学研全訳古語辞典 |
て
《接続》言い切りの形に付く。〔格助詞「と」に相当〕…と。
出典万葉集 四三四六
「父母(ちちはは)が頭(かしら)かき撫(な)で幸(さ)くあれて言ひし言葉(けとば)ぜ忘れかねつる」
[訳] ⇒ちちははが…。◆上代の東国方言。
て
《接続》活用語の連用形に付く。
①
〔継起〕…して、それから。▽ある動作・状態から、次の動作・状態に移ることを表す。
出典土佐日記 一二・二一
「住む館(たち)より出(い)でて船に乗るべき所へ渡る」
[訳] 住んでいる官舎から出て、船に乗ることになっている所へ移る。
②
〔並行〕…て。…て、そして。▽動作・状態が同時に進行・存在していることを表す。
出典徒然草 一九
「六月(みなづき)のころ、あやしき家に夕顔の白く見えて、蚊遣(かや)り火ふすぶるもあはれなり」
[訳] 陰暦六月のころ、粗末な家(の塀)に夕顔の花が白く見えて、そして蚊遣り火がくすぶっているのももの寂しく心ひかれる。
③
〔順接の確定条件〕…ために。…から。…ので。▽上に述べた事柄が原因・理由になって下の事柄が起こることを表す。
出典徒然草 一三七
「さはることありてまからで」
[訳] さしつかえる事があるので、(花見に)参りませんで。
④
〔逆接の確定条件〕…のに。…ても。…にもかかわらず。
出典徒然草 一四一
「都の人は言承(ことう)けのみよくて、実(まこと)なし」
[訳] 都の人は口先の返事だけは感じがよくても、誠実味がない。
⑤
〔順接の仮定条件〕…たら。…なら。
出典万葉集 三七一二
「ぬばたまの(=枕詞(まくらことば))妹(いも)が乾(ほ)すべくあらなくにわが衣手を濡(ぬ)れていかにせむ」
[訳] 妻が(そばにいて)干してくれるわけでもないのに、私の袖(そで)がぬれたらどうしよう。
⑥
〔状態〕…のようすで。…まま。
出典竹取物語 かぐや姫の生ひ立ち
「三寸ばかりなる人、いと美しうてゐたり」
[訳] (竹の中に)三寸(=約九センチ)ほどである人が、とてもかわいらしいようすで座っている。
⑦
〔補助動詞に続けるのに用いて〕…て。
出典土佐日記 一二・二一
「男もすなる日記(にき)といふものを、女もしてみむとてするなり」
[訳] 男も書くという日記というものを、女(である私)も書いてみようと思って書くのである。
参考
(1)完了の助動詞「つ」の連用形「て」が変化したもの。(2)動詞の撥(はつ)音便形やウ音便形に続いて「掘り食(は)んで」(神楽歌)「夕殿に蛍飛んで」(『源氏物語』)や「呼うで来てくだされ」(『冥途飛脚』)のように、濁音化することもある。(3)副詞の「かく」「など」「さ」に付いて「かくて」「などて」「さて」という副詞を作ったり、格助詞「と」「に」に付いて「とて」「にて」という複合助詞を作る。
て
《接続》言い切りの形に付く。〔感動をこめて軽く念を押したり、返答をうながしたりする〕…ね。
出典浮世風呂 滑稽
「しかし見所があるて。此(こ)の番頭はたのもしい」
[訳] しかし、見所があるね。この番頭はたのもしい。◆近世語。
て
完了の助動詞「つ」の未然形・連用形。
て 【手】
①
手。▽指・手のひら・手首・腕などにいう。
出典枕草子 すさまじきもの
「てを折りてうちかぞへなどして」
[訳] 指を折って、数えたりなどして。
②
(器具の)取っ手。横木。
出典枕草子 正月に寺にこもりたるは
「てもなき盥(たらひ)」
[訳] 取っ手もないたらい。
③
筆跡。文字。
出典枕草子 うらやましげなるもの
「てよく書き、歌よく詠みて」
[訳] 文字をうまく書き、歌も上手に詠んで。
④
腕前。技量。
出典源氏物語 帚木
「織女(たなばた)のてにも劣るまじく」
[訳] (裁縫も)織女の腕前にも劣らないに違いなく。
⑤
(物事の)やり方。型。
出典徒然草 一一〇
「いづれのてか、とく負けぬべきと案じて」
[訳] どのやり方が、早く負けてしまうだろうかと考えて。
⑥
部隊。軍勢。配下。
出典平家物語 九・河原合戦
「宇治のてを攻め落といて」
[訳] (義経(よしつね)は)宇治の軍勢を攻め落として。
⑦
傷。負傷。
出典平家物語 四・源氏揃
「わが身、て負ひ、からき命を生きつつ」
[訳] 自分の体は傷を負って、危ない命を保ちながら。
て- 【手】
〔形容詞に付いて〕手段・方法などの程度を強める。「て堅し」「て強(ごは)し」
-て 【手】
①
碁・将棋などの手数を数える語。「一て」。
②
矢二本を一組として数える語。「的矢(まとや)一て」。
③
そのことをする人を表す語。「使ひて」
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