アシドーシスとアルカローシスとは? わかりやすく解説

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アシドーシスとアルカローシス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/19 14:33 UTC 版)

生体の血液の酸塩基平衡は一定のpH (7.4) になるように保たれている。平衡を酸性側にしようとする状態をアシドーシス (en:acidosis)、平衡を塩基性側にしようとする状態をアルカローシス (en:alkalosis) と言う。

血清pHが7.4未満になった(低下した)状態をアシデミア、7.4より上になった(上昇した)状態をアルカレミアと言う。ともに全身の細胞にとっての環境の異常であり、上昇(低下)量が増大すると、死に至ることもあるとともに、これらのpH異常は呼吸不全腎不全など重篤な疾患の結果として生じるため治療の指標になる。このpHの測定は血液ガス分析によってなされる。

  • 代謝性アシドーシスを生じると、吐き気、嘔吐、疲労がよく起こるほか、呼吸が通常より速く、深くなる。
  • 呼吸性アシドーシスを生じると、頭痛や錯乱がみられ、呼吸は浅く、遅くなる。

緩衝系

通常、酸塩基度が厳密に保たれているのは血液中に含まれる緩衝系の働きによる。これはホメオスタシスの代表的な例である。

緩衝系を代表し、最も大きな緩衝効果を持っているのが重炭酸イオン HCO
3
である。水素イオンH+をうけとって

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代謝性アルカローシスの維持機構

尿中のHCO
3
排出を抑制するものがアルカローシスの維持には必要である。頻度としては有効循環血漿量の低下によることが最も多い。

GFRの低下
糸球体濾過量の低下であり、腎不全でおこる。
HCO
3
再吸収亢進
有効循環血漿量の低下や低カリウム血症で起こる。
腎臓におけるHCO
3
産出増加
鉱質コルチコイド過剰、利尿薬の使用、高カルシウム血症、ペニシリン誘導体の投与はアルカローシスの発生機序でもあり維持機構でもある。

代謝性アルカローシスの尿所見

腎機能が正常の場合は尿中のクロールイオン濃度を測定することで原因がわかることもある。尿中Cl濃度が10mEq/L以下の場合は循環血漿量の低下が強く疑われる。このような代謝性アルカローシスの多くは生理食塩水の輸液によって改善が見込め、Cl反応性アルカローシスといわれている。利尿薬を用いていないにもかかわらず、尿中Cl濃度が20mEq/L以上である場合は生理食塩水の輸液では改善が見込めないためCl不応性アルカローシスといわれている。Cl不応性アルカローシスの原因としては膠質コルチコイド過剰であることが多い。

嘔吐による代謝性アルカローシス

嘔吐がおこりHClが体内から失われると、細胞外液が減少し、脈拍の増加などの臨床所見がみられるにもかかわらず、尿中Na濃度は20mEq/L以上である。通常は有効循環血液量が減少すると尿中Na濃度は10mEq/L未満となるのだが、嘔吐ではこのような反応がマスクされる。これはHCO3-排泄のために遠位尿細管でNaやKを分泌するためと考えられている。代わりに嘔吐では尿中Cl濃度が10mEq/L以下となるのが特徴的である。嘔吐が止まると、HCO
3
を排出しなくなるので、まずはNaの再吸収が正常に戻り、その結果水素イオンが分泌されるため、体内はアルカローシスにもかかわらず酸性尿が作られるようになる。この状態では尿中Na濃度は10mEq以上となるがClは依然と低値のままである。有効循環血漿量が改善するとようやく代謝性アルカローシスが改善してくる。通常尿中Clの意義は尿中Naと同様であるが、代謝性アルカローシスの場合は尿中Naが体液量の指標にならず、尿中Clが指標となる。

