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「言論統制」の版間の差分

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==非公権力による言論弾圧や抑圧問題==
==非公権力による言論弾圧や抑圧問題==
アメリカの精神医学者[[フレデリック・ワーサム]] が1948年から提唱したコミック悪玉論と、それによるアメリカでコミック排斥運動・コミックに肯定的な言論への弾圧の動きが高まっていた。[[GHQ占領下の日本]]では、この影響を受け、1949年頃から漫画は悪影響だと主張が徐々に出始め、[[婦人団体]]やキリスト教系団体などが運動を開始した。特に1952年に設立された 「[[日本子どもを守る会]]」、「[[母の会連合会]]」、[[連合国軍最高司令官総司令部|GHQ]]命令で発足した[[PTA]] を中心に、「[[悪書追放運動]](漫画バッシング)」 と名付けられた強硬な漫画の排斥運動が巻き起こった。当初はアメリカの影響から始まったものの、1952年4月28日という[[GHQの日本占領終了]]後も「子供のため」という名目で、漫画や漫画に肯定的言論(者)に対する一部の民間世論由来の弾圧が続いた。1955年2月27日の第27回衆議院選挙、1956年7月8日の第4回参議院選挙の選挙期間中には、一部の女性らが小学校の[[校庭]]に手塚治虫らの漫画本を積み上げ、火をつけて燃やすという焚書パフォーマンスを展開し、「悪書」が社会問題扱いされている。 一部世論からの要求の影響で、日本政府は規制法を制定しないまま、一部の[[地方自治体]]・[[地方議員]]は規制[[条例]]制定しだした。漫画バッシングによって、出版社は1963年に「[[出版倫理化運動実行委員会]]」(後の 「出版倫理協議会」)を設立し、自主規制をしだした。1964年に各地方自治体などが 「[[有害図書]]」 と指定した出版物等に対して、各種表示追加又は自主回収など、出版社通知などを行う施策(「雑誌や出版物等に関する青少年関連施策」)も開始した。1963年から地方自治体の一部では[[白ポスト]]設置されるなど1969年時点で漫画バッシングという言論弾圧は続いている<ref>占領下の言論弾圧 - p248-250, 松浦総三, 1969年</ref>。手塚治虫公式サイトでも、2010年に彼がマンガは[[悪書]]との批判や、マンガ追放運動での矢面に立たされていた過去を紹介している<ref>{{Cite web |title=虫ん坊 2010年5月号(98):TezukaOsamu.net(JP) |url=https://tezukaosamu.net/jp/mushi/201005/column.html |website=TezukaOsamu.net(JP) |access-date=2023-12-06 |language=ja |publisher=手塚治虫}}</ref>。

フランスのパリでは、2015年に[[シャルリー・エブド本社襲撃事件]]という宗教信者による言論弾圧事件が起きている。キリスト教絡みの風刺漫画も描いてきたのに、イスラム教絡みのを描いただけで歴史ある風刺漫画週刊誌へテロ事件を起こされたことに批判が起きている<ref>{{Cite web |title=パリ新聞社襲撃 殺された漫画家達の知られざる日本との交流が明らかに(堀潤) - エキスパート |url=https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/9fed9dd50af54d2db3b1c5836ce203c92c78be73 |website=Yahoo!ニュース |access-date=2023-12-06 |language=ja}}</ref>。

