コンテンツにスキップ

「南極の気候」の版間の差分

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
削除された内容 追加された内容
テンプレート追加
S-kei (会話 | 投稿記録)
不正確な内容へ誘導する記述を排除、冗長な引用をコメントアウト。最新の状況にアップデート
49行目: 49行目:
== 南極を覆う氷 ==
== 南極を覆う氷 ==
{{main|海面上昇}}
{{main|海面上昇}}
南極大陸のほぼ全ては[[氷床]]に覆われていて、平均の厚さは少なく見積もっても約1.6km、体積はおよそ3000万立方キロメートルである。南極には全世界の氷の90%と、全世界の淡水の70%以上が存在するといわれている。もしも、南極を覆う陸上の氷が全て融解した場合、世界の[[海面]]は60m以上上昇すると予想されている<ref>[http://www.grida.no/climate/ipcc_tar/wg1/412.htm#tab113 11.2.1.2 Models of thermal expansion] IPCC Third Assessment Report WG1.</ref>。とはいえ、このようなことは今後数世紀中には、まず起こりそうもない。南極は充分に低温であるため、数度の温度上昇があったとしても概して依然、氷の[[融点]]以下である
南極大陸のほぼ全ては[[氷床]]に覆われていて、平均の厚さは少なく見積もっても約1.6km、体積はおよそ3000万立方キロメートルである。南極には全世界の氷の90%と、全世界の淡水の70%以上が存在するといわれている。もしも、南極を覆う陸上の氷が全て融解した場合、世界の[[海面]]は60m以上上昇すると予想されている<ref>[http://www.grida.no/climate/ipcc_tar/wg1/412.htm#tab113 11.2.1.2 Models of thermal expansion] IPCC Third Assessment Report WG1.</ref>。


[[地球温暖化に対する懐疑論]]の中には、[[地球温暖化]]によりむしろ南極の氷床が育ち続けるとの主張もあった{{要出典}}。しかし実際には近年、西南極氷床・東南極氷床の両方で氷床の減少が観測されている<ref>[http://dx.doi.org/10.1038/ngeo694 J. L. Chen, C. R. Wilson, D. Blankenship & B. D. Tapley. Accelerated Antarctic ice loss from satellite gravity measurements. Nature Geoscience, 2009]</ref>。このため最新の報告では、世界の海面上昇量が[[IPCC第4次評価報告書]]の記載値(最大59cm)<ref name="Table10.7">[http://www.ipcc.ch/publications_and_data/ar4/wg1/en/ch10s10-6-5.html#table-10-7 Table10.7, Figure 10.33]</ref>を上回り、今世紀中に1~2mを超える可能性が指摘されている<ref name="NatureReport201004">[http://www.nature.com/climate/2010/1004/full/climate.2010.29.html A new view on sea level rise,Stefan Rahmstorf,6 April 2010]</ref>。詳しくは[[南極氷床]]の項を参照。
一方、暖かくなると雪が増え、南極の氷も増えると予想される。これは[[地球温暖化]]により21世紀末までに[[海水]]の[[熱膨張]]から予想される[[海面上昇]]の内、およそ3分の1を相殺する量に相当する<ref>[http://www.grida.no/publications/other/ipcc_tar/?src=/climate/ipcc_tar/wg1/428.htm 11.4 Can 20th Century Sea Level Changes be Explained? ] IPCC Third Assessment Report WG1.</ref>。ここ10年で、東南極の氷床は平均で毎年およそ1.8cmずつ厚くなっている。一方で西南極は平均で毎年およそ0.9cmずつ薄くなっている(Davis et al., Science 2005年){{doi|10.1126/science.1110662}}。


