日本経済新聞
NIKKEI Primeについて
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COVID-19初期にトランプ政権が主導したワクチン開発の「ワープスピード作戦」が功を奏し、驚愕のスピードでワクチン開発に成功して、大きな被害を出しつつも、人類はパンデミックを乗り越えた。ワクチンビジネスはボラティリティの高さ故に、「巨額の投資(人・モノ・金)をして有事にビジネスとして成功する」ことよりも、有事から平時に移った際に、「いかにダメージを少なくソフトランディングして持続可能なビジネスモデルを構築できるか」が事業の上で重要であり、ワクチン反対派のケネディ氏の就任が大きな影を落としそうだ。
がん免疫細胞治療はCAR-T細胞療法を中心に6製品が日本で承認されておりますが、全て外資製薬企業が創生したものです。世界では200製品以上の開発が行われており、国内では、タカラバイオのTCR-Tに加えて、ノイルイミューンやシノビセラピューティクス、J-TECなどのスタートアップが開発しており、国産のがん免疫細胞治療の上市が期待されています。今後は、患者さん以外の細胞(健常者由来のドナー細胞やiPS細胞)による治療技術の確立や、血液がんだけでなく固形がんへの適用などが、世界で期待されている分野です。
抗体医薬自体は既にライフサイクル的には既に成熟期を迎えており、通常の抗体そのものに関しては、目新しいものは少なくなっており、「持っていて当たり前」の時代になりつつあります。記事にあるような次世代抗体(ADCやバイスペシフィック抗体)のエンジニアリングが次の競争の軸になっていますが、実は抗体そのものの改良以上に、これまで通常抗体でアプローチしていなかった新たな創薬標的の探索、そのための疾患サイエンスの解明、が重要な競争の源泉となっています。今後の各社の戦い方に注目です。
イギリスは、アストラゼネカがオクスフォード大学と共同でいち早く新型コロナワクチンの開発を成功させるなど、医療については先進的な国のイメージが強いかと思いますが、国民の医療へのアクセスは非常に悪いのが実態です。国民保健サービス(NHS)では基本的な医療サービスは無料の反面、居住地により一般診療医(GP)が決まっており、よほどの緊急時以外は数時間待ちも多く、国民からすると医療サービスの利便性は極めて低いのが実態です。国民に焦点を当てた政策が、どう経済と合わせて好循環を生むかがポイントだと考えます。
英国ではライフサイエンスやフィンテック企業が生まれ、米国のVCが投資をし、米国で上場を選ぶ、というのは経済合理性を踏まえた個別企業の意思決定としては正しいかもしれません。英語を共通言語としておりコミュニケーションコストが小さい一方で、リスクマネーの規模、市場規模などがイギリスに比べて桁違いに大きい。ただし、それでは産業の空洞化が進むジレンマに陥る。日本でも、世界のエコシステムに日本のエコシステムが位置付けられ、海外で上場するスタートアップも出てきました。日本は言語ハードルがあるため急速には進むとは言い難いですが、国益とのバランスを考える上で、英国が今後進む道は参考になるかもしれません。
武田は国内事業の売上高が低迷しており、今年に入り構造改革として日本のビジネスユニットと研究開発を対象に早期退職を募集していました。2023年にハッチメッドから導入したフルキンチニブは低分子経口薬の転移性大腸がん治療薬として期待されており、大腸がんでピークセールスは5~10億ドルと予測されています。適応拡大の中国における取り下げで、日本や世界での開発計画の見直しが必要となり、今後の人員計画に影響がでるかもしれません。
記事にあるNTTとリージョナルフィッシュのバナメイエビの陸上養殖は、ゲノム編集技術により品種改良し、より効率的な生産ができる種苗の開発が進められています。陸上養殖の課題はコストで、病気のリスクを低減したり、より早く育つ種苗を開発したり、効率的な生産が模索されています。ここに、ゲノム編集による品種改良で「おいしさ」に付加価値が加わると、とても面白い展開になると思います。今後に期待です。
