失調症の患者に対して、単剤処方率35.2%、多剤併用率64.8%、大量処方率30.7%であった[33]。かつ統合失調症の患者に対して、抗パーキンソン薬58.6%、抗不安薬/睡眠薬77.5%、気分安定薬34.1%が処方されている[33]。
気分障害症例では、抗うつ薬のほかに、76%が複数の睡眠薬、50%が複数の抗不安薬を処方されている[32]。
東アジアの共同研究である「抗精神病薬の処方についての国際比較研究」[34]では抗精神病薬の一日投与量の平均値をクロルプロマジン換算で比較している。これによると中国が402.7mg、台湾が472.1mg、韓国が763.4mg、日本は実に1003.8mgと飛びぬけて大量療法になっている。同時にこの研究では多剤併用の最大値が中国5剤、台湾7剤、韓国7剤、日本は15剤と突出している。
日本の30万件の診療データからの解析がある[35]。 2009年時点で、精神科に限定されないが以下である。
- 抗精神病薬:1剤70.0%、2剤21.5%、3剤以上8.5%
- 抗うつ薬:1剤65.3%、2剤25.8%、3剤7.2%、4剤以上1.7%
- 抗不安薬:1剤83.6%、2剤14.5%、3剤以上1.9%
- 睡眠薬:1剤72.7%、2剤21.2%、3剤以上6.1%
埼玉県薬剤師会との共同研究によれば、複数レセプト間での重複処方が最も多いのは内科と整形外科の組み合わせであり、重複頻度の高い薬剤はエチゾラム、該当者の平均年齢は約70歳であった[36]。その原因について研究者はエチゾラムが向精神薬として規制を受けていないことを挙げており、規制対象とすべきだと述べている[36]。
多剤大量処方の実態と原因
実際には以下のようなものである[40][41][42][43][44][9]。薬を増やせば効果が増すという思い込みから、どんどん薬を増やしていくことに原因がある。そのため有効な効果の量やどの程度の量で効果がどう変わるかといった用量依存性や毒性や副作用といった、薬に関する基本的な知識の考慮がなく、多剤で症状が改善するという証拠も存在しないため不適切な処方となる。抗うつ薬を2種類、抗精神病薬を2種類、抗不安薬2種類に、睡眠薬を2種類、1日に30~40錠、またはそれ以上というような組み合わせにより、深刻な副作用が見られる場合が多いという、不適切な処方となる。
欧米では精神病院の病床数が減少し患者の「脱施設化」が進んでいったのは[45]、議論はあるが、一般的に向精神薬の登場によってであると言われている[46][47]。
精神科の薬は一般的に完治させる薬ではない。アメリカ国立精神衛生研究所 (NIMH) のトーマス・インセルは「不運なことに、現在の薬は快方に向かう人があまりに少なく、治る人はほとんどいない[48]」と述べている。このように、薬が症状改善に寄与する利益が少ない。
危険性を考慮する必要がある薬である。英国精神薬理学会 (British Association for Psychopharmacology) の指導者は、危険性と利益についての理解に基づき、安全かつ有効に向精神薬を使用するために、過剰投与と多剤投与、不十分なモニタなどに改善の余地があり、これは課題であるという趣旨を述べている[49]。
おおよそ薬剤の各種類において、自殺の危険性を高めるかどうかについての議論がある。抗不安薬や睡眠薬に用いられるベンゾジアゼピン系の薬剤が自殺の危険性を高めることが報告されており[50][51]、自殺の危険性のある抗うつ薬の賦活症候群や抗精神病薬による自殺関連行動が生じる懸念については、日本の添付文書に記載されている。気分安定薬として用いられる抗てんかん薬のアメリカでの承認試験からは自殺および自殺企図の危険性を増加させることが見出され添付文書に記載されている[52][53]。
多剤大量で用いられた後に減量が簡単ではないというのは、各薬剤に離脱症状があり、抗精神病薬の離脱症状、抗うつ薬の離脱症状、覚醒剤の離脱症状、気分安定薬の離脱症状、抗不安薬の離脱症状、睡眠薬の離脱症状、副作用や離脱症状と疾患との区別が困難な症状もある。また各薬剤間で作用を増減させる相互関係があり、増減した薬剤以外の薬剤による副作用の増強、あるいは離脱症状、もしくは元の疾患の再発が生じる可能性がある[54]。副作用や離脱症状が疾患と誤診される可能性もあり[54][55]、そうしてさらに薬が追加されることになる[56]。
