再発見と名声の獲得
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/30 07:21 UTC 版)
「カノン (パッヘルベル)」の記事における「再発見と名声の獲得」の解説
このカノン(ジーグ抜きで)は1919年に学者のグスタフ・ベックマンがパッヘルベルの室内楽に関する論文の中にスコアを載せる形ではじめて出版された。ベックマンの研究を支持した古楽研究者で編曲者のマックス・ザイフェルトは、1929年にカノンとジーグを編曲して自分のオルガヌム・シリーズのひとつとして出版した。しかしザイフェルト版には原曲にはない多数のアーティキュレーションと強弱法の記号が加えられていた。さらにザイフェルトは自分が正しいと考えるテンポを指定したが、後の研究ではこの速度は支持されていない。カノンはアーサー・フィードラーによって1940年にはじめて録音された。 1968年、ジャン=フランソワ・パイヤールの室内管弦楽団によって録音された版がこの曲の運命を大きく変えた。これはよりロマン的な演奏スタイルで、それまでの演奏よりも顕著に遅いテンポをとり、パイヤール本人によって書かれたオブリガートのパートを含んでいた。パイヤールの録音は6月にフランスでエラートからLP盤としてリリースされ、パイヤール室内管弦楽団によるヨハン・フリードリヒ・ファッシュのトランペット協奏曲ほかのパッヘルベルとファッシュの作品も含まれていた。同年、通信販売用のレーベルであるMusical Heritage Societyから大量販売されたアルバムにもカノンは含まれていた。 1968年7月、ギリシャのバンドであるアフロディテス・チャイルドはシングル「雨と涙 (Rain and Tears)」をリリースしたが、この曲はパッヘルベルのカノンのバロック=ロック翻案だった。このバンドは当時フランスを中心に活動していたが、彼らがパイヤール盤を聴いたことがあったかは不明である。「雨と涙」は成功し、ヨーロッパのさまざまな国でポップスのヒットチャートの1位に輝いた。数か月後の1968年10月、スペインのバンドであるPop-topsはシングル「Oh Lord, Why Lord」をリリースしたが、これもパッヘルベルのカノンにもとづいていた。この場合も彼らが同年の先行する録音を知っていたかどうかはわからない。「Oh Lord, Why Lord」はアメリカのバンドパーラメントが1970年のアルバム「オズミウム」の中でカバーしている。 1970年、サンフランシスコのクラシック音楽ラジオ局がパイヤール版をかけたところ、リスナーからのリクエストが殺到した。パッヘルベルのカノンは特にカリフォルニア州において人気を獲得した。1974年、この曲の人気を知ったロンドンレコードは、1961年にシュトゥットガルト室内管弦楽団によって演奏されたコレッリ『クリスマス協奏曲』のアルバムの中にたまたまパッヘルベルのカノンが収録されていたのを、『パッヘルベルのカノン:この曲を有名にしたレコード、および他のバロック名曲集』(Pachelbel Kanon: the Record That Made it Famous and other Baroque Favorites)という名前に変えて再販した。このレコードは1976年のクラシック・アルバムでもっともよく売れた。この成功によって他のさまざまなレーベルが独自の録音をリリースするようになり、それらもよく売れた。 1977年、RCAのレッドシール・レーベルがエラート盤をアメリカ合衆国ほかで再販した。アメリカでは同年6番目に売れたクラシック・アルバムになった(同年販売されたパッヘルベルのカノンを含むレコードのうち、シュトゥットガルト版は17位、同じパイヤール版を含むGo For Baroque!は13位だった)。パイヤール版は1980年の映画『普通の人々』で突出して使われた。エラート/RCAのアルバムはビルボードのクラシック・アルバムのヒットチャートを昇りつづけ、1982年1月に1位に到達、1982年5月まで連続1位だったが、同じパッヘルベルのカノンを含むクリストファー・ホグウッド指揮アカデミー室内管弦楽団の版によって1位の座を奪われた。カノンは1980年のアメリカのPBSテレビシリーズ『コスモス』の音楽としても使われた。サウンドトラックはThe Music of Cosmosの題で1981年にRCAレコードからレコードが、2000年にはコスモス・スタジオのレーベルでCDがリリースされた。ここで使われているカノンはグレン・スプリーンとジェームズ・ゴールウェイの編曲による。 1982年、ピアニストのジョージ・ウィンストンは、独奏ピアノアルバムDecemberの中に「ヨハン・パッヘルベルのカノンによる変奏曲」を含めたが、このアルバムは300万枚以上売れた[要出典]。
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