木綿 木綿の概要

木綿

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/19 11:12 UTC 版)

収穫期の綿
走査型電子顕微鏡で見た木綿繊維

ワタとはアオイ科ワタ属多年草の総称で、木綿は種子の周りに付いている。繊維としては伸びにくく丈夫であり、吸湿性があって肌触りもよい。このため、現代では下着などによく使われるが、縮みやすいという欠点もある。主成分はセルロースである。

単に綿(めん)とも言う。摘み取った状態までのものが棉、種子を取り除いた後の状態のものが綿だが、区別しないことも多い。

ただし、「綿」と書いて「わた」と読むのは、本来は塊状の繊維全般を指す語である。布団座布団の中身を繊維の種類を問わず「綿(わた)」と呼ぶが、これはその本来の用法である。古くは、中でも真綿の原料)を意味することが多かった。

性質

綿の種子は硬い蒴果の中にあり、成熟するにつれ、はじけて綿花が現れる。蒴果の内部は隔壁によって数室に分かれ、各室に数個の種子があり、それに綿毛が密生している。この綿毛は外皮細胞が変形したもので、綿の種類によって長短に分かれる。

生の綿毛、つまり生きた表皮細胞性の単細胞突起の時期においては、細胞壁でできた長い管の中に水(実際には細胞原形質やそのさらに内側の巨大化した液胞)を入れたようなものである。熟するにつれて細胞が死滅し、内部の水分が涸れて細胞本体の入っていた部分は中空になる。さらに繰綿すれば管内の水分は全く乾燥して、この過程で減少しつつある細胞の水分の凝集力によって空洞に強く陰圧が働き、さらに細胞壁内のセルロースミクロチュブールの走行方向の影響もあって綿毛が自然によじれる。綿を顕微鏡で観察した際に見られるよじれはこのようにできる。

材料

綿花は開花後、成熟した蒴果が開裂し、綿毛に覆われた種子(実綿,seed)が出てくる。綿毛には長く伸びた繊維と短い地毛(fuzz)がある。繰綿機で実綿から分離された長繊維をリント(lint)または繰綿(ginned cotton)と呼び、次いで地毛除去機を用いて分離した地毛主体の短繊維をリンター(linter)または繰屑綿と呼ぶ。 リントは紡績して綿糸綿織物製品や装飾品、または不織布あるいはそのままの形で医療・衛生用品、ぬいぐるみ等の充填物(中綿)として広く使用される。 リンターは繊維が短く紡績原料とはならないが、リンターパルプレーヨン、セルロース誘導体調製の原料として重要である。

栽培

コットン・ピッカーによる収穫風景

綿花の栽培には降のない長い季節と、600mmから1200mm程度の降水量が必要とされる。この条件を満たすのは熱帯から亜熱帯にかけての湿潤・半乾燥地帯であるが、現在では灌漑の発達により、ウズベキスタンなどより降水量の少ない地域でも大規模な綿花栽培が行われるようになってきている。生産された綿花はコットン・ピッカーなどの収穫機械により収穫されるが、アフリカなどの開発途上国では手摘みによって収穫されている。収穫された綿花は長方形または円筒形のモジュールと呼ばれる形に固められる。モジュールを作成する専用の機器モジュールビルダーが存在するほか、ジョン・ディアやケースIHの現行機種は収穫とモジュール作成を同時に行えるようになっている。

オーガニックコットン

環境保護を目的として、サリー・フォックス英語版が提唱し[1][2]、1980年代にアメリカ合衆国でオーガニックコットン英語: Organic Cotton)と呼ばれるコットンの生産活動が始まった[3]化学肥料を3年以上使用していない農地において有機栽培されたコットンをオーガニックコットンと呼ぶ[3]

化学肥料を使わないため、農業従事者の健康への負荷が少なく、収穫を手作業で行えば石油資源や機械も消費しないので持続可能性な社会へシフトして行くのに有効な手段の1つではないかと考えられている[3]

2016年時点では全コットンの生産量のうちオーガニックコットンは1パーセントに留まっており、オーガニックコットンの70パーセントはインドの農場で栽培されている[3]

コットンとオーガニックコットンの製品の間には、科学的に区別可能な違いはない[4][5]

