木綿
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ワタとはアオイ科ワタ属の多年草の総称で、木綿は種子の周りに付いている。繊維としては伸びにくく丈夫であり、吸湿性があって肌触りもよい。このため、現代では下着などによく使われるが、縮みやすいという欠点もある。主成分はセルロースである。
単に棉・綿(めん)とも言う。摘み取った状態までのものが棉、種子を取り除いた後の状態のものが綿だが、区別しないことも多い。
ただし、「綿」と書いて「わた」と読むのは、本来は塊状の繊維全般を指す語である。布団や座布団の中身を繊維の種類を問わず「綿(わた)」と呼ぶが、これはその本来の用法である。古くは、中でも真綿(絹の原料)を意味することが多かった。
性質
綿の種子は硬い蒴果の中にあり、成熟するにつれ、はじけて綿花が現れる。蒴果の内部は隔壁によって数室に分かれ、各室に数個の種子があり、それに綿毛が密生している。この綿毛は外皮細胞が変形したもので、綿の種類によって長短に分かれる。
生の綿毛、つまり生きた表皮細胞性の単細胞突起の時期においては、細胞壁でできた長い管の中に水(実際には細胞原形質やそのさらに内側の巨大化した液胞)を入れたようなものである。熟するにつれて細胞が死滅し、内部の水分が涸れて細胞本体の入っていた部分は中空になる。さらに繰綿すれば管内の水分は全く乾燥して、この過程で減少しつつある細胞の水分の凝集力によって空洞に強く陰圧が働き、さらに細胞壁内のセルロースミクロチュブールの走行方向の影響もあって綿毛が自然によじれる。綿を顕微鏡で観察した際に見られるよじれはこのようにできる。
材料
綿花は開花後、成熟した蒴果が開裂し、綿毛に覆われた種子(実綿,seed)が出てくる。綿毛には長く伸びた繊維と短い地毛(fuzz)がある。繰綿機で実綿から分離された長繊維をリント(lint)または繰綿(ginned cotton)と呼び、次いで地毛除去機を用いて分離した地毛主体の短繊維をリンター(linter)または繰屑綿と呼ぶ。 リントは紡績して綿糸、紐、綿織物製品や装飾品、または不織布あるいはそのままの形で医療・衛生用品、ぬいぐるみ等の充填物(中綿)として広く使用される。 リンターは繊維が短く紡績原料とはならないが、リンターパルプ、レーヨン、セルロース誘導体調製の原料として重要である。
栽培
綿花の栽培には降霜のない長い季節と、600mmから1200mm程度の降水量が必要とされる。この条件を満たすのは熱帯から亜熱帯にかけての湿潤・半乾燥地帯であるが、現在では灌漑の発達により、ウズベキスタンなどより降水量の少ない地域でも大規模な綿花栽培が行われるようになってきている。生産された綿花はコットン・ピッカーなどの収穫機械により収穫されるが、アフリカなどの開発途上国では手摘みによって収穫されている。収穫された綿花は長方形または円筒形のモジュールと呼ばれる形に固められる。モジュールを作成する専用の機器モジュールビルダーが存在するほか、ジョン・ディアやケースIHの現行機種は収穫とモジュール作成を同時に行えるようになっている。
オーガニックコットン
環境保護を目的として、サリー・フォックスが提唱し[1][2]、1980年代にアメリカ合衆国でオーガニックコットン(英語: Organic Cotton)と呼ばれるコットンの生産活動が始まった[3]。化学肥料を3年以上使用していない農地において有機栽培されたコットンをオーガニックコットンと呼ぶ[3]。
化学肥料を使わないため、農業従事者の健康への負荷が少なく、収穫を手作業で行えば石油資源や機械も消費しないので持続可能性な社会へシフトして行くのに有効な手段の1つではないかと考えられている[3]。
2016年時点では全コットンの生産量のうちオーガニックコットンは1パーセントに留まっており、オーガニックコットンの70パーセントはインドの農場で栽培されている[3]。
コットンとオーガニックコットンの製品の間には、科学的に区別可能な違いはない[4][5]。
「オーガニック」と称される製品には次のようなものが混在しており、意味の統一された用語とはなっていない[6]。
- 原綿が有機農法の認証を受けているもの
- 原綿および製品が有機農法の認証を受けているもの
- 認証によらず自称しているもの
豊島 (繊維商社)は、オーガニックコットンの生産割合を10パーセントに拡大することを目標として、2006年より社会貢献プロジェクト「オーガビッツ(Orgabits)」を展開している[3]。環境汚染を「ちょっと(bits)ずつ」改善していこうという意味合いである[3]。
注釈
出典
- ^ “サリー・フォックス女史”. ライフアファ. 2022年12月3日閲覧。
- ^ “Sally Fox: サリーフォックス”. 大正紡績. 2022年12月3日閲覧。
- ^ a b c d e f Hiromi Kajiyama「ORGABITS! オーガニックコットンというROCKな思想」『GINZA (ギンザ)』2016年12月号、マガジンハウス、2016年、155頁。
- ^ “平成 21 年度情報業務における「オーガニック・コットン表示ガイドライン策定に係る調査」 報告書” (PDF). 中小企業基盤整備機構. p. 3 (2010年2月). 2022年12月1日閲覧。
- ^ “オーガニックコットンって何がいいの?メリット・デメリットとおすすめコットンインナー|キレイラボ - KIREILABO |グンゼ株式会社”. 2022年12月1日閲覧。
- ^ “オーガニックコットンについて - 日本オーガニックコットン協会”. 2022年12月1日閲覧。
- ^ The Biology of Gossypium hirsutum L. and Gossypium barbadense L. (cotton)
- ^ Stein, Burton (1998). A History of India. Blackwell Publishing. ISBN 0631205462. page 47
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- ^ The Columbia Encyclopedia, Sixth Edition. cotton.
- ^ "cotton". The Columbia Encyclopedia, Sixth Edition. 2001-07.
- ^ Encyclopaedia Islamica Foundation. بنیاد دائره المعارف اسلامی Archived 2009年6月30日, at the Wayback Machine., Retrieved on 28 February 2009; The original Persian text: تاریخچهٔ پنبه در ایران احتمالاً به دوران هخامنشیان بازمی گردد، اما دربارة کاشت پنبه پیش از دورة اسلامی ایران اطلاعات معتبر اندکی در دست است. ] به نوشتة مؤلف حدودالعالم (ح ۳۷۲)، در مرو، ری و ناحیة فارس کشت پنبه رواج داشتهاست (ص ۹۴، ۱۳۰، ۱۴۲). همچنین اشارات متعددی به پنبه در آثار شاعران، بویژه شاهنامة فردوسی (کتاب سوم، ج ۵، ص ۱۴۷۵ـ ۱۴۷۶، کتاب چهارم، ج ۶، ص ۱۹۹۹، ۲۰۰۴) وجود دارد. در قرن هفتم / سیزدهم، مارکوپولو به محصولات عمدة ایران از جمله پنبه اشاره میکند (ج ۱، ص ۸۴) [. ژان شاردن، جهانگرد مشهور فرانسوی در قرن یازدهم / هفدهم، که از ایران دورة صفویه بازدید کرده، وجود کشتزارهای وسیع پنبه را تأیید کردهاست (ج ۲، ص ۷۱۲).
- ^ Fisher, F.B., 1932 That Strange Little Brown Man Gandhi, New York: Ray Long & Richard Smith, Inc., pp 154–156
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- ^ 坂本勉・鈴木董(編)『新書イスラームの世界史<3> イスラーム復興はなるか』(講談社現代新書、1993年)p.178
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