[[思想の自由市場論]]の前提として、異なった見解を持った人々による自由な討議、対抗言論の重要性と有効性を唱えられてきた。しかし、欧米などではSNSの普及でキャンセル・カルチャーと呼ばれ、配慮不足に過ぎない表現、批判側の[[曲解]]など非違法表現に対して、[[ハッシュタグ・アクティビズム]]や単なる批判や意見表明の[[範疇]]を超えた「非難・攻撃」が問題になっている。「ボイコット運動」や「[[ノープラットフォーミング]](デプラットフォーミング)」等も問題となったが、炎上という形で拡散されやすくなったことも背景にある<ref>{{Cite web |title=憲法学からみたキャンセルカルチャー {{!}} 憲法研究所 発信記事一覧 |url=https://www.jicl.jp/articles/opinion_20230728.html |website=憲法研究所 |access-date=2023-12-06 |language=ja}}</ref>。
[[思想の自由市場論]]の前提として、異なった見解を持った人々による自由な討議、対抗言論の重要性と有効性を唱えられてきた。しかし、欧米などではSNSの普及でキャンセル・カルチャーと呼ばれ、配慮不足に過ぎない表現、批判側の[[曲解]]など非違法表現に対して、[[ハッシュタグ・アクティビズム]]や単なる批判や意見表明の[[範疇]]を超えた「非難・攻撃」が問題になっている。「ボイコット運動」や「[[ノープラットフォーミング]](デプラットフォーミング)」等も問題となったが、炎上という形で拡散されやすくなったことも背景にある<ref>{{Cite web |title=憲法学からみたキャンセルカルチャー {{!}} 憲法研究所 発信記事一覧 |url=https://www.jicl.jp/articles/opinion_20230728.html |website=憲法研究所 |access-date=2023-12-06 |language=ja}}</ref>。



2023年12月6日 (水) 18:34時点における版

警視庁検閲課による検閲の様子(1938年(昭和13年))

言論統制(げんろんとうせい)とは、公権力検閲制度などの手段を用いて、言論表現を制限すること[1][2]。規制の対象や方法は様々である。マスメディアが対象となることが多いが、集会デモ行進、個人の会話まで規制されることもある[2]

言論弾圧の場合は、オープン・レターや抗議運動(デモ)などを用いた草の根主導で、「思想と討論の自由」を守らない形のキャンセルカルチャー運動[3][4][5]・抗議対策の自主規制[4][5]、宗教信者や団体によるモノ[6]、左右対立による異なる意見や言論の実力阻止[7]といった非公権力によるモノも含む[3][4][5][8][9][4][10][11]

概要

言論統制は主に対国内に流布する利敵情報、例えば国家政策への批判、治安・風紀を乱す主義思想国家機密暴動扇動などが、出版報道・流布されないように調査や検閲を行い、必要に応じてこれらの情報を操作・管理・抑制することである。テレビ、新聞、ラジオ、映画、学校教育などが情報統制、世論操作に使われることが多く、インターネットの普及以降はインターネット上でも用いられていることがある[12]

戦時下には、言論の自由報道の自由をうたう民主主義国であっても少なからず言論統制を行う場合が多い。アメリカ大使館でも、アメリカ政府が1940年代末に「力による政府転覆(暴力革命)」の提唱や主張拡散、謀議を行った米国共産党の指導者を起訴している例を紹介している[13]

誤解されがちだが、戦前と戦中の統制は、政府や軍部よりも、「民意」の要求に由来する部分が大きかった。これは現代でも「自粛警察」という形で見られる[14]。戦前・戦中の日本でも公権力の取り締まりは受動的であり、都市部の官公吏、教員、会社員などに代表される投書階級(新中間層)や消費者市民といった民意が主体となって、逆に検閲当局に対して娯楽などの言論統制が甘いと批判・規制要求が度々見られた[15][16][17][14]。下からの由来のため、戦後も一般人による自粛要求が幾度も繰り返された。戦時期との比較でも、現代はインターネットやツイッターなど新メディア普及効果で、一般人の参入障壁が格段に低くなり、誰でも「意見発信」ようになった[14]

実例

民主主義国家とされる国でも、国家による言論統制が行われている、ないしは行われることがある。国家が言論統制に直接関与しなくても、与党の有力政治家が個人的に多くのメディア企業の経営権を掌握し、あるいはメディア経営者と結びつき、言論への影響力を及ぼすいわゆる汚職による場合がある[18]

ドイツではヒトラーを礼讃したり、ナチスの意匠や出版物を流布すると民衆扇動罪(ドイツ刑法第130条)で違法とされている。これは「戦う民主主義」(民主主義を否定することを認めない民主主義)と呼ばれている。

