高所平気症
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/02 07:21 UTC 版)
概要
読んで字の如く、高い所での恐怖感が少ない症状。高所恐怖症でなくとも、転落する危険のある場所や自分の身長より遥かに高い場所では不安や緊張を感じるのが通常の心理であるが、そのような感覚が欠けている状態を「高所平気症」と呼ぶ。4歳頃までに高層階で育った子供は、高所に対する恐怖感が欠如してしまうことがある[2]。
日本の財団法人未来工学研究所が1985年(昭和60年)2月に行った調査によれば、高層集合住宅の4階以上に住む小学生342人に対して行ったアンケートにおいて、7割以上が「ベランダや窓から下を見ても怖くない」と回答したという[3][4]。同研究所の資料情報室長であった佐久川日菜子が「高所平気症」と名付けた[5]。1987年(昭和62年)から高層住宅に住む児童の自立の遅れについて研究を行っていた[6]東京大学医学部助手(当時)の織田正昭も、この語を用い始め、さまざまな文献で言及した[7][8][9]。
危険性
高所平気症であれば、ベランダや屋上から下を見下ろしても恐怖感が現れないことから、転落事故(落下事故) (Falling (accident)) を誘発することがある。特に幼すぎる子供はこの種の事故を起こす可能性が高く、事例はあまりにも多い[10][11]。マンションの高層階から子供が転落する事故は後を絶たず、日本の消防(東京消防庁『救急搬送データ』〈平成27年~令和元年〉[12][13])によると、2015年(平成27年)から2019年(令和元年)までの5年間で、5歳以下の転落事故は東京都と大阪府で70件以上発生している[12][13]。
異論
「高所平気症」は、あくまで教育研究者が広めた用語であり、医学関係者や医療関係者が認めているわけではなく、医学および医療の対象としている事例を見出すことはできない。そもそも、医学関係者や医療関係者が「高所平気症」について言及している例を探すこと自体が困難であるが、数少ない例として見付けることができるのは以下のような否定的意見であり、指摘されている問題は社会的に関心を持って対応すべき[14]としながらも、用語のほうは「用いるべきでない」としている[14]。
- 病気でない[1][14]にもかかわらず「恐怖症」と称するのは不適当である。
- 平気かどうかを判断する能力自体が育っていない幼児にも使っている点で「平気」という言葉の選択が不適当である[14]。
- しかも、「それが平気なのは本人の問題」との間違った解釈をされる危険性がある[14]。
- ^ a b 大場 200711, 2007年時点で用語があることを知らなかったクリニック院長の例。抜粋「実は初めて耳にした言葉であり、又小児科医に聞いても、誰も知らない名前で、マスコミ情報を参考にした回答であることを、まずお断りしておきます。」「これが病気なのかどうかとの質問ですが、現段階では問題にしているのが、教育研究者などで、医学界では、殆んど知られていない状態であり、また医療で治療対象になるわけでもない状態ですから、医学上の病気だとは言えないと思われます。ただ、高層マンション入居の子供達に起きる可能性のある変化であり、その対策として意識的に外で遊ばせることが重要だとの指摘は、子供の生育上考慮すべきことだと思われます。」
- ^ a b 「高所“平気”症の子供たちが急増中? 高層マンション暮らしで怖さ薄れ…転落事故も続々と」『産経新聞』産業経済新聞社、2015年10月19日。2022年7月4日閲覧。
- ^ 未来工学研究所 1985 [要ページ番号]
- ^ 『朝日新聞』朝日新聞社東京本社、1985年6月13日〈夕刊 第17面〉。2022年7月5日閲覧。
- ^ 甲斐良一(医事ジャーナリスト)「高所平気症 30階のベランダが子供の遊び場に < 感覚が危ない 91」『日刊スポーツ』日刊スポーツ新聞社、1998年2月3日〈第29面〉。2022年7月4日閲覧。オリジナルの2001年1月18日時点におけるアーカイブ。
- ^ Oda et al. 1989.
- ^ 織田 1990a.
- ^ 織田 1990b.
- ^ 織田 1990c.
- ^ a b 「子供の転落死多発、背景に「高所平気症」 高層階で生活…恐怖心育たぬケースも」『産経新聞』産業経済新聞社、2016年4月13日。2022年7月4日閲覧。
- ^ a b 今関忠馬「まさに奇跡としか・・・幼児がマンション15階から地面に転落も、軽傷ですむ=中国」『サーチナ』株式会社サーチナ、2017年3月25日。2022年7月4日閲覧。
- ^ a b 消費者庁 20200704.
- ^ a b c 荒 芳弘 (2021年12月14日). “子どもの転落事故やまず コロナ下のベランダ活用に注意が必要です。”. REDS. 株式会社不動産流通システム. 2022年7月27日閲覧。
- ^ a b c d e 山中龍宏 20211102.
- ^ a b olegcricket (28 January 2017). SAVAGE in Hong Kong (動画共有サービス). YouTube. 該当時間: 00分57秒. 2022年7月4日閲覧。※一例として。
- ^ a b まなみん「超高層ビルの屋上から転落死。26歳中国人YouTuberの呉永寧さんが13m下のバルコニーに落下」『HoTrendMedia』、2017年12月19日。2022年7月4日閲覧。
- ^ a b c 「中国・超高層ビル転落死の波紋…「自撮り」の悲劇は世界各地で」『産経新聞』産業経済新聞社、2018年1月14日。2022年7月4日閲覧。
- ^ a b c 「エクストリームスポーツとして62階建てビルからぶら下がって懸垂していた男性が転落死」『GIGAZINE』株式会社OSA、2017年12月13日。2022年7月4日閲覧。
- ^ a b c ヒューマンバグ大学_闇の漫画 (27 May 2020). 【転落死】高所で危険な自撮りをする男。死亡フラグを回収して...落下。 (動画共有サービス). YouTube. 該当時間: 04分06秒. 2022年7月4日閲覧。
- ^ HMV 織田.
- ^ “研究員紹介”. 未来工学研究所. 2022年7月27日閲覧。
- ^ “未来工学研究所”. researchmap. 科学技術振興機構 (JST). 2022年7月27日閲覧。
- ^ 「【動画】“百獣の王”武井壮の弱点がついに発覚「高所恐怖症」」『ORICON NEWS』オリコン株式会社、2014年10月7日。2022年7月5日閲覧。※「軽い高所恐怖症の」武井壮がバンジージャンプのオファーを断り切れず、“見事に高所恐怖症をぶっ倒して弱点を克服した”という例。
- ^ 「高所恐怖症の加藤浩次、決死のダイブに拍手喝采 “居眠り”鈴木紗理奈もとばっちり」『modelpress(モデルプレス)』株式会社ネットネイティブ、2015年7月26日。2022年7月5日閲覧。※「高所恐怖症の」加藤浩次がバンジージャンプに挑まされるも、番組コンセプトの「本気」を旨に“見事、気合いで苦手を克服してやりとげ”、拍手喝采を浴びるという美談。
- ^ “「林間学校SP」で高所恐怖症続出! バンジーで顔面崩壊したのは!?:青春高校3年C組”. テレ東プラス. テレビ東京 (2018年8月10日). 2022年7月5日閲覧。※高校3年生の学級という設定の番組で、林間学校にてバンジージャンプを強行し、高所恐怖症の発症者を続出させてしまいました(笑)というノリの例。
- ^ 高橋暁子(成蹊大学客員教授、ITジャーナリスト)「あまりに危険な自撮りが招く最低最悪の結末」『東洋経済オンライン』東洋経済新報社、2018年12月15日。2022年7月4日閲覧。
固有名詞の分類
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