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F-15E (航空機)

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F-15E ストライクイーグル

F-15Eは、マクドネル・ダグラス社(現ボーイング社)が開発した戦闘爆撃機マルチロール機)である。愛称はストライクイーグル(Strike Eagle:攻撃する鷲、の意味)。

概要

アメリカ空軍のF-15E

マクドネル・ダグラス社(当時)がF-111の後継機として開発した、F-15制空戦闘機の改良・派生型で、第4.5世代ジェット戦闘機に分類される直列複座(後席は兵装システム士官)の戦闘爆撃機である。1986年の初飛行後、1989年より量産機の運用を開始した。湾岸戦争イラク戦争などの実戦にも参加している。

F-15B/Dとの外見の差はほとんどないが、搭載量の増加や機体寿命の延長のための再設計は機体構造全体の6割に及び、電子装置類の大幅な更新も考え合わせると、内部はほぼ別の機体となっている。

コンフォーマルタンクと呼ばれる固定増槽を装備した副次効果で得た多数のハードポイントとF-15譲りの充分な余剰推力により発揮される兵装搭載量の大きさ、及び、同じくF-15からそのまま受け継いだ対空戦闘能力が大きな特徴といえる機体である。

1989年12月よりアメリカ空軍が運用を開始し、他にもサウジアラビアイスラエル韓国シンガポールで運用中である。

アメリカ空軍では、搭載可能兵器の多様性と大搭載量への評価から、F-22F-35Aと共に主力戦闘爆撃機として2035年まで全戦力を運用し続ける予定。輸出向けの生産は現在も続けられている。

開発の経緯

F-15は、大型の機体と強力なエンジンによりミサイル8発を装備した上でなお離陸重量や機動に対する機体強度に余裕があるため、マクドネル・ダグラス(現ボーイング)社は本格的な対地攻撃能力の付与、すなわち搭載兵装増量が可能と見て戦闘攻撃機型の研究を続けていた。

1981年3月にアメリカ空軍F-111の後継機として、敵領空の奥深くに侵入する能力を持つ機体を求める複合任務戦闘機計画「DRFプロジェクト」を発表した。マクドネル・ダグラス社は空軍より借用したF-15B(複座型原型2号機:71-0291)をベースにプロトタイプとしてF-15の当初能力を上回る爆装の可能なF-15を開発した[1]。これに対してジェネラル・ダイナミクス社は、F-16をベースに炭素繊維材料を使用して胴体の延長やクランクトアローデルタ翼への変更を行いペイロードを増やしたF-16XLを開発している。

比較審査の結果、「被弾時生存率、兵装搭載量、将来の拡張性、生産コストの総額[2]」で優位となったF-15プロトタイプを選択し、F-15Eととして開発することとした。1986年12月11日に初飛行を行い、1988年4月に正式に部隊配備された。

制式化にあたり航空迷彩をF-15のグレー塗装からプロトタイプの暗緑色を経て暗色塗装へ変更[3]している。

現在、F-15Eはアメリカ空軍の他、サウジアラビア(F-15S)、イスラエル(F-15I)、大韓民国(F-15K)、シンガポール(F-15SG)が派生型を運用している。

