電子ブック (規格)
電子ブック(でんしブック、Electronic Book)は、ソニーが開発した電子書籍で、8cm CD-ROMを専用キャディに収めた。
概要
[編集]通常のCD-ROMと違い、キャディのまま電子ブックプレーヤーと呼ばれる専用ハードウェアで利用する。メディアを汚したり、傷つけたりするおそれがない。電子ブックプレーヤーは乾電池または充電池で動作することが可能で、外出先に持ち出して使用することができる。携帯用電子辞書、電子書籍機器のはしりといえる。
終息
[編集]ソニーの電子ブックブレーヤー (DATA Discman) が2000年発売の「DD-S35」[1]で終了したため、電子ブックの発売も終息し、ハードウェアメーカーや版元による「電子ブックコミッティ」も活動を終了した。以降、入手可能な電子ブックは基本的に在庫のみである。
仕様
[編集]電子ブックの仕様は、大別してEB/EBG/EBXA/EBXA-C/S-EBXAがある。
- EB 1990年から1994年までに日本国内で発行された文字のみ/文字と画像を含む電子ブック
- EBG 1994年までに日本国外(欧米)で発行された文字のみ/文字と画像を含む電子ブック
- EBXA それ以降に日本国内・国外で発行された、文字のみ/文字と画像/文字と画像と音声を含む電子ブック
- EBXA-C 中国語対応の電子ブック(ソニーの電子ブックプレーヤーDD-CH10に付属する「小学館中日/日中辞典」のみ。このタイトルは文字と画像と音声を含む)
- S-EBXA 1998年に拡張された仕様(データの圧縮など)の電子ブック
源流が同じことからEPWINGと構造が類似しており、両方に対応している検索ソフトが多いが、電子ブックとEPWINGは互換性がない。ファイル名、ディレクトリ構造、ファイル構成も異なり、のちに拡張された音声と映像の形式やデータ圧縮の方式は異なる。
EBXAの音声は、当時、ソニーが推進していたCD-ROM XAトラックにADPCMで記録されている。
EBXA-Cは中国語に対応のため文字コードは特殊で、日本語のJIS X 0208と、GB 2312をベースとした独自中国語文字コードを併用している。
検索・操作
[編集]電子ブックの主要な検索方法は以下の通り。ワイルドカードや正規表現は使えない。電子ブックは一般にかなと英字のインデックスのみが記録されており、漢字を含むキーワードでの検索ができない。これは電子ブックが8cmCD-ROMに記録されるために、記録容量に制限があること、電子ブックプレーヤーには「かな漢字変換」機能がないことによる。検索のためのインデックスがなく検索できないものも多い。その場合はメニュー操作になる(例外的に、電子ブックでありながら、漢字のインデックスを備えるものもある)。
- 前方一致
- 見出し語の前方に一致する。「ぜんぽう」で検索すると、「前方」だけでなく、「前方不注意」なども見つかる。
- 後方一致
- 見出し語の後方に一致する。「ほうこう」で検索すると、「方向」だけでなく、「双方向」なども見つかる。
- 条件検索
- 見出し語ではなく、語釈中の単語を検索する。ただし、その電子ブックの制作時に切り出した単語にしかマッチしないので、実際には語釈中に存在する単語が見つからないこともある。
- 複合検索
- その電子ブック独自の検索方法。例えば漢和辞典であれば、読み・部首・画数のそれぞれを指定して検索する。
- テキストメニュー
- テキストベースのメニューで選択して閲覧する操作方法。検索ではなく選択になる。
- グラフィックメニュー
- グラフィックベースのメニューで選択して閲覧する操作方法。検索ではなく選択になる。
辞書拡張ツール「電子ブック漢字インデクサ」は、日本語電子ブックタイトルの「前方一致かなインデックス」から、漢字の「表記インデックス(前方一致と後方一致)」を作成し、漢字表記による検索ができるようにする。
電子ブックプレーヤー
[編集]この節には独自研究が含まれているおそれがあります。 |
電子ブック検索・閲覧専用ハードウェアとしての「電子ブックプレーヤー」は、ソニー、松下電器(九州松下)、三洋電機などから発売された。電子ブックの主たる推進者はソニーであり、初の電子ブックプレーヤー「データディスクマン」DD-1[2] の発売から電子ブックの歴史が始まった。途中、松下と三洋の参入はあったとはいえ、最後の電子ブックプレーヤーもソニーのDD-S35であった。
このうち、松下電器のKX-EBP2は、同時期のソニー製電子ブックプレーヤーより高速で、若干小型でもあり、さらに機構部品も丈夫なため、一部では人気があった(当時のソニー製の電子ブックプレーヤーは、機構部品の故障も少なくなかった)。
セガから家庭用ゲーム機セガサターン用ソフトウェアとして「電子ブックオペレーター HSS-0120」が発売されていた。これはゲーム機を電子ブック検索・閲覧端末(電子ブックプレーヤー)として使うソフトである。
電子ブックプレーヤーには電子ブックが付属している。ソニーの場合、最も多いものは三省堂の国語・英和・和英・外来語・類語・ことわざ、その他の辞書を1枚の電子ブックとしたもので、これは後に、ほとんど同じものが三省堂から「辞書パック10」として発売された。データが圧縮されたS-EBXAの登場以降は、広辞苑と研究社の英和・和英辞典を1枚の電子ブックとしたものとなった。松下電器は福武書店の国語・英和・和英が付属していた。
電子ブックプレーヤーは一部機種を除き、キャディの中身を入れ替えたり、専用キャディを用いることで、8cm音楽CDの再生も可能である。
FM文字多重放送に対応したラジオを内蔵した機種もあった。
電子ブックを再生できるCD-ROMドライブを内蔵したワープロ専用機も存在した。
パーソナルコンピュータで再生
[編集]ほとんど全ての電子ブックは、キャディからCD-ROMを取り出すと、パーソナルコンピュータで使用することができる。一部の電子ブックには、最初からPC用検索ソフトが付属している。もし付属していない場合でも、電子ブックの検索ソフトは市販製品だけでなく、フリーウェアも多いので用途や好みに応じて選択できる。ただし元来が専用ハードウェアを前提とした仕様のため、何らかの制限が残ることも多い。全てのファイルをディレクトリ構造を保ったままハードディスクにコピーして使用すれば、CD-ROMがなくとも使用できるようになる。
過去にはキャディからCD-ROMを取り出さずにセットできる専用ドライブ(ソニーDD-DR1、ただし検索ソフトは専用品)や、一般のコンピュータに接続しコンピュータ上の検索ソフト(専用品)から検索でき、かつ単体でも電子ブックの検索ができる電子ブックプレーヤー(ソニーDD-30DBZ)も発売されていたが、あまり普及しなかった。
出典
[編集]- ^ “ソニー DD-S35”. 2016年7月13日閲覧。
- ^ “商品のあゆみ−その他”. 2016年7月13日閲覧。