性差別
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性差別(せいさべつ)とは、他人に対して、性別を理由に、排除や制限などの不利益を不当に及ぼすことをいう[1]。女性差別や男性差別などがある。性差別が正当なものであるとする考え方は、性差別主義(セクシズム、英: Sexism)と呼ばれる。性差別をなくすことを、ジェンダーフリーという[2]。
歴史的背景
宗教観
- キリスト教においては、布教の過程に於いてその地域のその時代の社会観念を受け継いだことにより相対的に女性の地位が男性のそれに比べて低いとされる部分もあった。プロテスタントの生みの親ルターも「女児は男児より成長が早いが、それは有益な植物より雑草の方が成長が早いのと同じである」という言葉を残している。
- キリスト教によって女性差別が緩和された例も少ないながらある。たとえば売買婚を禁止した例がある(そもそも売買婚はなかったとの説[要出典]もある)。ただし、奴隷との性行為に関しては、教会自身が多くの奴隷を保有していたため禁止できなかった。ローマ帝国の法律では、既婚女性の財産の所有権や発言権には非常に制約が課せられていた。しかし、その後、キリスト教の布教により緩和された。つまり、一定の相続権や離婚の請求権などを得たのである。姦通の罪は女性のみに適用されていたが、男性も罪に問われた。このように、主に結婚に関係して女性の権利が部分的ではあるが解放された。しかし、こういった解放は、中世初期において集中的に発生し、後期においては締付けは逆に厳しくなったりもした。
- イスラム世界においては、クルアーンに男が女よりも貴いと書かれている節や、女は男の所有物であると書かれている節がある。例えば、イスラム教4代カリフのアリー・イブン・アビー=ターリブは、ナフジュ・アル・バラーガの中でたびたび女性を賎しめる文言を遺している。一夫多妻制や、レイプ被害者が姦通罪に問われてしまうハッド刑などについても、女性差別の一例として批判されることが多い[3]。現代でもイスラーム世界の知識人の中には、イスラーム法に基づいて一夫多妻制を女は認めるべきだという意見[4]を述べる人間もいる。("イスラームと女性"や"イスラーム世界の性文化"も参照)
- 仏教においては、女は梵天王、帝釈天、魔王、転輪聖王、仏陀の五種になることはできないなどという主張がなされていた(女人五障説)。「女性は男性に変化することによって仏陀になることができる」と説く説もある(変成男子説)。釈迦は当初女性の出家(尼)を認めなかったが、本人達の熱心さと阿難の取りなしにより条件付きで許可したとされる。
- ヒンドゥー社会においても、伝統的に女性の地位は低い。『マヌ法典』には、女性を低劣だと見なして独立を認めず、男性の従属的存在と見なす条文が多く存在する[5]。その結果として、サティーやダヘーズといった非人道的な慣習が、法律で禁止されてもなお存在している。
- 儒教においても、女は男に従うべきという主張がキリスト教やイスラム教と同様に展開されている。具体例としては、明治民法における妻に相続権を与えない規定が挙げられる。
- 古代から、神道の巫女、ノロ、シビュラのように女性の司祭が存在した。
参政権の有無
- 公の場で女性が意見を述べる機会は、多くの地域では近代以前は無かった。現代ではほとんどの国で男女ともに参政権は認められており、女性の社会進出は(少なくとも法制度上は)好意的に受け入れられていると考えられる。ただし現代でも、中東の一部の国々やバチカン市国などでは、女性参政権は認められていないか、認められていても制限付きである。
- 1906年のフィンランドがヨーロッパ史上初となる女性への参政権を認めた。反面、17世紀アメリカのインディアンのある母系部族においては、女性にのみ選挙権を認めており、男性への選挙権は認められていなかった事例がある。
兵役、兵科、強制徴兵制の有無
- 世界初の民主主義国である古代ギリシアのアテネでは、高度な都市国家(ポリス)に居住し参政権を持つ権利と引き換えに世帯主の男性が兵役を負うという社会的仕組みであった。
- フランス革命によって近代民主主義社会(議会制民主主義)が形成されると共に、男性にのみ兵役義務が課された。それは議会に意思を示すことのできる参政権が与えられることと表裏一体のものであった。
- 徴兵の対象が男性のみである国が多い。男女両方を徴兵の対象とする国は現在イスラエル、マレーシア、ノルウェー、北朝鮮、スウェーデンなどである[注釈 1](詳細は、徴兵制度を参照)。
- 逆に志願制の国家では、男性しか志願できないことが女性差別になりうる。特に貧困層においては経済的理由から入隊を希望する場合も多い(経済的徴兵制)。
