プロトン性溶媒
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/24 00:46 UTC 版)
プロトン性溶媒 (プロトンせいようばい、英語: protic solvent)は、酸素(ヒドロキシ基)や窒素(アミン)等に結合した水素原子を含む溶媒である。一般に、不安定性を持つヒドロン(H+)を含む溶媒はプロトン性溶媒と呼ばれる。そのような溶媒の分子は、プロトン(H+)を容易に供与する。
逆に、非プロトン性溶媒 (ひプロトンせいようばい、英語: aprotic solvent)はプロトンを供与することができない。
プロトン性極性溶媒
プロトン性極性溶媒は、しばしば塩を溶解するために使用される。一般に、これらの溶媒は高い誘電率及び高い極性を有する。
プロトン性溶媒の共通する性質
例としては、水、大部分のアルコール、ギ酸、フッ化水素及びアンモニアが挙げられる。プロトン性極性溶媒はSN1反応には好都合であるが、非プロトン性極性溶媒はSN2反応に好都合である。
非プロトン性極性溶媒
非プロトン性極性溶媒は、酸性水素を欠く溶媒である。従ってそれらは水素結合供与体ではない。これらの溶媒は、一般に中間的な誘電率および極性を持つ。「極性非プロトン性」という用語の使用は推奨されないが、IUPACは、高い誘電率及び高い双極子モーメントの両方を有するような溶媒を記載しており、その例はアセトニトリルである。 IUPACの基準を満たす他の溶媒には、N,N-ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、ジメチルスルホキシド等がある[1]。
非プロトン性溶媒の共通する性質
- 溶媒は水素結合を受け入れられる
- 溶媒は酸性水素を持たない
- 溶媒は塩を溶解する
基準は相対的かつ非常に定性的である。非プロトン性溶媒については、ある範囲の酸性度が認められる。塩を溶解する能力は、塩の性質に強く依存する。
一般的な非プロトン性極性溶媒は、グリニャール試薬やn-ブチルリチウムのような強塩基には使用できない。これらの試薬は、ニトリル、アミド、スルホキシド等ではなく、エーテルを要する。テトラヒドロフランはエーテルであると同時に非プロトン性極性溶媒としての性質を持ち、グリニャール試薬の溶媒としてジエチルエーテルと並んでよく使われる。
主な溶媒の性質
溶媒は、非極性、極性非プロトン性及びプロトン性極性溶媒に定性的に分類され、しばしば誘電率によって並べられる。
溶媒 | 化学式 | 沸点 | 誘電率 | 密度 | 結合双極子モーメント (D) | |
---|---|---|---|---|---|---|
非極性溶媒 | ヘキサン | CH3-CH2-CH2-CH2-CH2-CH3 | 69 ℃ | 2.0 | 0.655 g/mL | 0.00 D |
ベンゼン | C6H6 | 80 ℃ | 2.3 | 0.879 g/ml | 0.00 D | |
トルエン | C6H5CH3 | 111 ℃ | 2.4 | 0.867 g/mL | 0.36 D | |
1,4-ジオキサン | (CH2CH2O)2 | 101 ℃ | 2.3 | 1.033 g/mL | 0.45 D | |
クロロホルム | CHCl3 | 61 ℃ | 4.8 | 1.498 g/mL | 1.04 D | |
ジエチルエーテル | (CH3CH2)2O | 35 ℃ | 4.3 | 0.713 g/mL | 1.15 D | |
非プロトン性極性溶媒 | N-メチルピロリドン | CH3NC(O)C3H6 | 202 ℃ | 32.2 | 1.028 g/mL | 4.1 D |
ジクロロメタン (DCM) | CH2Cl2 | 40 ℃ | 9.1 | 1.3266 g/mL | 1.60 D | |
テトラヒドロフラン (THF) | C4H8O | 66 ℃ | 7.5 | 0.886 g/mL | 1.75 D | |
酢酸エチル (EtOAc) | CH3CO2CH2CH3 | 77 ℃ | 6.0 | 0.894 g/mL | 1.78 D | |
アセトン | CH3C(O)CH3 | 56 ℃ | 21 | 0.786 g/mL | 2.88 D | |
ジメチルホルムアミド (DMF) | HC(O)N(CH3)2 | 153 ℃ | 38 | 0.944 g/mL | 3.82 D | |
アセトニトリル (MeCN) | CH3CN | 82 ℃ | 37 | 0.786 g/mL | 3.92 D | |
ジメチルスルホキシド (DMSO) | CH3S(O)CH3 | 189 ℃ | 47 | 1.092 g/mL | 3.96 D | |
炭酸プロピレン (PC) | C4H6O3 | 242 ℃ | 64 | 1.205 g/mL | 4.90 D | |
プロトン性極性溶媒 | ギ酸 | HCO2H | 101 ℃ | 58 | 1.21 g/mL | 1.41 D |
n-ブタノール | CH3CH2CH2CH2OH | 118 ℃ | 18 | 0.810 g/mL | 1.63 D | |
イソプロパノール (IPA) | (CH3)2CH(OH) | 82 ℃ | 18 | 0.785 g/mL | 1.66 D | |
ニトロメタン | CH3NO2 | 100–103 ℃ | 35.87 | 1.1371 g/mL | 3.56 D | |
エタノール (EtOH) | CH3CH2OH | 79 ℃ | 24.55 | 0.789 g/mL | 1.69 D | |
メタノール (MeOH) | CH3OH | 65 ℃ | 33 | 0.791 g/mL | 1.70 D | |
酢酸 (AcOH) | CH3-CO2H | 118 ℃ | 6.2 | 1.049 g/mL | 1.74 D | |
水 | H2O | 100 ℃ | 80 | 1.000 g/mL | 1.85 D |
関連項目
出典
- Loudon, G. Mark. Organic Chemistry 4th ed. New York: Oxford University Press. 2002. pg 317.
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