人間が動物に変異する奇病がまん延-。ありそうでなかったSFスリラーだ。

バリの料理人フランソワは、奇病にかかり「新生物」として隔離された妻を追い、施設のある南仏に移住する。自然広がる街には、新生物への恐怖や排斥運動の激化で不穏な空気が…。

文芸色の濃い作品を手がけてきたトマ・カイエ監督が、母校の学生ポリーヌ・ミュニエのオリジナル脚本に出会い、今作を仕上げた。世代の離れた視点が交わり、「おとぎ話」にも不思議な説得力がある。

フランソワ役は「ゲティ家の身代金」でも光った異才ロマン・デュリス。家族の災難に立ち向かい、たくましくなる「平凡な男」にリアリティーがある。鳥人間やタコ少年…俳優の演技と特殊メークの融合に、一瞬目を背けたくなるが、やがて目が離せなくなる。

行動は乱暴だが、実は心優しい鳥人間(トム・メルシェ)が、排他的な人々の理不尽を浮き彫りにし、時にスカッとさせるような反撃に出る。

「ノルウェーの共存策の方がうまくいっている」などのセリフも印象的だ。新生物の隔離政策への批判に現実のフランスでしだいに強くなる排外的な傾向へのシニカルな視点がのぞく。【相原斎】

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