「オーガニック」と称される製品には次のようなものが混在しており、意味の統一された用語とはなっていない[6]

  • 原綿が有機農法の認証を受けているもの
  • 原綿および製品が有機農法の認証を受けているもの
  • 認証によらず自称しているもの

豊島 (繊維商社)は、オーガニックコットンの生産割合を10パーセントに拡大することを目標として、2006年より社会貢献プロジェクト「オーガビッツ(Orgabits)」を展開している[3]。環境汚染を「ちょっと(bits)ずつ」改善していこうという意味合いである[3]


注釈

  1. ^ 西尾市天竹町(てんじく=天竺)と言われるが、『日本後紀』には三河国としか書いてない。
  2. ^ 現在のインドを指すとも考えられるが、真偽・詳細は不詳。「天竹神社」参照。

出典

  1. ^ サリー・フォックス女史”. ライフアファ. 2022年12月3日閲覧。
  2. ^ Sally Fox: サリーフォックス”. 大正紡績. 2022年12月3日閲覧。
  3. ^ a b c d e f Hiromi Kajiyama「ORGABITS! オーガニックコットンというROCKな思想」『GINZA (ギンザ)』2016年12月号、マガジンハウス、2016年、155頁。 
  4. ^ 平成 21 年度情報業務における「オーガニック・コットン表示ガイドライン策定に係る調査」 報告書” (PDF). 中小企業基盤整備機構. p. 3 (2010年2月). 2022年12月1日閲覧。
  5. ^ オーガニックコットンって何がいいの?メリット・デメリットとおすすめコットンインナー|キレイラボ - KIREILABO |グンゼ株式会社”. 2022年12月1日閲覧。
  6. ^ オーガニックコットンについて - 日本オーガニックコットン協会”. 2022年12月1日閲覧。
  7. ^ The Biology of Gossypium hirsutum L. and Gossypium barbadense L. (cotton)
  8. ^ Stein, Burton (1998). A History of India. Blackwell Publishing. ISBN 0631205462. page 47
  9. ^ Wisseman & Williams, page 127
  10. ^ The Columbia Encyclopedia, Sixth Edition. cotton.
  11. ^ "cotton". The Columbia Encyclopedia, Sixth Edition. 2001-07.
  12. ^ Encyclopaedia Islamica Foundation. بنیاد دائره المعارف اسلامی Archived 2009年6月30日, at the Wayback Machine., Retrieved on 28 February 2009; The original Persian text: تاریخچهٔ پنبه در ایران احتمالاً به دوران هخامنشیان بازمی گردد، اما دربارة کاشت پنبه پیش از دورة اسلامی ایران اطلاعات معتبر اندکی در دست است. ] به نوشتة مؤلف حدودالعالم (ح ۳۷۲)، در مرو، ری و ناحیة فارس کشت پنبه رواج داشته‌است (ص ۹۴، ۱۳۰، ۱۴۲). همچنین اشارات متعددی به پنبه در آثار شاعران، بویژه شاهنامة فردوسی (کتاب سوم، ج ۵، ص ۱۴۷۵ـ ۱۴۷۶، کتاب چهارم، ج ۶، ص ۱۹۹۹، ۲۰۰۴) وجود دارد. در قرن هفتم / سیزدهم، مارکوپولو به محصولات عمدة ایران از جمله پنبه اشاره می‌کند (ج ۱، ص ۸۴) [. ژان شاردن، جهانگرد مشهور فرانسوی در قرن یازدهم / هفدهم، که از ایران دورة صفویه بازدید کرده، وجود کشتزارهای وسیع پنبه را تأیید کرده‌است (ج ۲، ص ۷۱۲).
  13. ^ Fisher, F.B., 1932 That Strange Little Brown Man Gandhi, New York: Ray Long & Richard Smith, Inc., pp 154–156
  14. ^ a b 坂本勉『トルコ民族主義』(講談社現代新書、1996年)p.132
  15. ^ 坂本勉・鈴木董(編)『新書イスラームの世界史<3> イスラーム復興はなるか』(講談社現代新書、1993年)p.178
  16. ^ 坂本(1996)、pp.133-135.
  17. ^ 坂本・鈴木(1993)、p.182.
  18. ^ Stephen Yafa (2004). Cotton: The Biography of a Revolutionary Fiber. Penguin (Non-Classics). pp. 16. ISBN 0-14-303722-6 
  19. ^ Boletin Archived 2008年9月25日, at the Wayback Machine., (スペイン語) Retrieved July 17, 2008
  20. ^ 『日本後紀』巻八「桓武帝紀」。
  21. ^ 『類聚国史』百九十九殊俗の部。高楠順次郎「日本文明に於ける外来の原素」『心の花』第十一巻一号、竹柏会、1907年5月
  22. ^ Fiber History
