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シャジクモ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
シャジクモ
シャジクモ
保全状況評価
絶滅危惧II類環境省レッドリスト
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 植物界 Plantae
(アーケプラスチダ Archaeplastida)
亜界 : 緑色植物亜界 Viridiplantae
階級なし : ストレプト植物 Streptophyta
: シャジクモ植物門 Charophyta
: シャジクモ綱 Charophyceae
: シャジクモ目 Charales
: シャジクモ科 Characeae
: シャジクモ連 Chareae
: シャジクモ属 Chara
: シャジクモ C. braunii
学名
Chara braunii
C.C.Gmelin, 1826
シノニム
英名
Braun's stonewort[1]

シャジクモ (車軸藻) (学名Chara braunii) は、シャジクモ目に分類される藻類の1。シャジクモ類の中では水田ため池などで最もふつうに見られる種であるが、環境省レッドリストでは絶滅危惧II類に指定されている (2019年現在)。また本種において、ゲノム塩基配列が報告されている。

特徴

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藻体の長さは 10〜40 cm、主軸径は 0.3〜1 mm[2][3]。主軸にも小枝にも皮層がなく[2]、シャジクモ属の他のと比較して藻体に透明感がある[3]。主軸節部の托葉冠は1輪、小枝と互生する[2]。托葉細胞は、乳頭状突起のものから長さ 1 mm ほどのものまである[2][3]。節からは8〜11本の小枝が輪生する[2]。各小枝は3〜4節からなり、節には苞がつく[2]。小枝末端には複数の苞細胞が束生して冠状[2][3]

雌雄同株[2][3]。生殖器官は小枝の下部の節につき、小枝基部にはつかない[2]。造精器は生卵器の下部につき、直径 250〜320 µm[2]。生卵器は 800〜1,100 x 400〜500 µm。らせんは10本程度見られる。卵胞子は黒く、500〜750 x 300〜450 µm[2]。らせん縁は7〜12本。

節間部の長さ、托葉細胞や苞、卵胞子の大きさなどの特徴において個体変異が大きい[2][3]。そのため、多数の種内分類群が提唱されている[4]。ただし、日本国内の試料の調査からは、このような形態的差異と系統的差異の対応関係は見つかっていない[4]。一方で、生態的な差異 (浅所と深所) と系統的差異の対応関係が報告されている (下記)。

主軸や小枝に皮層を欠く点でオウシャジクモ (C. corallina) やオーストラリアシャジクモ (C. australis) に類似している。ただしこれらの種は、托葉冠が未発達 (痕跡的〜欠如) であること、小枝末端に1細胞のみがついて冠状ではないこと、生卵器が小枝の基部にもつくことでシャジクモとは区別できる[3]

分布と生態

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アジア、オーストラリア、南北アメリカ、アフリカと世界中に広く分布する[2][5]。ただし世界各地のシャジクモの間では生殖的隔離があることが示唆されている[6]

日本でも北海道、本州、四国、九州、沖縄から報告されている[2][5][7][8]。シャジクモ類としては、水田ため池で最もふつうに見られる種であり、またからも見つかる[2][3]分子系統学的研究からは、日本産のシャジクモは水田など浅い場所 (水深 15 cm 以浅) に生育するものと湖など深い場所 (水深 1 m 以深) に生育するものに遺伝的に分けられることが示されている[4]

環境省レッドリストでは絶滅危惧II類に指定されている (2019年現在)[9]

人間との関わり

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節間細胞が巨大で皮層で覆われていないため細胞内の様子が観察しやすく、学校の理科教育において、原形質流動の観察に本種が用いられることがある[10][11]。またゲノム塩基配列が決定されており (約 2 Gbp; Gbp = 十億塩基対)、特に陸上植物への進化という観点からの研究が行われている[12][13]

アクアリウムにおいて栽培されることもある。栽培は比較的容易とされるが、水質の急変には弱い[14]

脚注

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  1. ^ Guiry, M.D. & Guiry, G.M. (2020) AlgaeBase. World-wide electronic publication, Nat. Univ. Ireland, Galway. searched on 22 February 2020.
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n o 廣瀬 弘幸 & 山岸 高旺 (編) (1977). 日本淡水藻図鑑. 内田老鶴圃. pp. 933. ISBN 978-4753640515 
  3. ^ a b c d e f g h 笠井 文絵 & 石本 美和 (2011). しゃじくもフィールドガイド. 独立行政法人国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター 生物資源保存研究推進室 微生物系統保存施設. https://mcc.nies.go.jp/Chara2006/chara_fieldguide.htm 
  4. ^ a b c Kato, S., Sakayama, H., Sano, S., Kasai, F., Watanabe, M. M., Tanaka, J. & Nozaki, H. (2008). “Morphological variation and intraspecific phylogeny of the ubiquitous species Chara braunii (Charales, Charophyceae) in Japan”. Phycologia 47: 191-202. doi:10.2216/07-27.1. 
  5. ^ a b 千葉県レッドデータブック改訂委員会, ed (2009). 千葉県の保護上重要な野生生物 -千葉県レッドデータブック- 植物・菌類編(2009年改訂版). http://www.bdcchiba.jp/endangered/rdb-a/p-mokuji.html 
  6. ^ Proctor, V. W. (1970). “Taxonomy of Chara braunii: an experimental approach”. Journal of Phycology 6: 317–321. doi:10.1111/j.1529-8817.1970.tb02401.x. 
  7. ^ NPO法人 野生動物調査協会, NPO法人 Envision環境保全事務所 (2020) 日本のレッドデータ. (2020年2月22日閲覧)
  8. ^ 森嶋 秀治 (2019) 「車軸藻」のページ. (2020年2月22日閲覧)
  9. ^ 環境省 レッドリスト. 2020.2.22閲覧.
  10. ^ シャジクモ類の原形質流動. 慶応義塾大学. (2020年1月25日閲覧)
  11. ^ 伊藤 篤子, 城石 英伸, 衣笠 巧, 雑賀 章浩, 石井 宏幸, 庄司 良 & 三谷 知世 (2018). “東京高専低学年学生を対象とした [観る] 生物学実習の構築”. 東京工業高等専門学校研究報告書 45: 125-130. 
  12. ^ 西山 智明 & 坂山 英俊 (2018). “シャジクモのゲノムの解読が明かす陸上植物への道および独自の進化”. DBCLS. doi:10.7875/first.author.2018.077. 
  13. ^ Nishiyama, T., Sakayama, H., De Vries, J., Buschmann, H., Saint-Marcoux, D., Ullrich, K. K., ... & Vosolsobě, S. (2018). “The Chara genome: secondary complexity and implications for plant terrestrialization”. Cell 174: 448-464. doi:10.1016/j.cell.2018.06.033. 
  14. ^ 吉野 敏『世界の水草728種図鑑―アクアリウム&ビオトープ』エムピージェー、2005年。  p.16

外部リンク

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