シオングアンロン
シオングアンロン | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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骨格
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地質時代 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
前期白亜紀アプチアン[1] | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
分類 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
Xiongguanlong Li et al., 2009 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
種 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
シオングアンロン(学名:Xiongguanlong)は、現在の中華人民共和国甘粛省嘉峪関市で化石が発見された[2]、ティラノサウルス上科に属する獣脚類の恐竜の属[3][2]。タイプ種シオングアンロン・バイモエンシス(Xiongguanlong baimoensis)が命名されている[3]。属名は「雄關龍」を、種小名は「白魔」を意味し、後者は発見地が奇岩の存在する景勝地であったことに由来する[2]。シャンガンロング[4]のカナ転写表記もある。
グレゴリー・ポールの推定では全長5メートルに達し、白亜紀中ごろのティラノサウルス上科の一部が大型化していたことが示唆される[3]。確認されている化石は変形した頭蓋骨と一部の体骨格であり、頭部は吻部が長く伸び、上下の幅が狭いことを特徴とする[3]。下側頭窓がB字型で、軸椎の神経棘が先端で左右方向に拡大しており、派生的なティラノサウルス類の特徴も持つ[4]。
産出層準は新民堡層群で、その地質年代層序は下部白亜系アプチアン階あるいはアルビアン階と考えられている[3]。共存した動物としてオルニトミモサウルス類のベイシャンロンがおり、本属はこれを捕食対象にしていたと推測される[3]。
発見
[編集]シオングアンロンは、中華人民共和国甘粛省の「白魔城」という名称で知られる産地において、新民堡層群下沟層の上部の部層で発見された[5]。産地はオルニトミモサウルス類のベイシャンロンのホロタイプ標本が回収された産地と同一であった[5][6]。発見後、2006年から2007年にかけてマーク・ノレルとピーター・マコヴィッキーおよび北京大学の科学者のチームがプレパレーションを実施した[1]。原記載においてシオングアンロンの化石はアプチアン階あるいはアルビアン階のいずれかに由来するものと仮定されているが[7]、その後上部の部層は特にアプチアン階に限定されている[1]。
本属唯一の標本でもあるホロタイプ標本 FRDC-GS JB16-2-1 は中国の蘭州市に位置する甘粛省地質探査鉱物開発局の化石研究開発センターに所蔵されている[6]。標本は下顎を欠く完全な頭蓋骨、完全な一連の頸椎と胴椎、部分的な右腸骨、および右大腿骨からなる。2000年代前半に発見されたが、記載が行われたのは2009年であり、学術雑誌 Proceedings of the Royal Society に論文が掲載された[7][注釈 1]。原記載と後続研究では、ジュラ紀の基盤的ティラノサウルス上科から後期白亜紀の派生的なティラノサウルス科へ至るミッシングリンクとして注目されている[7][8][9]。
特徴
[編集]記載を行った Li et al. (2009) はシオングアンロンの全長を約5メートルと推定しており、回帰分析を用いて体重を272キログラムと推定した[7][10]。グレゴリー・ポールによる体重推定値はそれよりも小さく、約200キログラムとされる[3]。一連の椎骨において神経弓と椎体の縫合線がほぼ完全に閉鎖していることから、当該個体はほぼ完全に成長しきっていたと推測されている。ディロングやグアンロンといったより初期のティラノサウルス類よりも推定される体サイズが大きいことから、記載論文の著者らはティラノサウルス上科の大型化が白亜紀を通じた連続的過程であったことを示唆している。足と尾の大部分は保存されていないが、体のプロポーションはアリオラムスに近いものであったと考えられている[7]。