  23. ^ Land, Power, and Poverty: Agrarian Transformation and Political Conflict, Charles D. Brockett, ISBN 0813386950, Google.com p. 46
  24. ^ Liese M. Perrin (2001). “Resisting Reproduction: Reconsidering Slave Contraception in the Old South”. Journal of American Studies (Cambridge University Press) 35: 255–274. doi:10.1017/S0021875801006612. http://www.jstor.org/stable/27556967. 
  25. ^ "Out of Africa: Cotton and Cash", article by Usain Bolt in the New York Times, 14 January 2007
  26. ^ a b National Cotton Council of America - Rankings
  27. ^ Three largest producing states of important crops” (PDF). 2008年4月6日閲覧。
  28. ^ Jasper Womach (2004). [http://www.nationalaglawcenter.org/assets/crs/RL32442.pdf “Cotton Production and Support in the United States”]. CRS Report for Congress. http://www.nationalaglawcenter.org/assets/crs/RL32442.pdf. 
  29. ^ Siebert, JB et al. (1996). “26”. Cotton production manual. ANR Publications. p. 366. ISBN 9781879906099. https://books.google.co.jp/books?id=TllcVXmnLlEC&pg=PA366&lpg=PA366&dq=&redir_esc=y&hl=ja 
  30. ^ <震災7年半>実れ 復興の綿花(上) 生産者/前例なき栽培に挑む河北新報
  31. ^ United States — Subsidies on Upland Cotton, World Trade Organization, accessed 2 October 2006
  32. ^ United States - Subsidies on Upland Cotton, World Trade Organization, accessed 2 October 2006
  33. ^ The Environmental Justice Foundation. "Environmental Justice Foundation: Reports on Cotton" retrieved February 22nd, 2010
  34. ^ Market: Cotton, UNCTAD, accessed 2 October 2006
  35. ^ Transportation Information Service of Germany, Gesamtverband der Deutschen Versicherungswirtschaft e.V. (GDV), Berlin, Transport Information Service (TIS) - Cargo, Packaging, Containers, Loss prevention, Marine insurance, 2002-2006
  36. ^ 日比暉「実用面から見た綿繊維の特性」『繊維学会誌』第62巻第7号、繊維学会、2006年、188-192頁、doi:10.2115/fiber.62.P_188 
  37. ^ 白井汪芳「天然繊維」『繊維学会誌』第59巻第6号、繊維学会、2003年、191-195頁、doi:10.2115/fiber.59.P_191 
  38. ^ 原田隆司; 黒木富男「綿衣料の特性と商品展開」『繊維製品消費科学』第24巻第4号、日本繊維製品消費科学会、1983年、130-134頁、doi:10.11419/senshoshi1960.24.130 
  39. ^ 野外まめ知識」『きゃんぷOSAKA』第85号、大阪府キャンプ協会、2013年7月15日、5頁。 
  40. ^ 安田武; 田中宮子; 山内和子; 渡辺恵子「登山用肌着の吸水性に関する考察」『繊維製品消費科学』第4巻第3号、日本繊維製品消費科学会、1963年、150-152頁、doi:10.11419/senshoshi1960.4.150 
  41. ^ アパレル散歩道 第35回: ものつくり原点回帰シリーズ -繊維 その2-”. ニッセンケン品質評価センター (2022年2月1日). 2023年7月14日閲覧。
  42. ^ 安部田貞治「反応染料で染色した綿製品の変退色と色泣き」『繊維機械学会誌』第36巻第2号、日本繊維機械学会、1983年、150-154頁、doi:10.4188/transjtmsj.36.2_P150 






木綿と同じ種類の言葉


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「木綿」の関連用語

木綿のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



木綿のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの木綿 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS