ザミア科
ザミア科 | |||||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1. "雌花"をつけたトゲオニソテツ[1](Encephalartos ferox)
| |||||||||||||||
分類 | |||||||||||||||
| |||||||||||||||
学名 | |||||||||||||||
Zamiaceae Horan. (1834)[2] | |||||||||||||||
タイプ属 | |||||||||||||||
ザミア属 Zamia L. (1763)[3] | |||||||||||||||
シノニム | |||||||||||||||
和名 | |||||||||||||||
ザミア科、フロリダソテツ科[4] | |||||||||||||||
英名 | |||||||||||||||
sago-palm family[5][注 1] | |||||||||||||||
属 | |||||||||||||||
ザミア科(ザミアか、学名: Zamiaceae)は、ソテツ綱ソテツ目に属する裸子植物の科の1つであり、9属250種ほどが知られる。常緑樹であり、幹は地下生のものから高木になるものまである。葉はふつう茎頂に密生し、羽状複葉(図1)、これを構成する小葉は二又分枝する多数の葉脈をもつ。雌雄異株であり、"雄花"(小胞子嚢穂)または"雌花"(大胞子嚢穂)を形成する(図1)。北米南部から南米、アフリカ、オーストラリアの熱帯から亜熱帯域に散在的に分布している。古くはスタンゲリア科などが分けられることが多かったが、2023年現在ではソテツ属以外のソテツ類はすべてザミア科にまとめられている。
特徴
[編集]常緑樹で幹は太く円柱状、短く地下生のものから高さ18メートル (m) に達するものまであり(下図2a, b)、まれに不規則に分枝する[2][9][5][10][11][12]。幹は皮層や髄が発達しており、柔らかい多髄質である[5]。幹には葉柄の基部がうろこ状に残る場合とこれがない場合がある[10]。地表付近に特殊化した根(サンゴ状根)を形成し、その中に窒素固定(窒素分子を植物が利用可能なアンモニアに変換する)を行うシアノバクテリア(藍藻)が共生している[5][13]。また、サイカシンやマクロザミン(macrozamin)などの有毒な配糖体や神経毒となる非リボソームペプチドであるBMAAなどの毒を全体に含み[14][15]、これらの毒の生成には共生シアノバクテリアが関わっていると考えられている[16]。
ヤシのように、多数の葉が茎頂にらせん状に密生しているものが多いが(上図2a, b)、地中性の茎から1年に1枚の葉のみを展開するものもいる[2][5][10][11]。葉は大きく、革質、ふつう1回羽状複葉であるが(下図3a, b)、ボウェニア属(Bowenia)は2回羽状複葉をもつ(下図3c)[2][5][17]。葉を構成する小葉は葉軸に互生または対生、全縁または鋸歯がある[2][5][10][11](下図3)。ふつう中央脈がなく二又分枝する多数の葉脈が小葉の長軸に平行に伸びているが(下図3d)、スタンゲリア属(Stangeria)では明瞭な中央脈があり、そこから二又分枝する側脈が羽状に伸びている[5][18][11](下図3e)。ふつう、気孔は長軸方向に配列している[18]。葉柄や葉軸にはときにトゲがある[11]。葉の芽内形態はまっすぐまたは渦巻き型、ソテツ科とは異なり小葉は巻いていない[18][10](下図3f)。
雌雄異株[2][5][10]。雄株は"雄花"(小胞子嚢穂、雄性胞子嚢穂、雄錐、花粉錐、雄球花、雄性球花[20][21][22][23])を、雌株は"雌花"(大胞子嚢穂、雌性胞子嚢穂、雌錐、種子錐、雌球花、雌性球花[20][21][22][23])を頂端付近につけ、"花後"にわきに新芽が生じて成長を再開する[12][24]。"雄花"は、軸に多数の小胞子葉(雄性胞子葉)がらせん状に密生しており、花粉放出後に枯れる[5](下図4a, b)。小胞子葉の裏面(背軸面)に、多数の花粉嚢(小胞子嚢)が密生している[5](下図4b, c)。花粉は球形[5]。"雌花"は、軸に多数の大胞子葉(雌性胞子葉)がらせん状に密生しており、1年以上残る[5](下図5a, b)。大胞子葉先端はふつう厚い盾状、向軸側基部に2個の直生胚珠がついている[5][18][11](下図5c)。"雌花"では多くの場合、大胞子葉の盾状部が密着しているが、短期間だけ隙間ができて受粉する[10]。種子は扁平ではなく、種皮外層は多肉質でしばしば派手な色をしており、中層は木質、内層は膜質[5][11][14][25]。種皮の孔から発芽する[18](下図5d)。子葉は2枚[5][11]。染色体数はふつう 2n = 16、18、ミクロキカス属は26、ザミア属は多様で16–28[26]。
分布・生態
[編集]北米南部から南米、サハラ以南のアフリカ、オーストラリアの熱帯から亜熱帯域に散在的に分布する[9][18][11]。生育環境は、種によって半乾燥地から、湿地、熱帯雨林まで多様である[9](下図6)。
