オジブウェー語
※当ページに記述されているオジブウェー語を表示するには、フォントが必要です。ラングエジ・ギークのダウンロードページ からクリー語/オジブウェー語/イヌクティトゥット語の音節文字フォントをインストールして下さい。
オジブワ語 チペワ語 オジブウェー語 アニシナーベ語 | |
---|---|
ᐊᓂᐦᔑᓈᐯᒧᐧᐃᓐ, Anishinaabemowin, Anicinàbemowin, Anihšināpēmowin. | |
話される国 |
カナダ アメリカ合衆国 |
話者数 | 約55,000 |
言語系統 | |
表記体系 | ラテン文字, オジブウェー音節文字 (カナダ先住民文字の一種) |
言語コード | |
ISO 639-1 |
oj |
ISO 639-2 |
oji |
ISO 639-3 |
oji – マクロランゲージ個別コード: ojc — 中部オジブワ語ciw — 南西部オジブワ語ojg — 東部オジブワ語ojb — 北西部オジブワ語otw — オタワ語 ojs — セヴァーン・オジブワ語ojw — 西部オジブワ語 |
北米のアニシナーベ居留地とアニシナーベの居住する都市、アニシナーベ語話者の居住する範囲(赤)。 |
オジブウェー語(オジブウェーご、Ojibwe)(オジブウェー語では「オチポェーモオィヌ」(ᐅᒋᐧᐯᒧᐧᐃᓐ/Ojibwemowin))又はアニシナーベ語(オジブウェー語では「アニッシナーペーモオィヌ」(ᐊᓂᐦᔑᓈᐯᒧᐧᐃᓐ/Anishinaabemowin))は、北米大陸の五大湖からその西の平原にかけてオジブワ(チペワ)族[1]により話されている言語である。オジブワ語、オジブウェ語、チペワ語とも呼ばれる。アルゴンキン語族に属し、他のアメリカ諸語と同じく抱合語(複統合語)である。アメリカ先住民の言語の中でも話者が多く、また方言も多様である。カナダでは音節文字で書かれている。本稿では西南方言に属するミネソタ方言を主とし、表記はフィエロ二母音式(Fiero Double-Vowel System)をとる。
生物・非生物
[編集]オジブウェー語では生物(生きているもの)か非生物(生きていないもの)かの区別が名詞の形式に表される。これは伝統的な思想に由来するもので現在に生物ではないと考えられているもの(例えば霊魂の宿る岩)でも生物のグループに入ることがある。また生物・非生物で意味を違える単語があり、木を意味するmitigは生物形(複数mitigoog)では生えている木を表し、非生物形(複数mitigoon)では木の棒を表す。
数
[編集]名詞は単数形と複数形をとり生物複数形は-g,非生物複数形は-nをとる。動詞は主語と目的語によって異なる語形をとる。
人称
[編集]生物 / 非生物、単数 / 複数、一人称 / 二人称 / 第一三人称(proximate: 近接) / 第二三人称(obviative: 忌避)によって14種の形をとる。三人称には2種類あり、「彼は彼に会った」のように異なる三人称の名詞が2つある場合に片方が第一三人称、もう片方が第二三人称で表される。第二三人称は第四人称とも呼ばれる。
|
|
代名詞
[編集]人称代名詞は数・人称によって異なる形を取る。一人称複数は包括的(inclusive)と除外的(exclusive)の2つがあり、前者は話している相手を含む場合、後者は含まない場合に用いられる。一人称単数niin、一人称複数(包括)niinawind、一人称複数(除外)giinawind、二人称単数giin、二人称単数giinawaa、三人称単数wiin、三人称複数wiinawaaである。
人称接辞
[編集]独立した語でなく名詞の頭について人称を表す人称接辞も一人称 n-, 二人称 g-, 三人称 w- を特徴とする。
語頭 | 1人称 | 2人称 | 3人称 |
---|---|---|---|
a aa e i | (n)ind- | gid- | od- |
oo | n- | g- | od- |
ii | n- | g- | w- |
o | (n)indo- | gido- | odo- |
b | (n)im- | gi- | (o)- |
d g ' j z zh | (n)in- | gi- | (o)- |
p t k h ch m n s w y | ni- | gi- | (o)- |
一人称の(n)の部分を発音しない地域も多く、またnの後ろのiも脱落することがある。
指示代名詞
[編集]指示代名詞は(1)生物 / 非生物、(2)ここ / そこ / 向こう側 / こちら側、(3)単数 / 複数、(4)第一三人称 / 第二三人称 の4つを基準に語形が異なる。指示代名詞は方言差が大きく以下の表は南西方言のミネソタ方言のものであり話者全てにとって正しい語形ではない。
生物 | 非生物 | ||||
---|---|---|---|---|---|
単数 | 複数 | 第二三人称 | 単数 | 複数 | |
ここ | wa'aw | ongow | onow | o'ow | onow |
そこ | a'aw | ingiw | iniw | i'iw | iniw |
向こう側 | a'awedi | ingiwedig | iniwedin | i'iwedi | iniwedin |
こちら側 | wa'awedi | ongowedig | onowedin | o'owedi | onowedin |
その他
[編集]- 疑問代名詞:awenen(誰)、awegonen(何)
- 未知代名詞:awegwen(知らない人)、wegodogwen(知らない物)
- 不定代名詞:awiiya(誰か)、gegoo(何か)
形容詞
[編集]日本語のような動詞と形容詞の区別はなく1つの品詞(動詞)とみなされる。また繋辞と呼びうる語はあるが通常には用いられない。
オジブウェー文字
[編集]ローマ字
[編集]子音 | 母音 | |||||||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
弱 | 東 | h | b/p | d/t | g/k | dj/tc | z/s | j/c | 長 | 東 | e | ì/î | ò/ô | à/â | ||||
北 | h | p | t | k | c | s | š | 北 | ē/ê | ī/î | ō/ô | ā/â | ||||||
中 | h | p | t | k | c | s | sh | hn | 中 | e | ii | oo | aa | |||||
南 | ’ | b | d | g | j | z | zh | n | 南 | e | ii | oo | aa | |||||
強 | 東 | h | p | t | k | tc | m | n | s | c | y | w | 短 | 東 | i | o | a | |
北 | h | hp | ht | hk | hc | m | n | hs | hš | y | w | 北 | i | o | a | |||
中 | h | hp | ht | hk | hc | m | n | hs | hsh | y | w | 中 | i | o | a | |||
南 | h | p | t | k | ch | m | n | s | sh | y | w | 南 | i | o | a |
南方ローマ字式
[編集]南方ローマ字、又は、フィエロ二母音式(Fiero Double-Vowel System)。
南方ローマ字式のアルファベットは「a」「aa」「b」「ch」「d」「e」「g」「'」「h」「i」「ii」「j」「k」「m」「n」「nh / ny」「o」「oo」「p」「s」「sh」「t」「w」「y」「z」「zh」。
- 「']「b]「d」「g」「j」「z」「zh」「nh」は弱子音である。
- 「h」「p」「t」「k」「ch」「m」「n」「s」「sh」「w」「y」は強子音である。
オジブウェー語の鼻濁音は子音の前のn、又は、長母音の後のnhで表す。
- 「e」はいつも長母音だが、「i」「o」「a」の長母音は二母音で書いている。
北方ローマ字式
[編集]北方ローマ字、又は、ソートー・クリー式(Saulteaux-Cree System)はカナダの北方で使われている。
北方ローマ字式のアルファベットは「a」「â」「c」「e」「h」「i」「î」「k」「m」「n」「o」「ô」「p」「s」「š」「t」「w」「y」。
- 「p]「t」「k」「c」「s」「š」は弱子音である。
- 「h」「m」「n」「w」「y」は強子音である。弱子音の前に「h」を当てた場合、強子音に変化する。声門閉鎖音、および、鼻濁音は表示されていない。
- 「e」はつねに長母音である。「i」「o」「a」の長母音はそれらの上にサーカムフレックスかマクロンを付して表す。
中央ローマ字式
[編集]中央ローマ字式は北方ローマ字式と同じ子音式をつかい、南方ローマ字式と同じ母音式をつかう。
東方ローマ字式
[編集]東方ローマ字、又は、アルゴンキン式(Algonquin System)はカナダのケベック州でつかっているもの。
音図
[編集]オジブウェー語は日本語と同じように音節文字で書くことがある。オジブウェー語の音図のローマ字はソートー・クリー式。
- この図の子音は弱子音だが、メー行とネー行は強子音。
- 強子音は音節文字の前に「''」がある。
- エー段はいつも長母音だが、イ段 / オ段 / ア段の長母音はそれらの上に点がある。
語彙
[編集]
|
|
例解
[編集]この話 はミネソタ州立大学ベミジ(Bemidji State University)のブライアン・ドナヴァン(Brian Donavan)博士のウェブ・ページにあったもので、もとはアール・ナイホルム(Earl Nyholm)博士の話。ナイホルム博士、または「オチーンコァニカヌ」(英:Otchingwanigan、オ: Ojiingwanigan) は、ミシガン州の上半島のかた。
本文
[編集]- Aabiding gii-ayaawag niizh ikwewag: mindimooyenh, odaanisan bezhig.
