ワーキングメモリの訓練
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/18 12:28 UTC 版)
「注意欠陥・多動性障害」の記事における「ワーキングメモリの訓練」の解説
21世紀となりワーキングメモリにおける障害は、ADHDの主要な障害または中間表現型であることが明らかにされた。神経生理学的にはADHDは脳の前頭葉とドーパミン・システムの機能変化と関係がありえる。(Castellanos and Tannock, 2002; Martinussen et al., 2005) スウェーデン、カロリンスカ医科大学のクリングバーグらは、コンピュータによる訓練方法を開発し、2つの研究 (Klingberg et al. 2002, Klingberg et al., 2005) においてワーキングメモリーが訓練により改善可能であり、ADHDの症状を、精神刺激薬に匹敵する効果量にて軽減することを明らかにした。当時の同大学学長であり、世界的なエイズ研究者であるハンス・ウィグゼルは、医学を専門とする同大学ベンチャー・ファンドとしては初めて新薬以外の分野として事業化を支援し、2009年現在スウェーデンでは約1000校の小学校(約15%)において、米国では約100クリニックにて、それぞれ年間3000人以上の児童・成人のADHD改善トレーニングが行われている。 日本では、2007年夏より約半年間のえじそんくらぶによるワーキングメモリートレーニング評価プロジェクトとして開始された。2008年日本発達障害ネットワーク年次大会にブース出展があり、関係方面への紹介がされた。日本では2009年、コグメド・ジャパンがワーキングメモリトレーニングを提供している。 英ヨーク大学のギャザコール、英ノーザンブリア大学のホームズらは、コグメドのワーキングメモリ訓練を使い、訓練プログラムと、精神刺激薬による薬物療法の2種の介入にて、ADHDをもつ児童のワーキングメモリ機能への影響を評価した。薬物療法が視空間のワーキングメモリだけ改善した一方で、訓練はすべてのワーキングメモリ要素(言語も加えたワーキングメモリと短期記憶)で大幅な改善をもたらし効果は6ヶ月後も持続した。IQ成績はいずれの介入でも変化しなかった。議論のなかで、「断然に最もドラマティックなワーキングメモリの改善はワーキングメモリトレーニングで観察された。測定されたワーキングメモリのすべての構成要素で有意で大幅な改善が見られ、それぞれにおいて、グループの児童を同年代の平均以下のレベルから平均以内のレベルにもっていった」と報告し、トレーニングによる視空間・言語すべての要素のワーキングメモリへの全体的な改善が、教室の言語中心の環境における多くの学習活動でワーキングメモリへの重い負荷にしばしば耐えられない児童にとって重要で実用的な利益となろう、としている (Joni Holmes, Susan E. Gathercole 2009)。
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