乱用薬物に分類される薬物の中でも、離脱に入院を要し致命的となる可能性があるものは、ベンゾジアゼピン系やバルビツール酸系の鎮静催眠薬およびアルコールのみである[57]。これらの薬物からの離脱の際には、入院デトックスを要するような危険な発作や振戦せん妄(DT)の兆候である頻脈、発汗、手の震えや不安の増加、精神運動性激越、吐き気や嘔吐、一過性の知覚障害の評価が必要である。一度症状が出てしまうと、薬物療法が効かなくなることも多く、発症機序も不明なため、はじめから離脱症状の管理が必要である[58]。
医薬品を認可する臨床試験は多剤で行っているわけではなく、また短期間である。
日本の不審死の検死解剖からは、睡眠薬と抗精神病薬と抗てんかん薬の検出が多く、詳細はベゲタミンに共に含まれるバルビツール酸系のフェノバルビタールと抗精神病薬のクロルプロマジン、次いで、バルビツール酸系のペントバルビタール、非ベンゾジアゼピン系のゾルピデム、抗てんかん薬のカルバマゼピンや、バルプロ酸ナトリウム[59]であった。
日本では過去に、軽症のうつ病を説明する「心の風邪」というキャッチコピーが抗うつ薬のマーケティングに用いられた[60]。
ガイドラインや証拠
アメリカ精神医学会(APA)は、アメリカ内科医学委員会財団(ABIM財団)が主導する過剰診療防止Choosing Wiselyキャンペーンにおいて、精神医療において避けるべき加療トップ5を公表しており、「適切な初期評価および経過観察が行われていない患者に対し、抗精神病薬を処方してはならない」「二種類以上の抗精神病薬を継続的に投与してはならない」「認知症による行動・心理症状の治療に際し、抗精神病薬を第一選択肢とすべきではない」「成人の不眠症に対し、抗精神病薬を継続的にファーストライン治療としてはならない」「精神障害でないのならば、児童と青年に対して抗精神病薬を継続的にファーストライン治療としてはならない」と勧告している[61]。
英国国立医療技術評価機構 (NICE) は、抗うつ薬に関して、2009年のうつ病に対するガイドラインで、危険性/利益の比率が悪いため、軽症以下のうつ病に抗うつ薬を使用してはならないとしている[62]。ベンゾジアゼピン系薬は2週間までである[63]。日本うつ病学会による2012年のうつ病に対するガイドラインでは、軽症のうつ病に対して安易な薬物療法は避け、また1種類の抗うつ薬の使用を基本とすることが推奨されている[64]。
日本うつ病学会による、2012年の双極性障害に対するガイドラインでは、基本的には、気分安定薬か非定型抗精神病薬による単剤治療か1剤づつの組み合わせが推奨されている[65]。
NICEの統合失調症に対する2009年のガイドラインでは、抗精神病薬の多剤処方は薬剤切替時などの例外的短期間を除いて行なわないよう勧告している[66]。
NICEの境界性人格障害に対する2009年のガイドラインは、自傷行為、情緒不安定、一時的な精神病的症状に薬物療法を用いるべきではなく、処方するとしても1週間以上は推奨できず、乱用の可能性が最小で、過量服薬時に相対的に安全な薬を選択するとしている[67]。
厚生労働科学研究事業による2008年のガイドラインでは[20]、過量服薬の危険性があるため研究報告の数が限られており、また有効性が示される医薬品も一時的かつ部分的な効果であり、有効性が示されないベンゾジアゼピン系の薬剤の使用を避け処方するとしても数日から2週間程度とし、全体的にも抗うつ薬と抗精神病薬といった組み合わせは支持できず単剤療法を中心とすることが推奨される[17]。
NICEの不安障害に対する2011年のガイドラインでは、全般性不安障害 (GAD) やパニック障害にはベンゾジアゼピン系の抗不安薬や不安を鎮める目的で抗精神病薬は用いられない。これらの疾患に長期的な有効性の根拠があるのは抗うつ薬のみである[68]。