{| class="wikitable"
{| class="wikitable"
203行目: 203行目:
=== 棚氷 ===
=== 棚氷 ===
[[File:Antarctica ice shelves.gif|thumb|300px|right|南極棚氷, 1998年]]
[[File:Antarctica ice shelves.gif|thumb|300px|right|南極棚氷, 1998年]]
南極の殆どの海岸線は[[棚氷]](海に浮く氷床)か氷壁(陸上の氷)である。棚氷は、ゆっくりと後続の氷河に押し出されていくのに伴って、融けたり細かく分裂したりする。なお、[[アルキメデスの原理]]より、水に浮いている氷が融けても水上昇も下降もしない。
南極の殆どの海岸線は[[棚氷]](海に浮く氷床)か氷壁(陸上の氷)である。棚氷は、ゆっくりと後続の氷河に押し出されていくのに伴って、融けたり細かく分裂したりする。既に水に浮いている氷が融けても殆ど変化しないが、それによって後続の氷河の流下速度を速める可能性がある<ref name="shelf_glacier"/>


南極半島周辺の海岸沿い氷河の変遷
南極半島周辺の海岸沿い氷河の変遷
211行目: 211行目:
* [[ラーセン棚氷]]の一部が過去何十年かの内に分裂。
* [[ラーセン棚氷]]の一部が過去何十年かの内に分裂。
** 1995年: ラーセンA棚氷が1月に崩壊。
** 1995年: ラーセンA棚氷が1月に崩壊。
** 2001年: ラーセンB棚氷(広さ3,250 km²)が2月に崩壊。分裂する前から徐々に後退していた
** 2001年: ラーセンB棚氷(広さ3,250 km²)2月に崩壊。


[[ロス棚氷]]と[[ラーセン棚氷]]も参照のこと。
[[ロス棚氷]]と[[ラーセン棚氷]]も参照のこと。
229行目: 229行目:
スタイグ(Steig)らにより2009年にネイチャーに発表された論文では、スタイグによる再検証は1960年代後半からのわずかな温度変化を報告している他の研究の観測期間と大方一致するものの、多くの主要な研究結果とは異なり、1957年から2006年の間に10年間に0.1℃という著しい温暖化を見出した<ref name=pubs />。
スタイグ(Steig)らにより2009年にネイチャーに発表された論文では、スタイグによる再検証は1960年代後半からのわずかな温度変化を報告している他の研究の観測期間と大方一致するものの、多くの主要な研究結果とは異なり、1957年から2006年の間に10年間に0.1℃という著しい温暖化を見出した<ref name=pubs />。


1979年に人工衛星による観測が始まって以来、南極の海氷の総量は増加してきた。2008年の海氷は記録的な量を観測し、2009年も平年より著しく多いと報告されている<ref>http://arctic.atmos.uiuc.edu/cryosphere/IMAGES/current.anom.south.jpg</ref>。
1979年に人工衛星による観測が始まって以来、南極の海氷の総量は増加してきた。2008年の海氷は記録的な量を観測し、2009年も平年より著しく多いと報告されている<ref>http://arctic.atmos.uiuc.edu/cryosphere/IMAGES/current.anom.south.jpg</ref>。これは積もった雪が表面を断熱することによる短期的な効果で、中長期的には海氷も減少すると予測されている<ref>[http://dx.doi.org/10.1073/pnas.1003336107 Jiping Liu and, Judith A. Curry. Accelerated warming of the Southern Ocean and its impacts on the hydrological cycle and sea ice. PNAS, August 16, 2010]</ref>。

地球温暖化により南極氷床は融解していると一般的には考えられているが、実際には氷床は縮小するどころかむしろ拡大している。ウィンガム(Wingham)らは南極氷床は1992年から2003年の間に年間5±1ミリメートルずつ成長していることを示している<ref>http://rsta.royalsocietypublishing.org/content/364/1844/1627.abstract</ref>。論文の著者らは人工衛星による南極氷床全体の72%の高度測定の結果から、氷床は年間27±29ギガトン増大していることを示している。

これらの結果は2005年にカートデイビス(Curt Davis)らにより学術誌[[サイエンス]]に発表された論文に大変類似している。彼らも人工衛星による南極の高度測定データを利用して質量変化を計算し、ほぼ同じ期間に南極氷床が年間450億トン成長していると見積もった。それは年間0.12ミリメートルの海面上昇を抑える量に相当する<ref>http://www.sciencemag.org/cgi/content/abstract/1110662</ref>。