F-15Bをベースとした試作機
爆装した試作機
その搭載可能重量の大きさが分かる

特徴

離陸するF-15E
F-15Eのコンフォーマルタンク
前部にパイロット、後部に兵装システム士官が搭乗する複座型のコックピット
多様に兵装したF-15E
基本設計
原型機であるF-15は、胴体下の専用ランチャーと主翼下ハードポイント脇のサイドレールに空対空ミサイルを装備する構成であり、胴体下及び両主翼下の大型パイロンミサイル装備に関係無く各々2,000kgを超える充分な搭載能力を保持している。しかしF-111の後継となる戦闘爆撃機とするにあたり、より大きい搭載能力と機体寿命の増進、低高度での高速侵攻への対応を求められた。制空戦闘機として求められた高高度での運動性確保のための大きな主翼は低高度での地形追随飛行の際、濃密な大気下での突風の影響を強く受け、機体構造への負担を大きなものにする。
これに対し、F-15Eでは構造強化のために機体の60%を再設計[4]し、最大離陸重量を6t増強した上に機体寿命を16,000時間に引き上げた[5]。これによる機体フレームの重量増はチタニウム比率を増加することによりF-15Dの60lb(約30kg)増に抑えている[4]。また、運用重量増加に伴い主脚の強化とホイールの大型化、アメリカ製の軍用機で初めてラジアルタイヤを採用している[4]
F-15よりも側面部が丸く見える外見は胴体横の部分にコンフォーマル・フューエル・タンクを装備していることによる。F-15はパイロンにミサイルを搭載しないが、爆弾増槽についてはどちらをパイロンに装着するかの選択肢となる。F-15Cは配備当初から当時はFASTパックと呼称されていたコンフォーマル・フューエル・タンクに対応していたが、要撃任務においては不必要であるため利用されていない。コンフォーマルタンクを利用することにより、戦闘爆撃機では最長である航続距離を実現すると同時にハードポイントを攻撃装備に開放している。さらに搭載するType-4コンフォーマルタンク自体に縦2列3段の6個のハードポイントを持つため、兵装搭載用のハードポイントはF-15Cの7箇所から19箇所に増えている。ただし、コンフォーマルタンクのハードポイントと胴体左右の空対空ミサイル用ランチャーの同時使用はできない。また、従来型ではほとんど使用されなかった主翼外側の電子戦装備用ハードポイントを廃止した代わりに、左右空気取り入れ口下に各1箇所のハードポイントを追加している。
操縦機器類は前席のみに装備されるが、兵装システム士官(WSO:Weapon System Officer)の搭乗する後席にも緊急用の操縦装置を持ち、後席中心部に設置された操縦桿の両脇にレーダー・兵装操作用のコントロールスティックを配置している。
エンジン
Alternative Fighter Engine(AFE)プログラムにより、プラット・アンド・ホイットニー F100およびゼネラル・エレクトリック F110に対応したエンジンベイを持つ。両エンジンともエンジン制御をデジタル化しており、整備性や耐久性も向上している[6]
当初搭載したエンジンはF100-PW-220だったが、135号機以降は性能強化型のF100-PW-229に変更されている。
アビオニクス
F-15Eはレーダー合成開口能力を備えたAN/APG-70を採用しており、目標地点周囲の地図を瞬時に作成する機能を持つ。
また、インテーク下の専用ハードポイントに、航法用ポッドと照準用ポッド英語版からなるLANTIRNポッド(暗視装置、レーザー照射装置、地形追従レーダー)を常時搭載しており、航法用ポッドAN/AAQ-13の地形追従レーダーと自動操縦システムを連動させて低空侵攻を支援し、また、前方監視用の赤外線センサーの出力とも合わせて飛行可能経路をHUDに表示する事で、夜間における複雑な山間部飛行をも可能としている。照準用ポッドは当初AN/AAQ-14を装備していたが、現在ではこれに代わって改良型のAN/AAQ-33 スナイパーXRを装備しており、JDAMのようなGPS誘導兵器の照準も可能になった。また、胴体下のパイロンに装備するAN/AXQ-14データリンクポッドまたはこれを改良して開発されたAN/ZSW-1はGBU-15及びAGM-130英語版の誘導を可能としている。
A-D型はアナログ計器を多数搭載しているが、E型では3つ(後席では4つ)の多機能ディスプレイ(一部はカラー化されている)と中央部にあるコマンド入力装置で構成されたグラスコックピットとなっている。また、統合戦術情報伝達システム(JTIDS)を装備することで、他のF-15EやAWACS、その他ユニット(イージス艦など)の間でTADIL J戦術データ・リンク・ネットワークを構築し、戦術状況を即時に把握できるようになっている。
兵装
F-15と同等の対空兵装(ただし、20mm機関砲弾は500発)を装備した上での搭載可能重量は11tにも及び、現用の戦闘爆撃機中で最も多い搭載量となっている。また、種類についても、空対地ミサイル、2,000ポンドクラスも含む無誘導爆弾誘導爆弾クラスター爆弾、現用戦闘爆撃機で現用唯一搭載できる地中貫通爆弾GBU-28)、更にはB83熱核爆弾など、アメリカ空軍の全対地兵装(約98%以上を目標)とも言える多種多様な品目となっている。
愛称
愛称はストライクイーグル。ストライク(strike)とは対地攻撃という意味[7]F-15の記録挑戦仕様:「ストリーク・イーグル」と名称が似ているが、無論両者に関連性はない。
また、1991年に勃発した湾岸戦争でのスカッド弾道ミサイル地対地ミサイル)への攻撃(いわゆるスカッド狩り)を行い、多数撃破したその戦果[8]から「スカッドバスター(Scud Buster)」と呼ばれることもある。
その他、「マッドヘン(Mudhen:「泥雌鶏」の意味だが、アメリカオオバン[3])の別名)と呼ばれることもある。
戦闘能力
コンフォーマル・フューエル・タンクなどの追加装備により、F-15Cに比べると速度性能、機動性能がやや劣り制空戦闘力においてはF-15Cに及ばない。しかしながら、依然として高い水準にあり、湾岸戦争などではF-15Cと共に戦闘空中哨戒の任務にも就いている。対地攻撃における搭載兵器の多様性や搭載量[9]については優位を保っている。
なお、現在までに空対空戦闘で撃墜されたことはなく、また、これまでの数多くの作戦参加の中、全運用国での損失は湾岸戦争で対空兵器により撃墜されたアメリカ空軍所属の3機のみという非常に高い運用成績となっている。

アメリカ空軍での運用

概要

F-15E量産1号機
コンフォーマルタンクのパイロンが現行の物とは異なる
1990年「砂漠の盾作戦」のため集まったF-15E飛行隊
オデッセイの夜明け作戦」に参加するF-15E
写真の機はのちに事故墜落する91-0304号機
シーモアジョンソン空軍基地所属機

アメリカ空軍(以下米空軍)は、F-15Eを4航空軍の6航空団、10の飛行隊で運用中である。

1988年4月にアリゾナ州のルーク空軍基地第405戦術訓練航空団第461戦術戦闘訓練飛行隊に配備され、1989年12月29日にはノースカロライナ州にある米空軍シーモア・ジョンソン空軍基地第4戦術戦闘航空団にて初めてF-15Eの飛行隊(第336戦術戦闘飛行隊)が創設され、初期作戦能力を得た。計画当初は約300機の調達を予定していたが、コストと軍縮のために1994年に226機で生産を一度終了した。しかし、損耗補充分として1996年から再び10機が生産され[10]2004年までに236機製造された。現在でも225機が主力戦闘爆撃機として運用されている他、退役が発生しているF-15の補足分として、敵防空網制圧などの航空作戦任務に就く事もある。2012年の時点でも221機を保有している。

今後、F-15Eの一部の任務は最新鋭のF-35Aおよび2018年次世代爆撃機英語版が引き継ぐ予定となっている。

実戦投入

配備から1年後の1990年8月2日サッダーム・フセイン政権率いるイラク軍が隣国クウェートに侵攻し、首都クウェートシティを占領、さらに8月6日には、その隣国であるサウジアラビア国境付近まで軍を展開した。サウジアラビアによるアメリカ合衆国を含む友好国への派兵要請に対し、ジョージ・H・W・ブッシュ大統領は即座にF-15Eなどの部隊をサウジアラビアに派遣した。11月29日には国際連合安全保障理事会決議678が可決されたが、イラク側が期限である1991年1月15日までに決議内容を履行しなかったため、1月17日に所謂湾岸戦争が勃発するに至った。

F-15Eは「砂漠の嵐作戦(Operation Desert Storm)」に参加し、F-15Cの護衛を受けながら対地爆撃を加えた。その後、地形追従レーダーによる夜間攻撃能力が見込まれ[11]、当初AWACS支援下でイラク軍の対戦車攻撃、その後夜間のスカッドミサイル狩りに投入された。

作戦期間中、地対空ミサイルおよび対空砲火により2機が撃墜[12]されたが、F-16での対地爆撃が困難の中、戦車やスカッドを大量に撃破する戦績を収めている[13]

1999年3月のコソボ紛争における「同盟の力作戦」、2001年アフガニスタン侵攻における「不朽の自由作戦(Operation Enduring Freedom)」、2003年に勃発したイラク戦争における「イラクの自由作戦(Operation Iraqi Freedom)」でも地上支援などの対地爆撃に活躍した(この際に1機地対空ミサイルで撃墜されている)。

2011年リビア紛争におけるオデッセイの夜明け作戦でも派遣された。その作戦中の3月21日未明にレイクンヒース空軍基地所属の91-0304号機が墜落した(乗員2名は無事)。原因は急激な機動(高高度・低速度下での100°にわたる急旋回)を行った際に発生した燃料供給ソフトウェアの不具合であった[14]

近代化

米空軍は2008年よりF-15Eレーダー近代化計画(RMP)で現在のAN/APG-70レーダーF/A-18E/Fで使用されるAN/APG-79のプロセッサーを組み合わせて射程拡大、目標同時追跡能力などの強化して空戦能力の向上をはかったAN/APG-82 AESAレーダーに変更予定である。また、Advanced Display Core Processor II(ADCP II) ミッションコンピュータ、Eagle Passive/Active Warning and Survivability System (EPAWSS) 電子戦システム、デジタルビデオレコーダ、モード5 IFFと、前席パイロット用のJHMCSなどが統合され、ソフトウェアも最新ブロックに更新される。APG-82は、2014の初めに生産型を搭載する計画となっている。EMPASSはまだ開発計画の段階であり、会計年度2015年の第二四半期にエンジニアリングと製造開発(EMD)契約を目指す。ADCP IIは2012年11月にマイルストンBに達する見込みで、インテグレーションする時期は、会計年度2016年の第四四半期を予定している[15]

F-15Eは、これらの要素を加えることで、2030年代まで運用が続けられる事になる。

配備基地


世界のF-15E

ベースとなったF-15は、アメリカ空軍さえ安価なF-16とのハイ・ロー・ミックスを強いられる程の高価な機体であり、また、裕福な親米国への輸出に限られた結果、アメリカ以外ではわずか3ヶ国の採用に留まった。本機も強力な対地攻撃能力を持つことから、アメリカ政府も当初は輸出に慎重だった。

しかし現在では、本機の性能を上回るF-22が登場したこと(2014年現在、納入先はアメリカのみ)により、F-15Eをベースとした派生型を積極的に売り込む姿勢を見せている。F-15Aの登場から30年以上を経て、多くの新型戦闘機が登場した現在では、むしろF-15Eは他の戦闘機に比べて相対的に低価格とみなされ、採用例も多くなった。

サウジアラビア

サウジアラビア空軍のF-15Sと搭載兵器

1993年にF-15Eを海外で初めて採用したサウジアラビア空軍へは、F-15Eに戦闘能力のダウングレード(レーダーの能力低下、一部の兵装運用能力の削除、LANTIRNのダウングレード型のAN/AAQ-19シャープシューター照準用ポッド・AN/AAQ-20パスファインダー航法用ポッドの搭載など)を施したF-15Sが輸出されている。導入機数は72機で、内最初の24機は空対空戦闘に特化されており、残りの48機は対地攻撃能力を持つマルチロール型となっている[16]。搭載するエンジンはF100-PW-229で、塗装はC/D型と同じ制空迷彩である。

国情から海外のエアショーへの展示やマスコミへの公開がないため、運用状況に不明な点が多いが、後にスマート兵器の携行能力付加などの能力向上改修を実施しており、2007年からはF110-GE-129C(後述)へのエンジン換装を行っている[17]

また、2011年12月には新規製造のF-15SA[18]を84機購入し、70機のF-15SをSA仕様に能力向上させる契約を結んだ[19]。F-15SAはAN/APG-63(V)3 AESAレーダーやデジタル式電子戦システム(DEWS)などを搭載する予定で、DB-110デジタル式偵察ポッドも運用できるようになる[20]。また、一度は廃止された主翼外側ハードポイント空対空ミサイル用として再び開放したことで、従来の最大8発に加えてさらに4発の空対空ミサイルを追加装備できるようになる[21]

イスラエル

イスラエル空軍のF-15Iラーム

イスラエル航空宇宙軍は、ヨム・キプール戦争によるピース・フォックス計画からF-15を導入しているが、1994年のピース・フォックスVでF-15Eに若干の改修を加えたF-15Iラーム(Raam[22])を25機導入している。その後1999年に追加購入が検討されたが、費用対効果などの観点からF-16Iソウファが採用されたため実現しなかった。機体は在来型と異なり、デザート迷彩で塗られている。

エンジンはF100-PW-229を採用。イスラエルが独自開発の電子戦システムを搭載することを要求したため、TEWSの代わりにイスラエル製のエリスラSPS-2110IEWSが搭載されている他、データリンクシステムや中央コンピューターなども独自のものを使用している。また、LANTIRNは当初供与されなかった(これを補う形で独自開発したのがLITENINGで、F-15Iが運用することもある)が、後に輸出が承認され、運用している。後にエルビトが開発したDASHヘルメット内蔵式照準装置の運用能力が追加され、近年ではUAVの管制能力も付加されている。

韓国

概要
F-4(F-4DとF-4Eの一部)の後継機選定の第1次F-Xにおいて、F-15EはラファールSu-35タイフーンと共に選考対象となり、ラファールとの比較となった最終選考の結果、2002年3月にF-15Kスラムイーグルとして採用され[23]、機体単価約1億300万ドル(約126億円)での調達が決定された。

2008年10月にF-15K計40機(実際には1機失われたので39機)の配備を完了している。

また、第2次調達分として総事業費2兆3,000億ウォンで21機(当初20機の予定だったが、交渉の結果損耗補充用として1機追加)を発注している。

レッドフラッグに参加中のF-15K(ネリス空軍基地にて)
機体
基本的にはE型を踏襲しているが、韓国の要求に合わせて大きな改修が加えられている。エンジンは第1次F-X調達分はF110-GE-129のライセンス生産型F110-STW-129、第2次調達分ではF100-PW-229EEP(EEPはEnhanced Engine Packageの略)を搭載している。後者についてボーイング社ではEEPによりエンジン寿命を従来の4,300メンテナンスサイクルから6,000サイクルに改善してメンテナンス費用の削減を図り、かつエンジン出力も29,160lbsから29,260lbsに強化したとしている。また、前部胴体や主翼など機体の一部は韓国国内で製造されている。

兵装面ではハープーン空対艦ミサイルSLAM-ER空対地ミサイルの運用能力が加えられ、対艦攻撃能力を得たことでより一層の多目的化を果たしている。だが、SLAM-ERを誘導するためのデータリンク周波数帯は既に第3世代携帯電話の通信媒体IMT-2000で使用され、かつ8割を超える携帯電話の普及率から周波数帯が既に枯渇状態となっていたため、韓国空軍はボーイング社と周波数変更などの協議を行った。結局、周波数の変更には約100万ドルの費用(SLAM-ER 2発分)と1年の期間を必要とするため、有事の際は、国民に混乱を来たす懸念を甘受して一部の携帯電話回線を停波させてSLAM-ERに周波数を割り振ることに決定した。2006年には実際にSLAM-ERの発射試験が行われ、目標に直撃している。また、同年、高度20,000ftからのJDAM3発の投下試験において全弾目標の2.1m以内に命中しており、着実に運用の実績を積み重ねている。

