阪神の「公式戦初勝利」は対金鯱戦で、投手藤村富美男の1安打完封、奪三振11。打っても3安打といきなりタダ者ではない片リンをみせた。そのガッツプレーぶりが満天下をしびれさせた…。そのド迫力のプレーは、巨人戦で相手捕手をタックルで脳振とうをおこさせ、病院直行させたというのは有名。
巨人ナインは藤村富を「猛虎」と恐れたが、筆者がその猛虎親父に直接聞いて感激した話をひとつ紹介したい。
戦後すぐ笠置シズ子という歌手がいた。まだ売り出し中の美空ひばりが真似をしたほどの歌手で『東京ブギウギ』が大ヒットした。それを東京遠征の時に話のタネにと当時の日劇に「笠置シズ子ショー」をこっそり藤村さんは一人で観にいったそうだ。
そして思わず観客席の片すみでハラハラと泣いた。猛虎と呼ばれ、巨人選手が道をあけた1メートル73しかない猛虎野郎が何ゆえに笠置シズ子の『東京ブギウギ』に涙したのか?
「観客に全力で自分のすべてをぶつけていく姿…ワシも打席でそうありたい。全身全霊をぶつけて…まだまだワシは未熟だとハッとしたヮ」
この夜、ほとんどの阪神ナインはこの「4・29」が79年前の猛虎魂の誕生日だったということは知らなかったと思う。だけど、岩田稔が粘った。ゴメス、マートンも必死。鳥谷、上本…なぜか熱かった! 藤村富美男がそこに生きていた。