アメリカなどの自由主義諸国でも戦時あるいは国家機密においては行政命令第12065号(国家安全保障情報)によりアメリカ合衆国情報安全保障監督局等による情報の機密化は当然のように行われる。

韓国では国家保安法により共産主義の宣伝や共産主義運動を支持する言論は禁止されている。

日本

江戸時代の日本では出版には届出が必要であり、これに違反した者は罰せられた。例えば1855年仮名垣魯文の『安政見聞誌』を出した版元と共著者の一筆庵英寿は手鎖となった(ただし、魯文は無署名であったため筆禍を免れた)。

明治以降の日本では出版法新聞紙法などにより検閲が行われた。共産主義無政府主義の宣伝・煽動、皇室批判、日本の植民地朝鮮台湾など)独立運動の煽動、人工妊娠中絶の方法の紹介などは禁止された。要塞地帯や軍港などの地理記述、写真なども発行禁止の対象となった。戦時体制下の日本では、出版法新聞紙法国家総動員法などをよりどころにした言論統制が情報局特別高等警察を中心に行われた(安寧秩序紊乱に関わる発禁命令権者は内務大臣)。

映画関連は観覧に供されるものが検閲の対象となり、1917年(大正6年)の「活動写眞興行取締規則」(警視庁令第12号)、1922年(大正11年)7月の警視庁令15号、1925年(大正14年)3月の内務省令10号を経て、内容以外にも、上映尺数の上限や上映期間が定められた。戦時体制下の1939年昭和14年)には、より拘束力の強い「映画法」が制定され、国(軍)の意向に沿った作品づくり、製作本数、映画関係者全ての「技能審査」などが義務付けられ、脚本など、製作段階からの検閲も可能となった。

戦後は日本国憲法言論の自由を保障すると明記されたが、プレスコードなどGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)による言論統制・弾圧は占領解除まで行われた。

現在、日本では憲法上、言論の自由が保障されているが、報道機関自主規制という形で「菊タブー」や「鶴タブー」など言論の禁忌(報道できないこと)が少なからずあり、また教科書検定有害図書指定、わいせつ物頒布罪など事実上の検閲に近いという議論を抱える問題も存在している。

公安警察公安調査庁は、憲法違反・違法な情報収集活動を行っているとして、その廃止を求める政党や個人もある[19]

最近では人権擁護法案が言論統制につながる可能性があるとして議論を呼んでいる。また、児童ポルノ法の改正案に盛り込まれていた、実写を伴わない創作物の規制、及び児童ポルノの単純所有の処罰についても、「人権の侵害や表現の自由の萎縮につながりかねず」、「捜査当局の恣意的な捜査を招く危険がある」として日本共産党等は「慎重であるべき」としていた[20]。その後、2014年6月の法改正で児童ポルノ法に単純所持の禁止が盛り込まれたが、創作物の規制につながる付則については法案から削除された[21]

また、特定秘密保護法などが言論統制になるという声もあるが、これに関しては「国益を損ねる情報は守るべき」などと、推進している声もあれば、「国民の知る権利が損なわれる」などと、賛否両論である。

中華人民共和国

中華人民共和国において言論の自由は存在せず、反政府言論は厳しく取り締まられている。

外国メディアに対する抑圧もあり、1964年(昭和39年)に「日中双方の新聞記者交換に関するメモ」(別名:日中記者交換協定)が締結され、1968年(昭和43年)に「日中関係の政治三原則」が確認された。「日中関係の政治三原則」とは、「1.中国を敵視しない、2.二つの中国の立場に立たない、3.日中国交正常化を妨げない」であり、日中記者が記者交換するにあたって守るべき原則とされた[22]。当時北京に常駐記者をおいていた朝日新聞読売新聞毎日新聞NHKなどはこの文書を承認した[要出典]産経新聞はこの協定に反発し、傘下のフジテレビを含めて特派員をすべて引き上げた[23]

その後、「日中双方の新聞記者交換に関するメモ」は日中国交正常化後の1973年に廃止され、その後に結ばれた「日中両国政府間の記者交換に関する交換公文」は報道を規制するような条項は含まれていない。そのため、この公文を以って報道機関の国外退去を求めることはできない。