NICEの不眠症に対する2004年のガイドラインでは、ベンゾジアゼピン系/非ベンゾジアゼピン系の睡眠薬の使用は、短期間の推奨である[69]。2013年の日本睡眠学会によるガイドラインでは、危険性の高いバルビツール酸系や多剤併用や漫然とした長期処方は避けることが推奨されている[70]。国立精神・神経医療研究センターの睡眠薬適正使用ガイドラインでは、常用量の睡眠薬で効果が不十分の場合、多剤処方が有効であるというエビデンスは存在せず、多剤処方はできるだけ避けるべきとしている[71]
世界保健機関 (WHO) は、1996年の「ベンゾジアゼピン系の合理的な利用」という報告書において、ベンゾジアゼピン系の利用を30日までの短期間にすべきとしている[72]。2010年に国際麻薬統制委員会 (INCB) は、日本でのベンゾジアゼピン系の消費量の多さの原因に、医師による不適切な処方があると指摘している[15]。
アメリカ合衆国では、アメリカ食品医薬品局 (FDA) によるベンゾジアゼピン系/非ベンゾジアゼピン系の睡眠薬の添付文書には、7~10日の短期間の使用に用いる旨が記載されている[73]。
厚生労働省の認知症BPSDに対してのガイドラインにおいては、BPSDへの第一選択は原則非薬物介入であり、BPSDへの抗精神病薬投与は適応外処方である[28]。基本的に使用を勧めず、処方時には患者および保護者に承諾を取るべきである[28]。身体拘束を意図した投薬や、多剤処方はすべきではない[28]。
現在、精神症状における多剤大量処方によって、脳に萎縮が起こるとされる研究論文がイギリスから発表された[74]。
脚注
- ^ a b 大野裕、聞き手・岡崎明子 (2010年7月27日). “経験則の診療が主流のまま”. 朝日新聞: p. 13面
- ^ 平島奈津子、上島国利、岡島由香 2008, p. 143.
- ^ 井原裕「双極性障害と疾患喧伝(diseasemongering)」(pdf)『精神神経学雑誌』第113巻第12号、2011年、1218-1225頁。
- ^ a b 加藤隆一監修、鈴木映二『向精神薬の薬物動態学 -基礎から臨床まで』星和書店、2013年、表紙帯頁。ISBN 978-4791108374。 出版社による書籍の概要ページに薬物動態学を苦手とする精神科医が多いという旨が書かれている。
- ^ 江刺正嘉 (2010年6月29日). “向精神薬:過量服薬対策、厚労相が表明 省内にPT”. 毎日新聞: p. 東京朝刊1面
- ^ 鈴木厚『日本の医療を問いなおす』筑摩書房、1998年10月、117頁。ISBN 978-4480057754。
- ^ a b 姫井昭男 2008, pp. 106–110.
- ^ 笠陽一郎 2008, pp. 4, 202.
- ^ a b c 風祭元 2008, pp. 121–132.
- ^ 厚生労働省自殺・うつ病等対策プロジェクトチーム 2010, p. 2.
- ^ ラミクタール錠(ラモトリギン)の重篤皮膚障害と用法・用量 遵守、早期発見について (PMDAからの医薬品適正使用のお願いNo6) (pdf) (Report). 医薬品医療機器総合機構. 2012-01. 2013-01-01閲覧。
{{cite report}}
:|date=
の日付が不正です。 (説明) - ^ 炭酸リチウム投与中の血中濃度測定遵守について (PMDAからの医薬品適正使用のお願いNo7) (pdf) (Report). 医薬品医療機器総合機構. 2012-09. 2013-01-01閲覧。
{{cite report}}
:|date=
の日付が不正です。 (説明) - ^ a b 厚生労働省自殺・うつ病等対策プロジェクトチーム 2010.
- ^ 向精神薬に関する条約
- ^ a b Special Report: Availability of Internationally Controlled Drugs: Ensuring Adequate Access for Medical and Scientific Purposes (PDF) (Report). 国際麻薬統制委員会. 2010. p. 40.
