倫理の曖昧さ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/04/24 00:32 UTC 版)
ファンタジーのジャンルの一般的なテーマといえば善と悪との戦いであるが、マーティンはこのようなトールキン以後のファンタジーの慣行も仮定も無視する。『指輪物語』は悪役を汚い黒い衣装で具現化したが、マーティンは、トールキンの模倣者達が善と悪の戦いをステレオタイプ的な決まりごとに単純化し過ぎだと感じる。現実世界で善や悪に対峙する時のように、マーティンは人の贖罪と性格の変貌を掘り下げる。時につれて、当初は好ましかった人物が非難すべき行動をとり、明らかに悪役だった人物が共感を呼ぶようになる。簡単にヒーローを見つけることは出来ず、不完全な動機を持つが時には共感できるような多くの登場人物の群舞がくりひろげられる。 マーティンは、オークや天使よりも白黒はっきりしない登場人物に魅かれ、一面ではヒーローである人物を他の面では悪役として描く。<壁〉の〈冥夜の守人〉(〈夜警団〉)は、英雄であるが犯罪者でもある、黒衣をまとう者として描かれるが、彼らはファンタジーのステレオタイプを慎重に捻った類型である。さらに言えば、善なる〈冥夜の守人〉を黒い色で象徴させ、腐敗した〈王の盾〉に白い色を使っているのは、善に明るい色を用い、悪に暗い色を用いるファンタジーの伝統に反したものである。普遍的に愛される、あるいは嫌われるような架空の登場人物というものは、現実には余りに一次元的であるため、マーティンは読者が物語に入りこめるように、登場人物が多くの面を持つように描く。作品内での行動から、読者は誰が善で誰が悪なのかを自分自身が判断することになる。登場人物は多くの視点から、多くの面を描かれ、他のファンタジーと違い、悪役もまた自らの視点を提供する。実際に、歴史上のほぼすべての人間は自らの行動を正当化し、その敵を悪役と見なしてきたわけである。現実では、誰が善で誰が悪なのかを見極めるのは難しく、歴史上もっとも暗い悪役が時には善行を行い、偉大な英雄が弱さと欠点を備えていたわけである。
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