英国南極調査所([[:en:British Antarctic Survey|British Antarctic Survey]])は以下の見解を示している<ref>[http://www.antarctica.ac.uk/Key_Topics/Climate_Change/Climate_Change_Position.html Climate Change] British Antarctic Survey</ref>。


[[File:Antarctic Ice Melt-First Year.jpg|thumb|right|250px|NASAにより新たに融雪の観測された領域。]]
地球温暖化により南極氷床への影響については、過去には南極氷床の増加を示唆する報告もあった<ref>http://rsta.royalsocietypublishing.org/content/364/1844/1627.abstract</ref><ref>http://www.sciencemag.org/cgi/content/abstract/1110662</ref>。しかし近年は、大規模な氷床の減少が観測されるようになっている。[[アメリカ航空宇宙局|NASA]]による最新の研究(2007年9月20日)では南極の雪が海岸からより離れた内陸において時間の経過と共に融解し、従来よりも高所において融解が起こり、さらに南極の最も大きな棚氷上において融解が起こっていることを確認した<ref>[http://www.nasa.gov/centers/goddard/news/topstory/2007/antarctic_snowmelt.html "NASA Researchers Find Snowmelt in Antarctica Creeping Inland" September 20, 2007]</ref>(右図)
<!--冗長: 英国南極調査所([[:en:British Antarctic Survey|British Antarctic Survey]])は以下の見解を示している<ref>[http://www.antarctica.ac.uk/Key_Topics/Climate_Change/Climate_Change_Position.html Climate Change] British Antarctic Survey</ref>。
* 氷床は著しい[[ポジティブフィードバック]]ループにより極地の気候変動を起こしやすい。
* 氷床は著しい[[ポジティブフィードバック]]ループにより極地の気候変動を起こしやすい。
* 南極の大陸氷床の融解は全地球規模の海面上昇を引き起こし得る。
* 南極の大陸氷床の融解は全地球規模の海面上昇を引き起こし得る。
244行目: 241行目:
* 南極半島の、中央及び南部西海岸は約3℃温暖化した。原因は不明である。
* 南極半島の、中央及び南部西海岸は約3℃温暖化した。原因は不明である。
* 変化は南極大陸上空において起こっている。
* 変化は南極大陸上空において起こっている。
最も著しい寒冷化の領域は南極点において現れ、最も著しい温暖化の領域は南極半島にある。この解釈としては[[紫外線]]を吸収する[[オゾン層]]の消失により[[成層圏]]が寒冷化し、南極点の周りを回転する[[極循環]]を強めた可能性がある。この極渦がより温暖な沿岸部の気団が内陸部に進入するのを妨げるバリアの役割を果たしている。このより強い極循環により内陸部の寒冷化傾向を説明し得る<ref>[http://earthobservatory.nasa.gov/Newsroom/NewImages/images.php3?img_id=17257 Antarctic Temperature Trend 1982-2004] NASA Earth Observatory, April 27, 2006.</ref>。-->


また南極半島周辺の広範囲に亘る氷河の後退に関する証拠も存在する<ref>IPCC 2007, Intergovernmental Panel on Climate Change, [http://www.ipcc.ch/pdf/assessment-report/ar4/wg1/ar4-wg1-chapter4.pdf Climate Change 2007: The Physical Science Basis. Contribution of Working Group I to the Fourth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change], Cambridge University Press, 2007, page 376.</ref>。[[ラーセン棚氷]]のような大規模な棚氷でも近年大規模な崩壊が見られ、これによって陸上の氷が海に流入・融解する速度が速まることが懸念されている<ref name="shelf_glacier">[http://www.sciencemag.org/cgi/content/abstract/sci;310/5747/456 Ice-Sheet and Sea-Level Changes,
最も著しい寒冷化の領域は南極点において現れ、最も著しい温暖化の領域は南極半島にある。この解釈としては[[紫外線]]を吸収する[[オゾン層]]の消失により[[成層圏]]が寒冷化し、南極点の周りを回転する[[極循環]]を強めた可能性がある。この極渦がより温暖な沿岸部の気団が内陸部に進入するのを妨げるバリアの役割を果たしている。このより強い極循環により内陸部の寒冷化傾向を説明し得る<ref>[http://earthobservatory.nasa.gov/Newsroom/NewImages/images.php3?img_id=17257 Antarctic Temperature Trend 1982-2004] NASA Earth Observatory, April 27, 2006.</ref>。
Richard B. Alleyet al., Science, 21 October 2005, Vol. 310. no. 5747, pp. 456 - 460]</ref>。