ザミア科の花粉媒介は、主にゾウムシやアザミウマによる虫媒であり、特異性が高い(決まった種が送粉する)[18][15]。媒介者の幼虫が、胚珠や胞子葉を餌とする例が知られている[18][11]。また、ソテツ類の"雄花"(小胞子嚢穂、雄性胞子嚢穂)や"雌花"(大胞子嚢穂、雌性胞子嚢穂)は発熱することが知られており、花粉媒介者を誘引する臭気を強化すると考えられている。"雄花"が"雌花"よりも高温に発熱する例が報告されており、高温によって、花粉をつけた送粉者を雄花から追い出して"雌花"へ行くように仕向けていると考えられており、このような花粉媒介は push-pull pollination とよばれる[18][27]。
ザミア科を含めてソテツ類の種子の種皮外層は多肉質でしばしば派手な色をしており、大型動物に被食・排出されることで種子散布(動物被食散布)されると考えられている[14]。種子散布者としては、ペッカリー、ハナグマ、アグーチ、ネズミ、フクロギツネ、鳥、爬虫類などが報告されている[28]。ソテツ類の種子の胚乳にはサイカシンなど毒が含まれるが、種皮外層には毒がほとんど含まれないことが報告されている[14]。
保全状況評価
[編集]国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストでは、ザミア科のうち4分類群が野生絶滅種、42分類群が近絶滅種、49分類群が絶滅危惧種、43分類群が危急種に指定されている(2020年現在)[9]。これらの種の減少の主な原因は、農業や開発による生息環境の破壊、園芸のための違法な採取、気候変動などである[9]。
ケラトザミア属(ツノザミア属、Ceratozamia)とエンケファラルトス属(オニソテツ属、Encephalartos)の全種、および Stangeria eriopus、Microcycas calocoma、Zamia restrepoi はワシントン条約の附属書I類に指定されており、それ以外のザミア科の全種は附属書II類に指定されている[4]。
人間との関わり
[編集]エンケファラルトス属(Encephalartos)、ボウェニア属(Bowenia)などザミア科の多くの種は、観賞用に利用されている[10][11](図7)。
幹や種子にはデンプンが多く含まれており、Dioon edule、Macrozamia riedlei、フロリダソテツ[29](Zamia pumila)などは食用に利用されることがあった(ただしソテツ類は有毒であるため、これを除く必要がある)[10][11]。19世紀後半の米国フロリダ州には、フロリダソテツの幹からデンプンを抽出する工場が多くあった[10]。また、Dioon edule の種子、Stangeria eriopus の幹などは民間薬に利用されることがある[10]。
ザミア科を含むソテツ類は全体が有毒であり、これを食べた人や有用動物に害が起こることがある。オーストラリアでは、Macrozamia heteromera の種子を食べた2,200頭のヒツジが死んだことがある[14]。
分類
[編集]ザミア科の科の名前はタイプ属(模式属)であるザミア属(Zamia)に基づいており、Zamia は、マツの球果を表すラテン語である azaniae に由来する[10]。
2023年現在、ザミア科には9属約250種が知られている[2][18]。いくつかの属が別科に分けられることがあり、特に20世紀末ごろには、スタンゲリア属(Stangeria)およびボウェニア属(Bowenia)をまとめてスタンゲリア科(Stangeriaceae)として独立させたり、両属をそれぞれスタンゲリア科、ボウェニア科(Boweniaceae)として独立させることが多かった[10][30][31]。しかし分子系統学的研究からは、両属の近縁性は支持されず、また他のザミア科の属とは分けられないことが示唆され、2023年現在ではふつう両属はザミア科に含められている[2][18]。ザミア科内の属の系統仮説の一例として下図8のようなものがあるが、必ずしも確定的ではない[18]。ソテツ類のもう1つの科はソテツ科(ソテツ属のみを含む)であるが、小葉の葉脈が分枝しないこと、雌生殖器として大胞子葉が集まっているだけで明瞭な大胞子嚢穂を形成しないことなどの点でザミア科とは異なる[18]。
ザミア科内の現生属の分化は、1億8,500万年前から9,000万年前の間に始まったと推定されている[18]。
| |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
8. ザミア科内の系統仮説の一例[18] |
表1. ザミア科の分類体系の1例[2][10][17]
|
画像
[編集]-
Macrozamia moorei の"雌花"
-
ヒロバウロコザミア(Lepidozamia hopei)の葉
-
Encephalartos retieffii の大胞子葉(黄色)と種子(赤色)
-
ナガバツノザミア[19](Ceratozamia mexicana)の"雄花"
-
ナガバツノザミアの"雌花"
-
Microcycas calocoma の"雄花"
-
ヒロハザミア(Zamia furfuracea)の葉脈
脚注
[編集]注釈
[編集]出典
[編集]- ^ a b c 英国王立園芸協会, ed (2003). “オニソテツ属”. A-Z園芸植物百科事典. 誠文堂新光社. p. 395. ISBN 978-4416403006