アルドステロン症による代謝性アルカローシス

アルドステロン症ではアルドステロンの過剰のため、尿中のカリウムイオンの量が極めて多くなり、また酸性尿が生成される。アルドステロン症の代謝性アルカローシスは低カリウム血症によるものと考えられている。カリウムの欠乏がなければ、アルドステロン症であっても代謝性アルカローシスが起こらないか、起こっても比較的軽度である。アルドステロン症による代謝性アルカローシスはCl不応性アルカローシスである。

利尿薬による代謝性アルカローシス

頻度としては高いのはループ利尿薬、例えばフロセミドの多用による代謝性アルカローシスである。このような状態では低カリウム血症にもかかわらず、尿中K濃度が比較的高い(10mEq/L以下ならば低値、こういったときは下剤の乱用も考える)のが特徴である。尿中Cl濃度が高ければ利尿薬乱用の可能性が高まる。しかしそうでなければ、かなり稀ではあるがバーター症候群の可能性がある。バーター症候群と似た臨床像を呈する疾患としてギテルマン症候群がある。両者の鑑別には尿中Ca濃度を測定すればよい。バーター症候群では尿中のCa濃度が上昇していることが多い。フロセミドの乱用(偽性バーター症候群)、バーター症候群ともに尿中Ca濃度が上昇する。これは尿からのカルシウムイオンの排出が促進するからである。高カルシウム血症ではその効果を期待して、多尿であるにもかかわらずフロセミドを治療として用いる。利尿薬による代謝性アルカローシスの場合はアセタゾラミドの投与で改善しうる。副作用としては高アンモニア血症である。アセタゾラミドを250~500mg/day投与する。

代謝性アルカローシスによる血圧降下作用

代謝性アルカローシスは、明らかな血圧降下作用を惹起すると指摘されている。この作用がチアジド系降圧剤の降圧機序の一因子であることが指摘されている[2]

混合性酸塩基障害の検出

酸塩基障害を起こす病体は数多くあり、それらは合併することが非常に多い。そのためには正しく血液ガス分析を行う必要がある。以下にその方法の一例をまとめる。

まずアシデミアがあるのかアルカレミアがあるのかを調べる。基本的に代償機構ではアシデミアがアルカレミアになるような大きな代償は起こらない。アシデミアがある時点で、呼吸性アシドーシスか代謝性アシドーシス、あるいはその両方が最初に起こったと考えてよい。

アシデミアあるいはアルカレミアが代謝性のものなのか、あるいは呼吸性のものなのかを考える。

AG=ナトリウムイオン-(重炭酸イオン+クロールイオン)を計算する。AGが増加していればそれだけで代謝性アシドーシスの存在を意味する。注意すべきはAGは低下する病態が存在することである。具体的には低アルブミン血症、IgG多発性骨髄腫、ブロマイド中毒、高カルシウム血症、高マグネシウム血症、高カリウム血症が存在する。特に低アルブミン血症のためAGの増加がマスクされることはよくあり、アルブミンが1mg/dL低下するごとにAGは2.5~3mEq/L低下することが知られている。これはアルブミンがアニオンであるためである。またAGが増加していれば補正重炭酸イオンを計算する。これは補正重炭酸イオン=重炭酸イオン+ΔAG(ΔAG=AG-12である)で計算され、これは代謝性アシドーシスを来たした陰イオンの増加分がなかったと仮定した場合の重炭酸イオンの値である。

代償性変化が一次性の酸塩基平衡異常に対して予測された範囲内にあるかどうかを検討する。この代償性変化が予測範囲を外れている場合は他の酸塩基平衡異常をきたす病態が存在することを意味する。代償性変化以外の混合性酸塩基異常というものは比較的ありふれた病態であり、代償性変化の予測値を用いることでそれらを検出することができ、血液ガス分析の診断能力をあげることができる。代償性変化の予測値は次のような経験則が知られている。ΔHCO
3
は補正HCO
3
ではなく、測定されたHCO
3
で計算することに注意する。

