言語の発展
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/05 06:07 UTC 版)
1905年にフランスのブローニュで開催された第1回世界エスペラント大会で、『エスペラントの基礎』の変更を制限する宣言が採択された。宣言は、言語の基礎をザメンホフが出版した『エスペラントの基礎』(Fundamento de Esperanto、フンダメント・デ・エスペラント)から変更してはならないとし、いかなる者もこれを変える権利を有しないとした。この宣言は使用者が適当と思うように新しい考えを発表しても良いとしている。 しかしながら実際には、現代のエスペラントの使い方は『エスペラントの基礎』で示された「お手本」と完全に一緒というわけではない。たとえば「私はこれが好きです。」の一文をエスペラント文に翻訳するときを例に説明する。『エスペラントの基礎』に沿って訳せば"Mi amas ĉi tiun."(ミ アーマス チ ティーウン)となるが,これは「私はこれを愛しています。」の意味となり、少し意味が強すぎてふさわしくないと感じるエスペランティストが多く、実際には"Mi ŝatas ĉi tiun."(ミ シャータス チ ティーウン)で代用することが多いが、これは元来「私はこれを高く評価します。」という意味であり、元の意味からは少しずれている(ただし,現行の辞書では動詞"ŝati"を「好きだ」の意味で使うことを追認している)。また、"Ĉi tiu plaĉas al mi."(チ ティーウ プラーチャス アル ミ)と訳すこともある。逐語訳すれば「これは私に気に入る」であり、完全に同じ意味ではないが、こちらの訳の方が「私はこれが好きです。」の意味に近い。 ほかの慣習的な変化としては、国名を表す接尾辞が -uj- から -i- が主流に変わったことがある(例:Japanujo → Japanio)。また、厳密に言えば、エスペラント化された単語のうち -a で終わる単語はすべて形容詞であるが、ヨーロッパ諸語での Maria のように -a で終わる名前が使われることがあり、これを慣習的にエスペラント化された名詞として認められる辞書もある。ただし、『エスペラントの基礎』に従うなら、エスペラント化された名詞は、すべて Mario のように -o で終わらなければならないはずであり、この立場をとる辞書もある。またĥの発音がとりわけ難しいとされてkに置き換えられる など、語形変化も起こっている。 加えてエスペランティストたちは、新しく登場した事物や概念、外来語を表すために、さまざまな新語を取り入れた。たとえば1934年発行の "Plena Vortaro" は7,004項目(ほぼ語根)からなるが、2005年発行の "La Nova Plena Ilustrita Vortaro" は1万6,780項目からなる。これらはそのまま使うのではなく、可能な限りエスペラントの造語法などに従った形で取り込まれている。たとえば、コンピュータ (computer) はkomputilo(コンプティーロ)といった具合である(道具を意味する接尾辞 -il- を使っている)。これにより、テレビやウェブやWindowsやMacなど、ザメンホフの時代には存在しなかった事物も自由に表現できるようになっている。たとえば、「CD-ROMの中のbinというフォルダにあるボールペンのアイコンをダブルクリックするとウィンドウズにワープロのプログラムやファイル、フォントなどがインストールされます。このときインターネットに自動的にアクセスするので、通信を許可するようにファイアウォールを設定してください。」といった文章も、現代のエスペラントでは表現できるのである。 新語の導入はエスペランティストなら誰でも提案することができ、最終的には一種の「競争原理」を勝ち抜いてもっとも頻繁に使われるようになったものが受け入れられる。たとえば「コンピュータ」に関しても、komputatoro、komputero などさまざまな提案が行われた が,最終的にエスペランティストにとってもっとも簡潔と思われる komputilo が勝ち残ったのである(この際,動詞 komputi「計数・計量する」に「計算機で計算(演算)する」という意味が付け加えられた)。エスペラントの言語としての統制機関としてアカデミーオ・デ・エスペラントが在るが、個々のエスペランティストに厳しい制約を設けるようなことはしていない。 新語はどんなものでも受け入れられるとは限らない。たとえば「安い」を意味する新語 ĉipa(チーパ・英語の cheap に由来)は、長たらしい malmultekosta(マルムルテコスタ:mal/multe/kost/a=「(反対)・多く・費用・(形容詞)」)に代わるものとして造られたが、あまり使われていない。
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