[[File:Antarctic Ice Melt-First Year.jpg|thumb|right|250px|NASAにより新たに融雪の観測された領域。]]
[[アメリカ航空宇宙局|NASA]]による最新の研究(2007年9月20日)では南極の雪が海岸からより離れた内陸において時間の経過と共に融解し、従来よりも高所において融解が起こり、さらに南極の最も大きな棚氷上において融解が起こっていることを確認した<ref>[http://www.nasa.gov/centers/goddard/news/topstory/2007/antarctic_snowmelt.html "NASA Researchers Find Snowmelt in Antarctica Creeping Inland" September 20, 2007]</ref>。

また南極半島周辺の広範囲に亘る氷河の後退に関する証拠も存在する<ref>IPCC 2007, Intergovernmental Panel on Climate Change, [http://www.ipcc.ch/pdf/assessment-report/ar4/wg1/ar4-wg1-chapter4.pdf Climate Change 2007: The Physical Science Basis. Contribution of Working Group I to the Fourth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change], Cambridge University Press, 2007, page 376.</ref>。


2009年には、既に融解が観測されていた[[西南極氷床]]だけではなく、安定していると見られていた[[東南極氷床]]でも氷量の減少が確認され、懸念が一層高まっている<ref name="EAIS2009">[http://www.sciencedaily.com/releases/2009/11/091125230727.htm NASA Satellites Detect Unexpected Ice Loss in East Antarctica, ScienceDaily, Nov. 26, 2009] (原論文:[http://dx.doi.org/10.1038/ngeo694 J. L. Chen, C. R. Wilson, D. Blankenship & B. D. Tapley. Accelerated Antarctic ice loss from satellite gravity measurements. Nature Geoscience, 2009])</ref>。[[南極氷床]]も参照のこと。
[[ウィルキンス棚氷]]のような大規模な棚氷は海上に浮かぶものであり海面上昇を引き起こすことはないが、それらの棚氷も規模は縮小している。


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==

2010年10月30日 (土) 13:56時点における版

南極の気温。左が冬、右が夏。

南極の気候(なんきょくのきこう)は、南極大陸およびその周辺部における気候についての記事である。

概要

南極は地球上で最も寒冷な地域である。地球上で今までに記録された中で、最も低い気温、−89.2℃は南極のボストーク基地で観測された。これにより、南極は地球の寒極とされている。殆どの地域では、月平均気温は夏でも0℃を超えない[1]。それと同時にとても乾燥している。年間降水量は平均166mmであり、降水量だけを考慮すれば砂漠に分類される。南極上空の大気は南極大陸性気団(cA)に覆われていて均質なため、前線はめったに大陸内部まで入り込まない。大陸のほとんどの部分で氷はまず融けず、圧縮され氷床を構成する氷河になる。

南極のほぼ全ての地域は氷雪気候ケッペンの気候区分ではEF)で、年間を通じて極めて寒冷で、かつとても乾燥した気候である。外縁の海岸地帯だけはツンドラ気候(ケッペンの気候区分ではET)であり、短い夏の間は平均気温が0℃以上となる。また、内陸部よりも降水量が多い。

南極が北極より寒い理由

1月(夏)と7月(冬)の地球上の平均風速分布。南極海はどちらも白色であり、年間を通して風速が大きい。

北極の気候と比べると、南極の気候は寒く、より乾燥している。これは、南極の地形や海陸分布によるところが大きい。

まず、南極は北極と違って大陸であり、気候は気温の上下が大きい大陸性である。また、内陸のほとんどが分厚い氷河の上にあり標高も高いため、標高の低い北極点付近に比べ気温が更に低くなる[2]