- Iwidi Chi-achaabaaning akeyaa gii-onjibaawag.
- Inashke naa mewinzha gii-aawan, mii eta go imaa sa wiigiwaaming gaa-taawaad igo.
- Mii dash iwapii, aabiding igo gii-awi-bagida'waawaad, giigoonyan wii-amwaawaad.
翻訳
[編集]- 昔ある所に2人の女がいた。婆と、娘の 1人。
- そちらはインガーの方から来た。
- ほら、もう夙に有ったそうなのさ。そこでウィグワムに住んでいたのさ。
- そしてそのとき魚を食べたくて、さきほどさ、網漁業に行った。
注解
[編集]Aabiding | gii-ayaawag | niizh | ikwewag: | mindimooyenh, | odaanisan | bezhig. | |||||
aabiding | gii- | ayaa | -wag | niizh | ikwe | -wag | mindimooyenh, | o- | daanis | -an | bezhig. |
むかし | 過去形- | ある所にいる | -3P | 二 | 女 | -3P | 婆、 | 3.所有形- | 娘 | -忌避形 | 一。 |
むかし | ある所にいた | 2人の | 女 | 婆と、 | 娘の | 1人。 |
Iwidi | Chi-achaabaaning | akeyaa | gii-onjibaawag. | ||||
iwidi | chi- | achaabaan | -ing | akeyaa | gii- | onjibaa | -wag. |
そちら | 大 | 弓弦 | -処格形 | 方 | 過去形- | 来る | -3P. |
そちらは | インガーの※ | 方から | 来た。 |
Inashke | naa | mewinzha | gii-aawan, | mii | eta | go | imaa | sa | wiigiwaaming | gaa-taawaad | igo. | ||||
inashke | naa | mewinzha | gii- | aawan | mii | eta | go | imaa | sa | wiigiwaam | -ing | gaa- | daa | -waad | igo. |
ほら | もう | 夙 | 過去形- | 有る | そう | なの | さ | そこ | で | ウィグワム | -処格形 | 過去形.接続形- | 住む | -3P.接続形 | さ |
ほら | もう | 夙に | 有った | そうなの | さ | そこ | で | ウィグワムに | 住んでいたの | さ。 |
Mii dash | iwapii, | aabiding | igo | gii-awi-bagida'waawaad, | giigoonyan | wii-amwaawaad. | ||||||||
mii | dash | iw- | -apii | aabiding | igo | gii- | awi- | bagida'waa | -waad, | giigoonh | -yan | wii- | amw | -aawaad. |
そう | で | その- | -とき | 先程 | さ | 過去形- | 行く- | 網漁業 | -3P.接続形 | 魚 | -忌避形 | 希望形- | 食べる | -3P/忌避形.接続形 |
そうで | そのとき | 先程 | さ、 | 網漁業に行った。 | 魚を | 食べたくて |
※ミネソタ州のインガー村落はビグボーストリング(大弓弦)川の川岸にある。
3 | 生物単数第一三人称 |
---|---|
3P | 生物複数第一三人称 |
参考書籍
[編集]- Mithun, Marianne. 1999. The Languages of Native North America. Cambridge: University Press.
- Nichols, John D. and Earl Nyholm. 1995. A Concise Dictionary of Minnesota Ojibwe. Minneapolis: University of Minnesota Press.
- Picard, Marc. 1984. On the Naturalness of Algonquian [ɬ]. International Journal of American Linguistics 50:424-37.
- Rhodes, Richard A. 1985. Eastern Ojibwa-Chippewa-Ottawa Dictionary. Berlin: Mouton de Gruyter.
- Valentine, J. Randolph "Randy". 2001. Nishnaabemwin Reference Grammar. Toronto: University of Toronto Press.
脚注
[編集]外部リンク
[編集]- オジブウェー語学会 (OLS)
- OLSミーナワー — オジブウェー語学会のヤフー・グループ
- ランド・ヴァレンティン・オジブウェー語入門
- 文法、学習、辞書
- フリーラング オジブウェー語・英語辞書 — フリーのオフライン辞書。6〜10週間ごとに更新
- Our Languages: Nakawē (Saskatchewan Indian Cultural Centre)
- エスノローグのオジブウェー語の報告
- オジブウェー語の数体系
- オジブウェー語の教習の資料