アビオニクス面ではAN/AAS-43タイガーアイIRST、AN/APG-63(V)1レーダー、JHMCS、カラー液晶ディスプレイなどE型より進歩した装備となっている。また、TDL-K計画に基づき、韓国空軍の新しい標準戦術データ・リンクとなる予定のリンク 16に対応するため、統合戦術情報伝達システム(JTIDS)を搭載しているが、現時点ではまだ地上側設備も整っておらず、F-15K同士以外では、烏山市の中央防空統制所(MCRC)やボーイング737 AEW&C機、韓国海軍イージス艦である世宗大王級駆逐艦とリンクできるのみの状態となっている。

精密爆撃の誤差範囲を平均10mから1mまで減らすことを可能とされる精密映像位置提供地形情報(DPPDB)のソフトウェアは「武器輸出統制法」に基づく輸出規制の品目であるとして提供されておらず、アメリカに改善を要請しているものの未だに難色を示されたままである。2011年10月にはタイガー・アイを韓国が無断で分解し、リバースエンジニアリングした疑いがあるとして、アメリカ国防省が調査に乗り出す事態になっていた事が判明している[24]。しかしながら調査の結果、アメリカは韓国空軍が機材の取り扱いで違法な事をしていなかったと結論付けて、決着している[25]

事故
2006年6月、韓国大邱基地から単独で離陸し、日本海上空で夜間飛行訓練を実施していた5号機がレーダー監視からの消失後、浦項沖北西48km地点に墜落した[26]。墜落原因はパイロットが対G訓練不足によるG-LOC[27]により気絶したためとされている[28]

2007年2月に大邸基地を地上滑走中、通過したマンホールが抜けて右主脚を落とし右主翼を大破し、修復のためにボーイング社へ直送するに至った事故が発生した[29]

2010年7月21日には、後席に試乗した韓国空軍大学総長(少将)の誤操作によりタキシング中に非常射出を行い、機体修復に10億ウォンを要する損害を被るという稀な事故も起きている[30]

シンガポール

F-15SG

シンガポール空軍では、2005年9月にA-4SUの後継機としてF-15SG[31]を12機(後に追加され24機)導入することを決定し、2009年から配備が始まっている。

F-15SGは基本的に韓国向けのF-15Kと同じだが、レーダーはAN/APG-63(V)3 AESAレーダーを搭載しており(ただし、走査能力など一部の機能がダウングレードされている)、エンジンは運用寿命延長(SLEP)ハードウェア型のF110-GE-129Cを採用している。なお、機体の一部はF-15Kと同じく韓国で製造されている。

型式

F-15Eについては、採用国の要求に合わせた改修が施された機体が多く作られている。これに加え、E型をベースとした発展機の提案もなされているが、こちらは現在までに採用実績はない。

基本型

F-15E
対地攻撃能力増強のためベースのF-15Bから機体構造他大幅な再設計を行った米空軍向け基本型
F-15I
イスラエル向けのF-15E
F-15K
韓国向けのF-15E
F-15S/SA
サウジアラビア向けのF-15E
F-15SG
シンガポール向けのF-15E

