帝国
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用語
概要
何を「帝国」と呼ぶかは、源・分野・立場・各国語間の翻訳などもあり、様々な見解や用例がある。
日本において「帝国」と訳される英語の empire の語について、Oxford English Dictionary は「一つの組織によって制御される複数の国や州の集合体」[20]と説明し、Webster's Encyclopedic Unabridged Dictionary は「皇帝または他の強力な統治者や政府によって支配される、通常は単一の王国より広大な範囲の地域や人々の集合体」[21]と説明する。これらの説明によれば、連続した領域の単独による支配に限らず、植民地帝国のように母国から遠く離れた複数の領域の支配も含まれる。比喩的な用法では「帝国」の語は、多国籍企業などの巨大企業や、一人または複数の指導者により支配される政治組織などにも使用されている[20]。また「帝国」の語は、帝国主義や植民地主義、グローバリゼーションなどの概念とも関連付けられて使用されている。帝国主義の影響は現代の世界にも存在し続けている[22] 。また「帝国」の語はしばしば、圧倒的な支配状況に対する不満の語としても使用されている[23]。
帝国の政治構造は、以下の2形態に大別する事ができる。
- 力による直接的な征服や統治による、単一領域の帝国。
- 力による非直接的な征服や統治による、強制力のある単一の覇権帝国。
前者は直接的な政治的支配により大きな利益が得られるが、一定の守備隊用の軍備を要するため更なる拡大には限界がある。後者は非直接的な支配により利益は少ないが、更なる拡大のための軍備が可能である[24]。領域的な「帝国」は、連続した領土の場合もあるが、制海権を得た海洋帝国は少ない労力で広大な領域も可能である。「帝国」は通常は「王国」より広大なものを指すが、何を「帝国」または「王国」と訳すかは、各国語間で時代や観点にもより多くの議論がある。
古代から中世にかけての帝国においては、帝国の外部の人間は全て非文明的な野蛮人であり、彼らを征服によって帝国の傘下に置くことは、その者たちに真の文明と信仰を与えることだ、とする普遍性への熱望によって、征服は道徳的に正当化された[25]。もっと後の近代になると、これに民族的なものと人種的なものという二つの観念が複雑に結びつけられ、更なる膨張への強烈な心的衝動が生まれた[25]。
以下の記載では、歴史的・一般的に「帝国」と呼ばれているものを記載する。
政治学・歴史学
帝国であるための主な要件は、
- 中央政権の力が実質的に及ぶ範囲が判然とせず、明確な境界線を持たないこと[26][27][28][29][30]
- 中央政権とは異なる背景を持った独自の地方政権または集団と共存し、それら多様な集団を中央政権が法や宗教を通して間接的に束ねる多層的な支配であること[26][31][28][29][30]
である。より簡略には、前者は「複数の国に跨る」または「通常の国より広範な」、後者は「複数の民族を含む」などとも表現される。帝国の支配体制は複合君主制や複合君主制を代行する属州総督制あるいは連邦的な分権支配によって特徴づけられる[28][32]。帝国には明確な境界線がないため、その支配は単一の国家を超えて無制限に膨張しようとする傾向がある[29][33]。そして帝国が周辺地域への拡張を続けるならば、新たに取り込んだ周辺地域によって、帝国には更なる多様性が再生産される。ローマ帝国、神聖ローマ帝国、イギリス帝国、中国の諸王朝などが典型的な帝国である[26]。
そのほか、「強力な軍隊が整備されていること[34][35]」や「統治の正統性を保証する理念を持つこと[34]」、「世界経済における支配的勢力であること[36]」などを一般的な特徴として挙げる者もいる。
一方、中央政府が明確な領域内で軍隊や警察といった物理的強制手段を独占する一元的支配は、国民国家と呼ばれて帝国とは区別される[26][37][38]。近世・近代以降に誕生した「皇帝」を君主号として国号を「帝国」とした国々のほとんどは、分類上は帝国ではなく国民国家である[26][39]。
地政学
