学研全訳古語辞典 |
は・く 【着く・著く】
活用{か/き/く/く/け/け}
①
衣類や履物を下半身につける。
出典万葉集 三三九九
「沓(くつ)はけわが背」
[訳] ⇒しなのぢは…。◇多く「履く」「穿く」と書く。
②
弓に弦をかける。
出典万葉集 三四三七
「陸奥(みちのく)のあだたら真弓弾(はじ)き置きて反(せ)らしめきなば弦(つら)はかめかも」
[訳] 陸奥のあだたら産の真弓の弦をはずしておいて反(そ)らしたままならば、弓に弦をかけることができようか。
活用{け/け/く/くる/くれ/けよ}
[一]②に同じ。
出典万葉集 一三二九
「陸奥(みちのく)のあだたら真弓弦(つら)はけて」
[訳] 陸奥のあだたら産の真弓に弦をかけて。
つ・く 【付く・着く】
活用{か/き/く/く/け/け}
①
くっつく。付着する。接触する。
出典徒然草 二一五
「台所の棚に、小土器(こかはらけ)に味噌(みそ)の少しつきたるを見いでて」
[訳] 台所の棚に、小さな素焼きの皿にみその少しくっついているのを見つけだして。
②
備わる。身につく。加わる。
出典宇治拾遺 六・四
「取りたる侍(さぶらひ)は、思ひかけぬたよりある妻まうけて、いとよく徳つきて」
[訳] (お参りの証文を)取った侍は、思いがけないよりどころのある妻をもらって、たいそうよく財産が身について。
③
(物の怪(け)などが)とりつく。のり移る。
出典宇治拾遺 三・六
「あさましきことかな。物のつき給(たま)へるか」
[訳] あきれはてたことだなあ。あやしげなものがのり移り気でもおかしくなられたか。◇多く「憑く」と書く。
④
(気持ちなどが)生じる。起こる。
出典源氏物語 若紫
「明け暮れの慰めにも見ばやと思ふ心、深うつきぬ」
[訳] 毎日の心の慰めとしてもこの少女を見たいと思う心が、(源氏に)強く起こった。
⑤
付いて行く。付き従う。
出典今昔物語集 二五・一二
「『構へて盗まむ』と思ひて、ひそかにつきて上りけるに」
[訳] (馬盗人は)「何とかしてこの馬を盗もう」と思って、そっと付き従って上京したが。
⑥
到着する。着く。
出典土佐日記 二・六
「難波(なには)につきて、川尻(かはじり)に入る」
[訳] 難波に着いて、河口に入る。
⑦
(座席や地位に)つく。着座する。就任する。
出典古今集 仮名序
「春宮(とうぐう)を互いに譲りて位につき給(たま)はで」
[訳] 皇太子の位を互いに譲り合って位におつきにならないで。
⑧
決まる。落ち着く。
出典蜻蛉日記 上
「とにもかくにもつかで、世に経(ふ)る人ありけり」
[訳] ああもこうも、どっちつかずで(態度が)決まらないで月日を送る人がいた。
⑨
〔「につき」「につきて」の形で〕…に関して。
出典諸国ばなし 浮世・西鶴
「それにつき、上書(うはが)きに一作あり」
[訳] それに関して、金包みの上書きにひとつ趣向がある。
活用{か/き/く/く/け/け}
①
身に備える。身につける。体得する。
出典徒然草 一五〇
「能をつかんとする人」
[訳] 芸能を身につけようとする人は。
②
(名を)つける。命名する。
出典枕草子 虫は
「人の名につきたる、いとうとまし」
[訳] 人の名に(蠅(はえ)と)つけているのは、たいそういやな感じだ。
{語幹〈つ〉}
①
くっつける。付着させる。接触させる。
出典諸国ばなし 浮世・西鶴
「内証より、内儀(ないぎ)声を立て、『小判はこの方へ参った』と重箱のふたにつけて」
[訳] 台所から奥方が声を出して「小判はこちらへ来ていました」と、重箱のふたにくっつけて。
②
(気持ちを)起こさせる。関心を払う。(心を)向ける。
出典徒然草 二一
「月・花はさらなり、風のみこそ、人に心はつくめれ」
[訳] 月や花は言うまでもないが、風はとりわけ、人に感動の気持ちを起こさせるようだ。
③
付き従わせる。付き添わせる。
出典大鏡 道隆
「使ひをつけて、たしかにこの島に送り給(たま)へりければ」
[訳] (捕虜に)使者を付き添わせて、確かにこの(壱岐(いき)対馬(つしま)の)島に送りなさったところ。
④
任せる。委嘱(いしよく)する。託す。
出典伊勢物語 九
「京に、その人の御もとにとて、文(ふみ)書きてつく」
[訳] 都へ、ある人のいらっしゃる所にと思って、手紙を書いて託す。
⑤
(地位に)つける。就任させる。即位させる。
出典平家物語 三・大塔建立
「いかにもして皇子(わうじ)御誕生あれかし。位につけ奉り」
[訳] どうにかして皇子がお生まれになってほしい。その皇子を帝位におつけ申し上げて。
⑥
(名を)つける。名づける。命名する。
出典堤中納言 虫めづる姫君
「いま新しきには名をつけて興じたまふ」
[訳] (姫君は)さらに新しいの(=虫)には名前をつけて面白がりなさる。
⑦
(和歌・俳諧(はいかい)などで、上の句、または下の句を)詠み加える。つける。
出典枕草子 二月つごもり頃に
「これが本はいかでかつくべからむと思ひわづらひぬ」
[訳] この(句に対する)上の句はどうつけるのがよいだろうかと思い悩む。
⑧
対応させる。応じさせる。関連させる。
出典徒然草 一
「程につけつつ、時にあひ、したり顔なるも」
[訳] それぞれの身分や家柄に応じて、時運にあって栄達し、得意顔であるのも。
⑨
〔「につけて」の形で〕…に関して。…につけて。
出典徒然草 一八八
「若きほどは、諸事につけて…心にはかけながら」
[訳] 若いうちはいろいろなことに関して…気にはかけながら。
着くのページへのリンク |