本属の固有派生形質としては、非常に長い前眼窩域、前後長が左右幅を上回る頭蓋底、外側縁に含気孔を欠く鼻骨、中部に稜を持つ前上顎骨歯、軸椎の神経棘の外側突起が挙げられる。また、方形骨の含気要素を欠くことや、鼻骨の凹凸を欠くことは、本属をより後の時代のティラノサウルス上科から区別する形質状態である[7]。
頭蓋骨
[編集]ホロタイプ標本の頭蓋骨はほぼ完全に保存されており、口蓋や神経頭蓋が含まれるが、下顎を欠く。他のティラノサウルス上科の属種の大部分と比較して頭蓋骨は長く、前眼窩域の長さは後眼窩域の長さの2倍を超過する。ただし頭蓋骨は比較的完全である一方、その保存状態は良好でない。標本は鉱化したノジュール内で化石化したため、母岩と骨を区別することが困難であった。これにより頭蓋骨の全体的な形態の決定が困難であり、また上顎窓の存在も曖昧になっている[7]。
シオングアンロンは大半のテキラノサウルス上科の明瞭な特徴である癒合した鼻骨を持つが、その一方で派生的なティラノサウルス科に存在する正中線に沿った鼻骨上の凹凸を持たない。また鼻骨は外側に含気要素という派生的特徴が存在しておらず、これはディロングやエオティラヌスといった基盤的な属と共通する[7]。頭蓋骨の残りの部位はコンパクトである。前前頭骨は小型の三角形状であり、眼窩と接触しない。頭頂骨は癒合しており、咬筋の接触部として機能する窪んだ短い矢状稜を持つ。方形骨は大型で、顎の筋肉との関連が示唆される外側顆が拡大する。後眼窩骨は上側頭窓との関連で前後・背腹方向に伸びており、これは派生的なティラノサウルス科と類似する。口蓋骨は深いブレード状の鋤骨や大型でブロック状の外翼状骨が存在するため非常に頑強である[7]。
歯の幾つかは保存が良好でないが、歯槽を認めることができる。このことから、記載論文の著者らはシオングアンロンに4本の前上顎骨歯と15本の上顎骨歯が生えていたと判断した。前上顎骨歯は断面がD字型であり、また縁に鋸歯が存在しており、他のティラノサウルス上科と同様である。しかし、上顎骨歯は内外側に狭くブレード状である点でより派生的なティラノサウルス上科と異なる[7]。
体骨格
[編集]シオングアンロンの保存された体骨格には一連の頸椎・胴椎と部分的な腸骨および1本の大腿骨が含まれる。複数の骨格要素は他のティラノサウルス上科やそれ以外の獣脚類との類似点を持つ[7]。
頸椎の椎体は強固に骨化して神経弓と癒合しており、また前凹型である。椎体には1対の含気孔が存在しており、2対の含気孔を持つアルバートサウルスやダスプレトサウルスやティラノサウルスと異なる。胴椎は神経弓が幅広く背側で完全に椎体と重なるが、頸椎の神経弓はそうでなく、ディロングに見られるものと類似する。神経弓は後側ほど高くなるが、後側の胴椎は化石化の過程でひどく損傷したためその正確な高さは不明である[7]。
保存された臀部はオルニトミモサウルス類のものと類似する。大腿骨も第四転子の位置と発達の度合いが派生的なティラノサウルス上科と非常に類似する。骨格の残りの部分と共に1本の脛骨も発見されたが、比較的小型であったため、記載論文の著者らは異なる動物に由来するものであろうと結論した[7]。
分類
[編集]系統
[編集]2009年のシオングアンロンの記載ではティラノサウルス上科の系統解析が行われた。解析の結果として、シオングアンロンの共有派生形質は腸骨に存在する垂直な稜、腸骨の背側縁に存在する切痕、上顎骨歯よりも遥かに小型の前上顎骨歯とされた[7]。
また、この解析では記載当時まだ公式に命名されていなかったティラノサウルス上科内の複数の分岐群が復元された。これらの分岐群の最初のもの(下記分岐図におけるクレード1)はプロケラトサウルス科を除く全てのティラノサウルス上科を含むものであり、共有派生形質として砂時計型の鼻骨、孔の拡大した方形骨、幅広な後眼窩骨のバーが挙げられる[7]。当該の分岐群は Delcourt & Grillo (2018) の系統解析でも復元されたが[11]、Delcourt & Grillo (2018) での共有派生形質は主に腸骨と坐骨に関連したものであり、統一的な頭蓋骨の特徴には言及がない。 なお、当該分岐群は Delcourt & Grillo (2018) で Pantyrannosauria として命名された[11]。
