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台湾ドリームに挑む独立リーグのヒーローたち 小野寺賢人と鈴木駿輔が切り開く道

独立リーグの中には、誰が見ても図抜けた実力を持ち、優れた成績を残しながらドラフト指名されない選手がいる。その真価を生かす道を海外に求める選手もいる。

この数年間ルートインBCリーグで活躍し、南北のエースと称された好投手二人が、奇しくも同時に海を渡る。

小野寺賢人(BC埼玉→台鋼ホークス)と、鈴木駿輔(BC福島→BC信濃→楽天モンキーズ)だ。

台湾プロ野球(CPBL)への挑戦では、昨年もヤクルトスワローズなどで活躍した由規がBC埼玉から楽天モンキーズに入団した。だが外国人枠が少なく、一軍では1試合のみ登板、契約を更新出来ずに2ヶ月で帰国した。

NPBを経験していない独立リーガーの助っ人契約は珍しいが、NPBを経ていないからこそ、彼らは「今」能力のピークにある。実力を発揮すれば活躍出来る可能性は大いにある。

「ミスターコントロール」小野寺賢人

CPBLは2023年に5球団がリーグ戦を戦い、6球団目の台鋼ホークスが二軍に参入していた。2024年から一軍に参入するそのホークスに、助っ人外国人として年間契約を得たのが小野寺賢人だ。

今年26歳になる小野寺はBC埼玉の絶対的エースだったが、かつてエースだったことはない。

「星槎道都大2年の時は、リリーフで出て、四球・四球・ホームランみたいな状態でした。3年で先発して1回5失点KOという試合があって、そこからはもう何をやってもだめ。地獄みたいな時間でした」

地道にキャッチボールから修正し、結果的に無駄無く、力をまっすぐ伝えられるフォームに辿り着いた。大卒後社会人野球を志したが叶わず、クラブチームのTRANSYSを選んだ。

一日8時間勤務をこなしつつ野球をするという環境から、野球に集中しようと独立リーグの扉を叩く。

BC埼玉武蔵ヒートベアーズに入団した2021年は中継ぎをしていたが、翌年にはローテーションの柱に。コントロール抜群で試合を作る能力が高く、完投も可能な投手。2年目には防御率1.65で最優秀防御率のタイトルを獲得した。K/BBは14.6という驚異的な数字だった。

抜群の安定感でBC埼玉のリーグ優勝に貢献した小野寺賢人

2022年にはNPB球団のテストも受けたが指名漏れ。足りないのは球速だと、2023年にはパーソナル指導を受けて体を作り直した。平均球速は2キロほどアップ。

一時期は制球が乱れ防御率が悪化したが、全体的にパワーは増し、バランスも取り戻した。球場表示では150キロを計測。10勝を挙げ、リーグ優勝に貢献してシーズンMVPも獲得した。それでもドラフト指名はならず。

だが、CPBL台鋼ホークスからオファーが届いた。ホークスは2024年からの一軍参入に備え、2023年冬に行われたアジアウィンターリーグに単独チームで出場。そこで外国人選手のテストを行うという。

参加を打診された小野寺は、ステップアップの好機だと挑戦を決めた。

台湾で好投し異例の年間契約獲得

アジアウインターリーグで優勝を飾った台鋼ホークス。王柏融ら台湾復帰組にも注目が集まる(本人提供)

アジアウィンターリーグでの小野寺は、台湾アマチュア選抜、CPBL選抜、JABA選抜、NPB選抜レッドを相手に4試合に登板し、防御率0.92の好成績。

途中、臨時コーチとしてチームに帯同した吉見一起氏に金言を授かる場面もあった。

「良いコースにボールを集めるだけがコントロールじゃない、という話を頂きました。前年にシュートを投げ始めた時、お手本にしたのが吉見さんの動画だったので、御本人から直接アドバイスをもらえて嬉しかったです。決勝ではそのシュートで併殺が取れて、結果的にキーになりました」

決勝のNPBレッド戦ではNPB選手を相手に8回まで無失点。9回に本塁打を打たれ、足が痙攣して降板したが、試合後のインタビューで洪一中監督は、小野寺の2024年契約を発表した。

NPB経験のない外国人選手が年間契約を勝ち取るというのは極めて異例のことだ。

アジアウインターリーグでの好投が今季の年間契約をもたらした(本人提供)