- 女性徴兵の課題点としては性暴力の多さが挙げられる。例えば北朝鮮では強姦が日常的であり[6]、志願制の米兵では1日に50件程度の性暴力が確認されており、3割以上がレイプ被害、6割以上が性的嫌がらせを受けている[7]。
国連女子差別撤廃条約批准
国際連合の女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約について日本は1980年7月17日に署名し、(デンマークで開催された国連婦人の10年中間年世界会議の際、高橋展子駐デンマーク大使が署名) 1985年6月24日に条約締結を承認(第102回通常国会)同年6月25日 批准書を寄託し、同年7月25日日本において効力発生。
姦通罪と公娼制度の廃止、売春防止法の施行
- 姦通罪とは、刑法(明治40年4月24日法律第45号)183条であるが、夫のいる妻と姦通の相手男性にしか成立しなかった。そのため日本国憲法の定める男女平等権に抵触するという理由で昭和22年法第123号により削除された。
- 昭和21年に連合国最高司令官から日本国政府に「日本における公娼制度廃止に関する覚書」が公布され、ついで同22年に勅令9号「婦女に売淫をさせた者等の処罰に関する勅令」が施行され、中世以来続いていた公娼制度に終止符が打たれた。
- 昭和28年(1953年)に内閣は売春問題対策協議会を設置、同31年3月に総理府に売春対策審議会が設けられ、売春防止法を立案、同31年5月に法案提出(昭和31年5月24日法律第118号)、同33年4月に施行された。
自衛官
女性自衛官(2003年3月以前は婦人自衛官)の就ける職種は、1952年の保安隊時代は看護師のみであった。以降は和文タイプライターのタイピストなど事務系の仕事から徐々に拡大した。
防衛省では女性自衛官の配置を広めるため、1993年に「自衛隊の全ての職域を女性自衛官に開放」を宣言し、徐々に制限を緩和していった。
2020年時点で陸上自衛隊は、放射線を扱う人員と粉塵が発生する場所で活動する坑道中隊以外の職種、海上自衛隊と航空自衛隊は全ての職種に配置可能となった。このほかに陸上自衛隊高等工科学校の高等工科学校生徒は男子のみを募集している。
ゴルフコースの会員
ゴルフ場#女人禁制を参照のこと
同性愛と性差別
EUでは2006年1月に欧州議会が「同性愛嫌悪」に対する共同決議案を採決し、同性愛に対するあらゆる差別は人種差別と同様とされた。2000年に採択された欧州連合基本権憲章の第21条も性的指向による差別の禁止を明記している。
キリスト教圏、ユダヤ教圏、イスラム教圏では文学においても同性愛がタブー視されることが多かったが、日本では伝統的にその傾向はなく、文学の世界でも同性愛がしばしば表現されている。日本が伝統的にキリスト教国ではなく、同性愛が制度的に禁止されていたこともなかった。しかし、主要先進国とされる日本やアメリカ合衆国、ドイツ、フランス、イギリス、イタリア、カナダの中で、法的に同性愛者の婚姻ないしそれに準じる地位(シビル・ユニオンないしドメスティックパートナーなど)を用意していない国は日本だけであり「制度的には、日本は主要先進国の中で最も同性愛者を差別している国家である」という見方もあるが(ただし、アメリカ合衆国は州により制度が異なる)、これは伝統的な衆道(男色)文化が主に性的嗜好や単に性欲の処理(当時は遊女が極めて高価であった)を目的としており、現代の同性愛とは全く異なるものであり、同性の恋愛や婚姻を想定していなかった為である。
日本では男女の結婚は、婚姻届を役所に提出することで成立し、戸籍上に両者の関係が記載され、その関係を公証してもらえる。夫婦は互いに同居、協力、扶助、貞操などの義務があるが、たがいの血族から姻族として親族として扱われる。また、互いの生活財の共有権や遺産相続権などを法律が保障する。また税法上、社会保障上の優遇措置などが受けられる。夫婦の一方が病気や障害を負ったときも、家族とみなされるため、互いの介護や看護などに特別な資格がなくても携われる。制度的に結婚していなくとも、内縁関係が認められれば、相続以外の権利は夫婦と同等に認められる。ところが、日本では同性結婚が認められず、同性間の内縁関係も基本的に認められない(部分的に内縁に準じる地位を認めた判例はある)。このため、同性愛のカップルが権利や優遇措置を得るためには、養子縁組という方法がとられることがある。しかし、養子縁組は本来同性カップルによる利用を想定した制度ではなく、カップルとしての権利が認められにくいという問題がある。
ポルノグラフィーと性差別