発展・改良型

F-15F
単座の制空戦闘機に回帰した構想のみの機体で、対地攻撃用途はこれに付随する形となる。
アメリカ空軍向けに稼働していたF-15Eの生産ライン維持のため、イスラエルサウジアラビア西ヨーロッパ諸国への売り込みが図られていた。E型の輸出が容認され、選定国の何れもがE型を採用したため、開発される事はなかった[32]
F-15 FOWW
F-4Gワイルド・ウィーゼルの後継機計画FOWW(Follow on Wild Weasel)で提案された機体。ワイルド・ウィーゼル用の機材を搭載し、その一部は胴体下面にコンフォーマル・パックに収めて装着される。武装はAGM-88 HARMAGM-65 マーベリックが予定された。
後継機としてはF-15 FOWWの他、F-16トーネード ECRの計3種が検討対象とされたが、F-16が選定されたため、採用される事はなかった[32]
F-15FX
日本第4次F-XF-4EJ改の後継機種選定)においてF-15Eが検討対象になったことを受け、F-15Eを高機動化させて空対空能力を増強(単座型も提案されていた)した日本向け改修型としてボーイングが提案した機体。F-15SAと同様に主翼外側ハードポイント空対空ミサイル用として再び開放し、レーダーはAN/APG-63(V)3もしくはAN/APG-82(V)1を搭載する予定だった。
F-15FX案の有利な点としては、F-4の単純な後継機としてステルス機としての運用を前提としないマルチロール機、および戦闘爆撃機としての比較であれば性能上の不利はないことと、ライセンス生産可能であり、なおかつ大量のF-15を生産・運用している[33]ため、生産から整備・運用・操縦に至るまで機体についてノウハウがあることが挙げられていた[34]
2011年に行われた防衛省への最終申込において、ボーイングはF/A-18E/Fの方が採用される可能性が高いとしてF-15FXを提案しなかったため、候補から脱落した。
F-15U
F-15Eの主翼面積を若干拡大した発展型。アラブ首長国連邦へ提案していたがUAEがハードポイント数・航続距離の増加を望んだため下記のF-15U+が提案された。
F-15U+
F-15Eの水平尾翼を廃してデルタ翼化した大規模発展型。F-16E/Fの選定により構想のみに終わった。
F-15H
ギリシャ軍向けに開発されていたもの。Hはヘラス(Hellas)を意味する。F-16C/Dとミラージュ2000-5を採用したため不採用。
F-15SE (Silent Eagle)[35]
F-15Eをベースに機体前面に限りレーダー反射率を第5世代ジェット戦闘機に匹敵するまでに軽減させたと言われる発展機[36]

仕様

  • 乗員:2名
  • 全長:19.44m
  • 全幅:13.05m
  • 全高:5.63m
  • 翼面積:56.5(C)
  • 最大離陸重量時翼面荷重:650.265kg/(C)
  • 空虚重量:14,515kg
  • 兵装類最大搭載量:11,113kg
  • 最大離陸重量:36,740kg
  • 燃料容量:7,643L(機内)、2,737L(コンフォーマル増槽)×2、2,309L(ドロップ増槽)×3
  • 動力:
  • 推力:8,076kgf(クリーン)×2/12,642kgf(オグメンタ)×2
  • 巡航速度:M0.9
  • 最大速度:M2.5
  • 最大G:±9G(リミッターレス時±12G程度迄機動可能)
  • 航続距離:3,840km(2,400 マイル、フェリー、コンフォーマルタンクおよび外部増槽3個使用時)
  • 戦闘半径:685海里(1,270キロメートル)
  • 実用上昇限度:18,200m(60,000ft)
  • 機体寿命:16,000時間

