拡張格子
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/17 19:41 UTC 版)
「DNAナノテクノロジー」の記事における「拡張格子」の解説
DXアレイのアセンブリ。(左): 模式図。一本の棒が一つのDNA二重らせんドメインにあたる。棒の両端の凸部と凹部はそれぞれ二種類あり、相補的な相手とのみ結合する粘着末端を表している。上から来たDX複合体が下方に集まっているDX複合体に加わって2次元アレイを作る。(右): 完成したアレイの原子間力顕微鏡像。集合的な構造に含まれる個々のDXタイルが明確に見える。視野は一辺150 nm。 フラクタルパターンを持つ非周期2次元格子の例。(左): フラクタル図形の一つ、シェルピンスキーのギャスケット。(右): 表面に一種のシェルピンスキー・ギャスケットが現れたDNAアレイ。 小さい核酸複合体に粘着末端を持たせて互いに結合させると、分子をタイルとした充填パターンを持つ大きな2次元周期格子が得られる。この種の構造で最初のものは基本タイルとしてDX複合体を使用していた。DX複合体が持つ四つの粘着末端の塩基配列をデザインすることで、複合体がユニットとなって周期的に配列し、剛性を持つ2次元DNA結晶とみなせる平坦な2次元シートを構成する仕組みだった(右図上)。ほかのモチーフを用いた2次元配列も作製されており、ホリデイ・ジャンクション菱形格子や、double-cohesionスキームによる様々なDXベースアレイなどがある。右に示す画像の上から2つはタイルベース周期格子の例を示している。 2次元アレイには、そのアセンブリがある種のアルゴリズムを内包するような非周期構造を取らせることも可能である。これはDNAコンピューティングの1つの形である。粘着末端の塩基配列の選び方によっては、DX複合体はワンのタイルとなって演算処理を行えるようになる。実際に、DXアレイのアセンブリにXOR演算をエンコードすることでDNAアレイをセル・オートマトンとし、シェルピンスキーのギャスケットと呼ばれるフラクタル構造を生成させた例がある(右図上から3番目)。ほかにも、DNAアレイの構造を2進数と対応させ、アレイの成長とともに数が増加していくバイナリカウンタシステムを作った例がある。これらの結果はDNAアレイのアセンブリに計算処理が組み込めることを実証している。 DXアレイから中空のナノチューブを形成することも行われている。チューブの直径は4–20 nmで、2次元格子が反って丸まったものとみられる。サイズと形状はカーボンナノチューブ (CNT) に近い。DNAナノチューブはCNTのように電気伝導性は持たない代わりに、構造を変更したり他の構造と連結することが容易である。DNAナノチューブの作製スキームはいくつもあり、曲率を持つDXタイルに格子を組ませて丸まったチューブを作る方法はその一つである。輪を描いた一本鎖をタイルとすることでチューブの周長を固定する方法もあり、そこではチューブの剛性は創発的に生じる。 DNAによって3次元格子を作ることはDNAナノテクノロジーの初期から目標とされてきたが、実現は非常に難しかった。2009年になってようやく、張力と圧縮力をバランスさせるテンセグリティの概念に基づくモチーフによって実現されたことが報告された。
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