それに加え、南極は周囲の大陸から孤立し、南極点を中心に位置している。このため、南極付近の冷たい空気と、その周囲の海上・陸上にある暖かい空気の温度差が非常に大きくなり、気圧差も大きくなる。高気圧側の南極(極高圧帯)から吹き出す風は、南極海で発達する低気圧や前線を通って上昇気流となり、上空で南極に戻っていく循環コースをたどる。低気圧が発達するとジェット気流偏西風も発達するため、南極と北側の温かい空気はこの強風帯によって隔てられる。また、同じように海流も南極を取り巻くように流れており、暖かい海水が南極付近に流れ込みにくい構造となっている。これら、海と大気両方の壁によって、南極の寒さが保たれている。一方の北極は、海陸分布が崩れていること、北大西洋海流北極海に流入していることなどから、寒さは維持されにくい。

歴史

中央がドレーク海峡。この海峡の誕生により、南極の寒冷化が進行した。

およそ2億年前、南極は南米アフリカアラビア半島インドオーストラリアなどとともに、ゴンドワナ大陸と呼ばれる一つの巨大な大陸をなしていた。その頃南極大陸には氷床は無く、温暖な気候だった。そして樹木と大型動物が数多く生息していた。現在では、氷河の下の地層と化石だけが南極が暖かかったことを証明している。特に、炭層の分布は森林があったことを示している。

プレートテクトニクス理論によると、南極大陸はゴンドワナ大陸から分裂し、ゆっくりと現在の位置、つまり南極点の辺りへ移動した。しかし移動後も、現在よりは温暖な気候だった。南極が寒冷化したのは、およそ3000万年前に南極が南アメリカ大陸からも分かれ、ドレーク海峡ができたことによる。西から東への風が常に周回するようになり、海流も同じように南極海を周回する南極環流ができた。この取り囲む気流と海流が熱の移動を妨げ、南極を冷やした。およそ500万年前、鮮新世が始まった頃に南極は氷に覆われた。

気温

南極観測基地の月平均気温(__エスペランサ基地__昭和基地__マクマード基地__アムンゼン・スコット基地(南極点)、__ボストーク基地

地球上における観測史上最低気温は−89.2℃である。1983年7月21日ボストーク基地で観測された。これは1気圧におけるドライアイス昇華温度より11 ℃低い。南極での観測史上最高気温は14.6℃である。1974年1月5日にVanda基地で観測された。

緯度と標高と海からの距離によって気温は異なる。内陸部の寒極では年平均気温は−57℃と推定され、寒極に近いボストーク基地では−55.3℃、南極点では−49.5℃である。海岸はこれより温暖であり、海岸に近い昭和基地の年平均気温は−10.5℃である。また、緯度が比較的高く、かつ海沿いのマクマード基地では、月平均気温は8月が最も低く−27℃で1月が最も高く−3℃である。なお、南極点での観測史上最高気温は−13.6℃である。

東南極は、西南極よりも標高が高いので、気温が低い。一方、海に近い地域では、夏に当たる1月の最高気温の平均はめったに0℃を下回らない。南極半島は、緯度が低く、周囲を海に囲まれている影響で、南極の中で一番気候が穏やかである。南極半島先端にあるエスペランサ基地の年平均気温は−5.2℃である。

通常、高度が上がるにつれ気温は逓減するが、内陸部の高地においては特に冬季に20度を超えるような逆転層が生じる。これは風が弱いときに放射冷却が起こると著しく現れる[3][4][5]

寒さに関するトリビア

  • マイナス40°Cほどであれば、南極で立ち小便をしても、尿は凍る前に地表に達する。尿が棒のように凍ることはない[6]
  • 昭和基地で日本の第50次隊が高野豆腐を作る実験をしている[7]

降水量

南極大陸の平均年降水量分布 (mm)

南極大陸全体の平均年間総降水量はおよそ166mmである(Vaughan et al., J climate, 1999年)。実際には降水量には地域によってかなり差がある。大陸内部の高地では少なく、一年に50 mmくらいである。逆に南極半島の辺りでは多い。ちなみに、乾燥限界未満の降水量であれば乾燥帯に分類されるが、寒帯ではこの分類が適用されない。