- ^ “精神医学の到達点と展望を語る 第100回日本精神神経学会開催”. 週刊医学界新聞. (2004年6月21日) 2013年3月15日閲覧。 第2589号、医学書院
- ^ a b 平島奈津子、上島国利、岡島由香 2008, pp. 136, 142, 145, 148.
- ^ 日本うつ病学会、抗うつ薬の適正使用に関する委員会 (30 October 2009). "SSRI/SNRIを中心とした抗うつ薬適正使用に関する提言" (pdf) (Press release). 2013年3月15日閲覧。
- ^ "向精神薬等の過量服薬を背景とする自殺について 障精発0624第1号/2号" (Press release). 厚生労働省. 24 June 2010. 2013年3月15日閲覧。
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- ^ "向精神薬の処方実態に関する報告及び今後の対応の件/過量服薬対策等に関する資料の送付の件" (Press release). 日本薬剤師会. 24 November 2011. 2013年3月15日閲覧。
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{{cite report}}
:|date=
の日付が不正です。 (説明) - ^ 第272回総会 - 答申 総-1 (Report). 中央社会保険医療協議会. 12 February 2014. pp. 113–114.
適切な向精神薬使用の推進「抗不安薬・睡眠薬、抗うつ薬、抗精神病薬の適切な投薬を推進する観点から、精神科継続外来支援・指導料、処方料、処方せん料及び薬剤料について、多剤処方した場合の減算規定を新設する。 」
- ^ "向精神薬の多剤併用処方による「通院・在宅精神療法等」の減算(案)に あらためて反対し、撤回を要求する" (PDF) (Press release). 日本精神神経学会. 18 January 2014.
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参考文献
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その他文献
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- 特集:薬物と自殺関連事象、そしてその予防『臨床精神薬理』第14巻12号、2011年12月
- 特集:精神科医の多剤併用・大量処方を考えるI『精神科治療学』第27巻1号、2012年1月
- 特集:精神科医の多剤併用・大量処方を考える II『精神科治療学』第27巻2号2012年2月
- 風祭元「第10章:向精神薬の長期大量多剤併用療法と副作用」『日本近代精神科薬物療法史』アークメディア、2008年、121-132頁。ISBN 978-4-87583-121-1。、同一の内容で、風祭元「日本近代向精神薬療法史 (10) 向精神薬の長期大量多剤併用療法と副作用」『臨床精神医学』第35巻第12号、2006年12月、1683-1689頁、NAID 40015221455。
- 笠陽一郎『精神科セカンドオピニオン―正しい診断と処方を求めて』シーニュ、2008年7月。ISBN 978-4-9903014-1-5。
- 齊尾武郎「そんなに薬が必要ですか――職場でよくみる精神科多剤投与の実際――第107回日本精神神経学会学術総会シンポジウム:向精神薬の過量服薬,自殺企図を巡る諸課題」(pdf)『精神神経学雑誌』2012年、SS163-SS170。
- 中川敦夫ら『向精神薬の処方実態に関する国内外の比較研究(平成22年度総括・分担研究報告書厚生労働科学研究費補助金厚生労働科学特別研究事業)』(pdf)2011年3月 。
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は不正です。 (説明)[リンク切れ] - 姫井昭男『精神科の薬がわかる本』(1版)医学書院、2008年。ISBN 978-4-260-00763-4。
関連項目
- 日本の医療
- 無駄な医療 / 医療過誤 / 医原病 / 社会的入院
- クロルプロマジン換算
- 過量服薬
- 化学的不均衡
- 抗うつ薬 / 抗精神病薬 / 気分安定薬 / 抗不安薬 / 睡眠薬
- SSRI離脱症候群 / 賦活症候群 / セロトニン症候群
- ベンゾジアゼピン依存症 / ベンゾジアゼピン薬物乱用 / ベンゾジアゼピン離脱症候群 / ベンゾジアゼピンの長期的影響 / 長期離脱症候群
- 悪性症候群 / 横紋筋融解症
- オーバードース
外部リンク
- 向精神薬多剤投与に関する状況の報告及び届出について 厚生労働省近畿厚生局