NHKによると、英語のテレビ国際放送へ人的資源や予算をシフトしたため、ラジオ国際放送はNHKの職員が1人しかいない言語チームが大半となり、外部委託が増えて外部ディレクターへのニュース制作業務の委託が広がっているという。

視聴者が多くスタッフも充実している英語放送ならともかく、中国語放送となると十分に目が届かなくなることが立証された。まして他の言語の放送となると、現場の不安定な状況は想像を超えそうだ。

これまで日本語の原稿が正確に各言語に翻訳されて発信されてきたかというと、心もとなく感じるのは筆者だけではあるまい。

コスト削減のために、外部の民間業者への委託を増やせば、さまざまな思想をもつ人材や来歴不詳の外国人が登用されるリスクが高まることは覚悟しなければならない。

1人の外国人が、いともたやすくNHK全体を仰天させた“電波テロ”は、NHKの危機管理意識の低さと構造的な体制の問題に起因しているといえそうだ。

受信料ではなく、税金が使われている

NHKの国際放送は、国の重要政策や見解などを海外に伝えるため、放送法で必須業務と定められている。同時に、総務相が指定する事項などを国際放送で行うよう「要請」できることも明記されてれいる。

このため、国際放送の番組づくりは、地上放送の総合テレビや衛星放送の番組づくりとは少し異なる。

NHKの国際番組基準は、国内番組基準とは別建てになっており、「わが国の重要な政策および国際問題に対する公的見解を正しく伝える」と規定、報道番組については「ニュースは事実を客観的に取り扱い真実を伝える」「解説・論調は、公正な批判と見解のもとに、わが国の立場を鮮明にする」と定めている。

国の要請に応じて行う放送の費用は国が負担することになっており、2024年度はラジオに9億6000万円、テレビに26億3000万円の計35億9000万円の交付金が税金から拠出されている。

受信料でまかなわれる国内向けの番組づくりとは、事情が異なるのだ。

NHK放送センター
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もっとも、編集権はNHKにあり、NHKは「報道機関として、放送の自由と番組編集の自由を最優先に、自主的な編集のもとで国際放送を行っており、総務相の『要請』に対しては、その重みを受け止めて、趣旨・内容に応じて判断して放送する」と宣言している。

しかし、かつて菅義偉総務相が拉致問題を重点的に取り上げるよう命令したように、放送の自由や番組編集の自由が脅かされる懸念は常につきまとう。