シオングアンロンは、ティラノサウルス科により近縁な分類群を含む、ディロングとエオティラヌスを除外したより派生的な分岐群(クレード2)に属する。当該クレードの共有派生形質には、前上顎骨歯の内側稜、外側に広がる方形頬骨、前後長を左右幅が上回る基蝶形骨、軸椎の神経棘に存在する外側突起がある[7]。当該分岐群は後続研究の著者による言及・命名が無い[8][9][11][12]。
シオングアンロンを除く排他的分岐群(クレード3)は、よりティラノサウルス科に近縁な属種を包含する。共有派生形質には鼻骨最上部に存在する凹凸、神経頭蓋に存在する subcondylar recesses があり、これにより本属は当該分岐群から除外されている。これ以外にも共有派生形質は存在するが、上述した明らかな共有派生形質と比較すると強く支持されない[7]。Delcourt & Grillo (2018) は当該分岐群を "Eutyrannosauria" と命名したが、この分岐群を支持する共有派生形質は体骨格に関連するものに限られている[11]。
原記載における系統解析の結果を以下に示す[7]。後続研究でも Xu et al. (2012) や Brusatte et al. (2016)、Brusatte & Carr (2016)、Delcourt & Grillo (2018)、Zanno et al. (2019)、Wolfe et al. (2019) でシオングアンロンは同様の位置に置かれている。
Li et al. (2009)における系統樹 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
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2013年にマーク・ローウェンらの研究者チームはティラノサウルス科の新属リトロナクスを記載し、またテラトフォネウスを再評価した。54分類群(うち26分類群がティラノサウルス上科)と300を超える形質を用いた彼らの系統解析では、Loewen et al. (2013) 以前では最新のものであった Brusatte et al. (2010) や Carr & Williamson (2010) の結果と矛盾する、比較的独特な樹形が得られた。この解析でシオングアンロンはアレクトロサウルスとの姉妹群とされ、またドリプトサウルスよりも派生的な位置に置かれた[12]。この解析結果の省略版を以下に示す[12]。
ティラノサウルス上科 |
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2022年にダレン・ナイシュとアンドレア・カウはエオティラヌスの再記載を行い、系統解析の結果を掲載した。当該の解析は83分類群と1100形態形質を用いており、複数の新たな系統仮説を導き出している。この解析結果でシオングアンロンはメガラプトル類とエウティラノサウルス類を加えた分岐群との姉妹群に位置付けられているが、当該分岐群の共有派生形質は掲載されていない。Naish & Cau (2022) はこの結果がティラノサウルス上科の古生物地理へおよぼす影響を議論し、彼らの起源がユーラシア大陸にあった可能性が高いことに触れている。得られた分岐図を省略したもの以下に示す[9]。
ティラノサウルス上科 |
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進化的暗示
[編集]ティラノサウルス上科の進化に関する情報は20世紀初頭に命名されて以降比較的曖昧であった。ティラノサウルス上科には中期ジュラ紀の基盤的分類群(例:グアンロン、キレスクス、プロケラトサウルス)や、前期白亜紀の中間的なもの(例:ユウティラヌス、ディロング、エオティラヌス)、カンパニアン期からマーストリヒチアン期にかけての超肉食性のメガファウナ(例:ティラノサウルス、アルバートサウルス、ダスプレトサウルス)が知られている。研究者らは白亜紀中ごろの分類群としてシオングアンロン[7]やティムルレンギア[8]、モロス[13]、ススキティラヌス[14]を記載し、これらの分類群が白亜紀のティラノサウルス類の空白を部分的に埋めるものであると指摘した[9][15]。
白亜紀中ごろのティラノサウルス上科の生物地理には諸説ある。前期白亜紀の間にローラシア大陸は分裂を終え、大西洋は狭くなっていた。エオティラヌスのように前期白亜紀のヨーロッパから知られるティラノサウルス上科の属がいることから、彼らが流れを下ったか陸橋を介してヨーロッパから北アメリカへ渡ったと考える研究者もいる[15]。
