ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第1番 ヘ短調
英語表記/番号 | 出版情報 | |
---|---|---|
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第1番 ヘ短調 | Sonate für Klavier Nr.1 f-Moll Op.2-1 | 作曲年: 1793-94年 出版年: 1796年 初版出版地/出版社: Artaria |
楽章・曲名 | 演奏時間 | 譜例 | |
---|---|---|---|
1 | 第1楽章 1.Satz Allegro | 4分00秒 | |
2 | 第2楽章 2.Satz Adagio | 5分30秒 | |
3 | 第3楽章 3.Satz Menuetto-Allegretto | 3分00秒 | |
4 | 第4楽章 4.Satz Prestissimo | 4分30秒 |
作品解説
ベートーヴェンはボン時代にネーフェに師事した成果として、既に《3つの選帝侯ソナタ》WoO.47を作曲、出版していたが、作品番号(Opus-Zahl)づけがなされる本格的なソナタの創作に着手したのは1792年にヴィーンでハイドンに師事するようになってからのことである。1793年にハイドンがイギリスへの演奏旅行に出発すると、ベートーヴェンはおそらくボン時代から暖めていたであろう作品の創作に着手する。このソナタもそうしたものの1つで、第2楽章の主題が《ピアノ四重奏曲》WoO.36-3における第2楽章の主題から転用されている。
全4楽章からなり、全楽章がヘ調に統一された構成はバロックの組曲の名残りを感じさせる。またヘ短調という調性の選択は、当時としては異例である。というのも、この時代におそらく用いられていたであろう「テンペラメント」という調律方法(現在の平均律とは異なる)では、調号が4つ以上の調性では響きの濁りが強くなるため、中間楽章の調性としては用いられても、主要楽章の調性としては用いないのが一般的であった。こうした点にも、ベートーヴェンの独創性の一端を垣間見ることができる。
(第1楽章)ヘ短調 2分の2拍子 ソナタ形式
明瞭なアレグロ・ソナタ形式であるが、主題の調性選択に既に後年のベートーヴェンを予感させる試みがみてとれる。提示部と展開部+再現部がそれぞれ反復されるハイドンやモーツァルトのソナタによくみられる、古典的なソナタ形式である。
[提示部]
マンハイム・ジャンプと呼ばれる上行する主和音のアルペッジョと、下降する装飾的な音型、そして1拍目に休符を置くことで拍節感のズレを生み出す和音の刻みによって特徴づけられる主要主題に対し、属音上でなだらかに下降する副次主題は変イ長調である。主調のヘ短調に対し、変イ長調は短3度の関係にあり、一般的な近親調関係では平行調にあたる。
この後、主要主題の分散和音要素と副次主題の下降音型の要素をバス声部とソプラノ声部に共有するもう1つの副次主題が変イ長調であらわれた後、主要主題の変形によるコデッタが置かれ、変イ長調に終止する。
[展開部+再現部]
展開部ではまず主要主題の要素が変イ長調であらわれ、増6の和音を介して変ロ短調へ転調する。下降する副次主題がゼクエンツ風に繰り返され、変ロ短調からハ短調を経由し、変イ長調に転調すると、提示部にはみられなかった楽想が経過的に挿入される。
やがてヘ短調の属音上に主要主題の装飾音型が断片的にあらわれ、再現部を準備する。
装飾音型に導かれて主要主題が再現するが、ここでは冒頭で提示された際と特徴的だった拍節のズレが修正されている。副次主題は共に主調のヘ短調で再現さる。
(第2楽章)ヘ長調 4分の3拍子
アダージョの緩叙楽章。付点八分音符+十六分音符のアウフタクトと6度(または3度)のオブリガートをともなう順次下降の主題が変奏されながら繰り返される。
主調(ヘ長調)から平行調のニ短調、属調のハ長調をめぐり、ヘ長調へ回帰し、じょじょにターンによる装飾と短い音価による装飾が多用されてゆく変奏技法はモーツァルトを彷彿とさせる。
(第3楽章)4分の3拍子 メヌエット:ヘ短調-トリオ:ヘ長調
トリオとダ・カーポを有する典型的なメヌエットだが、調性は第1楽章と同じヘ短調である。6度(および3度)の響きを基調とする仄暗い音響と、ユニゾンによる強奏が対比的に置かれている。
トリオは同主調のヘ長調に転調し、2声および3声の幾分自由な転回可能対位法を用いた楽想が反復される。
(第4楽章)ヘ短調 2分の2拍子 ロンド・ソナタ形式