そもそも「日中双方の新聞記者交換に関するメモ」およびその後の「日中両国政府間の記者交換に関する交換公文」は国家間での取りきめであり特定社が協定を結んだり結ばなかったりできるものではなく、実際に先述の産経新聞社も「日中両国政府間の記者交換に関する交換公文」に基づいて1998年(平成10年)に北京で中国総局を復活させている。

なお、諜報活動等の明確な敵対行為の発覚以外ではほとんど実行されたことはないものの、協定の有無に限らず全ての主権国家は記者の滞在許可を取り消し国外に追放することが可能である。

文化大革命の時期には外国メディアが次々と中国から追放され、日本の報道機関も容共的な朝日新聞を除きすべて追放された。その後、他の日本の報道各社も中華人民共和国への再入国を許された。

ネット検閲も激しく、Googleはこれに反発し、中華人民共和国から撤収した[24]

2011年1月に中国記者協会の党組書記は、中華人民共和国で最近、経済や人々の生活に関連した虚偽報道が多すぎると指摘した[25]。また中華人民共和国政府はインターネット上の活動の監視を強化するなか、専門家から成るサイバー軍隊を結成して、世論を操作し、プロパガンダを世界に拡散している[26]

アメリカ合衆国

アメリカアメリカ合衆国憲法修正第1条に検閲の禁止を掲げている。これは議会大統領も遵守しなければならない。ただし、公式には認めていないが、アメリカ国家安全保障局が「エシュロン」を用いて、全世界の電気通信の内容を傍受(=盗聴)しているといわれている。2013年には実際にエドワード・スノーデンの暴露によりPRISM (監視プログラム)の存在が明らかになった。

アメリカには上からの検閲はないがコード(code)と呼ばれる報道の自主規制がある。アメリカでは、強制的な方法でなく、大衆の意識に直接訴える「誘導型」の方法がとられている。

これらの規制が、特定の宗教観や倫理観などを前提としていることが指摘されている(例えば人工妊娠中絶反対など)。大手のマスメディアが独占資本であることや、常に名誉毀損などの訴訟を起こされる危険を抱えているという事情もある。また、情報の受け手のメディア・リテラシー(情報を評価・識別する能力)の問題もある。

第二次世界大戦中は、日本軍のアメリカ本土空襲風船爆弾など自国が大きな損害を受けた作戦において、自国民を消沈させる恐れがあるためにマスコミなどに報道管制が敷かれた。

現代ヨーロッパ

EUにおけるロシア系メディアの排除の例:ツイッター

2022年ロシアのウクライナ侵攻のロシアの制裁の一環として、ロシア公営の世界的メディのRTとロシア政府系メディアスプートニクについて、EU圏内での放送や配信を禁止した[27]。同メディアのツイッターアカウントの投稿も閲覧できなくなっている。

韓国

韓国のインターネットでは従来から親北・従北など北朝鮮を利する可能性のある書き込みは禁止されてきたが、李明博政権以降は親日的な書き込みに対してもネット検閲が行われている。大統領直属機関である大韓民国放送通信委員会が、親日的な発言をするウェブサイトとブログを強制的に削除やアクセス禁止をし、言論統制を行っている[28]。さらに、反復して同じ文章を掲載したユーザには、強制的な利用解約措置を取るなど、親日的な言論を発言するユーザには大変厳しい言論統制を行っている[29]

