昭和以降の需要供給、流通
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/02 15:49 UTC 版)
地域的な利用差がある状況は、第二次世界大戦終結まで基本的には変化が無く続いた。日本近海で操業するロシア捕鯨船が日本で鯨肉を販売して利益を上げていたことなどから、西日本を中心に一定の需要はあったものと考えられる。消費の多い大阪へははるばる北海道からの輸送も行われていた。他方、東日本においては一部の沿岸地域を除いて鯨肉食は広まらず、捕鯨会社の肝いりで東京に開かれた鯨肉料理専門店が繁盛せずに倒産した例もある。それでも全体として見ると鯨肉食はさらに広まっていたようで、現存する統計の範囲で比較すると鯨肉生産量は1924年には1万トンであったのが、1930年には3万トン、1939年には4万5千トンに伸びている。なお、鯨肉食の文化の無い地域を対象に、捕鯨産業の振興策の一環として鯨肉利用の宣伝が行われたこともあった。 1934年(昭和9年)には、日本も南極海の捕鯨に参入した。当初は沿岸捕鯨で生産される鯨肉価格への悪影響を考慮して製品の持ち帰りを制限したうえ、日本では冷凍設備が未発達であったことから赤肉はほとんど利用されず廃棄された。日中戦争が激化すると食糧増産の要請から鯨肉の持ち帰り制限が緩和され、日本最初の大型冷凍船も導入されるなどしたが、太平洋戦争開始により南極海捕鯨自体が停止に追い込まれた。他方、沿岸捕鯨による鯨肉供給は戦時中も続いていた。 第二次世界大戦後の食糧難時代以降になると、流通保存技術の進歩もあって限られた流通圏を越え、日本中に鯨肉食が広まった。鯨カツ、鯨ステーキ、鯨カレーなどの鯨肉料理の大半は、牛肉や豚肉の入手が困難だった時代に、鯨肉を代用獣肉という位置づけの食材として使ったものである。戦後しばらくは、鯨肉は魚肉練り物製品とともに安価な代用肉の代名詞であり、日本人の重要なたんぱく質源として食生活の中で重要な位置を占めた。このため牛肉が値下がりし、鮮魚が安値を取り戻した1950年頃には鯨肉がだぶつき始め、大洋漁業の冷凍庫には93万貫(1貫=3.75kg)以上のストック(約三億円相当)が貯まった。会社側は販路開拓を行い、台湾に缶詰として輸出することに成功している。 その後も生産量は大きく伸び1958年には13万8千トン、ピークの1962年には22万6千トンであった。戦後を生き抜いた人々の間では「鯨肉=代用=安物」といった偏見・嫌悪感もある一方で、当時へのノスタルジーを惹起する食材でもある。 特に鯨の竜田揚げは、戦後の学校給食を代表するメニューとして語られる。「鯨の南部揚げ」と給食のメニュー表に表記する学校もあった。ただし小学生にとっては必ずしも好まれていた肉種ではなく、1951年に東京都立衛生研究所が行った調査では、小学生が学校給食で嫌いな肉として挙げたのは豚肉16%、牛肉7%、鯨肉23%で、鯨肉を嫌いと挙げている小学生が突出して多い。23%の内訳は男子9%、女子14%と女子が多く、当時の東京都立衛生研究所は「巨大な鯨に関する乙女心の感傷の表現であるかも知れない」と考察している。1970年代まで大半の小・中学校で一般的だったが一時激減し、1987年の南極海での商業捕鯨中止などでさらに激減した。2017年の雑誌の記事に掲載された日本鯨類研究所の広報課の証言によると、1987年の商業捕鯨モラトリアムに日本は反対したが、アメリカから「反対するなら、アメリカの周辺の海でタラをとらせない」と圧力を掛けられ、異議申し立てを撤回した。 近年は急速冷凍の技術が発達したことにより、刺身や韓国風生肉料理ユッケとして供されることも多い。 1987年の商業捕鯨中止などで激減した鯨肉の学校給食が徐々に復活し、給食を実施している全国の公立小・中学校約2万9600校のうち、2009年度に一度でも鯨肉の給食を出した学校は、18%に当たる5355校になった。使われる鯨肉は南極海で捕れたクロミンククジラなどで、メニューは竜田揚げが目立ち、カツやケチャップなどでつくるオーロラソースあえなどがある。背景には、調査捕鯨で捕獲した在庫がだぶつき、消費拡大のため給食用に割安で提供されていることや、食文化の継承の為という意味があるとされる。 2016年度の和歌山県の公立小学校では、30あるうち22の市町で鯨肉の献立の給食を実施した。1校あたり年間1回から5回程度で、メニューは主に竜田揚げであった。かつて捕鯨基地のあった山口県下関市の場合は、下関市農林水産振興部水産課によると、2016年度は年12回、月1回の割合で鯨肉の給食を実施、12回のうち半分は全市一斉で、残りの6回は各地域ごとの実施になった。献立の1番人気のメニューは竜田揚げであり、鯨カレー、鯨の炊き込みごはんなども提供。給食は学校保健給食課の管轄で、本来は水産課が関わるところではないが、学校給食で鯨肉を食べてもらいたいとの思いから、水産課で鯨肉購入などの支援をしている。 2019年7月の日本の商業捕鯨再開に際し、水産庁が設定した年間捕獲枠は、ミンククジラ171頭、ニタリクジラ187頭、イワシクジラ25頭となっており、鯨体の大きさ・得られる肉の量から、当面日本で流通する鯨肉はニタリクジラ肉が中心となる。
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