プレスティッシモのフィナーレは、前半(提示部)と後半(展開部+再現部)がそれぞれ反復されるロンド・ソナタ形式(A-B-A-B-C-A-B-C-A-B)。
[提示部]
三連音符の分散和音上に和音が刻み付けられる主要主題によって開始される。主要主題はこのp(ピアノ)とf(フォルテ)の対比によって特徴付けられる和音動機と、これとは対照的な同音反復と4度跳躍を特徴にもつ3声部書法による動機からなっている。
副次主題は属調のハ短調で提示される。このオクターヴ順次下降する副次主題でも三連音符の分散和音が背景となっている。コーダは主要主題の上下(三連音符の伴奏と和音動機の配置)が転回された形で形成される。
[展開部+再現部]
展開部はまず変イ長調で新たな主題が提示される。1拍目に休符を置く和音の刻みによる伴奏形は第1楽章の主要主題に通じている。この主題がオクターヴ化されるなどして繰り返されたのち、主要主題の三連音符をともなった和音動機が断片的にあらわれ、これに導かれるように再現部に至る。このブリッジ手法も第1楽章と通じているとみてよいだろう。
副次主題も主調のヘ短調で再現され、コーダも同様にヘ短調で簡潔にしめくくられる。
ベネット:ピアノ・ソナタ 第1番 ヘ短調
英語表記/番号 | 出版情報 | |
---|---|---|
ベネット:ピアノ・ソナタ 第1番 ヘ短調 | Piano Sonata No.1 in F minor Op.13 | 作曲年: 1836-37年 出版年: 1838年 初版出版地/出版社: Kistner |
スクリャービン(スクリアビン):ピアノ・ソナタ 第1番 ヘ短調
英語表記/番号 | 出版情報 | |
---|---|---|
スクリャービン(スクリアビン):ピアノ・ソナタ 第1番 ヘ短調 | Sonata for Piano No.1 Op.6 | 作曲年: 1893年 出版年: 1895年 初版出版地/出版社: Belaïev |
楽章・曲名 | 演奏時間 | 譜例 | |
---|---|---|---|
1 | 第1楽章 | No Data | No Image |
2 | 第2楽章 | No Data | No Image |
3 | 第3楽章 | No Data | No Image |
4 | 第4楽章 | No Data | No Image |
作品解説
《ソナタ第1番》は、スクリャービンがモスクワ音楽院の卒業試験を終えて間もない、1892年の夏に書かれた。この時期のスクリャービンは、過度のピアノの練習から右手を麻痺させてしまい、神経衰弱に瀕していた。コンサート・ピアニストを目指す20歳のスクリャービンにとって、それは克服しがたい障壁であった。彼はかつてない敗北感を味わい、人生の価値や宗教、神をめぐり思索するようになる。当時のメモには、このようにある。「私は熱烈に、心の底から祈り、教会に行った…。運命に対して、神に対して叫んだ。〈葬送行進曲〉つきの《ソナタ第1番》を作曲した。」
第1楽章(ヘ短調)は、悲劇的な感情の激発を思わせる第一主題に始まり、対照的に優しく穏やかな第2主題(22~30小節目、変イ長調)とともに、慣習的なソナタ形式のなかで緻密な主題労作がなされる。冒頭とは対照的に長調(へ長調)のppppで閉じられる。
第2楽章(ハ短調)は、静かで悲しげなコラールで始まる。主題を繰り返しながら、徐々に装飾的で繊細なテクスチャーが紡ぎ出されてゆく。第1楽章と同じく長調(ハ長調)で終止する。
第3楽章(ヘ短調)のプレストでは、脈動するリズムで、左手(オクターヴ)のシンコペーションが不穏な楽想を生みだす。スクリャービンはこれを、神や運命を前に屈しての“ропоты(不平のつぶやき)”と呼んだ。この主題が帰還してfffへと激発した後、レントのフレーズが最終楽章への架け橋をする。
第4楽章(ヘ短調)では、葬送の行進のリズムが低音で刻まれ、心の押しつぶされるような旋律が荘重に歌われる。中間部では極めて静かに(Quasi niente)、天上的なハーモニーが聞こえてくる。葬送の歩みが再び始まり、行列が過ぎ去るように静まった後、フォルテの悲痛な終止和音が響く。
メトネル:ピアノ・ソナタ 第1番 ヘ短調
英語表記/番号 | 出版情報 | |
---|---|---|
メトネル:ピアノ・ソナタ 第1番 ヘ短調 | Sonata for piano f moll Op.5 | 作曲年: 1902-03年 出版年: 1904年 初版出版地/出版社: Belaïev |
プロコフィエフ:ピアノ・ソナタ 第1番 ヘ短調
「ピアノ・ソナタ 第1番 ヘ短調」の例文・使い方・用例・文例
- ピアノ・ソナタ 第1番 ヘ短調のページへのリンク