代謝性アシドーシスの呼吸性代償
ΔpCO2 = 1~1.3 × ΔHCO
3
MAX:pCO2 = 15mmHg
代謝性アルカローシスの呼吸性代償
ΔpCO2 = 0.6~0.7 × ΔHCO
3
MAX:pCO2 = 60mmHg
呼吸性アシドーシスの代謝性代償
急性 ΔHCO
3
= 0.1 × ΔpCO2 MAX:HCO
3
= 30
慢性 ΔHCO
3
= 0.3~0.35 × ΔpCO2 MAX:HCO
3
=42
呼吸性アルカローシスの代謝性代償
急性 ΔHCO
3
= 0.2 × ΔpCO2 MAX:HCO
3
= 18
慢性 ΔHCO
3
= 0.4~0.5 × ΔpCO2 MAX:HCO
3
= 12

なお、通常はΔ計算をおこなうときはHCO
3
は24、pCO2は40、AGは12を正常値として差分をとることが多い。AGの計算は隠れているAG増大性代謝性アシドーシスを検出することである。慢性腎不全のようにAG増大性代謝性アシドーシスと高Cl性代謝性アシドーシスは合併することが知られており、それを見落とさせように補正HCO3を計算する。またアシデミア、アルカレミアに対しては代償性機構が働く。全てのアシドーシス、アルカローシスに働くわけではない。その範囲を予測することで範囲外にあった場合はそれ以外のアシドーシスかアルカローシスが存在すると考える。これが基本的な考え方である。

例えば、慢性腎不全の患者が嘔吐をし、脱水を起こし、アルカレミアとなったときその原因は代謝性アルカローシスであり、代償性呼吸性アシドーシスが起こるのだが、上記プロトコールに当てはめると、AG増大性代謝性アシドーシスと高Cl性代謝性アシドーシスを検出できる。また代償性呼吸性アシドーシスの予測範囲内にパラメータが入っていなければ、それ以外の呼吸障害の合併も考えることができる。このように血液ガス分析を正しく行うことで診断の精度を高めることができ、治療のマネジメントの選択肢を増やすこともできる。例えば、オピオイド投与中の患者で呼吸性アルカローシスの合併をみたら、まだ呼吸抑制が起こっても過呼吸が改善するだけなのでオピオイドを増量できるといったことである。

治療

基本的にはアシドーシス、アルカローシスは病態であり、病名ではないため、治療は原疾患の治療である。

呼吸性アシドーシスの場合は低酸素血症の治療として酸素療法人工呼吸などの治療法を選ぶこともある。

代謝性アシドーシスの治療にはアルカリ剤の投与が行われる。HCO
3
の不足を補うため炭酸水素ナトリウムの投与が行われることが多い。

  • 不足HCO
    3
    (mEq/L) = 体重(Kg) × 0.2 ×(24-測定HCO
    3
  • 不足HCO
    3
    (mEq/L) = 体重(Kg) × 0.2 × B.E

から計算され、まず半分量を投与しpHをみながら追加していく。メイロン(炭酸水素ナトリウムの商品名)で行う場合は単位換算が必要である。7%メイロン20mLでは17mEq/Lであり、8.4%メイロン20mLでは20mEq/Lで計算する。一過性にPaCO2が上昇するため、十分な換気が確保された状態で行う。

呼吸不全時の呼吸性アシドーシスが見られたときかつてはアシドーシスの補正のために重炭酸ナトリウム溶液を点滴するなどの処置がとられていたこともあったが、治療成績に変化はなく単なる補正の意義は小さいことが判明してきた。尿細管アシドーシスは根本的な治療法がないため、経口的に重炭酸ナトリウムを投与し続けることで補正を行っていく。

出典・脚注

  1. ^ CO2ナルコーシス”. 2020.12月1日閲覧。
  2. ^ 竹越襄、高血圧症に関する研究(第I報) : 酸塩基平衡の循環動態因子におよぼす影響についてJapanese Circulation Journal、1968年 32巻 9号 p.1331-1346, doi:10.1253/jcj.32.1331

参考文献

関連項目

外部リンク





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