またベーリング地峡がこの時代までに形成されており、動物がアジアからララミディア大陸へ渡ることも可能になっていたことが示唆されている。この見解はエオランビアやミクロヴェナトルといったアジア系の祖先をもつ動物が北アメリカに出現していることから裏付けられている[11][14][15]。アプチアン階からアルビアン階にあたるワイオミング州の Cloverly 層からはティラノサウルス上科の歯が知られており、これは約1億800万年前の北アメリカ大陸にティラノサウルス上科が渡っていた可能性が高いことを意味する[15]。あるいはティラノサウルス上科が既に後期ジュラ紀の時点で世界的に分布していたと考える研究者もいるが[11]、ティラノサウルス上科の進化あるいは拡散について具体的推論を行うには当該地域の化石記録が乏しいと指摘する研究者もいる[16]。
古生態
[編集]食性
[編集]シオングアンロンは下沟層で発見された最大の捕食動物である。当該地域で発見されたより大型の獣脚類としてベイシャンロンとスジョウサウルスがおり、これらはいずれも植物食恐竜であったと考えられている[1][7][6]。
シオングアンロンは他の既知のティラノサウルス上科の属種と同様に確実な肉食動物であった[17]。しかし、派生的なティラノサウルス科に見られる強力な咬合力への適応は遂げていない[7]。ススキティラヌスのような同様の属はその生態系における中型の捕食動物であったと考えられているが、同地域で大型獣脚類が発見されておらず[17]、これはアプチアン期後期の中国において進化的遷移が発生・進行していたことを示唆する可能性がある[16]。
環境
[編集]下沟層は新民堡層群で2番目に新しい層であり、上位層に中沟層、下位層に赤金堡層を持ち、いずれも甘粛省に分布する。現代において当該地域はゴビ砂漠の一部であるが、前期白亜紀においてあまり乾燥した環境ではなく、またテチス海の海岸あるいはその付近に位置していた可能性が高い[18]。下沟層の堆積物は泥岩とシルト岩から構成され、砂岩と礫岩を伴う[19]。堆積構造からは、狭い丘陵に囲まれた低地が存在し、恐竜の動物相が地理的な障壁を受けることなく地域内を移動できた可能性が高いことが示唆される。蹼や羽毛といった軟組織を保存した水鳥の化石が保存されており、無酸素水塊を湖底に持つ湖も存在したと結論されている[18]。
同時代の動物相
[編集]新民堡層群の動物相はバレミアン期からアプチアン期にかけて中国に存在した熱河生物群の生態学的後継にあたるものと考える研究者もいる。新民堡層群の動物相は何人かの研究者から "Mazongshan fauna" と呼称されており、主に恐竜から構成されている。これは、下沟層が主に大型脊椎動物の化石を保存しているためである[1]。この傾向の主要な例外が鳥類である。当該動物相には無数の鳥類化石がよく保存されており、その多くはエナンティオルニス類であるが、真鳥類の Ornithuromorpha も含まれている。また数種類の魚類[20]や節足動物[21]の化石も保存されている。
最も数の多い化石は非鳥類型恐竜である。小型の角竜類が最も多産しており、基盤的ハドロサウルス上科やティタノサウルス形類の竜脚類、大型のオルニトミモサウルス類やテリジノサウルス類も知られている。他の断片化石としてオヴィラプトロサウルス類に分類されているものもあるが、これは複数の研究者から疑問視されている[1]。
シオングアンロンは大型のオルニトミモサウルス類であるベイシャンロンと共存したことが知られており[7]、両者は同一の産地で発見されている[5]。他の同時代の動物には鳥脚類のシュウーロンや Jintasaurus (en) 、エウヘロプス科の Qiaowanlong (en) 、テリジノサウルス類のスジョウサウルス、小型のネオケラトプス類のアーケオケラトプスが知られている[1]。エナンティオルニス類の鳥類も豊富であり、Avimaia (en) 、Feitianius (en) 、および未命名のものが含まれる。また、アヒルに類似するガンススや歯の生えた Brevidentavis (en) といった初期の真鳥類が産出している[21]。複数のカメ類の骨格も発見されている[1]。
脚注
[編集]注釈
[編集]出典
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参考文献
[編集]記載論文
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外部リンク
[編集]ウィキメディア・コモンズには、シオングアンロンに関するカテゴリがあります。