言論統制に繋がる法案のあるおもな国家

ネット検閲#各国の状況参照

アジア

オセアニア-大洋州

ヨーロッパ

アフリカ

南北アメリカ

非公権力による言論弾圧や抑圧問題

アメリカの精神医学者フレデリック・ワーサム が1948年から提唱したコミック悪玉論と、それによるアメリカでコミック排斥運動・コミックに肯定的な言論への弾圧の動きが高まっていた。GHQ占領下の日本では、この影響を受け、1949年頃から漫画は悪影響だと主張が徐々に出始め、婦人団体やキリスト教系団体などが運動を開始した。特に1952年に設立された 「日本子どもを守る会」、「母の会連合会」、GHQ命令で発足したPTA を中心に、「悪書追放運動(漫画バッシング)」 と名付けられた強硬な漫画の排斥運動が巻き起こった。当初はアメリカの影響から始まったものの、1952年4月28日というGHQの日本占領終了後も「子供のため」という名目で、漫画や漫画に肯定的言論(者)に対する一部の民間世論由来の弾圧が続いた。1955年2月27日の第27回衆議院選挙、1956年7月8日の第4回参議院選挙の選挙期間中には、一部の女性らが小学校の校庭に手塚治虫らの漫画本を積み上げ、火をつけて燃やすという焚書パフォーマンスを展開し、「悪書」が社会問題扱いされている。 一部世論からの要求の影響で、日本政府は規制法を制定しないまま、一部の地方自治体地方議員は規制条例制定しだした。漫画バッシングによって、出版社は1963年に「出版倫理化運動実行委員会」(後の 「出版倫理協議会」)を設立し、自主規制をしだした。1964年に各地方自治体などが 「有害図書」 と指定した出版物等に対して、各種表示追加又は自主回収など、出版社通知などを行う施策(「雑誌や出版物等に関する青少年関連施策」)も開始した。1963年から地方自治体の一部では白ポスト設置されるなど1969年時点で漫画バッシングという言論弾圧は続いている[31]。手塚治虫公式サイトでも、2010年に彼がマンガは悪書との批判や、マンガ追放運動での矢面に立たされていた過去を紹介している[32]

フランスのパリでは、2015年にシャルリー・エブド本社襲撃事件という宗教信者による言論弾圧事件が起きている。キリスト教絡みの風刺漫画も描いてきたのに、イスラム教絡みのを描いただけで歴史ある風刺漫画週刊誌へテロ事件を起こされたことに批判が起きている[33]

思想の自由市場論の前提として、異なった見解を持った人々による自由な討議、対抗言論の重要性と有効性を唱えられてきた。しかし、欧米などではSNSの普及でキャンセル・カルチャーと呼ばれ、配慮不足に過ぎない表現、批判側の曲解など非違法表現に対して、ハッシュタグ・アクティビズムや単なる批判や意見表明の範疇を超えた「非難・攻撃」が問題になっている。「ボイコット運動」や「ノープラットフォーミング(デプラットフォーミング)」等も問題となったが、炎上という形で拡散されやすくなったことも背景にある[34]

マイノリティに過剰に配慮するポリコレ由来の言論弾圧や学問の自由侵害、研究や議論が出来なくなっていることが問題になっている。ポリコレが問題視されるようになったのは、「リベラル」が変化し、「偏狭で反自由主義的で非人道的な方法で信条を主張するようになった」ことからである。問題となっているタイプのポリコレ推進派の特徴には、絶対的正義と考える自己主張に対する独善教条主義不寛容異論を徹底的排除しようとする偏狭さ、これらを他者に押し付けようとする姿勢である。学問分野もポリコレ対象となった結果、教育機関全体の学力低下、社会的弱者関連学問分野に対する過剰保護神聖化で、学問発展に必要な批評行為が出来なくなること、討論が政治的な「洗脳」の場と化す問題がある。更には異論を表明している者に対する「差別主義者」などの不当なレッテルへの恐怖や保身からだけでなく、人によっては権力闘争のために、持論や研究内容をポリコレ的言説に迎合させるなど学問への歪曲行為懸念がある[35]