ネスレは8月に長年CEOを務めてきたシュナイダー氏を解任し、新しくローラン・フレイシェ氏をCEOにした他、スターバックスも2年待たずCEOを解任し、外食大手からプロ経営者を引き抜いてきました。背景には、高水準のインフレや金利の上昇等による消費者の支出抑制心理が高まり、嗜好品の買い控え、プライベートブランドへの移行が急激に起こっていることがあげられます。先月FRBが政策金利の利下げを発表しており、少しずつ米国の景況感は上向いているという話も聞きますが、まだ不安定な状況は続きそうです。
昨年のmRNAの流れを汲むと、技術革新により重大な疾患治療のプラットフォームを構築したCAR-T細胞治療などは、今もOn-goingで技術革新が進む有力な分野でしょう。一方で、オレキシレンやBRCA1は既に医薬品・診断薬として応用されており、多くの患者を救っており、こちらもインパクトは大きい分野です。また、基礎研究でも、小胞体ストレス応答や光遺伝学は生命科学では避けて通れないトピックです。発表がとても楽しみです。
今年に入り都心のオフィスに行って会議をする機会が増えているが、多くの企業で出社社員が増え、オフィスが手狭・会議室が足りないという声をよく聞くようになった。人手不足から採用も増えており、地方や海外からの顧客も増えて会議が増えている印象を持っている。オフィスに社員が出社するのは、チーム間のコミュニケーションコストが下がり業務がスムーズになるという利点があったり、新入社員のオンボーディングに有効だ。ただし、子育て世代の共働き家族はどうしてもリモートの方が良い場面が多い。当面はリモートと対面のいいとこどりが進み、レンタルオフィスの需要も増えていくと思います。
ハリス氏が掲げた「バイオ・AI・量子」は日本の重点科学技術政策分野として注力している分野でもあります。2022年頃から岸田首相の演説で何度も名前が挙がっている産業分野で、スタートアップ新興と合わせて投資が加速しています。米国が「本場」であり圧倒的に強いバイオ産業ですが、金利上昇とコロナバブルの崩壊により、資金調達環境がこの2年間冷え込み、バイオスタートアップの多くは大規模なレイオフに踏み切る冬の時代を迎えています。日本も米国と協調してエコシステムを再度盛り上げていく好機かもしれません。
中外製薬の肥満症治療薬は10年以上前から開発されており、近年の第2相の治験結果を踏まえると期待が持てる。中外製薬のオルフォルグリプロンは分類としては低分子医薬になるが、比較的分子量の大きい有機化合物で、本来であれば経口化は難しいとされるものをうまく経口にしたものだ。現在肥満症治療薬は世界のメガファーマの開発競争が熾烈であり、親会社のRocheもライバルの1人である。オルフォルグリプロン開発当時は肥満症に注力していなかったので導入しなかったものと考えられるが、今は参入しており、他にもアストラゼネカ、アムジェン、ファイザーなどメガファーマが開発に取り組んでおり、経口薬も開発品に含んでいる。
Beyond meatは植物肉をベースとして比較的安価な代替肉として、マスマーケットに参入して2021年頃までは順調に売上を伸ばしていたが、その後、売上高は減少に転じ、マスマーケットでの損益分岐点に達する数量を販売できずにおり、このセグメントでは市場開拓は失敗した。要因はマス市場でのマーケティングの失敗、味、消費者志向性の変化など様々あるだろうが、いずれにせよGreen washingに代表される代替肉・植物肉疲れというような「時代の雰囲気」も相まっているかもしれません。マクロでみると時代の流れは確実に肉代替に向かっているので、今後はプレミアム路線での立て直しに期待です。
本件は数年前から水面下でサウンディングがおこなわれていたことは業界関係者は周知の事実だが、近年になり大手新聞社に明らかになり複数のところから報道が公に出ている。伝統的に低分子医薬に強かった日本の製薬メーカの多くは化学素材企業が出自のことが多く、今でも多くの化学素材企業が製薬事業や製薬子会社を保有している。創薬のコンピテンスが化学からバイオへ、また、合成から標的探索へとシフトする中で、シナジーが薄れていき、事業構造が異なるモデルということも相まって、欧米ではすでに化学・素材企業からの製薬事業の分離はとっくに起きている。買収金額も多額であり、今後どのように決着がつくか注目したい。
