時間と歴史
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/15 04:39 UTC 版)
ムーアは自身が個人的に持っているテーマが我々が時間として知覚するものだと述べている。時間の感覚への関心はコミックで時間を表現するための様々な実験に現れており、歴史のテーマとも結びついている。 私は物事をつとめて四次元的に見ようとしている。時間が四つ目の次元だとみなすなら、我々一人一人の存在意義、我々の生の意義をわずかにでも実感するには、それらの生がどこから来たのか、我々がどうやってここにたどり着いたのかを、個人のレベルであっても、あるいは文化や国家、旧石器時代にまで続く歴史のすべてであったとしても、必ず知らなければならない。私はそういうことに惹きつけられる。 —アラン・ムーア(“The Dark Side of the Moore: An Interview”、2003年) 時間を含む四次元時空全体を一つの連続体としてとらえる視点はムーア作品によく登場する。たとえば『ウォッチメン』では時代の異なるシーンを集めてコラージュする手法が使われている。読者はそれによって、登場人物が過去に行った選択と、その波紋が残る現在を同時に見て取り、一人の全存在をいちどきに把握する。同作のDr.マンハッタンはこの時空観を体現したキャラクターで、常に過去・現在・未来を同時に知覚する能力を持っている。その特異な感覚はコミックという媒体の特性を生かした「現在の連続(→continuous present)」の語りによって表現される。未来が歴史の中であらかじめ定められているという視点は決定論とニヒリズムに傾きうるものだが、マンハッタンは逆に、混沌の中から偶発的に人間存在が発生するプロセスの全体に意味を見出す。時空的な全体性の感覚が生に意味を与える可能性となるというアイディアはそれ以降の作品でも扱われている。 『フロム・ヘル』ではこの時空観がオカルトとの関連で見直される。作中では数学者チャールズ・ヒントンの論説 What is the Fourth Dimension?(→第四の次元とは何か?)(1884年)が引かれ、時空連続体の持つ構造を読み取るためには通常の時空の外に立たなければいけないというアイディアが提示される。 … 時間は人間の幻想だというのだ。すべての時間は途方もなく巨大な永遠の中に同時に存在する。… 永遠のモノリスの内なる四次元的パターンは三次元的な存在にはつながりのない無関係な事物に見えるのだそうだ。 —『フロム・ヘル』(2009年) ムーアは同作で、読者がまだ知らない未来の断片をあらかじめ開示する構成によって、読み進めるうちに無関係な事物がだんだんと明確なパターンをなしていく感覚を作り出している。オカルト的な時間の描写はたとえそれと気づかずとも私たちを形作っている歴史のメタファーとして機能している。
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