アメリカ合衆国を「意図せざる形の帝国」と呼び、その強大な力ゆえに世界全体に影響力が波及している。現在、アメリカ合衆国は全ての海洋を掌握し、世界の貿易システムを方向付けている。帝国とは、国家の存続要件を次々と満たしていくうちに、最終的にアメリカ合衆国やローマ帝国のように強大な力を持つ。大半の国は国家の存続要件や戦略的な目標を満たせるほど、国力やそれを裏打ちする地理性、領土を持ち合わせていない。例として、日本は太平洋を支配する事で海上交通路を確保できるが、アメリカ合衆国は全ての海洋を支配する事を大戦略上の目標にするので、日米の利害は衝突する場合がある。など、その国の地理性や隣接する国によって国家の行動は制約される。アメリカ合衆国は太平洋と大西洋の両方に面する北米を領土とし、アルフレッド・セイヤー・マハンが提唱する〝海洋を制するものが世界を制する〟という海洋戦略を推進し続けている。[40]
経済学
市場そのものが強大な力を振るい、国を解体し、企業国家が成立するという予測がある。これは超市場主義と呼ばれ、市場が際限なき利益の追求を開始し、テクノロジーの進歩と平行し、競争率や超格差社会、更には移民の到来や紛争などの要素が加わり市場が隅々まで利益を吸い上げるシステムを構築する。個人は発展途上国などの消費力の弱いそれでも、その消費力に合わせた価格の商品が生み出され、株などの金融商品もそれに含まれ、世界全体にその市場が網羅される。格差社会は激化していくうちに、貧困層が保守性に傾くようになり、(社会階層を参照)競争率が激化する事で人材はプライベートを圧迫され、より高度な職業能力を獲得するために教養に割く時間が増大していく。社会不安の増大も相まって、娯楽産業と保険業界は、格差が激化し他の業界での消費が落ち込む中でも、最も成長率が高い業界になるという。[41]
宗教学・神話学
神の国・神の帝国
神の国または神の王国は、一神教(ユダヤ教の旧約聖書とキリスト教の新約聖書)に通底している「領域」概念および「支配」概念であり[42]、「神の帝国」とも表記される[43][44]。英語では「エンパイア・オブ・ゴッド」("empire of God")[45][46]、「ゴッズ・エンパイア」("God's Empire")[47]。
一神教では唯一神が「唯一の皇帝」("sole emperor")[48]、「王の中の王」("king of kings" 諸王の王)[49]、「真の皇帝」("the true emperor")[50]、「全人類の皇帝」("Emperor of all mankind")等と呼称されている[51]。旧約聖書から連なる一神教にとっては、唯一の神が「宇宙で唯一の正当な王者」であり、人間は神だけを崇拝するべきだとされる[52]。
比喩・自称
実質的には「帝国」ではない比喩的用法としては、独裁国家、中央集権国家のほか、政治的な一人の人物や集団によって支配される多国籍企業などの巨大企業や、国家的または地域的な政治的組織(アテナイ海上帝国とも例えられるデロス同盟など)を指す場合もある[20]。ウラジーミル・レーニンの「帝国主義論」や、マルクス・レーニン主義によるアメリカ帝国主義論などは、この流れである。
巨大企業例では、ロックフェラー帝国[53][54]、マイクロソフト帝国[55][56]、Google帝国[57]、ディズニー帝国[58]がある。
また自称としては、規模的には帝国とはとても呼べないような小国・単一民族国家が、帝国を自称した場合がある。
注釈
- ^ 出典『大辞林』原文:
皇帝の支配する国家
[1]。出典『デジタル大辞泉』原文:皇帝の統治する国家
[2]。 - ^ 語源辞典の原文は"territory subject to an emperor's rule"で、14世紀中頃の英単語であり、その語源をさらに遡るとラテン語の「インペリウム」に行き着く(出典は"empire (n.)")。
- ^ 帝政ローマは実質的に「帝政」なのにも関わらず、名目的には共和制である。
- ^ インペリウムはエンペラー(Emperor、「帝王、皇帝」)などの語源でもある。
- ^ 現在のオランダ語では"Keizerdom"は、"Imperial Church"を指す言葉になっている。nl:keizerdom
- ^ 宮殿を有する都市国家が殷に先立って存在し(二里頭遺跡)、史書に当てはめれば夏王朝に相当する。
- ^ 上記のように、通常「東ローマ皇帝」「ビザンツ皇帝」などと呼ぶ
- ^ これはもともとコンスタンティノポリスの政府が主張していた理念でもある
- ^ 日本では古来より国名に関する法が制定された事が一度も無い。日本政府が現在でも使用する国璽(国の印)には「大日本國璽(大日本国)」と彫られている。
出典
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