再生医療・細胞治療のCDMO事業は世界的な金利上昇と資金調達環境の悪化により、非常に苦しい時代を迎えていました。米国では変わらず開発主体のスタートアップが苦しい状況ですが、日本においては、記事にあるハートシードを含む複数のバイオスタートアップが上場を果たし、岸田首相が登壇した創薬エコシステムサミットでも日本の創薬力強化とそれを支えるCDMOなどの周辺産業に対する政府のコミットが明言され、この動きに注目するアジア各国や国欧米など国際的な連携も進むとみられます。今後、日本のシーズがどこまで実用化し、世界で市場を獲得できるかが勝負になるでしょう。
血中のmiRNAを用いたがんの早期診断については、国立がん研究センターなどで多くの研究が進められてきましたが、主なアプローチは主要なmiRNAを特定して部分的に解析することで早期診断の精度を上げることが多かったように思います。網羅的にmiRNAを調べてAIを活用した精度向上は非常に面白い研究と言えそうです。一方で、精度83%は、裏を返すと17%の擬陽性または偽陰性が生じるということで、保険適用は難しい印象です。また、血液ベースで2万円前後のがんスクリーニング検査は複数実用化していますが、事業としての成功事例はない状況で、コストも大きな課題となるでしょう。今後の研究開発の進展に期待です。
ロッテバイオロジクスは韓国で一定の存在感があり、抗体生産用の大型の培養層も保有しており、設備拡張を進めようとしています。日本では、先日官邸で創薬エコシステムサミットが行われ、岸田首相の参加をはじめ、創薬に対するエコシステム構築の機運が非常に高まり、多くのリスクマネーが政府から還元されていくでしょう。日本でも米有力VCが参入を表明するなど、投資競争が過熱しつつ、国内シーズは一朝一夕には育たず、そこまで量は多くないのが実情かと思います。ロッテバイオロジクスのCDMOとのシナジーを生かしてどう差別化した投資戦略が描けるかが今後の課題となるでしょう。
日本は承認されるとほぼ100%保険適用が認められ、薬価がつきますが、英国の場合は承認されても保険適用が認められないケースも多く、レカネマブの場合も保険適用には否定的な見解が、NICE(国立医療技術評価機構)から出されている。「承認」は薬剤の効果が認められるかどうか、「保険適用」は薬剤のベネフィットの大きさとリスクを踏まえた際に、費用が正当化されるかどうかをNICEが別途審査し判断します。レカネマブは薬剤の効果が小さく、費用の正当化が難しいという判断に至っており、今後欧州の他の各国でも追随するような判断が下されると考えられ、欧州での保険適用は難しくなりました。
こちらはプロセスだけを見ればキリンに不備はないと思いますし、株価は市況はもちろんのこと、企業の資本コストを上回る成長に向けた「期待値」で決まるため、ファンケルがこの数年売り上げが減少・利益が横ばいであれば、当然この期間で株価は下がるものと考えられます。一方で、キリンがTOBを発表して成長戦略を明確にしたことでこの「期待値」が高まり、それを踏まえて一般株主が売却に応じない、ファンドなどが株を買っている状況だとすれば、それはややアンフェアな印象を持ちます。
当面は被害の全容解明が急がれますが、本件は薬とは異なり健常者を対象としたサプリであり、接種量や履歴が追いにくく、異物であるプベルル酸とその近縁体の身体に及ぼす作用もよくわかっていないため、明らかな腎疾患でない場合は、因果の立証が非常に難しいと思われます。恐らくは全容解明には年単位の時間がかかる印象で、業界の信用回復のためにも、誠実にひとつずつ向き合うことが望まれます。
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花村遼
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【注目するニュース分野】ヘルスケア、医薬品、医療機器、バイオテクノロジー
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