ヴィシヴァンカ
ヴィシヴァンカ(ウクライナ語: вишива́нка [ʋɪʃɪˈʋanka] またはвиши́ванка [ʋɪˈʃɪʋanka])はウクライナ語の俗称で、刺繡を施した民族衣装のシャツまたはブラウスを指す[1][2]。ウクライナ刺繡が特徴である[2]。
「ヴィシヴァンカ」はウクライナという国らしさだけでなく、作られた地域をも表している。知識のある人が見れば、身にまとった1着からその人の出身がわかるはずだ。色と柄の様式は土地ごとにそれぞれの特徴がある。刺繡糸は樹皮・草花・木の実などその土地の素材を使い、伝統の方法で染める。伝統柄を縫い取る刺繍は色とりどりで、文字通り、土地にまつわる自然や文化で人々をいろどる。このようにウクライナにとって、刺繡は重要な技術である。 — JJ Gurga [2]
歴史
[編集]ヴィシヴァンカには、着用者を守る魔除けという側面があると語り伝えられ[3]、衣服の首周り、袖口、肩口、縁などは邪気が体に入り込む弱点とされており、刺繡はそれらの箇所に施される[4]。
オーストリア=ハンガリー帝国のヴィルヘルム大公はウクライナを愛し、ヴィシヴァンカを好んで着用したことからウクライナ人の間で「ウクライナ語: Василь Вишиваний」(〈刺繡のバジル〉、英: Basil the Embroidered)と呼ばれた。ウクライナのリヴィウにあるヴィシヴァノホ広場は大公に献名された。
祝祭
[編集]5月の第3木曜日は「ヴィシヴァンカの日」と呼ばれ[5]、宗教、言語、住む場所に関わらず世界中の全てのウクライナ人の結束を示す[6]祝祭の日[7]。多くのウクライナ人がヴィシヴァンカを着用して、祖国のアイデンティティと結束という理念を称え愛国心を示す。フラッシュモブに類するため公休にはならない[8]。
ハイファッション
[編集]2015年のパリ・コレクションにおいて、ウクライナ人ファッションデザイナーのヴィタ・キン(Vita Kin)がモダン・ボヘミアン・スタイルとしてデザインしたヴィシヴァンカを『ヴォーグ』[9]や『ハーパーズ バザー』[10]が取り上げ、アンナ・デッロ・ルッソ(英語版)、ミロスラヴァ・デュマ(英語版)、リアンドラ・メディーン(英語版)などのファッションアイコンたちを魅了した[11]。
『ヴォーグ』5月号がヴィシヴァンカが「はるか東欧から波を起こした」と書けば[12]、『ロンドン・タイムズ』は「この夏(2016年)いちばんの流行の服」と取り上げ、『ニューヨーク・タイムズ』も後を追うように「この夏最高の」ファッションアイテムを手に入れるよう読者に勧めた[12]。2016年、フランスの女優メラニー・ティエリーとオランダ王妃マクシマ・ソレギエタはそれぞれヴィシヴァンカのドレスを身に着けて正装の場に臨み、前者は第69回カンヌ国際映画祭に、後者は2016年リオデジャネイロオリンピックに出席した[12]。
ギャラリー
[編集]参考文献
[編集]主な執筆者の順。
- Condra, Jill (2013). Encyclopedia of National Dress: Traditional Clothing Around the World. ABC-CLIO. pp. 624. ISBN 978-0-313-37636-8
- Gurga, JJ (September 2012). Echoes of the Past: Ukrainian Poetic Cinema and the Experiential Ethnographic Mode (pdf) (Ph.D.). University College London (UCL). pp. 189–190. OCLC 894604748. 2015年10月22日時点のオリジナルよりアーカイブ (PDF)。学位論文、学術論文。
- Koziura, Karolina (Spring 2014). “Everyday Ethnicity in Chernivtsi, Western Ukraine.”. Anthropology of East Europe Review (ポーランド: マリー・キュリー・スクウォドフスカ大学 ) 32 (1). オリジナルの2014-06-04時点におけるアーカイブ。 .
脚注
[編集]- ^ Koziura 2014, "Everyday Ethnicity in Chernivtsi, Western Ukraine".
- ^ a b c Gurga 2012, pp. 189–190
- ^ “У Києві відкрилася виставка вишиванок з усієї України (Vyshyvanka exhibition in Kyiv)”. 1TV (2015年9月11日). 2015年9月25日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年3月31日閲覧。
- ^ Condra 2013, p. 624
- ^ Rena Darsania (2015年6月4日). “Poltava celebrated the Day of vyshyvanka” (英語). PoltNTU press. 2016年5月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年3月31日閲覧。
- ^ Information and Communication Department of the Secretariat of the CMU (2015年5月21日). “Cabinet of Ministers Secretariat celebrates Vyshyvanka Day” (英語). Government portal. 2016年1月29日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年1月30日閲覧。
- ^ “ヴィシヴァンカの日 – NPO法人 日本ウクライナ文化協会” (日本語、ウクライナ語). 2023年7月17日閲覧。
- ^ “Deputy Minister of Information Policy Tetiana Popova Participates in Press Conference Dedicated to Vyshyvanka Day” (英語). Ministry of Information Policy of Ukraine (2015年4月21日). 2016年1月29日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年3月31日閲覧。
- ^ Satenstein, Liana (Apr 28, 2015). “Your Favorite Bohemian Garb Is Actually Traditional Ukrainian Costume” (英語). Vogue. 2018年3月31日閲覧。
- ^ Lamont-Djite, Tara (Apr 14, 2015). “We're Obsessed:Vita Kin Introduces The Perfect Bohemia” (英語). Harper's Bazaar. 2018年3月31日閲覧。
- ^ “DESIGNERS TO WATCH: Vyshyvankas by Vita Kin – Traditional Ukrainian Chic” (英語). Fashion For Fashionlovers (May 14, 2015). 2018年3月31日閲覧。
- ^ a b c “Vyshyvanka: Ukraine's national costume conquers the catwalk” (英語). Yahoo! News (23 August 2016). 2018年3月31日閲覧。