人文科学
人文科学(じんぶんかがく、英語: cultural science〔文化科学〕[1], humanities[1], リベラルアーツ[2])は、正式には人文学(じんぶんがく、英語: humanities[3], arts[3] 中国語: 人文学科)であり、自然科学・社会科学という分類が先に確たる学問分野となったことで新たに作り出された、どちらにも属さない学問分野の総称[4]。
多数ある学問の分類法のひとつで、以下の場合に人文科学(人文学)という分類名が使われる。
- かつて主流であった学問を二分する分類法が採用されていた時代に、片方は自然科学、残りは現在社会科学に分類される学問も、「文化科学」と纏められていた[4][5][6][7][8][9][10]。しかし、18世紀から19世紀にかけて、政治学・経済学・法学などがいずれも固有の領域を確定したことで、これらは、「社会科学」と呼ばれて分けられるようになった。「人文学」を「人文科学」と「科学(science)」がつける場合もあるが、他の2つが「科学」が必ずつくから語呂合わせのためである。20世紀の半ば以降から、人文学と社会科学を区別する三区分が主流なため、現代では学問は人文科学・社会科学・自然科学と分けられる[4]。
概要
もともと humanities(ヒューマニティーズ)は、ルネサンス期に栄えた人文主義に由来し、リベラル・アーツとも重なる。 明治期以降の日本語では人文学と呼ばれていたが、人文科学はそれに新たにあたえられた訳語である。
なお、 humanities という用語は、 science という意味は含まない。本来的には人文学と呼ばれるべきであるが、「人文科学」は自然科学・社会科学と語調を合わせるために作られた言葉である。人文学とは、そもそも分析的な学問である科学であることを拒否するものであり、性質上総合的に研究される学問である。ただ、近年は学問境界が曖昧になっており、総合的な研究をするための手段として、科学的手法が用いられることも多々ある。
人文学における、研究方法は多岐にわたる。たとえば考古学や民族学や文化人類学などでは発掘調査、現地調査、フィールドワークなどが主となる。現在は話されていない言語について研究するような分野では、主に文献学的方法を採用する。
人間の研究のうちでも特に人間行動にかかわる分野を行動科学と称し、別個に学問の分類に加える場合がある。この場合、教育学、心理学、社会学、宗教学などは人文学でなく、実験・実証が可能であるために行動科学として別個に分類される。これは学問手法による分類でなく、学問の目的・対象による分類である。
なお心理学の分類については議論が多く、自然科学としての性質を持つように変化してきた歴史があり、分類が一定しない。現在では心理学のほとんどの部門で実験、観察、統計などの手法が重視される。だが、心理学内の細かい分野ごとに事情は異なり、自然科学あるいは人文学どちらに分類したほうが良いのかはっきりしないこともある。統計や実験など自然科学的手法をもちいた学問分野はすべて自然科学である、という考え方もあるわけで、人間を対象物として扱う大学の実験心理学は自然科学に分類される。だが心の問題を抱えた他者を、対話を基盤として理解し、実践的な援助を志向するカウンセリングの形態を持つ臨床心理学は、人間を必ずしも対象化しておらず、自然科学的傾向が小さい。
一般的な分野
日本の大学では、たいていは、これらの学問分野の教育・研究を主に文学部などがおこなうが、大学によっては「人文科学部」という学部を設置しているところもある[11]。
- 語学-該当教育機関が設置されている国の標準語(英語圏なら英語、ドイツ語圏ならドイツ語、フランス語圏ならフランス語、日本なら現代日本語など母語)や外国語。
- 言語学-音声学[12]
- 文学
- 論理学
- 倫理学
- 哲学- 美学
- 芸術学-音楽学
- 宗教学
- 民俗学
- 人文地理学
- 文化人類学
人文学要素がある社会科学
就職不利・縮小傾向
日本
日本では、人文学系の学部を卒業しても、就職先希望と現実がずれた場合が特に多い。実際に習った人文学知識は就職先の専門と一致しないため、何のために勉強したのかという疑問を抱く者も多かった。人文学系は同大学卒業者との比較でも自然科学系だけでなく、社会科学系学部卒業者よりも就職率や就職先レベルが低くなる就職不利が知られ、人文学系の不人気に拍車をかけた[13]。