南極のほぼ全域では、降水現象というとのみであり、が降らない。降水量は実際に降った雪の深さ(降雪量)ではなく、同量の水が降ったもの(降水量)として記録する。

南極の空気は、低温のためもともと飽和水蒸気量が少なく、唯一の水である氷はほとんど蒸発しないため、湿度が低く、とても乾燥している。そのため、科学者や探検家といった現地に滞在する者にとっては、肌の乾燥や唇のひび割れがつきものの問題となる。

滑降風

南極における滑降風の概念図。その名の通り滑り降りる風である

南極大陸の沿岸部は滑降風が強い。南極における滑降風とは、大陸内部の氷床によって大気が冷え、重くなり、標高の高い中央部から低い沿岸部へと滑り落ちることにより吹く強風のことである[8]。その風速は、昭和基地ではおよそ秒速10メートル、沿岸の基地全般では平均およそ秒速11メートル、1912年から1913年にかけてのデニソン岬では年間平均風速が秒速19.5メートル、最大風速は100メートルほどに達した[9]。南極の滑降風にはさまざまな特徴がある。風向きが決まっている、ほぼ毎日、主に午前中に吹く[10]、積雪を巻きあげて地吹雪となることが多い、沿岸に低気圧があるとさらに強まる、などである。

南極を覆う氷

南極大陸のほぼ全ては氷床に覆われていて、平均の厚さは少なく見積もっても約1.6km、体積はおよそ3000万立方キロメートルである。南極には全世界の氷の90%と、全世界の淡水の70%以上が存在するといわれている。もしも、南極を覆う陸上の氷が全て融解した場合、世界の海面は60m以上上昇すると予想されている[11]

地球温暖化に対する懐疑論の中には、地球温暖化によりむしろ南極の氷床が育ち続けるとの主張もあった[要出典]エラー: タグの貼り付け年月を「date=yyyy年m月」形式で記入してください。間違えて「date=」を「data=」等と記入していないかも確認してください。。しかし実際には近年、西南極氷床・東南極氷床の両方で氷床の減少が観測されている[12]。このため最新の報告では、世界の海面上昇量がIPCC第4次評価報告書の記載値(最大59cm)[13]を上回り、今世紀中に1~2mを超える可能性が指摘されている[14]。詳しくは南極氷床の項を参照。

南極の地形の内訳(Drewry, 1983年のデータによる)
面積
(km²)
割合 氷の厚さの平均
(m)
体積
(km³)
割合
陸上の氷床 11,965,700 85.97% 2,450 29,324,700 97.39%
棚氷 1,541,710 11.08% 475 731,900 2.43%
アイスライズ 78,970 0.57% 670 53,100 0.18%
氷河(合計) 13,586,380 97.62% 2,160 30,109,800¹ 100.00%
岩の露頭 331,690 2.38%
南極全体 13,918,070 100.00% 2,160 30,109,800¹ 100.00%
¹四捨五入してあるため、各値の合計とは若干異なる。
地域ごとの氷のデータ (Drewryら, 1982年・1983年 による。)
地域名 面積
(km²)
氷の厚さ
の平均
(m)
体積
(km³)
東南極  
陸上の氷 9,855,570 2,630 25,920,100
棚氷 293,510 400 117,400
アイスライズ 4,090 400 1,600
西南極(南極半島を除く)  
陸上の氷床 1,809,760 1,780 3,221,400
棚氷 104,860 375 39,300
アイスライズ 3,550 375 1,300
南極半島  
陸上の氷床 300,380 610 183,200
棚氷 144,750 300 43,400
アイスライズ 1,570 300 500
ロス棚氷  
棚氷 525,840 427 224,500
アイスライズ 10,320 500 5,100
フィルヒナー・ロンネ棚氷  
棚氷 472,760 650 307,300
アイスライズ 59,440 750 44,600
注) アイスライズ(ice rise) : 平らな台地状の氷の丘のこと。棚氷の底面が再び海底に接し、陸に支えられているもの[15]

棚氷

南極棚氷, 1998年

南極の殆どの海岸線は棚氷(海に浮く氷床)か氷壁(陸上の氷)である。棚氷は、ゆっくりと後続の氷河に押し出されていくのに伴って、融けたり細かく分裂したりする。既に水に浮いている棚氷が融けても海水準は殆ど変化しないが、それによって後続の氷河の流下速度を速める可能性がある[16]