ライバルは「BC最強投手」鈴木駿輔

既に台湾のマウンドを踏み、評価を受けて今季に挑む小野寺。その小野寺がBCリーグで常に意識してきたのが、リーグNo.1投手と言われた鈴木駿輔だ。

鈴木駿輔は、野球のエリートコースを歩いてきた。高校は名門聖光学院に入学、甲子園も経験した。青山学院大へ進学しプロを目指していたが、指導者が変わる中で道を見失い、これではいけないと2年で中退を決意。独立リーグへ飛び込むという大きな決断を下した。

筋は通したが、NPBにも影響力を持つ名門大学からの中退で、ドラフト指名は人よりも厳しいと見られた。

「マイナスからの出発でした」と鈴木は振り返る。

BC福島レッドホープスに在籍した2年目、鈴木は投手三冠の素晴らしい成績で一躍ドラフト候補に上がるも、指名はなかった。

「NPBに行くため」同じBCの信濃グランセローズに移籍。翌年に荒西祐大投手兼任コーチ(元オリックス)と出会ったことが、鈴木を大きく成長させた。

「お前はNPBに行きたいという気持ちが前に出過ぎてるから、それを無くせ」荒西にはそう言われた。

「あと言われたのが、ストライクゾーンの9分割の中に強い球を投げれば、見逃すのもストライク、空振りもストライク。9分割のどこかに強い球を投げていけばいいんだと。そう思ったら、自ずと結果に結びついていきました」

ソフトバンクファームとのBC選抜戦で三者三振の熱投を見せた鈴木駿輔

185㎝ 85kgの恵まれた体躯、150キロを超える速球と多彩な変化球。四球も減り、精神面も充実してきた。

2023年は故障で出遅れたが、トレーニングの甲斐もあって、最速153キロだった球速が154キロに上がった。

台湾プロ野球で真価を示す

独立リーグで「マイナスからの挑戦」を続けた鈴木駿輔。だがそこでの5年がなければ今の自分はなかったという。敬遠した球団もあっただろう。

「結果を出してもNPBへは行けない」と言われたこともある。

だが、事情は承知の上で調査書を出す球団があったのも事実だ。2年連続投手三冠、シーズンMVP、2023年には最多奪三振。8月の巨人三軍戦では15奪三振、1-0の完封に抑えた。

可能性を信じて毎年成績を残し続けた鈴木だが、NPBの指名はなかった。

2023ドラフト会議の翌日に、CPBL楽天モンキーズからのオファーが届く。かねてから外国への挑戦を視野に入れていた鈴木は、台湾へ行くことを決めた。

「ここで屈してはいられない」

NPBには指名されなかったが、誰にも負けなかったという自負がある。

楽天モンキーズの一員としてオリックスとの交流戦に登板した鈴木(本人提供)

先に台湾で結果を出した小野寺の存在は、鈴木にとっても刺激になっている。

「台湾の同じリーグでやるというのは、運命だと思いますね」

BCリーグでは地区が違ったため、直接投げ合ったことは数少ない。言葉を交わしたのは、両チームが対決した2023年プレーオフが最初だ。だが、並び称されてきた二人であり、互いに負けたくない思いは強い。

小野寺は言う。「南北のエースと呼ばれるのは嬉しかった。台湾で投げ合えたらいいですね」
鈴木は言う。「小野寺には絶対負けません」

日本独立リーガーの指標へ

チアと応援団が賑やかに応援する楽天モンキーズのスタンド。「台湾スタイル」は日本でも話題に(球団提供)

バランスがよく完成度の高い投手は、NPBドラフトにはかかりにくい。突出した能力のある投手がドラフト候補になる傾向がある。

だが、パワー系投手の多い台湾プロ野球では、制球が良く三振が取れる投手が「ハマる」可能性は高いと球団も期待している。

楽天モンキーズには2024年から監督に就任する古久保健二、二軍にヘッド兼投手コーチの川岸強、台鋼ホークスには投手統括コーチとして横田久則、補佐に福永春吾と日本人指導者が在籍する。どちらも投手コーチが日本で好投手を探し、鈴木、小野寺に白羽の矢を立てた。

NPBドラフトなら指名されにくくなる年齢でも、台湾での外国人選手には関係ない。結果で全てが評価される。

新設の台北ドームに巨人を招いて行われた親善試合には2日間で7万人もの観客が詰めかけた(球団提供)

台湾球界は、八百長事件と再編を経て、国民的な盛り上がりの時期を迎えている。選手のレベルは上がってきており、日本球界や日本のファンに向ける意識も高い。

NPBを経ていない独立リーガーがトップチームで活躍すれば、日本独立リーグの価値を高めることにもなる。新たに海外を目指す選手の指標ともなるだろう。

(取材/文/特記以外の写真・井上尚子、取材協力・台鋼ホークス、楽天モンキーズ)

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