- ^ a b c d e f g h i “Zamiaceae”. Plants of the World Online. Kew Botanical Garden. 2023年11月4日閲覧。
- ^ a b c d e f “Zamiaceae Horan.”. Tropicos. Missouri Botanical Garden. 2023年11月4日閲覧。
- ^ a b “附属書(植物)”. 経済産業省 (2020年8月28日). 2023年11月12日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p Landry, G. (1993年). “Zamiaceae”. Flora of North America. Missouri Botanical Garden and Harvard University Herbaria. 2023年11月11日閲覧。
- ^ “Cycas revoluta Thunb.”. Tropicos.org. Missouri Botanical Garden. 2023年10月27日閲覧。
- ^ Farjon, A. (2013年). “Cycas revoluta”. The IUCN Red List of Threatened Species 2009. IUCN. 2023年10月21日閲覧。
- ^ Northrop, R. J., Andreu, M. G., Friedman, M. H., McKenzie, M. & Quintana, H. V.. “CYCAS REVOLUTA, SAGO PALM”. University of Florida. 2023年10月28日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l “Zamiaceae”. The Gymnosperm Database. 2023年11月11日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l m n テレンス・ウォルター (1997). “ザミア科、スタンゲリア科”. 週刊朝日百科 植物の世界 11. pp. 300–310. ISBN 9784023800106
- ^ a b c d e f g h i j k l Judd, W.S., Campbell, C.S., Kellogg, E.A., Stevens, P.F. & Donoghue, M.J. (2015). “Zamiaceae”. Plant Systematics: A Phylogenetic Approach. Academic Press. pp. 218–220. ISBN 978-1605353890
- ^ a b アーネスト・ギフォード & エイドリアンス・フォスター (著) 長谷部光泰, 鈴木武 & 植田邦彦 (監訳) (2002). “ソテツ門”. 維管束植物の形態と進化. 文一総合出版. pp. 362–385. ISBN 978-4829921609
- ^ Gehringer, M. M., Pengelly, J. J., Cuddy, W. S., Fieker, C., Forster, P. I., & Neilan, B. A. (2010). “Host selection of symbiotic cyanobacteria in 31 species of the Australian cycad genus: Macrozamia (Zamiaceae)”. Molecular Plant-Microbe Interactions 23 (6): 811-822. doi:10.1094/MPMI-23-6-0811.
- ^ a b c d e Hall, J. A., & Walter, G. H. (2014). “Relative seed and fruit toxicity of the Australian cycads Macrozamia miquelii and Cycas ophiolitica: further evidence for a megafaunal seed dispersal syndrome in cycads, and its possible antiquity”. Journal of Chemical Ecology 40: 860-868. doi:10.1007/s10886-014-0490-5.
- ^ a b Schneider, D., Wink, M., Sporer, F., & Lounibos, P. (2002). “Cycads: their evolution, toxins, herbivores and insect pollinators”. Naturwissenschaften 89: 281-294. doi:10.1007/s00114-002-0330-2.
- ^ 竹内道樹 (2016). “ソテツ”. 生物工学会誌 94 (12): 776 .
