フッ化硫黄
フッ化硫黄(フッかいおう、sulfur fluoride)はフッ素と硫黄とから構成される無機化合物で、異性体を含めて以下の6種類が知られている。十フッ化二硫黄のみが常温常圧で液体であり、他は気体の化合物である。
二フッ化二硫黄
[編集]二フッ化二硫黄(にフッかにいおう、disulfur difluoride)には F−S−S−F と S=SF2 の二種類の異性体が知られている。一フッ化硫黄(いちフッかいおう)と呼ぶことがある。
F−S−S−F の融点は−133°C、沸点は15°Cである。線形構造の分子で S−S 間距離が189 pm、S−F 間が164 pm、∠SSF = 108° の C2 対称形である[1]。他のハロゲン類縁体と対照的に、こちらの異性体は不安定である。
F−S−S−F は真空中でフッ化銀 AgF と過剰の硫黄を加熱して反応させると生成するが[2]、速やかに S=SF2 に異性化する[1]。
S=SF2 は融点−165°C、沸点−10.6°Cの三角錐形構造で、S−S 間距離が186 pm、S−F 間が160 pm、∠SSF = 108° の Cs 対称形である[1]。こちらの異性体は比較的安定で、250°Cまで安定だが、それ以上の温度では不均化する[3]。
また、フッ化水素 HF や三フッ化ホウ素 BF3 のような酸触媒で速やかに分解する[1]。
どちらも水と反応し硫黄、フッ化水素とポリチオン酸を発生する[3]。
二フッ化硫黄
[編集]二フッ化硫黄(にフッかいおう、sulfur difluoride)は化学式 SF2 であるが、生成させるのが困難で気相中で観測されているのみである。S−F間距離が1.59 pm、∠98° の C2v 対称形である[1]。
四フッ化硫黄
[編集]四フッ化硫黄(しフッかいおう、sulfur tetrafluoride)は化学式 SF4 の無色気体の化合物である。融点は−121°C、沸点は−38.6°Cであり、ひずんだ4角錐形構造で S−F 間距離は165 pmと154 pmの C2v 対称形である[1]。
四フッ化硫黄は二塩化硫黄 SCl2 をHF/ピリジン (70:30) と反応させるか[1]、アセトニトリル中で SCl2 とフッ化ナトリウム NaF を反応させると得られる[2]。
反応性に富み、フッ素化剤として用いられる。すなわち他の置換基の存在下でも C=O 基、P=O 基のフッ素化が可能であり[1]、C=O 基、P=O 基、COOH基、および PO(O)H 基をそれぞれ CF2、PF2、CF3、PF3 に変換する[2]。
そして水とは瞬間的に反応して分解し、二酸化硫黄 SO2 とフッ化水素 HF を与える[2]。
六フッ化硫黄
[編集]六フッ化硫黄(ろくフッかいおう、sulfur hexafluoride)は化学式 SF6 の無色無臭の気体で、熱的・化学的に安定な化合物である。
十フッ化二硫黄
[編集]十フッ化二硫黄(じゅうフッかにいおう、disulfur decafluoride)は化学式 S2F10 の無色揮発性の液体である。五フッ化硫黄(ごフッかいおう)とも呼ばれる。きわめて毒性が強い[3]。
融点は-52.7°C、沸点は30°Cであり、S原子を中心として8面体形が連結した構造で、S−S 間距離が221 pm、S−F 間が156 pmの D4d 対称形である[1]。
水またはアルカリ性では常温下では加水分解しない。アセトン溶液中でヨウ化カリウム KI をヨウ素 I2 に酸化する。また特色ある酸化的フッ素化剤として利用され、その反応は S−S 間のラジカル解裂を開始反応とすると考えられている[1]。
出典
[編集]- ^ a b c d e f g h i j Cotton, F. A.; Wilkinson, G.; Murillo, C. A.; Bochmann, M. (1999). Advanced Inorganic Chemistry (6th ed), pp. 514–516. Wiley: New York. ISBN 0-471-19957-5
- ^ a b c d e 漆山 秋雄、「フッ化硫黄」、『世界大百科事典』、CD-ROM版、平凡社、1998年。
- ^ a b c 長倉三郎ら(編)、「フッ化硫黄」、『岩波理化学辞典』、第5版 CD-ROM版、岩波書店、1998年。