一部のフェミニストはポルノグラフィを性差別だとする意見を述べている。女性の肉体が男性の楽しみによって利用される事自体が性差別だとする考え方は、一部のフェミニストに支持されている。アメリカの著名なラディカル・フェミニストであるキャサリン・マッキノンとアンドレア・ドウォーキンが代表的。ラディカル・フェミニストは、かつては左翼ラディカルの印象が強かったが、現在は急進右派と一致している部分が増えている。反ポルノの姿勢はその典型で、マッキノンらの反ポルノ主義は右派のロナルド・レーガン(共和党)が80年代に成立させた「反ポルノ法」の思考と一致している[8]。『オンリーワーズ』という著作の中でマッキノンは、男性を攻撃用の犬(attack dogs)に見立てており、男性をポルノグラフィにさらすことは『訓練された番犬に攻撃せよと言うようなもの』だと論じている。マッキノンが熱心に取り組んだ法案は、いったん成立したが、表現の自由を保障した合衆国憲法違反であり、裁判所によって「無効」とされた。
カナダやEUはラディカル・フェミニストの女性議員が多い為か、(準)児童ポルノに対する規制が厳しく、所持しているだけで逮捕される例が存在する。
夫婦同氏と性差別
婚姻の際、ほとんどの場合結婚後の姓として男性の姓を選ぶが、これを性差別として、その改善のために選択的夫婦別姓制度を導入するべきであるとの意見がある。なお、この制度については、2009年の大手新聞各紙の世論調査などで賛成が反対を上回るケースも多かったが[9]、2010年の時事通信による調査など反対が賛成を上回るケースもあり[10]、また、内閣府が2006年11月に実施した「家族の法制に関する世論調査」(2007年1月27日発表)の結果については、日本経済新聞や東京新聞はじめ新聞報道で「賛否拮抗」という評価が目立つなど、制度導入の是非について賛否両論がみられる。
脚注
注釈
出典
- ^ 小項目事典,百科事典マイペディア,世界大百科事典内言及, 日本大百科全書(ニッポニカ),デジタル大辞泉,ブリタニカ国際大百科事典. “性差別とは”. コトバンク. 2021年6月5日閲覧。
- ^ デジタル大辞泉,人事労務用語辞典. “ジェンダーフリーとは”. コトバンク. 2021年6月5日閲覧。
- ^ イスラムと女性の人権 一国連での討議をとおして- (PDF)
- ^ 「女性に一夫多妻制を認める教えを」、マレー系ムスリム議員が発言
- ^ インドにおける女性
- ^ “強姦は日常的、生理は止まり……北朝鮮の女性兵たち”. BBC (2017年11月22日). 2017年11月23日閲覧。
- ^ “27分ごとに発生する米兵の性暴力で女性兵士3割レイプ被害-軍隊は女性も住民も兵士自身も守らない”. BLOGOS (2013年3月21日). 2017年11月23日閲覧。
- ^ http://www.forerunner.com > ... > Pornography Battle
- ^ 民法改正を考える会『よくわかる民法改正―選択的夫婦別姓&婚外子差別撤廃を求めて』朝陽会、2010年
- ^ WSJ「夫婦別姓、反対が55.8%=外国人参政権も賛成少数−時事世論調査」2010年3月12日
参考文献
- 『性差別と暴力―続・性の法律学』角田由紀子 有斐閣選書
- 『ポルノグラフィと性差別 』キャサリン・マッキノン 青木書店
- 『司法における性差別―司法改革にジェンダーの視点を』日本弁護士連合会両性の平等に関する委員会・2001年度シンポジウム実行委員会 明石書店
関連項目
- 女性差別
- 男性差別
- 男女同権
- 夫婦別姓
- バイセクシャル
- 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律
- ウーマン・リブ
- メンズ・リブ
- セクシャルハラスメント
- 国際女性デー
- 国際ジェンダー学会
- ジェンダー・ギャップ指数
- ジェンダー・エンパワーメント指数
- 女性参政権
- 新婦人協会
- 赤瀾会
- 女人禁制
- セクシスト
- ミソジニー
- トップレス
- 女性器切除
- 女性護身術
- おたく - オタク的自意識には自身の社会的コミュニケーション能力や容姿などへの強い劣等感が内在化している。また、萌え文化や異世界転生といったオタク文化の要素が、そうした現実に対する鬱屈やルサンチマンから一時的に逃避するためのアヘンとしての役割を果たしていると指摘されている。
- 萌え絵批判 - オタク文化にはジェンダーバイアスを前提としたキャラクター類型(いわゆる「萌え要素」)や性的対象化を目的としたポルノ表象、女性の人格的尊厳を軽視し、男性に都合の良いシチュエーションを演出する手段としてのキャラクターが多数登場する御都合主義的な展開、幼さの強調と誇張された性的表現が併存する小児性愛的なデフォルメといった性差別的、ミソジニー(女性蔑視)的な要素が含まれ、しばしば批判の対象となっている。
- ポリティカル・コレクトネス
- 表現の自由戦士
外部リンク
- 司法におけるジェンダーバイアス(第二東京弁護士会)
- Gender Stereotypes - Changes in People's Thoughts 夫婦の性役割に関する内閣府世論調査に基づくレポート