アメリカ合衆国
アメリカでも人文系学部の就職率低下と縮小傾向がある。アメリカでは、日本よりも「大学の専攻分野」と「就職内容」の一致率が高く、工学系や自然科学系学部出身者の就職率が高くなってきているのに対して、人文科学・社会科学系の学部は就職率が悪化し、それに気付いた若者の間で人文系志望者・人文系専攻学生の減少が起きており、その結果、一部有名大学でも縮小や閉鎖が進んでいる[注 1]。
脚注
注釈
- ^ 2013年11月号の情報によると、「アメリカのハーバード大学で人文科学専攻の学生が急激に減っている。また、クーリエ・ジャポンの調査でどの学科専攻ならば大学4年間の学費と卒業後のリターンが得られるのか15位まで調査した。その1位が医学部卒業、2位がコンピュータシステム工学部卒、3位が薬学部卒。15位までをリストアップしたが、文系科学・社会科学系は13位の経済学のみである。この順位外の「就職には役に立たない」という枠外扱いがリベラルアーツ(学)だった。例えばアメリカのスタンフォード大学では、人文科学系の教員は全体の45%いるが、学生はわずか15%にまで下がっている。同国のハーバード大学でも1954年の36%から、2012年には20%まで人文科学系の学生割合が落ち込んだ。2010年には全米で人文科学系を卒業した人はわずか7%で、1966年から半減している。また、アメリカでは大学を卒業した学生の失業率は人文科学系の学生は自然科学系の2倍だった。志願者数の減少傾向から人文科学系学部の閉鎖や縮小が進んでいる。」[14]
出典
- ^ a b JST科学技術用語日英対訳辞書. “「人文科学」の英語・英語例文・英語表現 - Weblio和英辞書”. ejje.weblio.jp. Weblio英和辞書. GRASグループ株式会社. 2022年12月22日閲覧。 “cultural science; humanities”
- ^ 日本語WordNet(英和). “「人文科学」の英語・英語例文・英語表現”. ejje.weblio.jp. Weblio英和辞書. GRASグループ株式会社. 2022年12月22日閲覧。 “the humanities”
- ^ a b JMdict. “「人文学」の英語・英語例文・英語表現”. ejje.weblio.jp. Weblio和英辞書. GRASグループ株式会社. 2022年12月22日閲覧。 “humanities; arts”
- ^ a b c 岸本 美緖 編『宗教と学問』 11巻、弘文堂〈歴史学事典〉、2004年2月、382頁。ISBN 4-335-21041-8。OCLC 959681322。
- ^ 「文化科学」『日本大百科全書(ニッポニカ)』 。コトバンクより2023年1月24日閲覧。
- ^ 「文化科学」『精選版 日本国語大辞典』 。コトバンクより2023年1月24日閲覧。
- ^ 「文化科学」『ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典』 。コトバンクより2023年1月24日閲覧。
- ^ 「文化科学」『デジタル大辞泉』 。コトバンクより2023年1月24日閲覧。
- ^ 「文化科学」『世界大百科事典 第2版』 。コトバンクより2023年1月24日閲覧。
- ^ 「世界大百科事典内の文化科学の言及」『世界大百科事典 第2版』 。コトバンクより2023年1月24日閲覧。
- ^ “人文科学部”. 就実大学・就実短期大学. 学部学科の紹介. 就実大学・就実短期大学. 2023年1月25日閲覧。
- ^ 日本語教育ナビ (2022年6月30日). “【言語学】音声学と音韻論【日本語を基礎から、もう1度】”. 日本語教育ナビ. 2023年9月21日閲覧。
- ^ 人文学報第247~251号 p157,1994年
- ^ 「ハーバードの学生たちに広がる急激な文系離れの波紋」『クーリエジャポン』2013年11月号、講談社、2013年9月25日、43頁。ASIN B00F496G64。