- ^ a b “Key to Cycad Genera”. Cycad Encyclopedia. Palm & Cycad Societies of Florida. 2023年11月12日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o Stevens, P. F. (2001 onwards). “Cycadales”. Angiosperm Phylogeny Website. Version 14, July 2017. 2023年11月8日閲覧。
- ^ a b c 米倉浩司・梶田忠 (2007-). “植物和名ー学名インデックスYList(YList)”. 2023年11月24日閲覧。
- ^ a b 西田治文 (1997). “ソテツ綱”. バイオディバーシティ・シリーズ (2) 植物の多様性と系統. 裳華房. pp. 218–219. ISBN 978-4-7853-5825-9
- ^ a b 福原達人. “球果類”. 植物形態学. 2023年2月17日閲覧。
- ^ a b 長谷部光泰 (2020). 陸上植物の形態と進化. 裳華房. p. 205. ISBN 978-4785358716
- ^ a b 清水建美 (2001). 図説 植物用語事典. 八坂書房. p. 260. ISBN 978-4896944792
- ^ 田村道夫 (1999). “ソテツ綱”. 植物の系統. 文一総合出版. pp. 89–93. ISBN 978-4829921265
- ^ SÁnchez-Tinoco, M. Y., & Engleman, E. M. (2004). “Seed coat anatomy ofCeratozamia mexicana (Cycadales)”. The Botanical Review 70 (1): 24-38. doi:10.1663/0006-8101(2004)070[0024:SCAOCM]2.0.CO;2.
- ^ Rastogi, S., & Ohri, D. (2020). “Karyotype evolution in cycads”. The Nucleus 63: 131-141. doi:10.1007/s13237-019-00302-2.
- ^ Salzman, S., Crook, D., Crall, J. D., Hopkins, R., & Pierce, N. E. (2020). “An ancient push-pull pollination mechanism in cycads”. Science Advances 6 (24): eaay6169. doi:10.1126/sciadv.aay6169.
- ^ Segalla, R., Telles, F. J., Pinheiro, F., & Morellato, P. (2019). “A review of current knowledge of Zamiaceae, with emphasis on Zamia from South America”. Tropical Conservation Science 12: 1940082919877479. doi:10.1177/19400829198774.
- ^ 「フロリダソテツ」『ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典』 。コトバンクより2023年11月23日閲覧。
- ^ 巌佐庸, 倉谷滋, 斎藤成也 & 塚谷裕一 (編) (2013). “生物分類表”. 岩波 生物学辞典 第5版. 岩波書店. p. 1644. ISBN 978-4000803144
- ^ 加藤雅啓 (編) (1997). “分類表”. バイオディバーシティ・シリーズ (2) 植物の多様性と系統. 裳華房. p. 269. ISBN 978-4-7853-5825-9
- ^ 滝本秀夫・大花民子 (2017). “福島県南相馬市の上部ジュラ系相馬中村層群栃窪層から産出した新種のソテツ葉類エンケファラタイテス・ニッポネンシス Encephalartites nipponensis”. 化石 101: 81-103. doi:10.14825/kaseki.101.0_81.
- ^ 英国王立園芸協会, ed (2003). “ディウーン属”. A-Z園芸植物百科事典. 誠文堂新光社. p. 369. ISBN 978-4416403006
- ^ a b c 米倉浩司 (2019). 新維管束植物分類表. 北隆館. pp. 54-55. ISBN 978-4-8326-1008-8
- ^ 英国王立園芸協会, ed (2003). “オニザミア属”. A-Z園芸植物百科事典. 誠文堂新光社. p. 643. ISBN 978-4416403006
- ^ 英国王立園芸協会, ed (2003). “ウロコザミア属”. A-Z園芸植物百科事典. 誠文堂新光社. p. 601. ISBN 978-4416403006
- ^ “Encephalartos”. Plants of the World Online. Kew Botanical Garden. 2023年11月24日閲覧。
- ^ 「ボウエニア属」『世界大百科事典』 。コトバンクより2023年11月23日閲覧。
- ^ 「ソテツ(蘇鉄)」『世界大百科事典』 。コトバンクより2023年11月18日閲覧。
- ^ 英国王立園芸協会, ed (2003). “ツノザミア属”. A-Z園芸植物百科事典. 誠文堂新光社. p. 248. ISBN 978-4416403006
- ^ 英国王立園芸協会, ed (2003). “フロリダソテツ属”. A-Z園芸植物百科事典. 誠文堂新光社. p. 1067. ISBN 978-4416403006
- ^ “Zamia”. Plants of the World Online. Kew Botanical Garden. 2023年11月24日閲覧。