南極半島周辺の海岸沿い氷河の変遷

  • 1936〜1989年: Wordie棚氷が明らかに小さくなる。
  • 1995年: プリンスグスタフ海峡から氷が無くなる。最期に氷が無くなったのはおよそ1900年前〜6500年前の間であり、それはおそらく完新世の気候最温暖期と思われる。
  • ラーセン棚氷の一部が過去何十年かの内に分裂。
    • 1995年: ラーセンA棚氷が1月に崩壊。
    • 2001年: ラーセンB棚氷(広さ3,250 km²)2月に崩壊。

ロス棚氷ラーセン棚氷も参照のこと。

気候変動

人工衛星ノアの観測による1981年から2007年までの南極大陸地表面の温度変化(__上昇、__低下)。地表面の温度動向は必ずしも気温の動向を反映しているとは限らない。

南極における気象観測は1950年代に遡る。数十年以上の観測記録がある基地は比較的少なく、観測網は充分でなかった。

南極大陸の最近の気温動向は多少独特であり、他の大陸とは異なりこの半世紀の間にほとんど温暖化していない。実際には1965年より後はわずかに寒冷化さえ起こった。近年、1950年代から2000年代までの南極の観測記録を収集して、少なくとも4つの包括的な研究が行われた[17][18][19]。これらの研究結果は何れも観測初期(1957年−1965年)においてわずかな温暖化を見出し、また何れの主要な研究結果も1960年代半ばより南極大陸の大部分が寒冷化したことを報告している。南極大陸の0.5%にあたる、南極半島のみが記録全般に亘って顕著に温暖化した唯一の場所であった。

ドラン(Doran)らにより2002年の学術誌ネイチャーに発表された論文では、南極大陸全体に亘る寒冷化が報告された。この研究では1966年から2000年の間に、特に夏季および秋季において正味寒冷化したことを結論付けている[17]

チャップマン(Chapman)およびウォルシュ(Walsh)により2007年に学術誌 Journal of Climate に発表された論文では、南極大陸および周辺の19箇所の有人基地、73箇所の自動気象観測所、および緯度2°、経度2°で区切られた海域の時系列の表面水温を含む460箇所の気温の観測記録を集積した。この研究では、南極半島を除いて過去50年間における南極大陸の温度変化はほとんど見出されなかった。観測開始から1965年まではわずかに温暖化、1965年以降はわずかな寒冷化が見出された[20]

モナハン(Monaghan)らにより2008年に学術誌 Journal of Geophysical Research に発表された論文でも同様に1965年以前は上昇傾向、1965年以降は主として下降傾向にあることを見出している[19]

スタイグ(Steig)らにより2009年にネイチャーに発表された論文では、スタイグによる再検証は1960年代後半からのわずかな温度変化を報告している他の研究の観測期間と大方一致するものの、多くの主要な研究結果とは異なり、1957年から2006年の間に10年間に0.1℃という著しい温暖化を見出した[18]

1979年に人工衛星による観測が始まって以来、南極の海氷の総量は増加してきた。2008年の海氷は記録的な量を観測し、2009年も平年より著しく多いと報告されている[21]。これは積もった雪が表面を断熱することによる短期的な効果で、中長期的には海氷も減少すると予測されている[22]

NASAにより新たに融雪の観測された領域。

地球温暖化により南極氷床への影響については、過去には南極氷床の増加を示唆する報告もあった[23][24]。しかし近年は、大規模な氷床の減少が観測されるようになっている。NASAによる最新の研究(2007年9月20日)では南極の雪が海岸からより離れた内陸において時間の経過と共に融解し、従来よりも高所において融解が起こり、さらに南極の最も大きな棚氷上において融解が起こっていることを確認した[25](右図)。

また南極半島周辺の広範囲に亘る氷河の後退に関する証拠も存在する[26]ラーセン棚氷のような大規模な棚氷でも近年大規模な崩壊が見られ、これによって陸上の氷が海に流入・融解する速度が速まることが懸念されている[16]