新左翼運動の理論的支柱であったヘルベルト・マルクーゼの思想が、現代のアイデンティティ・ポリティクスにも影響を与えている。マルクーゼは「右」と「左」の対立を強調し、「社会全体の寛容を保つためには右翼に対しては不寛容にならなければならない」という「抑圧的寛容」論を展開して、異なる意見を持つ人の意見に耳を貸さないこと、更には彼等に対する積極的言論弾圧も正当化した[36]21世紀の文系アカデミアでは、ポストモダニズムポストコロニアリズムが影響力を持ったために、異なる意見や研究を表明した者に対するノー・プラットフォーミング(意見表明機会や場所を奪う行為)が急増している。キャンセル・カルチャーと同じく、異論言論者攻撃の常套手段となっている[37]。ノー・プラットフォーミングは、欧米のアカデミアにおいては以前から問題視されてきた。1994年の著作「ベル・カーヴ(正規分布の分布曲線の通称を意味するの英語)」にて、人種間の知能差に言及した社会学者のチャールズ・マレーは、2017年のバーモント州ミドルバリー大学での講演時に、会場集合の抗議者による暴行を受け、彼を守った教授が怪我をする事件が起きている[38]。特に2010年代以降のアメリカでは学問の場でさえも、「真実」よりも「社会正義」優先という学問本来の理念からはかけ離れている状況にある[37][38] 。キャンセリングやノー・プラットフォーミング活動の跋扈で、講演や学会参加の機会が失われる弾圧対象になることは、キャリアにも影響するため、学問や言論への萎縮効果を呼んでいる[37]。2020年には世界的知性と評価される著名な言語学者であるスティーブン・ピンカーに対するリベラル派の学生・助教授や教授による公開書簡(オープンレター)を用いた学会除名騒動が起きた際には[36][38]、それ反対する人々による「公正と公開討議についての書簡[39]」が掲載された。これには言語学者のノーム・チョムスキーや政治学者のフランシス・フクヤマJ.K.ローリングサルマン・ラシュディマーガレット・アトウッドなどの小説家たちをはじめとした多数の著名人が署名していた[38]。アメリカにおける言論の自由の抑圧をいちはやく問題視していた社会心理学者のジョナサン・ハイトは、署名者の1人であり、アメリカの大学から「視点の多様性」や「政治的意見の多様性」が喪失していると批判している[37]。同じ空間、書簡の署名者のひとりであるJ.K.ローリングも、2020年6月投稿のツイートが「トランスジェンダー差別的」であると同じような人々から批判を受けたが[37]、2023年にニューヨークタイムズは「In Defense of J.K. Rowling」を掲載し、ローリングに対する「トランス嫌悪」「トランス差別主義者」だと主張する者たちによる彼女への罵倒だけでなく、著書撤去住所晒し殺害予告や性暴力願望を含んだ脅迫行為をおこなう「過激派」による言論弾圧を批判し、ローリングへの支持を表明した[40]

ドイツ科学協会は2022年にジャーナルに「科学者はあらゆる言論弾圧に抵抗しなければならない」という論文を掲載した。この論文は、ソクラテスの弁明ガリレオ裁判などにも触れ、キャンセル・カルチャーに対する科学界の弱腰を批判し、「現代の言論弾圧」から科学を守らないといけないと指摘した[4][5]

関連項目

その他言論統制に関するもの

脚注

  1. ^ 言論統制とは - コトバンク
  2. ^ a b 小学館『日本大百科全書』の「言論統制」の項目
  3. ^ a b II-5 「思想と討論の自由」が守られなければならない理由”. 晶文社スクラップブック. 晶文社 (2022年6月5日). 2023年12月6日閲覧。
  4. ^ a b c d e 科学者はあらゆる言論弾圧に抵抗しなければならないという主張、現代の言論弾圧「キャンセル・カルチャー」とは? - GIGAZINE”. gigazine.net (2022年2月7日). 2023年12月6日閲覧。
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  6. ^ 新宗教と政治と金 p252 島田裕巳,2022
  7. ^ https://rihe.hiroshima-u.ac.jp/wp/wp-content/uploads/2021/06/Kagaku_201809_Kobayashi.pdf War on Science: 反科学は科学の装いでやってくる 広島大学高等教育研究開発センター
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  11. ^ 宮台真司さん襲撃事件 藤井聡氏「言論弾圧として機能してしまう」”. 文化放送 (2022年12月1日). 2023年12月6日閲覧。
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外部リンク