兵装

固定武装

脚注

  1. ^ プロトタイプはコンフォーマルタンクの標準装備と爆装を施しただけであり、大幅改修は受けていない
  2. ^ 当時は炭素繊維材料の加工技術が未成熟であったためF-16XLの生産コストを押し上げていた
  3. ^ 夜間爆撃の際に敵からの視認を避けるため。諸外国ではこの限りではないことが多い
  4. ^ a b c 航空ファン』Vol.38 No.5、1989年、68頁
  5. ^ これは、F-22F-35以上に長い飛行寿命である。例を挙げれば、F-15Cで半分の8,000時間、F-16で4分の1の4,000時間であり、単純計算で年205時間(米空軍の平均年間飛行時間[1])飛行したとして約78年、戦時投入で酷使すると想定し年400時間使用したとしても、約40年の使用に耐えられる計算である
  6. ^ 航空ファン』Vol.38 No.5、1989年、69頁
  7. ^ ストライクイーグルは製造者が名付けた愛称で、実際のイーグルドライバーらは「爆弾を搭載できるイーグル(ボム・イーグル)」ということで「ビーグル(Beagle)」と呼んでいたらしい。ただしアメリカ空軍など公式ではストライクイーグルを用いる
  8. ^ 戦後の調査ではスカッドと誤認してダミーやタンクローリーを破壊していた場合も多々あり、高速の戦闘機の夜間視認能力の限界を示す結果となっている
  9. ^ 参考:B-29爆撃機:9,000kg、A-10:14,850kg。F-22やF-35は胴体内爆弾槽のみを使用するステルス機である為、搭載量が若干減少している
  10. ^ この10機は各部にアップグレードが加えられたため、ボーイング社では227号機以降を意味するE-227と呼ばれ区別されており、F-15K以降の輸出型のベースになっている
  11. ^ 湾岸戦争時点で、地形追従レーダーを搭載して山間部など複雑な地形での夜間飛行が可能であった戦闘爆撃機はF-111と就役直後に投入されたF-15Eのみである。
  12. ^ 88-1689号機、88-1692号機の2機。両機のパイロット・WSO共に生還している
  13. ^ シーモアジョンソン空軍基地の336戦闘飛行隊に所属するF-15Eには愛称が付いているものがあり、湾岸戦争当時イラク大統領であったサダム・フセインの名前を捩った「サダムハンターズ(Saddam Hunters)」なる愛称の機体(88-1706号機)や、「イラク・フリーダム(Iraq Freedom)」と言った愛称の機体(89-0485号機、88-1700号機など複数)が存在する
  14. ^ / "UNITED STATES AIR FORCE AIRCRAFT ACCIDENT INVESTIGATION BOARD REPORT"
  15. ^ USAF plans F-15 modernization, but pilots want better displays
  16. ^ 『航空ファン』No.716、2012年、56頁
  17. ^ 『JWings』No.147、2010年、54頁
  18. ^ 形式番号のAは「アドバンスド(Advanced)」の頭文字
  19. ^ 『JWings』No.163、2012年、93頁
  20. ^ 『JWings』No.164、2012年、48-49頁
  21. ^ 『JWings』No.166、2012年、96頁
  22. ^ ラームとは稲妻の意
  23. ^ しばしば軍事系などのサイトで誤解して記載されがちであるが、このスラムとは貧民窟を意味するスラム(Slum)ではなく、打撃を加えることを意味するSlamである。
  24. ^ Defence21.co.kr 미국, 한국 F-15K 기술유출 혐의 고강도 조사(※韓国語)
  25. ^ [2] Did Seoul peek into its F-15K Tiger Eye sensor suite?
  26. ^ 翌日に搭乗者2名の遺体が海上で発見された
  27. ^ (Gravity-Loss of Consciousness 急上昇することで体に重力(G)が掛かり、パイロットの脳に流れる血液が著しく減少し視界が暗くなるブラックアウト現象となること
  28. ^ 事前の訓練を実施している上、操縦士は総飛行時間1,900時間以上のベテランパイロットであったためG-LOCを起こす可能性は低いなどの疑問は残されたまま、空間識失調を起こした可能性も指摘されている
  29. ^ 陥没の原因は手抜き工事の結果とされた。また、現在は韓国KAI社で主翼の自主生産を実施している
  30. ^ http://news.sbs.co.kr/section_news/news_read.jsp?news_id=N1000774482
  31. ^ 当初予定されていた形式番号はF-15Tであったが、これはF-15Sがサウジアラビア向けの機体に割り当てられたためである
  32. ^ a b 月刊「エアワールド」1990年5月号p69~p70
  33. ^ 日本は他のF-15運用国と異なりF-15E型ベースの機体を運用していないものの、唯一、機体全体のライセンス生産(F-15J/DJ:三菱重工業)を実施している
  34. ^ 外見は同様と言えども改設計により内部の互換性がほとんどない点や、使用機材が韓国(DPPDBなど)やイスラエル(LANTIRN)の例のように輸出規制に抵触した結果、F-15J/DJ同様に国産アビオニクスによる代替を余儀なくされる可能性が残るため、利点とは言い難いする意見もあった
  35. ^ Boeing Unveils New International F-15 Configuration -- the F-15SE | boeing
  36. ^ PICTURES: Boeing unveils upgraded F-15 Silent Eagle with fifth-generation features | Flightglobal

参考文献・サイト

登場作品

関連項目

F-15Eの後継、および次世代爆撃機の候補としてロッキード・マーティンによって計画中の戦闘爆撃機。

外部リンク