2009年には、既に融解が観測されていた西南極氷床だけではなく、安定していると見られていた東南極氷床でも氷量の減少が確認され、懸念が一層高まっている[27]南極氷床も参照のこと。

関連項目

脚注

  1. ^ Gavin Hudson (2008年12月14日). “The Coldest Inhabited Places on Earth”. Eco Worldly. 2009年2月8日閲覧。
  2. ^ 北極と南極はどちらが寒いの? 環境省地球環境局
  3. ^ Phillpot, H. R., and J. W. Zillman (1970), The Surface Temperature Inversion over the Antarctic Continent, J. Geophys. Res., 75(21), 4161–4169.
  4. ^ 平沢尚彦、山内恭「南極内陸域における雲と放射の研究」極地研究所.pdf
  5. ^ READERプロジェクト 高層気象データ
  6. ^ 神沼p.31
  7. ^ 神沼pp.215-216
  8. ^ 神沼p.40
  9. ^ 神沼pp.39-40
  10. ^ 神沼p.40
  11. ^ 11.2.1.2 Models of thermal expansion IPCC Third Assessment Report WG1.
  12. ^ J. L. Chen, C. R. Wilson, D. Blankenship & B. D. Tapley. Accelerated Antarctic ice loss from satellite gravity measurements. Nature Geoscience, 2009
  13. ^ Table10.7, Figure 10.33
  14. ^ A new view on sea level rise,Stefan Rahmstorf,6 April 2010
  15. ^ "Ice rise", English Wikipedia.
  16. ^ a b [http://www.sciencemag.org/cgi/content/abstract/sci;310/5747/456 Ice-Sheet and Sea-Level Changes, Richard B. Alleyet al., Science, 21 October 2005, Vol. 310. no. 5747, pp. 456 - 460]
  17. ^ a b http://www.nature.com/nature/journal/v415/n6871/abs/nature710.html
  18. ^ a b http://pubs.giss.nasa.gov/abstracts/2009/Steig_etal.html
  19. ^ a b http://www.agu.org/pubs/crossref/2008/2007JD009094.shtml
  20. ^ Chapman, W.L. and Walsh, J.E. 2007. A synthesis of Antarctic temperatures. Journal of Climate 20: 4096-4117.
  21. ^ http://arctic.atmos.uiuc.edu/cryosphere/IMAGES/current.anom.south.jpg
  22. ^ Jiping Liu and, Judith A. Curry. Accelerated warming of the Southern Ocean and its impacts on the hydrological cycle and sea ice. PNAS, August 16, 2010
  23. ^ http://rsta.royalsocietypublishing.org/content/364/1844/1627.abstract
  24. ^ http://www.sciencemag.org/cgi/content/abstract/1110662
  25. ^ "NASA Researchers Find Snowmelt in Antarctica Creeping Inland" September 20, 2007
  26. ^ IPCC 2007, Intergovernmental Panel on Climate Change, Climate Change 2007: The Physical Science Basis. Contribution of Working Group I to the Fourth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change, Cambridge University Press, 2007, page 376.
  27. ^ NASA Satellites Detect Unexpected Ice Loss in East Antarctica, ScienceDaily, Nov. 26, 2009 (原論文:J. L. Chen, C. R. Wilson, D. Blankenship & B. D. Tapley. Accelerated Antarctic ice loss from satellite gravity measurements. Nature Geoscience, 2009
  • D. G. Vaughan, G. J. Marshall, W. M. Connolley, J. C. King, and R. M. Mulvaney (2001). “Devil in the detail”. Science 293: 1777–1779. doi:10.1126/Science.1065116. PMID 11546858. 
  • M.J. Bentley, D.A. Hodgson, D.E. Sugden, S.J. Roberts, J.A. Smith, M.J. Leng, C. Bryant (2005). “Early Holocene retreat of the George VI 棚氷, Antarctic Peninsula”. Geology 33 (3): 173–176. doi:10.1130/G21203.1. 
  • 神沼克伊『地球環境を映す鏡 南極の科学 -氷に覆われた大陸のすべて』講談社、2009年。ISBN 978-4062576598 

外部リンク

気候

南極の氷